この作品は、SSを書き始めてから初めて「暗い話を書こう」というテーマを掲げて書き出したものである。結局、途中で話がまとまらなくなって自滅してしまったが。
ただ、全体の持つ雰囲気が暗いっていうのが性にあってるような気はした。それはともかくとして、作品紹介。
朝のミーティングのあと、俺、ルシード・アトレーに話しかけてきたのは、メルフィだった。
「ルシードさん、あなた宛に郵便が届いてるわよ」
そいつは茶色の封筒で、裏に差出人の名前は書かれていなかった。
前作「Passport to Sheepcrest」を書きながら思いついた内容がこれだった。こんかいは主人公に名前が付いてるから、主人公使ってもいいなという考えがあった。
悠久1,2で主人公を出すと、名前を付けることになる(そのまま「おい、主人公」とか「主人公さん、こんにちは」とかは情けないし)。主人公はみんなそれぞれの名前を付けてるだろうから、固定してしまうのは嫌だな、と思っていたわけだ。
第12作「見つけ出せ、行方不明のみかん箱」では、主人公とテディのコント(?)がやりたくて、しぶしぶ(?)主人公を出したというわけだ。このときも、名前は迷った。
リルトという名前が決まったあとで、ふとJavaScriptを使って読む人が名前を決められたらどうだろう、と考えた。そして採用した。あ、話が脱線してる。
By the way,(ところで、)この作品はルシードの一人称で語られる。一人称は、第3作「未来へのメッセージ」のルーと、第11作「とおいせかいのくろねこ」のメロディがあったが、また違ったものにしようと企んだ。
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DEAR BLUE FEATHER
明日の午前一時、ブルーフェザーの誰かを単独で、ケレブルム霊園の北端、エクイナス山のふもとへ派遣願いたい。
ひとりなら誰でもいい。もちろん、君でも構わない。
FROM Z.(zed)
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ふざけたやつだ。俺は手紙を破り、封筒も破ろうとした。
ストーリーは、手紙の内容とルシードのひとりごとで進む。ふざけた内容の手紙が、だんだんと重くなっていく。
暗い方向へ進んでいって、明るい方向へは戻らないシナリオ。こういうのが一回ぐらいは書いてみたいと思ったものだ。
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DEAR LUCID ATRAY
条件を提示しない脅迫など笑い物、確かにそうだろう。
それでは、条件を課そうじゃないか。
派遣したのが男なら、魔物を一匹送る。女なら、霊園に眠る魂を全て地上に送り出す。もしもこなければ、シープクレスト旧市街を全壊させる。これでどうだ。
FROM Z.
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これは、4つめの手紙。
2つめは封筒内部に書かれていて、3つめは破り捨てたあと、ベッドの上に置かれている。そして、この4つめは横になったルシードの頭の上に落ちてくる。
まだ、ルシードは条件を呑む気を起こさない。条件はどれもまともなものじゃなくて、相手は何を考えているのか分からない。ルシードは単なるいたずらと判断する。
第一、魔物や眠ってる魂を送り出すだの、旧市街を全壊させるだの、あまりに馬鹿げてる。
単なる悪質ないたずらだ、俺はそう決めてかかって眠ろうとした。
ふと横になって部屋を見渡したら、白い便箋が落ちていた。
5つ目の手紙である。最初は朝だが、その後は一晩のうちにどこからともなく現れる。そして、この5枚目から、ルシードは対抗意識を持ち始める。そして、考えていることが相手に筒抜けであることも薄々気付きはじめる。
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DEAR LUCID ATRAY
どうやらこちらの力を過小評価しているようだな。
それが、君にできる最善の判断なのだろう。
では、こうしよう。次に君の考えたことを実現させる。それでこちらの実力を分かってもらおうではないか。
FROM Z.
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僕は、このあたりで少しだけ明るくしようと考えた。ただし、それが終わったら一気に突き落とされる展開にする。暗く、暗く……とばかりやっていては、だんだんと暗さが薄れてしまいそうだから。
ここで「次にルシードが考えること」を、突拍子もないことにする。
受けてたってやろうじゃねえか。
そうだな、一捜のヴァレス室長がクーロンヌのエクレア片手にやってきて、うちの事務所からどっかに電話掛けて去っていく。
俺は、そんな光景を想像してみた。
あり得ない。絶対にあり得ない。とそこまで考えると、さすがに俺も馬鹿馬鹿しくなってきた。いや、もとから馬鹿馬鹿しくて仕方がないんだが。
まあ、こんなふうに書けば次はどうなるか想像がつくだろう。玄関のほうから物音がする。それは置いてあった書類が落ちただけだったが、それを拾っているとヴァレス室長が現れる。
片手にエクレア、そして保安局本部に電話連絡。そしてエクレアを置いて去っていく。
まあ、この場面がこのSSの中で一番明るい場面となる。
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DEAR LUCID ATRAY
再確認しよう。
場所は明日、午前一時。場所はケレブルム霊園の北端。来るのはひとりだけだ。
男なら、魔物一匹。女なら魂。こなければ旧市街が消えて無くなる。以上だ。
FROM Z.
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このあたりで、続きが厳しくなった。そして、ボツ一直線である。
前回のボツの時と同様、今回も結末は用意してあった。
俺はゼッドと名乗るやつと対峙した。気配は感じるが、姿は見えない。
『では、約束通り魔物を……』
思えば、ヤツの声を聞いたのは初めてだった。低く、暗い男の声。
俺は気を引き締めて、魔力を最大限に高めた。魔法使用許可などもちろん取っちゃいねえが、使わずに助かるとは到底思えなかった。始末書ぐらいいくらでも書いてやる、助かれば、な。
『埠頭に送り出すとしよう』
理解できなかった。その言葉も、ヤツの考えも。
「なんだと!」
不意に、ゼッドとかいう馬鹿の目的が解った気がした。全ては俺をここにおびき寄せるため。他の誰かを送り出すなんて考えちゃいなかった。
埠頭からここまでは、かなり遠い。それでも爆音が聞こえてきた。
俺は全力疾走で現場に向かおうとした。そこへ、人の影が道をふさいだ。直感で、だが確信した。ヤツだ。
もちろん、これで終わりではない。この後、ルシードとゼッドの一騎打ちがある。そして、為す術もなくルシードが敗退する。
で、それで終わっては馬鹿みたいな結末になってしまうので、まだ終わらせない。
そして、疑問の残るラスト。場合によっては究明編になるかもしれないなと、書いている途中では思っていた。タイトルは「Nothing will do」とでもするか、とか。今考えると、このまま疑問を残した方がいいなと思う。
が、完成しなかった話だから、別にどうだっていいというのが結論である。
俺は目を開けた。中央総合病院、か。
あれだけやられて生きていたなんて、正直信じられない。全身が痛いが、思ったよりだいぶましだった。とはいえ、当分は動けなさそうだ。
「起きたか」
冷静な声。ゼファーだ。
「お前と、もうひとり男が倒れていた。昨日の晩、いったい何があった」
質問には答えず、逆に問い返した。
「その男はどこだ」
「霊園だ。すでに息はなかった。
それでだ、昨日何があった」
「そいつと戦って負けた。それだけだ」
三日後、病院を出てから聞いたことだが、埠頭では何も事件は起きていなかった。確かに見た爆発を肯定する物は、たったひとつすらなかった。
結局あいつは何をしたかったんだ?
その後、俺と一緒に倒れていた男の写真を見たが、写っていたのは間違いなくヤツだった。