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Passport to Sheepcrest

浅桐静人

 シープクレスト旧市街の上空数メートル(ちょっと上空とは言い難い高さだが、人々が見上げる程度の高さはある)に、四畳半一室程度のブラックホールが唐突に出現した。それ自体を見た人は皆無だったが、出現した位置から落ちてきた自称少女と他称少女を見たものは若干名いたらしい。
 エンフィールドではそこそこ有名(とはいえ、どっちかというと悪評判。悪人・罪人というレベルではなかったが)だったが、沿岸都市シープクレストにおいてそんなものは通用しない。全く無名と言っても差し支えない。
「あれっ? ここどこ?」
 金色の短い髪の“他称少女”マリア・ショートは目的の場所とは全くかけ離れた雰囲気を感じていた。同時に同じ場所から落ちてきて隣にいるライシアンの“自称少女”橘由羅を小突く。
「あたしに訊かれても分かるわけないでしょ。とりあえずローレンシュタインじゃなさそうだけど」
「それくらいマリアにも分かる。ねえねえ、そこの男の人、ここどこ?」
 マリアが呼びかけたが、赤い帽子をかぶったその人は振り向きもしない。
「ぶーっ、ひとが呼んでるのに返事くらいしたっていいじゃない!」
「え? もしかしてあたし?」
 さぞかし驚いたような様子で、やっとマリアと由羅のほうに顔を向けた。身長は帽子がなければマリアと同じか、ちょっと高いくらい。
「念のために言っとくけど、あたしは男じゃなくて、れっきとした女の子だからね。で、ここは旧市街のマーケット通り」
 まず彼女の性別に関して驚いて(由羅はがっかりして)、次に旧市街のマーケット通りと言われてもさっぱり見当もつかないことを再確認して、そしてもう一度尋ねることになった。
「って言われてもあたしたちにはさっぱり分かんないのよね。エンフィールドでもローレンシュタインでもないわけでしょ?」
「エンフィールドもローレンシュタインっていうのも聞いたことないなあ。でもここはシープクレストだよ?」
 今度は由羅がマリアを小突いた。マリアにしても、由羅が何もしなければ逆に小突いていただろうが。
(マリア、知ってる?)
(知ってるわけないでしょ?)
(元はと言えばあんたが悪いんだから、あんたが責任とんなさいよ)
(そんなこと言われても……)
「ねえ、本格的に道に迷ってるようだけど……、とりあえずどこから来たの?」
「エンフィールド」
「エンフィールドっ☆」
 マリアと由羅は、図らずも声を合わせた。
「それで、あたしが名前も知らないような街、だか国だか村だか州だか知らないけど、とにかくそんなところからどうやって来たわけ? あたしが知らないってことは、相当遠いよ」
「それはマリアが魔法でどっかーんと」
「どっかーん、って何よ、せめてキュイーンとかシャーーとか言いなさいよ」
「あたしには絶大な爆音をキュイーンとかシャーーって表現するほどの国語力はないの。どう聞いてもあれはどっかーんかズドーンかどっちかね」
「う゛ー」
 傍目にも馬鹿げたやりとりだったが、少女ルーティは違った意味で目を丸くしていた。シープクレスト(でなくとも、ルーティの知識の及ぶ範囲)では、転移する魔法なんて、あったとしたって古代のものだった。それを目の前の、自分とほとんど年の差もなさそうな少女がやってのけた(話を聞いている限り、失敗だろうが)というのだ。
「そんな古代魔法、どこで覚えたの? そうじゃなくても魔法が使える人なんてそんなにいないはずなのに。あたしが言うのもなんだけどさ」
 一気に捲し立てるルーティに、言い争いは中断された。二人、特にマリアには言っている意味は理解不能なものだった。
「魔法なんてみんな使ってるじゃない。第一、練習したら誰だって使えるようになるんだし、転移だってそこそこ力が付いてきたらみんな一度はやってみたい魔法だよ☆」
「え?」
 想像もしなかった強い反論に、ルーティは再び目を丸くしたが、同時に信じがたい確信も持った。魔法に関しての考え方や知識が決定的に異なる、それがどういう意味か。つまり、過去、あるいは未来から時間を超えて来たか、魔法の栄えている知らない世界から来た。
 ひとまず高ぶった神経を落ち着けるために深呼吸して、今現在のシープクレストにおける魔法の常識と意識を教えることにしよう。放っておいたらどうなるか分からない。何か騒ぎでも起こしたら、対処はブルーフェザーに廻ってくるのは確実だ。
 そして、ルーティは二人をブルーフェザー事務所へ来るように勧めた。

「どうであれ、本部に報告はしておいたほうがいいだろうな。メルフィ、頼んだ」
「了解したわ」
 第四捜査室、通称ブルーフェザーのリーダー、ルシード・アトレーは事情をすぐに飲み込んだ。否定したいところではあるし、はじめは即座にそうしたのだが、目の前で見たことのない魔法を使われては反論してもいられない。
 その実証は、自分がやると言って聞かないマリアを押さえつけ、由羅が行った。今はビセットとバーシアの二人がマリアの監視に当たっている。
 ときどきマリアと監視役二名の言い争いが聞こえてくるたび、ルシードが、
「いつもああなのか?」
「あたしの知る限り、いつも通りのマリアね」
「ありゃあ、事情を知らなけりゃ魔物扱いだな」
 行く先が不安だった。エンフィールドでもしょっちゅうトラブルを起こしてきたのも事実だが、ここではすぐに社会問題に発展しそうだ。
「ゼファー、このライシアンを資料室に連れてってくれ。俺はあっちの対処にまわる」
「よかろう。転移の魔法について調べればいいんだな?」
「基本的にはな。とりあえずそいつに協力してやってくれ」
「分かった。行くぞ」
「はいはい。まったく、面倒よねえ」
 バーシアみたいなやつだなと思いながら、ゼファーは資料捜索にあたった。
 ルシードはマリアに事情を説明するつもりだったが、説得できる自信は限りなくゼロに近いのも事実だった。

 魔法の解説書や解読された魔術書を片っ端から読み始めてから、ものの五分としないうちに、階下から爆発音が聞こえてきた。
「何事だ」
「マリアね」
 ビセットの字で書かれた解読文書を投げ捨てて(解説書や魔術書そのものだったら投げなかっただろうが)走り出したゼファーには目もくれず、由羅はあっさりと真相を言い当てた。
「冷静だな」
「そんなので慌ててちゃ、マリアと一緒の街には住めないわよぉ?」
『やめろ! 事務所を破壊する気か!?』
『ぶー、ちょっと失敗しただけじゃない! そんなにむきにならなくたって……』
『何をどうやったら転移が爆発になるんだよ!』
「……のようだな」
 ルシードの怒鳴り声が聞こえてきて、由羅とゼファーはため息をついた。一方、一階でもルシードとマリアとティセ以外が同じようにため息をついていた。
『今後一切、魔法の使用は許さん!』
『どーしてよ!』
『どっちみちこの街じゃ俺らでも魔法使用許可が取れないと魔法は使っちゃいけないんだ、文句があるなら保安局本部にでも訴えろ』
「ゼファーくん、転移魔法あった?」
「あっても単純な転移だけだ。そちらはなさそうだな」
「そ、全然」
『ビセット、どっちが先に折れるか賭けない? あたしはあの娘、マリアっていったっけ』
『うーん、あの娘もすごい強情だぞ。ってなわけでオレ、ルシードな』
『それ以前に、決着つかないと思うんだけど? ま、メルフィかゼファーが止めるまで終わりそうにないね』
『バーシアも賭ける?』
『パスパス、面倒だから寝てる』
「どの地図にも、エンフィールドもローレンシュタインも載っていない。単なる転移で済む問題ではなさそうだな。それよりも……アクセサリーのカタログを読んでいても始まらないと思うのだが。ふむ、それはルーティの所有物だな。読書をしていると思わせてそんなものを読んでいたのか」
『マリアさんもご主人様も、喧嘩はいけないんですぅ。あれあれ? ここの壁はどうしたんですか?』
『……ティセ、壁の修理屋を手配しといてくれ』
『はあい、わっかりましたぁ、任務了解なんですぅ』
『弁償しろよ、こんだけ派手にやられちゃあ、修理にもかなりの費用がかかる』
『なによそのくらい、マリアが魔法で……』
『だから、それはやめろっつってるだろーが!』
「はーあ、全然見つかんないわねえ」
「それは、“眠れない吸血鬼の朝 上巻”……。フローネには後日注意しておこう。それよりも、本当に探す気はあるのか?」
「そんなこと言われたってぇ、あたしには魔術書なんてさっぱり分かんないんだもーん。ちょっとくらい魔法は使えるけど」
「ふむ、この程度の魔術書が読めなくても魔法が使えるのか。やはり魔法の概念が違うようだな。今では読めても使えない人間のほうが遙かに多いというのにな」
『あのー、静かにしてもらえませんか。そうでないと休みたくても休めません……って、ど、どうしたんですかその壁!?』
『これはあの娘が魔法で爆発させて……』
『それにしたってものすごい破壊力。まるでピースクラフト先生の初期作品“夢見る爆裂魔法医師”に出てくるメイリア・スホルトみたい』
『んだよその夢見る爆発……ってのは』
『爆発じゃなくて爆裂です、ビセット君。エンフィエルトって街に住んでる金髪の女の子が魔法を使って怪我とか病気を治そうとするんだけど、ことごとく失敗して……』
『もういいぞ、フローネ。オレにはさっぱり……』
『待った!』
 突然の割り込みに、一瞬その場が静まりかえった。
「ゼファー、どっから湧いて出た」
「マリアとやら、君のフルネームを教えてくれないか」
「俺は無視かよ。第一、んなこと訊いてどうするってんだ?」
「お前は黙っていろ」
 何を考えているかはゼファーのみが知っているといった感じで、ルシードだけはごちゃごちゃ言っていたが、他の者はただ唖然としているだけで、ルシードと大差なかった。
「まあ、別にいいけど。マリア・ショートだよ」
「うむ、間違いないな」
「何が間違いないってんだ? もったいぶらずに教えろよ」
「ふむ」
 第四捜査室前室長は、充分にもったいを付けてから話を切りだした。
「その小説のモデルはそこのマリア当人に間違いない」
 すぐに「へ?」とか「は?」とか言う反応が返ってきた。推測どころか断定までしたゼファー本人はあきれるほど意外だという素振りをとった。
「そのくらい分からんのか? とにかく“マリア・ショート”、“エンフィールド”と書いて見ろ」
「それで?」
 なぜかペンとノートを持っていたルーティが“maria short enfield”と書いた紙を全員に、特にゼファーに見せるようにして尋ねた。
 ゼファーはますますあきれたような様子を強めたが、フローネが「あっ」と声を上げたので満足そうな表情になった。
「確かに“メイリア・スホルト”、“エンフィエルト”って読めますね」
「そういうことだ。それに爆裂魔法医師ときている、医師はピースクラフトが付け足したのだろう」
「ちょーっと待った! なんでマリアと爆裂が繋がるわけ!?」
 マリアは断固として否定したが、彼女以外は誰もが納得し、「なるほど」と言い合っていたり、ため息をついたり、はたまた笑いを必死にこらえていたりしていて、誰からも相手にされなかった。

 一方、由羅はそんな喧噪や議論などはなっから気にかけず、相変わらず資料室でルーティのものと思わしきショッピングカタログを読みふけっていた。

 メルフィが帰ってきた頃には日もだいぶ傾いていて、マリア(と由羅)を取り囲む話も一段落ついていた。由羅が“夢見る爆裂魔法医師”の話を聞いたときは大いに笑い転げ、マリアの機嫌をものすごく損ねた。
 ブルーフェザーに物理的・時間的・精神的に多大な迷惑をかけたマリアだが、エンフィールドに帰る方法が分かるかもしれないと言われたら、さすがにおとなしくせざるを得なかった。
「とにかく私たちで預かって対処しろですって」
「予想してたとおりだな。それはそうと、こっちじゃ話はだいぶ進んだぞ。とにかくピースクラフトが何か知ってそうだ」
「ピースクラフトって、あの?」
「そ、あの」
「どうしてマリアさんや由羅さんとあのピースクラフト氏が関係してるのか、納得がいかないんだけど」
「だろうな。そいつはゼファーから聞いてくれ」
「分かったわ。上にいるかしら」
「多分な」
 メルフィはすぐさま階段を上っていった。
『ゼファーさん、ピースクラフト氏があの娘たちとどう繋がるのか教えていただけない?』
『ふむ、血縁は当然ないはずだし、赤の他人のはずだが?』
『ふざけてないでちゃんと教えてください』
『そうだな、この番組と次の番組とその次の番組が終わったらにしてくれないか。早く聞きたければルシードにでも聞けばいい』
「ゼファーのやつめ……」
「というわけなのよ」
「ゼファーを言いこめてあいつから聞き出すという考えはないんだな」
「あの人はあなたがしっかり状況を説明できるよう、訓練させようとしているんだと思うわ」
「どうしてそういう考えが思いつくのか理解できんが……、まあいい、つまり小説の登場人物や地名と酷似するんだよ」
「30点、失格だ。もう少しでも理論的に説明ができんのか。もう少しましになっても及第点は付けられんがな」
「ゼファー、TVに耽ってたんじゃねえのか?」
「お前はCMというものを知らんのか。すぐに戻る」
「とりあえず順を追って説明してもらいましょうか」
「あの野郎……」
「ルシードさん!」
「はいはい、説明すりゃいいんだろ。夢見る爆裂なんたらっつー本に、マリア・ショートをもじった“メイリア・スホルト”っていう主人公とエンフィールドをもじった“エンフィエルト”ってのが出てくるんだよ。主人公もあいつとどことなく似てるらしい」
「爆裂?」
「そうか、メルフィはまだあれを知らないんだよな……」
「何? あれって」
「ご主人様、ただいまお連れしましたぁ」
「ティセさん、お連れしたって……、あの、失礼ですがどちらさまで……」
「ああ、こいつにはまだ事情を話してないもんで。ティセ、案内してやってくれ」
「はぁい、分かりましたぁ。どうぞ、こちらですぅ」
「ルシードさん、そちらのほうも説明していただけるわね?」
「ティセに付いてったら嫌でも分かるぞ。その代わり、何があっても慌てないように覚悟だけはしたほうがいいと思うが」
「……とにかく見てみましょう」
 メルフィとルシードは、修理屋を引き連れたティセの後を追った。
「これはひどい」
「直せますかぁ?」
「直せないってことはないが、一週間から二週間ほどかかるでしょうな」
「あの、直すって何……」
 子供なら余裕で通り抜けれるほどのサイズの穴、それが大胆にも壁に空けられているのを見て、メルフィはあんぐりと口を開けたまま凍り付いた。
「な、言ったろ?」
「どうやったらこんなひどい……」
「転移魔法……」
「ふざけないで! どうして転移で……」
「をしようとして爆発した」
「は?」
「あの爆裂魔法少女が転移魔法を使おうとしたら、目の前で爆発した。とりあえず壁の穴を除いて大した被害は出てない。で、修理のほうは」
「頼まれれば何だってしますが、費用のほうはかなり……」
「その辺のことはこのメルフィに聞いてくれ。っつーわけで、メルフィ、頼んだ」
「ちょっと待ち……」
「このくらいかかりそうなんですが、詳しくは後ほどまたお伝えしますが」
「はあ、やっぱりかなりかかるわね。このまま放っておくわけにはいかないし、お願いするしかなさそうね」
「では、今日はもう遅いんで、明日から取りかかりますが、よろしいですね?」
「ええ、お願いするわ」

「とにかくだな、第一の問題はどうやってピースクラフトと連絡を取るかだ。まったく、必要なときにはシープクレストにいないんだからな、まったく」
 午後六時の緊急対策会議の第一声として、現室長であるルシードがしっかりと私情を含んで問題点を述べた。
 緊急対策会議と名は付けたものの、普段の反省会の延長戦のようなもので、もちろんブルーフェザーのみの会議だ。マリアと由羅も当然ながら参加しているのだが、すでに傍観者になりつつある。
「たしか、出版社の近くに引っ越したんだよね」
「あ、出版社なら連絡先分かりますよ。本の最後に必ず書いてありますから」
 この中で最もピースクラフトに詳しいフローネは、いともあっさりと光明を見いだした。一冊の本がちょうど(というか、いつも)手元にあったので、すぐに調べはついた。
 郵便・電話・直接訪問、どの手段も可能だが、迅速なのはやはり電話だ。
 ルシードはすぐに全員を電話の前に集結させた。
 ダイヤルを終えると、5コールの後、はっきりとした音声が流れてきた。
『ただいまおかけになった番号は、現在……』
 ルシードは無言・無表情で受話器を置いた。再度、本を見ながらダイヤルし始めると、周囲は冷たい視線とため息に覆われた。かけ間違いを表すメッセージを直接聞いたのは、当然のことルシードだけだが、ルシードの行動は明らかにミスを告白していた。
「もう、なにやってるのよー」
「なんか気が抜けた……」
「うるせえ、静かにしてろ、ルーティ、それにビセット」
「些細な不注意が危険を招きかねん、失敗は謙虚に受け止めるべきだろう」
「だから黙ってろ」
 2度目のダイヤルを終えると、やはり5コールの後、はっきりとした音声が流れてきた。とは言ってもさっきのとは違う。
『本日の応対時間は終了いたしました。平日、午前10時から午後6時までに、再度おかけ直しください。……本日の応対時間は終了いたし』
 ルシードが受話器を置くと、その場にいた全員がルシードを冷たい目で見た。繰り返すが、ルシード以外にはメッセージは一切聞こえていない。
「また番号間違えたの? いい加減にしなさいよ」
「違う!」
「自分の過ちを認めず開き直る態度、リーダーとして最悪だな」
 ゼファーの意見を聞いたか無視したかは知らないが、ルシードに向けられた視線はさらに鋭く冷ややかになってしまった。
「違うっつってるだろ! 日を改めてかけ直せってさ。1回目は、まあ、ミスったが。つーわけでまた明日、解散!」
 肩透かしを食わされ、ブルーフェザー+2は散り散りになって、各自鍛錬や休養に赴いた。特に鍛錬する理由のない訪問者組は暇を弄んだ。

 夜、マリアはそこそこ打ち解けたルーティの部屋で、いろいろと話を交えた後、眠った。
 一方、由羅はバーシアの部屋で酒宴を繰り広げた。寄せ集めの肴の中にマシュマロがあったのが幸いし、由羅の就寝をもって早々に宴は幕を閉じることとあいなった。

 翌日、朝10時。予定通り全員が電話の前に再集結した。
 ルシードが受話器に手をかけた直後、けたたましく電話のベルが鳴り出した。
「おわっ!?」
「はい、こちら第四捜査室」
 冷静かつ迅速にメルフィが受話器を取る。そのまま無言で10秒が過ぎ、受話器を戻した。
「ルシードさん、どうぞ」
 しれっとルシードを促して、下がる。
「おい、今のはなん……」
 大音量のベルでルシードの声は掻き消され、またメルフィが手早く受話器を取る。
「はい、こちら第四捜査室。用件は手短に、大きめの声でお願いします」
「なあルーティ、これって……」
「うん、多分……」
 やはり無言のまま受話器を下ろした。それからごちゃごちゃといじっていたが、またベルが鳴り出した。
「はい、こちら第四捜査室」
「動じないな、メルフィ」
「あたしだったら絶対我慢できない」
「俺も同感だな」
 また無言のまま受話器を下ろし、今度はこちらから電話をかけ始めた。
「今後、迷惑電話は遠慮するわ」
 相手の返事を許す暇もなく、早々に電話を切った。
「まったく、無言電話なんて迷惑な……。ルシードさん、もういいわよ」
「あ、ああ」
「逆探知……、さすがはメルフィ……」
「逆探知? あー、確かそんな機能もあったっけか」
「ルシードさん、早く出版社へ」
「あ、そうだな。フローネ、番号は?」
「センパイ、手元に本があると思うんですけど」
「ん? あ、本当だ」
 ページをめくり、連絡先を確かめ、ひとつずつ確認しながらダイヤルする。ルシードにはしっかりと昨日のかけ間違いが頭にあった。それがダイヤルする指に神経を集中させている理由だ。
 案内嬢が出て、用件を促されたとき、ルシードは安堵のため息をついた。
「ピースクラフトのおっ……先生と話がしたいんで連絡先を教えて欲しいんだが」
『すみませんが、そういう用件はお受けできないんです。迷惑電話も後を絶ちませんので』
「こっちも事情があるんだが。そうだ、ブルーフェザーっつったら分かるはずだ。どうにかならないか?」
『ブルーフェザーですか? あっ』
『もしもし?』
「ん? って、おっさん!」
『おお、ルシード君かね』
「なんでおっさんがそこにいるんだ?」
『うむ、最新作の原稿を届けにきたのだがブルーフェザーと聞いたのでね。して、わしに用とは何かね』
『先生、ここの電話で長話は……』
『うむ、ルシード君、すぐにかけ直すから連絡先を教えてくれんかね』
「分かった」

 それから10分ほどたったが、いっこうに連絡は来なかった。
「おい、ルシード。まさかうちの電話番号間違えて教えたんじゃないだろうな?」
「ビセット、おまえも聞いてただろ、俺の声」
「ちゃんとあってましたよ、センパイ」
「だろ? 分かったか、ビセット」
「うん……。にしても遅いよな、忘れてんじゃねえのか」
「きっと先生に何か急用でもあったんですよ」
「まあ、待つしかないだろ」

 さらに20分過ぎたが、電話のベルはまだ鳴らない。
「いつまで待ってりゃいいんだか。メルフィ、俺たちは訓練してるから連絡合ったら全員集めてくれないか」
「分かったわ。マリアさんと由羅さん、あなたたちはどうするの?」
「って言われてもねえ……」
「することないし、つまんない」
 互いに顔を見合わせても、どちらも良い案は浮かばない。街へ繰り出そうにも、地理は全く分からないし、それ以前にいつ連絡が入るか分からない。知らない世界を散策したいという好奇心はあったが、エンフィールドに帰りたいという気持ちのほうが少しだけ上回っていた。
「とりあえず2階のソファで横になってお酒でも飲もうかしらん」
「それはダメ」
「別にいいじゃな〜い、よって他人にからむわけでもないし〜」
「横にお酒があると鍛錬をサボる可能性の高い人が1名ほどいるのよ。そうでなくても朝から事務所で飲酒は禁止よ」
「え〜」
「なんならミッシュベーゼンにでも行って来たら?」
「ミッシュベーゼン?」
「って?」
「バーシアさんの行きつけの酒場よ。あんまり酒場って感じはしないけど」
「んー、それじゃあ早速……」
「あ、通信機は持っていってね。連絡が入り次第、通信を入れるから。お店は川沿いに進んで橋の反対方向、入り組んだところではないからすぐに見つかると思うわ」
「じゃ、暇だからマリアも行ってくるね☆」
「ええ。だけどくれぐれも魔法は使わないように」
「ぶー、分かってますよーだ」
「そう? それならいいんだけど」
「それじゃ、いってきま〜す」

 しばし歩いて、目的のミッシュベーゼンはすぐに見つかった。
 知らない街、人々、機械、社会の中にいて、言葉と文字がほぼ同じなのは救いだった。おかげで別世界とも感じず、いつか帰れるという直感的な希望も持てる。
「いらっしゃいませ」
 酒場といえばどうしてもパティの声を連想してしまうマリアと由羅にとって、ものすごく小さな声で応対され、もうすこしで無視してしまうところだった。
 午前中で他に客は誰もいない店内で、ふと視線が合った由羅と更紗は、お互いに「あっ」とその容貌と自分の姿を見比べた。ふたりとも、希少種族ライシアンである。隣ではマリアが更紗の容姿を眺め、奥から出てきた女将ジラにいたっては、由羅を更紗の親かなにかだと勘違いしたほどだ。
「へーえ、そいつは大変だね。それで朝っぱらからやけ酒、ってわけでもなさそうだから、更紗、持ってきて」
「うん」
「しっかし、こっちでライシアン見るとは思わなかったわねえ。それどころか、いきなり親族扱いされるし」
「あれは仕方ないさ、なんたってライシアンを見たのは更紗のときと今で、たったの2回目なんだから」
「マリアも猫耳としっぽつけた人を見たらメロディの親戚かなって思うかも」
「うーん、確かにそれはそうかもしれないけど……」
 由羅が納得いかないのは、親族扱いされたことというよりは、更紗の“親”だと思われたことにあった。更紗は14歳か15歳ぐらい、その親ともなれば少なくとも30代半ばと推定したことになる。
「持ってきました」
「ああ、ありがとうよ。お嬢ちゃんは未成年だからジュースでいいかい?」
「うん、いいよ」
「あの……あたしも……いいかな?」
「もっちろん。マリアと由羅だけでも暇だしね。由羅はお酒があれば充分だろうけど」
「あたしもひとり寂しく酒浸りなんてしたくないわよ。そうだ、更紗も一緒にお酒……はやっぱ無理よねえ」
「それにしても、同じライシアンでも性格はずいぶん違うもんだね」
「かたや恥ずかしがり屋なウエイトレス、かたや大ざっぱで大胆な大酒のみ」
「マリア、どーゆー意味よ、それは」
「さーあ、分かんない☆」
「あんたたち、そんなに明るいけどさ、帰れる見込みはあるのかい?」
 不意にジラが尋ねた。次いで、更紗が唾を飲み下したのが分かった。
「手がかりは掴めそうなんだけど、正直、よく分かんない」
「転移の魔法を操れる人もいないみたいだから、最後はマリアが魔法使うしかないのよねえ。見込み薄いかも。ま、いざとなったらなんとかなるでしょ」
「由羅、さりげなくマリアを馬鹿にしてない?」
「気のせいよ、き・の・せ・い」
「うー。とにかく気にしすぎてもどうにもなんないし、なんとかなるよ、なんとか……」
 語気が弱くなったところに、呼び出し音が鳴り響いた。
『マリアさん、由羅さん、連絡が入ったわ』
『本人たちはちょっと出かけてる。今連絡入れてるからすぐに帰るはずだ』
『通信機経由だと煩わしいから、早く帰ってきて。いいわね』
「了解っ」
 マリアが返事をするかしないかというあたりで通信が切れた。
「それじゃ、来たばっかりだけど」
「ちゃんと帰れるよう祈ってるよ」
「ありがと。帰れなかったらまたよろしくね〜」
「由羅、縁起でもないこと言わないでよ」
「じゃね、ジラさん、更紗も」
「……うん」

 受話器に向かっているのは、ピースクラフトの大ファンで、当然彼の著作の内容に詳しいフローネだった。はじめはルシードが話していたが、小説の内容にまで言及されると対処できないので交代した。
 ルシードは彼の著作“恐怖の闇鍋パーティー”を読んだことはあり、その内容は一生忘れられそうになかったが、今回必要な内容はまた別の小説だ。
「先生の“夢見る爆裂魔法医師”の舞台背景を教えて欲しいんです」
『うーむ、それはだいぶ昔の作品だね。ふむ、資料は引っ越すときにちゃんと持ってきているよ。ふーむ、うむ、ここにある』
「その作品に出てくる“エンフィエルト”という地名が“エンフィールド”のことだと思うんですけど」
『ほう、エンフィールドを知っているのかね?』
「やっぱりそうなんですか? 実は、そのエンフィールドからやってきた人がふたり、ここにいるんです。転移魔法を失敗して来たらしいんですけど、帰り方が分からないらしくて困ってるんです。何か分かりませんか?」
「ただいまっ」
 フローネを含めた全員がそちらに注目した。息を切らして、マリアがブルーフェザーの輪に加わった。
「俺の推論は当たっていたようだ。ま、当然だがな。ところで由羅はどうした?」
「歩いてる。それで?」
「それはこれからだ」
「あっそ」
『魔法で来たなら、魔法で帰るのが筋なのだが……、誰か転移魔法を使える者はおるかね?』
「えと……」
「どうした?」
「センパイ、やっぱり転移魔法だと」
「それが出来ねえから聞いてるんだ、貸せ、フローネ。
 おっさん、転移魔法を使えるのは今んとこメイリアのモデルになったらしいマリアだけだ。だが……」
『成功率は皆無に等しい、違うかね?』
「そういうことだ。他に方法は考えつかないか?」
『人の話はよく聞きたまえ。その成功率を五分ぐらいまで引き上げる方法なら書いてある。現存する魔法とはちとばかし違ったタイプの魔法のやり方をな』
「それに賭けるしかねえか。で、どうすりゃいいんだ?」
『まずは“夢見る爆裂魔法医師”の136ページを開けたまえ』
「ちょっと待った。フローネ、例の本、持ってきてくれ」
「分かりました。すぐ持ってきます」
「しかし、なんで本がいるんだ?」
『エンフィールドなどのある世界への転移魔法のやり方が』
「グリフレンツの製造法と同様、暗号で書かれておる、とでも言うのか?」
『ご名答。ついでに必要な魔法陣も挿し絵に書かれておる』
「マジかよ……」
「持ってきました」
「よし、136ページだ」
「はいっ」
「で、解読法は?」
『なんのことはない、16文字目からふたつおきに文字を拾えば文になる』
「フローネ、16文字目から順番に、ふたつ飛ばしで読めばいいらしい」
「えっと、え、ん、フ、イ、ー、る、ど……。エンフィールドへの旅行手段」
「うそぉ!?」
 素っ頓狂な声を出してルーティは自分の目でも文字の羅列を追った。嘘でもなんでもなく、文章が現れた。
「ある意味、あいつって天才かもしんない」
「なんでホラー小説にこんな暗号入れるのか、理解できないけど」
「単純な暗号ではあるけど、書けと言われてすぐ書けるものではないわ」
「あうー、ティセには半分ぐらいしか読めないですぅ」
「文章をとびとびで読んだら違う文章が出てくるの、分かった?」
「えっと……ホントだ。しかもこれ、かなり長く続いてるよ。全然途切れてないし」
 続いてビセット、バーシア、メルフィ、ティセ、由羅、そしてマリアも本を覗き込み、ティセを除いた全員が驚嘆の声を上げた。
「みなさん、何がそんなにすごいのですか?」
「見た目は普通の文なのに、暗号が隠されてんだ。小説書くだけでも難しいのに」
「普通の文、かどうかは怪しいけどね。一応、意味の通った文章にはなってるけど」
「よくわかんないです」
 ビセット(とルーティ)の説明も虚しく、ティセは頭をひねったままだった。
 みんなの集中力がいい具合に切れかかった頃、フローネが暗号解読後の全文を読み始めた。となると、全員がフローネに注目した。
「エンフィールドへの旅行手段。上位魔法のひとつ、転移魔法の応用である。現代では転移魔法は……」
 と、魔法の概念の違いについて長々と述べてあるのをフローネは一字一句読み違えないように、あまり意味のない努力していた。
「なあフローネ、全部読まなくていいから、要点だけまとめてくれ」
「それもそうですね。えっと……、挿し絵の右上に書いてある魔法陣を描くらしいです」
「マリアに見せて! うーんと、見たこと無い」
「それが普通なんじゃないですか? えっと、それから指を16ページの挿し絵の左上にいる影のようにして……」
 大まじめにページをめくるフローネに、マリアが声を掛ける。
「これ、どういう本なわけ? タイトルも挿し絵も突拍子もないし。しかもこれがホラーって言うんでしょ、全然分かんない」
「後で読んでもいいですよ」
「やめとく」
「そうですか。面白いのに。センパイは読みます?」
「今はんなこといってる場合じゃねえだろ。続きは?」
「“夢見る爆裂魔法医師 復活編”ですか?」
「……暗号の続きだ」
「あっ、私ったら……」
「どうでもいいから続き」
「はいっ。えっと、あとは呪文ですね。……誰が魔法使うんですか?」
「そりゃあもちろん、この中で唯一の一流魔法使い」
「なんていたっけ?」
 今まで全く黙っていたと思ったらバーシアとお酒を飲んでいた由羅が、自意識過剰なマリアの言葉を遮った。由羅が出なくても、誰かが同じ事を口に出したのは間違いない。おそらく、ルシードが。
「マリアしかいないのなら、仕方あるまい。いかに失敗の可能性が高かろうと、100パーセントではあるまい」
「ちょっと、涼しげな顔して思いっきりバカにしないでよ!」
「ふむ、で、呪文は?」
「……読んでみてください」
「ん? ……やけに長いな。ま、これはマリアが覚えればいいのだから気にする必要はないな」
「なんかやな予感がするんだけど。見せて」
 マリアが本を受け取って読む。3ページに渡ってぎっしりと呪文が書き連ねてあった。読み方がふたつ置きなので、実質、小説1ページ分の呪文を必要とするらしい。当然、マリアにこれを覚える自信など欠片もない。覚える気など微塵もない。
 結局、書き写したメモを見ながら詠唱することにした。

 いざ、魔法陣を綿密に描き、準備が整っても、さあ呪文を唱えよう、とはいかないのだった。マリアにしてみれば、どうしても解せない規則がシープクレストにはある。使用許可が下りないと魔法は使えない。
 14度目の魔法陣の点検を始めようとしたとき、やっとお待ちかねのメルフィが到着した。
「使用許可は下りたわ」
 わあっと歓声が広がる。
 ルシードは許可が下りるわけがないと思っていた。私情で魔法許可は出ない。ましてや失敗の可能性が限りなく高いと思われる場合になど。だがしかし、ここは肯定に受け止めよう。
「もう、早速いくよ!」
 待ちかねていらいらしていたマリアは周囲の確認もせずに指を組んだ。マリアを取り巻く空気が変化した。
「我が力、全てを賭けて時空間を司りし神に命ず。汝が創りし……」
 自分の指に張り付けた公認のカンニングペーパーを何度も見て、異常なまでに長ったらしい呪文を唱えた。
 足下の魔法陣から、見慣れた古代文字が浮かび上がり、中心に立つマリアと由羅を取り囲んで、ぐるぐると回転しだした。続いて小さな静電気や発光が相次ぎ、薄い蜃気楼がかかったようになった。
 紙に書いた呪文がちゃんと読めるのは幸いだった。
 だが、あまりにも長い呪文で集中力を欠き、3割ぐらい進んだところで、マリアは呪文を1行読み違えた。浮かび上がった文字は霧散し、何事もなかったように魔力が掻き消された。
「間違えたな。ま、予想はしてたが」
「失敗しちゃった☆ うー、もう一回! 我が力……」
 2度3度、5度6度、8度9度、と失敗を繰り返した。やってみれば分かる。小説1ページをリズムを崩さず、間違えることなく読むのは意外と難しい。ましてや、普段は使わない、古くさい言葉遣いだとすると、並大抵ではない。
 およそ30回ほど失敗を重ね、1度目の試行から2時間が経過していた。諦めることが大嫌い、特に魔法に関しては絶対に観念しないマリアは、それでも呪文を繰り返した。
 疲れて、多少焦ってくるぐらいがちょうどよかったのか、ただ単に疲れただけなのか、マリアの声は少し落ち着いたスピードになっていた。微妙な魔力の流れを感じ取ったブルーフェザーの面々は、今度こそはいける、と確信した。
「……道を開き、我を導け!」
 十数分かけて、マリアは最後の1フレーズを言い終えた。暗号の指示通り、マリアの頭の中はエンフィールドの風景でいっぱいだった。
 いつのまにか無数に増えた光の文字がばらばらに砕け、ふたりを包んだ。ルシードたちがごくっと息を飲み込むと、光の束は魔法陣の中心に収束した。マリアも、由羅も、ついでに魔法陣そのものも飲み込んで、やがて消えた。
「やったか。終わってみればあっけないな」
「ちゃんとエンフィールドに着きますよね。ふたりとも」
 疑問というより、ふと声に出してしまった独り言だったのだろう。フローネが呟いた。
「たぶん大丈夫だろ。心配するな。ま、なんにせよ穏やかに済んでよかったぜ。爆発でもしたら始末書で頭が痛いからな」
「あははは、それ言えてるー」
 ルーティを皮切りに、大笑いが広がった。
 その中で、メルフィだけは笑う気になれなかった。
「どうした、メルフィ」
「ルシードさん、ちょっと……」
「なんだよ」
「修理費用は必要経費にはできそうにないわ。当面、みんなの給料から少しずつ差し引かなきゃいけなくなりそうなの」
「げっ、マジかよ。くそっ、マリアめ、最後に迷惑だけ残してきやがって……」

 無事、エンフィールドに到着するというフローネ他多数の予想は、だいたい半分くらい当たっていた。
 突然の来客、しかもいきなり私室に現れた見知った顔を目の前にして、その部屋の持ち主は驚きの声を上げるという反応しか思いつかなかった。
「マリアちゃん、由羅さん、いったいどうして!?」
 シーラがいるということは、ここはエンフィールドではなくて、ローレンシュタインだ。とはいえ、シープクレストに舞い降りるよりは、遙かに楽観できる状況ではあった。
「えーっと……なんでかな☆」
「ちょっとマリア、なんでエンフィールドじゃなくてローレンシュタインなわけ?」
「さ、さあ」
 この失敗を些細なものととるべきか、大きな事と言うべきかは判断しかねる。
 それがどちらかか決める前に、由羅が心に決めたことがある。
『マリアをひっぱたいて気絶させてでも、帰るときは馬車で帰る!』
 馬車でなければ、必然的に転移魔法だ。時間はかなりかかるが、もはやそんなことはどうでもいい。来るときはマリアの魔法に頼ろうとしたわけだが……、彼女の決心は、しごく当然で、賢明だった。


あとがき

 前作より2ヶ月。2000年を迎えて、ひさびさのSSです。
 その間に悠久3も発売され、悠久1・2と悠久3の両方の要素を混ぜ込んで書いてみたいと思ってできたのがこれ。
 タイトルですが、「Passport」はパスポートの他に、確実な手段という意味があります。内容的には「Passport to Enfield」のほうが正しいような気もしますが、シープクレストが舞台なんで、こっちにしました。

 登場キャラはいままで以上に多数。しかも地の文が少ないという構成。書いてる方は楽しい苦労でした。読んでて台詞とキャラが一致するか、ちょっと不安ではあります。

 ではっ


History

2000/01/05 書き始める。
2000/01/20 書き終える。

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