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魔法仕掛けの魔術書

浅桐静人

 魔法、という言葉の響きに魅力を感じる者は少なくない。近頃になって増えてきた魔物を、魔法を使って倒していくシープクレスト保安局刑事調査部第四捜査室、通称ブルーフェザーの活躍を何度も見せられていると、なおさらだ。
 しかしながら、勉強やスポーツと違って、魔法は努力しても使えるようにはならない。天性の素質を持つ限られた人だけの力なのだ。だから、余計に魅力的なのかもしれない。
 魔法能力者がどれほど少ないか、それはブルーフェザーの面々を見ればだいたい予想がつく。もし魔力がなかったとしても、他の部署でやっていけそうなメンバーはゼファーと、ルシードくらいか。しかもゼファーは足を負傷している。
 選ばれた人材というより、適当に寄せ集めたような感じだ。事実、魔法能力があるというだけでスカウトされてやってきたメンバーもいる。
 魔法とは、そんなに特殊なものなのだろうか。ふとそんなことを考えるときがある。
 一度でいいから魔法を使ってみたい。この願いを叶える方法があるなら……

 カモメ書店に置いてあった一冊の本が、シェールを惹きつけるのは一瞬だった。背伸びしたらやっと届くくらいのところから抜け落ちて、シェールの頭に直撃したのだ。
「いったぁ……」
 一直線に少女マンガコーナーを目指していたのに、不意打ちを食らわされ、難しそうな本がたくさん並んだ本棚の前でうずくまる。
 哲学、生物学、電子工学といった類の本は、新しいものを求められがちなので、古本屋ではなかなか売れないようだ。目指すコーナーがわりと奥の方にあるため、シェールはいつもここを素通りするが、このあたりの本を物色している学生や研究者を見たことはない。
 シェールは頭上から落ちてきた本を拾い上げた。それは予想に反して、学術資料などではなかった。表紙に描かれた幾何学模様は、学校の授業でもたびたび目にする魔法陣そのものだった。
 ふと興味をそそられ、分厚い表紙をめくってみると、見たこともない文字が並んでいた。
「げ、何これ……」
 生まれてこのかた16年の知識を総動員して考えると、これはいわゆる古文書か、そうでなければ古い時代の魔術書の類だろうという結論に至った。誰がこんなものを古本屋に売ってしまったのだろう。カモメ書店の経営者であるリンダ婆さんにしても、よくこんな本を買い取ったものだ。
「……あれ?」
 なんとなく裏表紙をめくってみると、そこにあるべきはずのものがなかった。
「あのさ、この本って値札付いてないけど」
 本にはたきをかけているリンダ婆さんに訊ねたが、反応が全くない。シェールは気を取り直してもう一度声をかけると、振り向いてこっちにやってきた。聞こえていないのか、聞いていないのか、返事がないのはよくあることだった。
「何か言ったかね」
 いつものように、用件を伝えるのに苦労しながら、やっとのことで得た回答は、
「値札がないのは、定価の半額だよ」
 というものだった。改めて裏表紙をめくると、またもやそこにあるべきはずのものがない。
「あれ? おっかしいな」
 ページを数枚めくったり、表紙や裏表紙を念入りに見ても、定価の記載はどこにも見あたらなかった。
「ねえ、定価もないんだけど」
 本を手渡して、また何度も事情を説明した。リンダ婆さんはページをぱらぱらとめくり、背表紙を凝視して、タイトルを確認して、「うーむ」とか「ほー」とか呟いて、
「5Gじゃな」
 右手を差し出した。どうやら、シェールがこの本を買うものだと思っているらしい。あるいは勘違いを装った商法だろうか。まあ、それは考えすぎだろうが。
 しかし、こういった書物の相場は数十Gだ。希少なものなら数十万Gなんていうとんでもないものだってある。5Gなら、クーロンヌのケーキ1個よりも安い。もしこの本が価値あるものなら儲けもの、なくてもあきらめのつく金額だ。
 結局シェールは、本来の目的だった少女マンガのことなどすっかり忘れて、その本1冊だけを買っていった。

 自分の家の、自分の部屋。自分だけの時間を満喫できる、そんな場所。だからといって、特別な場所というわけでもない。
 腰を落ち着けて、それと対峙しても、結果は変わらない。百貨店の特売ケーキ5個と同じ値段だった古書には、文章どころか単語すら読めるところがない。とりあえず判明したのは、文字が26種類あることだけだった。適当に十数ページほど開いて何度も数えたから、たぶん間違いない。
 どう考えても、解読の糸口すら見つかっていなかった。……とは、言い過ぎかもしれない。文字以外――挿し絵や図など――の部分が、糸口を見出す鍵になりそうな予感だけはしていた。
「あ、これは魔法陣に似てる。っていうか、魔法陣だね」
 大きな円の中に、小さな円、正三角形、六芒星、妙な記号……。典型的な魔法陣を見つけては、ただ『魔法陣だ』と呟いて、
「何これ?」
 見たこともない物体が描かれているところは、そう言うだけ。
 次第にあきらめムードが漂ってくる。始めは興味本位で読んでいたのだが、もはや“他にすることがないから”という理由にならない理由に変わっていた。
 たっぷりと暇をつぶした後、シェールはひとつの結論に達した。
「だめ。ぜんっぜん分かんない」
 本を投げ出して、仰向けに寝転がった。
 さて、この古書をどうしよう。まず頭に浮かんだのは、カモメ書店に戻すこと、つまり売ること。それだと、販売価格と買取価格の差額を損しただけという結果になってしまって、癪にさわる。
 とすれば、誰かに頼んででも内容を知りたい。その誰か――この本を解読できそうな知り合い――の心当たりは、そうそうあるものではない。シェールが思い浮かべたのは、ブルーフェザーだった。

 日が暮れてから事務所を訪ねるのも気がひけるので、次の日の学校帰りに寄ることにした。夜の街を一人で出歩くのが少し怖かったというのもあるが。鞄の中に教科書を少しと、リーゼから借りたマンガを1冊、そして忘れずに例の魔術書を入れて、シープクレスト学園へと向かう。
 半分も理解していない授業を軽く受け流し、放課後の部活はあっさりキャンセルして、家とは違う方向に歩き出す。クーロンヌにバイトに行くときもこっちに向かうが、今日はそのつもりではない。
 目的は、もちろん港湾都市シープクレストのど真ん中に位置するブルーフェザー事務所だ。
「部活ぐらいやっててもよかったんだけど、帰りが遅くなるとお姉ちゃんが心配するしね」
 あらかじめ事情を説明しておけば済むのだが、完全に忘れていた。クーロンヌに電話する手もあるが、気恥ずかしい。緊急の用件ならいざ知らず、「そんなことに店の電話を使うんじゃねえ」という怒鳴り声が聞こえてきそうだ。クーロンヌでバイトをしている手前、店の主人であるデボンの機嫌を損ねるのは避けたいところだ。もともと、ミスを繰り返して怒られてはいるが、それはまた別の話。
 結局、連絡は入れないことにした。今からならそう遅くはならないはずだ。
 まだ日の高いうちに、シェールはブルーフェザー事務所に到着した。
「あれ? シェールじゃない。今からバイト?」
 入っていこうとする前に、庭で体操していたルーティに呼び止められた。
「今日はそうじゃなくて、ここに用事」
「何かあったの?」
 ルーティにちょっとした緊迫の色が見えた。
「いや、ただ調べてもらいたいものがあって」
 事件でないということで、ルーティはひとまず安心したようだ。ただ、体をひねった姿勢のまま、首を傾げて不可解そうにはしていたが。
「まー、とりあえず入りなよ」

「今、ビセットとバーシアが出かけてるからね。事件だったらどうしようかと思った」
 ケーキの差し入れに来ることは度々あったが、個人的な用で来たのは初めてだなと、シェールは少し緊張していた。ルーティの言葉に反応するのもワンテンポ遅れ、
「あ、そうなんだ」
 いつもなら自分からどんどん喋るのに、一言だけで終わらせる。
「でさ、何の用?」
「古い本、たぶん魔術書かなんかだと思うんだけど、それの解読を頼もうと思って」
「でも、なんでシェールが魔術書なんてもの持ってるわけ?」
「それが……」
 シェールは本を手に入れるまでの経緯を簡単に話した。
「ふーん、なんか変な話だね。それで、その本、持ってきてるんだよね」
「うん。えっと、この辺りに……」
 鞄を開けると、探すまでもなく、一番近いところに分厚い本があった。表紙に描かれた魔法陣が特徴的だ。
「いかにも、って感じだね」
「でしょ。でも、中身は全然読めないんだよね」
 適当なページを開いて見せると、ルーティはテーブルの反対側から身を乗り出して、それを覗き込んだ。ルーティにとっても、初めて見る文字だった。
「構文どころか、文字の名前すら知らないや。絵とか図だけ見てると、確かに魔術書みたいな感じだけど」
 次のページ、さらにその次のページと、シェールは一枚ずつ丁寧にめくっていく。どれだけ進んでも、見知った記号は現れない。ただ意味不明な文字らしきものが、縦横無尽に走っているだけだ。
 そのはずだったが、解読してくれと頼みにきたシェールが、記号を順に目で追っていた。シェールの様子は、フローネが一心不乱に小説を読んでいるかのようだった。
「シェール、シェールってば」
 ルーティの呼びかけにも反応せず、真剣な表情で古書に向かっている。
 内容は何一つ分かっていないようでいて、全てを理解しているようでもあった。ただ、読んでいるのだという実感だけがある。まるで少女マンガを読んでいるようなペースで、ただ淡々と読み進めていく。
 読めるはずのないものを読んでいるということに疑問を抱くこともなく、シェールは本の世界に堕ちていった。

 誰かが問いかけている。「魔法使いになりたいか?」と。
 あなたは誰なのかとこちらから訊ねても、返事はいっこうに来る気配を見せない。そして、さっきと同じ質問を、また投げかけてくる。何度も何度も。
 答えなんて分かりきっていたはずだった。魔法使いに……それが夢だったんだから。夢を追いかけるのは大切なことだって、そう信じているから、もしそれが叶うなら、苦しいことも乗り越えられるはずだといつも思っていたのだから。
 ためらっていたのは、あまりに突然で、簡単だったからかもしれない。試練を与えられたなら、多分、迷わず肯定の意思を伝えただろう。
 そう、本当は迷う必要なんかないんだ。問いかけに、たった一言かえしてやるだけでいい。
「魔法使いになりたいか?」
 再三繰り返された問い。返事をする決意は、もうできていた。
「なりたい!」

 シェールはブルーフェザー事務所の玄関に立っていた。何のことはない、さっきからずっとそこにいたのだ。そして、立ちながら魔術書を読んでいた。
「あれ?」
 記憶が確かならば、ここではなく、食堂にあるバーシアの椅子に座っていたはずだ。それに、気のせいか、何かいつもと違った感じがする。
 ルシードをはじめとするブルーフェザーの面々が、シェールに視線を注いでいた。特にゼファーなんか、真剣そのものという顔をしている。妙な違和感があるのは、そのせいか。
 でも、どうして見つめられているのか分からない。本を読みながら夢遊病のように歩き回っていたというのなら、視線を集めるのには十分だろう。だからといって、息を呑んで見つめられる理由にはならない。
「ねぇ、ルシード君、なんで……」
 ルシードは、シェールが顔を上げたときちょうど目の前にいた。だからシェールは何気なく彼の名を呼んで尋ねた。ただそれだけだった。
「フローネ、水の結界だ!」
「えっ? ……は、はい、分かりました!」
 ゼファーの怒号が飛んだ。全く予期しなかったことにフローネは狼狽したが、すぐにその意味するところを知った。即座に作り出された結界は、大きく揺らいで、撃ち破られた。
「おわっ!」
 中途半端な防御の姿勢で、ルシードは吹き飛ばされたが、フローネの結界のおかげで、かなり威力は落とされていたらしい。ルシード自身が火の属性にいくらか耐性があるのも幸いした。
 何が起こったのか、いちばん状況を掴めていないのは、先ほどの魔法を無意識に放っていたシェール自身だった。唖然として、手から本がするりと抜けた。本は空中で減速し、音も立てず床に落ちた。
 そんなシェールを見ながら、ルシードは壁にぶつけた肩や背中をさすり、
「ゼファー、こ……」
「そうだ」
 質問するより先に、ゼファーはあっけらかんと答えた。
「俺はまだな……」
 ルシードの言葉を遮るように、派手な音を立てて扉が開いた。
「どうしたんですかぁ」
 本人は慌てているらしいが、ティセの口調はあまりに場違いだった。エプロンを付けて、ほうきを携えながらルシードに真剣な表情を向けているティセは、確かに彼女らしいといえば彼女らしい。
 ルシードが痛そうにしていると知ったティセは、当然のごとくルシードに向かって走った。が、それがシェールの注意を引いてしまった。
「ティセちゃん、危ない!」
「この馬鹿野郎!」
 フローネは再び結界を張り、ルシードは身を挺してティセとシェールの間に割って入った。シェールの意志とは関係なしに発動してしまう魔法は、やはり並のものではない。
「ほえ? ……あわわわ」
 うろたえるティセと共に、ルシードはまたしても壁に叩きつけられた。遅れて、鈍い音が事務所に響き渡った。
「痛え……。しかし、なんだ今の音は」
「いったい何が起きたのですかぁ?」
 首を上下左右に動かすティセの目に映ったのは、事務所の真ん中で、うつぶせになって倒れているシェールの姿だった。
「ティセちゃんのほうきが……」
 シェールの隣に、さっきまでティセが握っていたはずのほうきが転がっていた。どうやら、慌てたティセが手放してしまったところ、見事に命中したらしい。
「よく考えれば、相手は魔物じゃなくて単なる人間だったんだよな」
「それだけではないぞ、ルシード。本来魔法の使えない彼女に、無理矢理強大な魔法を二度も発動させたせいで、ずいぶんと体力を消耗していたようだ。そうでなければ、ただ投げ上げられただけのほうきで気絶するはずがあるまい」
「ゼファー、それはいいが、これからどうするんだよ。こいつが起きた途端、また吹っ飛ばされたんじゃたまらねえ」
「うむ。フローネ、その本に風の結界を張ってくれ」
「はい、分かりました」
 フローネの生み出した障壁の中で、シュッと花火を水につけたような音が一度だけ鳴り、後は静まりかえった。
「何をしたんだ?」
「人を操る魔法を解除しただけだが」
 ゼファーはしれっと答えた。そのわりには満足そうだったが。
「んなあっさりと……。だいたいなんで風の結界なんかで消せるんだ?」
「何にだって弱点はある」
 まだ納得がいかなかったが、ゼファーを論破するのは無理というものだ。つまるところ、どこからか仕入れた知識があったのだろう。いつだって彼の雑学には驚かされる。
「ま、なんにしたってこいつの意識が戻るのを待つしかねーな」
 押し黙っているとゼファーに負けた気がしてならなかったルシードは腕組みして、床に寝転がっているシェールを眺めた。
 ティセのほうきがよほど効いたのか、シェールはなかなか起きあがらなかった。

「あ、気がついた?」
 ルーティの一声で、みんながシェールに向き直った。停滞していた空気が、やっと動き出した。
「あ、あれ?」
 シェールは倒れていた。どうして倒れているのか、今のシェールは知らない。すぐそばに転がっている本を拾って立ち上がったが、その理由が分かったわけではない。
「、なんで倒れて……」
「なんでってなぁ。ルーティ、説明してやれ」
「えっ? あたし? えーっと、つまりその……」
 ルーティから事件の一部始終を聞かされ、その後、ことの起こりを説明したシェールには、まだ解けない疑問があった。
「それで結局、あの本は何だったの?」
 腕を組んだまま、ゼファーはなぜか険しい表情になった。シェールは気まずさを感じずにはいられなかったが、他のブルーフェザーの面々は無反応だった。厳しい表情に、見た目通りの意味はないことを経験上知っているからだ。
「うむ。かなり昔に、しかも秘密裏に行われた研究のレポートといったところか。古代文字をベースにした特殊な暗号のようだ」
「それって、価値のあるものなの?」
「うむ。見るものによっては、五千万G以上の値がついただろうな」
 それまでゼファーの話などほとんど聞いている素振りも見せなかった者も含め、この部屋にいた全員――ゼファー、ティセ、所長を除くブルーフェザーのメンバー、それにシェール――が、想像できないような数字に、ただ硬直するほかなかった。すぐに、「えーっ!?」とか「なんだと!?」といった声が飛び交った。
「今、とんでもない金額を聞いた気がするんだけど、それってホントなの?」
 本の所持者であるシェールは驚いて声も出せない。代わりというわけではないが、シェールが訊ねたかったことを、ルーティが訊ねてくれた。
「もちろんだ」
 そして、ゼファーは微笑んで付け加えた。
「だが、かかっていた魔法が重要だったんだ。その力を失ってしまった今の状態では、その価値はうちの資料室にある魔術書と同じだな」
「そういうオチかよ」
 ルシードが毒づいたが、過ぎたことはもうどうにもならない。
「しかし、ここにある本と言ったって、ピンからキリまであるぞ」
「それでだ、シェール」
 ゼファーは、ルシードを露骨に無視して話しかけた。
「この本を譲ってはもらえないか。もちろん相場に見合った代価は払わせてもらう」
「まー、私が持っててももう読めないし、いいよ、譲ったげる」
 提示された額にも、シェールは一発OKした。タダでと言われたら、それでもいいと思っていた。しかしゼファーは、それでは気が済まないのだろう。もしかしたら単に相場を調べたかっただけかもしれない。ともかく、双方が納得できる金額だった。

 少しだけでも魔法が使えて、損をしたのか得をしたのか、よく分からない二日間だった。
 結局、ゼファーからもらった代金は5Gだった。財布の中身は、この本を買う前に戻っただけ。1Gたりとも増減はなしだ。
 とりあえずタダで魔法を使うなんていう体験ができて、得したんだと自分に言い聞かせ、シェールは、今度こそ少女マンガを買おうと、カモメ書店への道を進んでいった。

 夢を持って、追いかけるのはとっても大事なこと。でも、もっと大切なことだってあるかもしれない。それを忘れちゃいけない。
 ブルーフェザーの活躍が魔法によるものなら、彼らが対処するのも「魔法」犯罪だった。
 憧れていたのは、魔法による活躍なのか、それとも、魔法という力そのものなのか。どちらかと問われたなら、迷わず答えるだろう。
 何のために力を使うのか。それが分かるまで、魔法なんて必要ない、と。
「なーんてね。あー、もう今日は疲れたなぁ」
 さっきの疲労も大したことはなかったのか、シェールの足取りは軽く、気がつけば少女マンガのコーナーに立っていた。くすくす笑いながら、そこを素通りしかけて慌てて立ち止まる。
 一冊の本が、シェールの注意を惹きつけるのはほんの一瞬の出来事だった。頭上から落下してきたそれを、シェールはダイレクトにキャッチした。二度までも頭にぶつけるのは免れた。
 またかと思いながら、訝しげに表紙を確かめると、それは紛れもなく少女マンガだった。値札も定価もちゃんとついている。なにより、なんとなくおもしろそうだ。
「おもしろい本と巡り合う魔法でもかかってるのかな」
 落下してきた本にちょっとだけ運命的なものを感じて、迷わずリンダおばさんのところへ持っていった。
 これも運命と言うのだろうか。その少女マンガはすごくおもしろかったのだが、現在113巻で、なおかつ完結していないというとんでもない冊数に、シェールの財政は輪をかけて苦しくなるのだった。


あとがき

 「ケーキの浮かぶ日」でシェールを出し忘れたため、それなら主役でシェールを出そうということになり、出来上がった作品です。停滞期もあり、製作期間はちょうど1ヶ月。一時期までの倍かかってますね。
 だんだん書きたいことが書けるようになってきた反面、文章に固さがでてきてしまった感があります。いかがなものでしょうか。
 しかし、悠久3をネタにすると、どうしてもブルーフェザーというものがあるせいで、キャラ数が多くなってしまう。今回は「ビセットとバーシアが出かけている」と逃げてますが。
 意図はしてなかったけど残った謎。オペレータであるメルフィは何をしてたのか。それ想像にお任せします。もちろん「正解」はありません。
 次なる目標は「軽く流して書くこと」かな。


History

2000/05/12 書き始める。
2000/06/12 書き終える。

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