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とおいせかいのくろねこ

浅桐静人

「でさあ、マリアも真似してみたんだけどね、何度やってもうまくいかないんだ。どうしてなんだろう」
「ふみぃ、メロディにはよくわかりませーん」
 メロディとマリアちゃんは、“まじゅつしくみあい”のひとがつかってたっていうまほうのおはなしをしてたんだよ。メロディはそのまほうをみてないから、よくわかりません。でもね、マリアちゃんがてをうごかしたり、ゆびをうごかしたりするから、なんとなくわかるようなきもする。
「んと、こーして、こーやって……やあっ☆」
 マリアちゃんはゆびでさんかっけいのかたちをつくって、りょうててをつきだしたら……
 どっかーんっ! っていうものすごいおとがして、そこにいたみんながマリアちゃんをみて、
「またあの娘か、毎度毎度、懲りないねえ」
 とか、
「ちょっとは自覚してくれたらいいのに」
 とかいってた。で、とうのマリアちゃんは、
「えへへ☆」
 ってわらいながら、てでかみのけをさわって、すぐに、
「おっかしいなあ、これをこーして、こーかな? こーだったかな? うーん、多分こーだったような……せやあっ☆」
 といったかとおもったら、またばくはつ。
 そばにいたひとはみんな、ふかーいためいき。
「ふみぃ、マリアちゃんがやってるのは、こうやって、こうだよね」
 おもしろそうだったから、メロディもマリアちゃんのうごきをまねして、まほうをかけてみたんだ。えっへん、メロディもすこしはまほうがつかえるのです!
「ふみみ、こーして、こーして、ふみゅーっ!」
 そしたら、マリアちゃんのときとちがって、しろいけむりがたって、ぼわわわんっておとが……あれれ? おとのほうがさきだったかな。……どっちでもいいよね。
「えっ? なになに? どうしたの? もしかして一発で成功しちゃったとか!? うっそー、しんじらんなーい。どうしてマリアにもできなかった魔法がメロディにできちゃうわけ!? ぶつぶつ……」
 マリアちゃんのセリフは「いご、しょうりゃく」
 でね、しろいけむりのなかに、くろくてかわいいねこちゃんがいたんだよ。
「ふみぃ、ねこちゃんだーっ!」
 くびのところに、あかいリボンがついてた。でね、でね、なんと、このねこちゃん、ひとのことばをしゃべるんだよ。
 え? メロディもひとのことばをしゃべるじゃないかって? ふみーっ! メロディはねこじゃありません!
 ……それはおいといて、このねこちゃん、
「ん? ここ、どこだ?」
 っていって、まわりをきょろきょろみわたしたあと、メロディとめがあった。
「猫耳、猫のしっぽ、いったいなんなんだ?」
「メロディは、メロディっていうんだよ。メロディはメロディ。あれれ? うみゅー、メロディはメロディでまちがいないよね」
「……」
 ねこちゃんはたちどまって、じーっとメロディのことをみて、すこしまばたきして、
「つまり、メロディっていう名前ってことか?」
「そうでーす。なんかよくわかんなくなっちゃったけど、メロディはメロディなの、だーーっ!」
 あっ、「だーーっ!」はおねえちゃんにやめろっていわれてるんだった。えへへ……。
「ま、いーや、オレはサケマス。で、ここはどこなんだ?」
 このねこちゃん、サケマスっていうんだって。ここはどこ? えっと……こうえん。
「“ひのあたるおかこうえん”だよ」
「分からないなあ。もっとおおきく……」
「ひ! の! あ! た! る! お! か! こー! え! ん!」
 きこえなかったのかな、っておもって、メロディはもういっかい、こんどはおおごえでいったよ。けど、サケマスちゃんはおみみをふさいでしかめっつらになってた。ちょっとこえがおおきすぎたかな。
「いや、そうじゃなくって。もっとひろく」
 ふみ? ひろく? メロディ、よくわかんないの。
「エンフィールド、でいいの? この街の名前だけど」
 メロディのかわりに、マリアちゃんがいったんだよ。そしたら、サケマスちゃんはうで、じゃなくてまえあしをくんで、
「エンフィールド……聞いたことないなあ」
 エンフィールドをしらないの? じゃあ、ずっととおいまちからきたのかな?
「あ、そうだ、フロルエルモスっていう街は知ってるか?」
 メロディ、そんなまちしりませーん。すぐに、メロディもマリアちゃんもくびをよこにふった。
「はー……」
 それをみて、サケマスちゃんはおおきくためいきをついたんだよ。しっぽがぐたっとしてて……サケマスちゃん、おちこんでるの?

 マリアちゃんとメロディ(とサケマスちゃん)は、とりあえずフロルエルモスっていうばしょがどこにあるかしらべることにしたんだよ。
 しらべものといえば、もちろんきゅうおうりつとしょかん。
 けどね、としょかんにはいろうとしたとき、
「あっ、図書館はそっちじゃないよ」
「サケマスちゃーん、としょかんはここですよーっ」
 サケマスちゃんはかけだして、むこうにいっちゃった。で、おんなのこのまえでたちどまって、じーっとそのおんなのこをみつめてた。
 そしたら、そのおんなのこはサケマスちゃんをりょうてでかかえてもちあげた。
「きゃあっ、かわいいっ」
「ローラ、その猫、知り合い?」
 そうそう、そのおんなのこっていうのは、ローラちゃんのこと。
「えっ? 知らないよ。って、ふつうは猫を知り合いとはいわないとおもうけど」
「それもそっか」
 マリアちゃんとローラちゃんがおはなししているあいだも、サケマスちゃんはずっとローラちゃんをながめてた。
「緑の目、人違いか……」
 サケマスちゃんがこえをだしたしゅんかん、
「ええっ!?」
 っていうのは、べつにひとちがいだったからおどろいたわけじゃないんだよ。たぶん、サケマスちゃんがことばをしゃべるってしらなかったからおどろいたんだとおもう。
 ローラちゃんがとっさにてをはなした(こういうのを、はんしゃてきにっていうんだよ)から、サケマスちゃんはちゅうになげだされた。
 でも、ねこちゃんはこれくらいじゃなんともありません。くるっとちゅうがえりして、ちゃんとちゃくちできるんだよ。すごいでしょう。えっ? メロディがいばることじゃないって? ふみぃ……。
「あー、驚いた」
「びっくりしたー」
 はじめのがサケマスちゃん。つぎがローラちゃん。
 そして、サケマスちゃんはローラちゃんをひとめみて、またためいき。フロルエルモスっていうところに、ローラちゃんのそっくりさんがいるのかなあ。
「サケマスちゃん、ローラちゃんがどうかしたんですか?」
「そうそう、いきなり走ってっちゃってさあ」
「いや、人違いだ。目の色が違う。それより、早く調べようぜ」
 サケマスちゃんはとしょかんにむかってはしっていった。
「あっ、そういえば図書館ってペットの入室禁止じゃなかったっけ?」
 マリアちゃんがおもいだしたようにいった。ローラちゃんは「そういえば」ってへんじをしたよ。
「サケマスちゃんはペットじゃありません」
「そりゃあ、まあ、そうなんだけどさ。ちゃんと説明しないと入れてくれないよ」
「でもマリアちゃん、あの子、しゃべるんだよ」
 サケマスちゃんがしゃべると、どうなるの?
「それもそっか。……それはともかく、マリアたちも行こ」
「うん」
 マリアちゃんとローラちゃんもとしょかんにはいっていった。
 ……。ふみゅう、メロディもいかなくちゃ。

「マリアさんに、ローラさん? 珍しいわね」
 としょかんのなかで、マリアちゃんとローラちゃんがイヴちゃんとおはなししてる。あれ? サケマスちゃんは?
「メロディもいまーっす!」
 すると、としょかんにいたひとがいっせいにメロディのほうをむいた。おおごえをだしちゃいけないんだった、しっぱいしっぱい。
「メロディさん、館内ではお静かに」
「ふみぃ……」
「ところでイヴさん、しゃべる猫来なかった?」
「これくらいの黒猫だよ☆」
 マリアちゃんがりょうてでサケマスちゃんのおおきさをせつめいした。イヴちゃんはすぐにへんじをしたよ。
「あっちにいるわよ。あの猫の知り合い?」
「そうでーす。サケマスちゃんっていうんだよ」
 てくてくとサケマスちゃんがあるいてこっちにやってきた。くびをふって、
「あっちに役に立ちそうな本はなかったぜ。もっと他に地図はないのか?」
「ないわ」
 イヴちゃんのひとことで、サケマスちゃんはがくっとかたをおとした。
「もう一回探してみようよ、もしかしたら見落としてるかもしれないよ」
「おう、そうだな。冊数もけっこうあったし」
 サケマスちゃんはマリアちゃんのあとについていった。

「思ったより多いね」
 ローラちゃんがほんだなをみあげてつぶやいた。さきにそこにいたマリアちゃんはにやっとわらって、
「こーゆーときこそ、マリアの魔法の出番だね☆」
 マリアちゃんはぶつぶつとじゅもんをとなえはじめた。
「メロディちゃん、あ、と……えっと……」
 ローラちゃんがサケマスちゃんをゆびさしてかんがえている。
「サケマスだ」
「そうそう、サケマス。とりあえずマリアちゃんからできるだけ離れて伏せて」
「へっ? なんで?」
「いいから速く」
 サケマスちゃんはあたまに?マークをうかべながら、しぶしぶローラちゃんのいうとおりにした。もちろん、メロディもいっしょだよ。
 パーン! おおきなふうせんがわれるみたいなおとがした。
「いたたた……。んー、ちょっと失敗しちゃったけど……。手がかりはないみたい」
 マリアちゃんがこっちをむいた。
「って、みんなして何やってんの?」
「さあ。なんとなく分かったような気もするが」
 マリアちゃんのしつもんに、サケマスちゃんがとりあえずこたえた。つぎに、ローラちゃんが、
「爆発したときのための防御姿勢」
 と、きっぱりといいきった。
「やっぱり……」
 サケマスちゃんはためいきをついて、しっぽをくたっとさせた。
「どーして防御姿勢が必要なの!? サケマスもサケマスで、『やっぱり』ってどーゆー意味!?」
「んと、その……」
「あ、いや……」
 ローラちゃんとサケマスちゃんがこまってると、そこにイヴちゃんがやってきた。
「マリアさん、これはいったいどういうことなの?」
 マリアちゃんはイヴちゃんがゆびさしたほうこう――マリアちゃんにとってうしろ、メロディからみたらむこうがわ――にふりむいた。
「え、えへへ☆」
「えへへ、ではないわ。ちゃんと説明していただけるかしら?」
「うええ……」
 ほんだなにおいてあったはずのちずがゆかにちらばって、ぐちゃぐちゃになっていた。
 それをみないふりをして、ローラちゃんがつんつんとサケマスちゃんをつっついた。
「ん?」
「他のところも調べようよ」
 サケマスちゃんは、イヴちゃんにしかられてちいさくなっているマリアちゃんをみた。
「……そうだな。うーん、もともと魔法で間違えて召喚させられたみたいだから、魔術書でも調べてみるか」
「そういえば、メロディちゃんの魔法だったよね。どんなふうにやったか覚えてる?」
「ふみぃ、マリアちゃんのまねをしたら、しろいけむりが……」
「それはもう聞いたから説明しなくてもいいよ。あたしが言ってるのは、たとえば手を叩いたとか、指で文字を書いたりとか」
「はーい、おぼえてまーす。ゆびでさんかくのかたちをつくるんだよ。それでね、こーやって……」
 メロディはひだりてを、じゃんけんの「ちょき」のかたちにして、みぎてはひとさしゆびだけたてて、その3ぼんでさんかくをつくってみせたんだよ。それを、いきおいよくまえにつきだし……
「わわっ!」
 ローラちゃんにぶつかった。
「ふみぃ、いたかった? ごめんね、ローラちゃん」
「いたくはないんだけど、びっくりした。それじゃあ、調べに行こっか、魔術書のコーナーは……あっちだよ」
 ローラちゃんはひろいとしょかんのおくのほうをゆびさした。
「マリアちゃん、魔術書のほうに行ってるねーっ」
 メロディとローラちゃん(とサケマスちゃん)はまじゅつしょコーナーにむかった。
 マリアちゃんはまだイヴちゃんにしかられてて、へんじはできなかった。
「なあ」
 サケマスちゃんはローラちゃんのあしをつっついた。
「なあに?」
「普段は爆発するのか?」
 まえあしをマリアちゃんのほうにむけて、くねくねとうごかした。ローラちゃんはマリアちゃんにきこえないように、
「……うん、10回に9回は爆発する」
「……なんか他人の気がしない……」
「え?」
「いや、何でもない」

 メロディたちはまじゅつしょのあるほんだなにやってきたよ。ふみい、むずかしそうなほんばっかりなの。
「ここはマリアの本領発揮☆ ちょっと下がってて」
「そうはさせないわ」
 とすっ、ばたっ、ずるずる……
 とつぜんあらわれたマリアちゃんは、イヴちゃんにひきずられていった。
「……」
「……」
「……」
「ま、まあ、あれはほっといて、手分けして探そうよ」
「そうだな」
「メロディもがんばりまーす」

 ふみい、これもちがう、これも、これも……。
「サケマスちゃーん、あったー?」
「いいや、まだ見付からない」
 サケマスちゃんはとなりのほんだなをさがしてる。ページをめくるはやさは、ものすごくはやい。
 メロディもいっしょうけんめいさがしてるんだけど、ぜんぜんみつからない。さがしたのは、『ぶつりまほうのきそちしき』『はじめてのせいれいまほう』『かんたんなちゆまほう』などなど。
「ローラちゃーん、あったー?」
 ローラちゃんははんたいがわのほんだなをさがしてる。はずなんだけど……。
「ローラちゃん?」
「返事がないな」
 メロディとサケマスちゃんはほんだなをぐるっとまわって、ローラちゃんのようすをみにいった。
「すーー……」
 そこには、ぐっすりねむっているローラちゃんがいた。
「こんなところでねてたらかぜひくよ、ローラちゃん」
「そういう問題じゃないと思うんだけどなあ。おーい、起き……あれ?」
 サケマスちゃんのめが、ローラちゃんのあしもとにころがったほんをむいた。すすっとそれにちかづいて、ページを3つくらいめくったら、
「あ、やっぱり」
 ゆびでさんかくをつくったえがかいてあった。
「おーい、起きろー! 見つけたぞー!」
 ローラちゃんはうっすらとめをあけた。ごしごしとめをこする。
「えっ? 見付かったの?」
「おう、これだ」
「で、なんて書いてあるの?」
 サケマスちゃんはほんにかいてあることをよみはじめた。
「召喚魔法、難度C」
「ふみ? しょーかんまほう?」
「それで?」
「別世界から好きな動物を呼び出す。ってことは、ここは別世界になるのか。しかし、なんで“別世界から”なんていう魔法が難度Cなんだ?」
「それはそうと、呼び出した動物を元に戻すにはどうすればいいの?」
 ローラちゃんのしつもんのあと、サケマスちゃんはページを1まいめくって、もじをよんでいったんだよ。
 そしたらとつぜん、サケマスちゃんのうごきがぴたっととまった。
「……」
 じっとおなじページをみたまま、たまにまばたきしてるけど、だまったままで……
「サケマスちゃん、どうしたの?」
「あ、ああ。ここ」
 て、じゃなくてまえあしをほんのしたのほうにあてて、メロディのほうにほんをずらしてくれた。
 そこにかいてあったのは、
「この……の……は……2……くて3……しかない。ふみい?」
 メロディにはぜんぜんいみがわかりません。メロディはカクっとくびをひねったよ。ローラちゃんはためいきをついてたけど、なんでだろ?
「メロディちゃん、ちょっと貸してね」
「はあい、どうぞ」
 ローラちゃんにほんをてわたした。
「えっと、この魔法の効果は約2時間、長くて3時間程度しかない」
 よみおわると、ローラちゃんもサケマスちゃんも、てきとーなほうこうをながめて、ぼーっとしてた。
「……」
「……」
 みじかいちんもくのなか、とつぜんサケマスちゃんがきえた。
「あれ? サケマスちゃん、どこにいっちゃったの?」
「きっと、元の世界に帰ったのよ」
「もとのせかい?」
「そう、フロ……なんとかっていうところに」
 そこに、マリアちゃんがやってきた。
「おまたせ☆ なかなかイヴが許してくれなくってさあ……、そいで……、あれ? サケマスは?」
 ローラちゃんはなにもいわずにほんをひらいて、マリアちゃんにむけて、ページのしたのほうをゆびでつっついた。
「ちょっと貸して」
 マリアちゃんはほんをてにとって、よみはじめた。
「効果は約2……、って、ええーっ!?」
 マリアちゃんは、はっときづいてくちをりょうてでおさえた。ここはとしょかんだから、おおきなこえをだしちゃいけないのです。
「マリアちゃん、どうしたの?」
「ふみい、そんなにおおきなこえだして……」
「え? あはは、なんでもない、なんでもないよ☆」
 マリアちゃんがそういうと、ローラちゃんはくびをかしげた。でも、「ま、いっか」とほんをたなにもどした。
(あの魔法が難度C? うそーっ。じゃあ、なんでマリアが失敗するわけ? えっと、こうやって、こうでしょ、それから、それから……)
 マリアちゃんがゆびをくるくるまわしているのを、ローラちゃんがあわててとめた。
「あ、あははは。そろそろ帰るわね」
 ローラちゃんのめのむこうには、こっちをじーっとみているイヴちゃんがいた。
「メロディちゃんも、もう帰ろ」
 ローラちゃんはマリアちゃんをひっぱって、でぐちのほうへあるいた。
「はーい」
 メロディも、もちろんついていったよ。でも、サケマスちゃんがいないのは、さみしいなあ。

「やあーっ☆」
 としょかんをでたとたん、マリアちゃんがさけんだ。
 そしたら、みちのまんなかがばくはつ。もううすぐらくて、だれもいなかったけどね。
「マリアちゃん、いくら近くに誰もいないからって、やつあたりで攻撃魔法ぶっ放すのはやめようね」
「うう……」
 マリアちゃんはすこしなきながら、はしっていっちゃった。
「まあ、あれは自業自得だしね……」
 じごうじとく、ってなあに?
「あ、もう暗くなってきたし、あたしも帰るね。メロディちゃん、また明日ね」
「はーい、さようならーっ」
 ローラちゃんは、きょうかいのほうへはしっていった。
 それはおいといて……、もうサケマスちゃんとはあえないの? せっかくおともだちになれたのに……。
 ……!
 メロディ、いいことおもいついたよ。
 なにをおもいついたかって? それは、それはね……。

「め、メロディ? これはいったいどういうこと?」
 おうち(ゆらおねえちゃんのね)からでてきたゆらおねえちゃんは、メロディのうしろのほうをゆびさした。
「ねこちゃんがいっぱい、でーす!」
 ホントはサケマスちゃんをよぼうとおもったんだけど、なんかいやっても、でてくるのはちがうねこちゃんばっかりだったの。
「それくらい、見りゃ分かるわよ。メロディ、なんでこんなに猫がいるのか説明してちょうだい」
 ゆらおねえちゃん、ちょっとこわいよお。かわいいねこちゃんばっかりなのに……。ちょっとかずはおおいけどね。どれくらいおおいかっていうと、いち、にー、さん、しー……、じゅうはち、じゅうく、にじゅう…………、ろくじゅうご、ろくじゅうろく……、あれ? いくつまでかぞえたっけ?
「メロディ、ちゃんと説明してちょうだい。3匹ぐらいだったら許せるけど、いくらなんでもこの数は……」
「メロディがまほうでしょうかんしましたー、みんな“いせかい”っていうところのねこちゃんだよ、えっへん」
「えっへんじゃないわよっ! こんな無茶苦茶な数の猫、どうしろっていうのよ!」
「ふみい、でもね、2じかんから3じかんでまほうはきれるんだよ」
 ゆらおねえちゃんはどなるのをやめて、しずかになった。ゆるしてくれたのかな?
「で、その……、魔法で召喚したっていうのはいつなの?」
「ついさっきだよ」
「……」
 ゆらおねえちゃんはまただまって、うつむいて、こぶしをわなわなとふるわせて……、ふみい、なんだかこわいよお……。
「メロディ」
 やさしいような、でもおこったようなこえでゆらおねえちゃんはメロディのなまえをよんだ。そして、メロディがへんじをするよりさきに、
「メロディ、今日は許してあげるから、その猫たちと3時間ほど森で遊んできなさい」
「でも、もうくらいよ?」
 あと3じかんもたったら、まっくらになっちゃうよ。
「いいから、いってらっしゃい!」
 このときのおねえちゃんは、いままででいちばんこわかった。メロディはあわててもりのなかへはしったよ。
「ふみゅー、いってきまーすっ。ねこちゃんもおいでーっ」
 そのよる、メロディはたっくさんのねこちゃんと、たのしいじかんを“まんきつ”したのでした。めでたし、めでたし。(?)

 追記。

「あら? あなたはメロディと一緒に行かないの?」
 メロディが森へ去った後、ぽつんと1匹だけ、猫が残っていた。胸に赤いリボンをつけた黒猫だった。
「やっと帰れたと思ったのに、なんでまた召喚するんだよ……」
「あなた」
 黒猫は振り向いた。
「ん?」
 由羅は黒猫を抱きかかえた。
「どーしてこーいうことになったか、説明してくれない?」
 猫が言葉をしゃべるとかいうことに、全く疑問はないらしい。
 黒猫は黒猫で、ライシアンの容貌を不思議には思わないようだ。
「なんでオレが……、いや……」
 黒猫は少し考えた。
「分かった、説明する。その前に、ひとつだけ条件がある。メロディっていったっけ。あの娘に“金輪際この魔法は使うな”って言っといてほしいんだけど」
 由羅は一瞬も待たずに首を縦に振った。
 黒猫(サケマス)は、今日あった出来事を語り始めた。


あとがき

 メロディの一人称。不思議な感じです。読むほうも、やっぱり妙な感じなんだろうなあと思いながら、メロディになりきって書いてました。
 ローラの影が薄くなりそうな予感があったんですが、意外と活躍させれてよかった。反対に、マリアは活躍しすぎないように気を使ったほどですが。
 でも、主役はメロディ。メロディになりきって読むのが正解です。(笑)

 あと、サケマスというのは「リトル・ウィッチ パルフェ 〜黒猫印の魔法屋さん〜」(Win95/98)っていうゲームのキャラです。とりあえず、知らなくても読めるように書いたつもりではありますが、知ってるとさらに楽しめるはずです。(笑)

 追記(2000/12/13)
 このSSは水瀬つきのさん(当時:パワフルさん)のHP「e-motion factor」(当時:Powerful Wind → FenriL)に投稿したものですが、悠久コーナーの閉鎖に伴い、こちらに再掲載することになりました。(閉鎖からだいぶ時間経ってますが)
 1年以上前に書いたものなんで、なんかなつかしい気分になります。ひらがな・カタカナばっかりの地の文に、「ああ、こんなの書いたなあ」と。(笑)
 少しばかり書き直そうかと思ったりもしましたが、このまま残しておくのにも意義を感じて、結局、全く手を付けずに公開することにしました。


History

1999/07/?? ICQで投稿の約束。
1999/08/?? 書き始める。
1999/08/28 書き終え、投稿。
2000/12/13 悠久コーナー封鎖のため、ここに全内容再掲載。

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