●第401話 投稿者:YS  投稿日: 9月21日(金)00時37分15秒  メロディ対ヴァネッサの試合は、実際には予想を上回るほど、まずい料理による勝負だと、ロイには思えた。 (…これは本来はかなりきつい料理ですよね…)  ロイはヴァネッサの料理から試食していた。もうおなかがすいてきたらしい。どういう胃袋をしているのだろうか?  ちなみにヴァネッサの料理は、さまざまな味を犠牲にしてでも、栄養をバランスよく摂取できるように考えられたものらしい。しかし、ビタミンミネラルなどのバランスはいいが、実は過剰な量が含まれている。  栄養剤を取りすぎるのがいけないのと同様にこの料理をすべて食べたら、夜眠れなくなったり、明日以降反動で動けなくなる可能性すらあるだろう。 (…逆にこちらは栄養素など微塵も含まれていないようですね…)  メロディの料理は甘い。しかも、どうやらこちらは塩が含まれてはいないようだ。当然のように他にも辛いと感じるような調味料などは一切ないようだ。そのせいで過剰な甘さであるにも関わらず、甘すぎると感じられないのだろう。  皆がメロディの料理をおいしいと感じているようだ。ケインは先ほどから失敗作を食べていたので甘さに気がついてもいいようなものだが、どうやら一部の味覚が麻痺しているようで、気付いてはいないようだ。 (…そして、この料理の最大の恐怖は食べる順番で天国と地獄に分かれるということですね…)  ロイがそのまま横を向くと、アナウンサーが倒れている。  ここで少し時間を戻してみる。 「美味い…」  ケインがそういったのは焼かれてから二度目だった。  メロディの料理を食べた後、覚悟を決めてヴァネッサの料理を食べたのだが、予想を良い意味で裏切って、それはうまかったのだ。  そのケインの言葉を皮切りに、他の審査員もヴァネッサの料理に手をつけはじめた。 「うっめ〜」 「栄養バランスも良いようだし、問題はないわね」 「…今日の占いでは食べると食当りをおこすと出ていたのだがどうやらはずれたようだな」  そして、アーウィルは無言のままだ。 「それでは判定をしてもらいましょう」  アナウンサーがやっとまともに進行できたことに喜びを感じながらそういった。  そして、5人の出した結果は… 「メロディ選手1、ヴァネッサ選手4でヴァネッサ選手の勝利です!」  ウオオオォォォォォォォ……!!  場内から自分も食べたいという心の声が始めて聞こえた気がした。  ちなみに内訳はアーウィルだけがメロディで、他はヴァネッサだ。 「それでは私も味見を…」  アナウンサーが特権を利用して、料理に手を出す。  狙うはケインの料理だ。アナウンサーの魔の手が伸びきる前にケインは皿を二つとも空間転移を利用してまで逃がす。 (…勝った)  ケインは勝利を確信し、転移させた料理は後で食べようと思った。そして、アナウンサーの方をみて、ケインは自らの敗北を悟った。  アナウンサーはすでに料理を手にしていたのだ。他の審査員から取ったものではない。間違いなくケインの皿に乗っていたであろうものだ。 「では、失敬して…」  アナウンサーの口にヴァネッサの料理が吸い込まれる。  そして、アナウンサーは倒れたのだった。  というわけで、このままでは終わらせることができなくなる。  ロイはほんの数秒ほど考えて… 「…アーウィルさんかアレフさん、アナウンサー代理やりませんか?」 「なんで指名してるんだい?」  アーウィルが意味はないと知ってはいるのだろうが聞いてくる。 「…アナウンサーと頭文字が同じだっただけですよ…」  ロイはロイにとっては当然の答を返した。 ●第402話 投稿者:タムタム  投稿日: 9月25日(火)19時42分17秒 「んじゃ、俺やるわ」  そう言って、マイクを取ったのはアレフだ。理由はいたって単純。アナウンサーに逃げなかったら、次も審査員をやらされそうだ!、と言う事だったりもする。己の保身の為に他ならない。 「決勝戦はマリア対トリーシャ対ヴァネッサだー!」  かなりハイな状態にでもなっているのだろう、そのテンションは何時もより高い気がする。 「それじゃあ、審査員を指名して…って、マリアもトリーシャもいねぇ!。…わりぃ、誰か呼んで来てくれ」 「わかったわ」  一人で突っ走りかけているアレフの要請に応え、イヴが立ち上がる。決勝の審査員にもされる訳にはいかないので、呼びに言った後、しばらく身を潜めるのだろう。 「俺は“これ”を片付けるとしよう」  今度はルーがアナウンサーを持ち上げて言う。すでに説明するまでも無く、魂胆が丸見えだ。 ―しばらくお待ちください―  と言う訳で、マリアとトリーシャ、おまけ?にアーシィが姿を現す。ディアーナとシュウ、ディムルは観客席の方に行ってしまったので、今はいない。 「まずは決勝戦の審査員を指名してくれ」  やや、落ち着きを取り戻したアレフに従い、三人は会場を見回す。観客の反応は……複雑だ。マリアの料理は嫌だが、トリーシャの料理は食べたい。ヴァネッサの料理には興味がある。そんな所だ。 「そうねぇ…ディムル君にしようかしら」 「オッケー、ディムルだな」  ヴァネッサが選んだのはディムルだった。しかも、ただ単に目が合った(気がする)というだけの理由で。まず、一人。 「それじゃあボクは……シュウ君?」 「はい決まり。次」  トリーシャの言葉はただ単に疑問の声だった。“たまたま”もとの席に戻ろうと歩いていたシュウの姿を見て、“思わず”口から出た言葉だ。だが、アレフはすぐさま決定してしまった。 「だったらマリアは…アレフ☆」 「却下。俺はアナウンサー」  その言葉をあっさり却下するアレフ。流れ的にはそのまま決定してもおかしくは無いのだが、そうは行かなかったらしい。 「…それでは頭文字が同じという事でアーシィさんにでも…」 「アーシィでもいいよ☆」 「反論は認めないからな」  この強引な決定で、アーシィは手伝いから審査員になってしまったようだ…。 ●第403話 投稿者:ashukus  投稿日: 9月30日(日)11時31分58秒 「・・・で?シュウ君、何書いてるの?」 審査員席に座らされたシュウは何やら『経営破たん前日の会社社長』のような表情で白い紙に何かを書いていた。 「遺書・・・」 彼はか細い声で答えた。余談だが、自警団では絶望的な任務に就く時には必ず遺書を書くのだ。それは家族や、大切な人へ充てる物なのだが、彼にはそのような人がいない。一体何を書いているのだろうか?何となくトリーシャはその紙を覗き込んだ。 以下、彼の遺書より抜粋。 『呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる・・・(以下、永延と呪い文句が続く)』 ・・・某弐号機パイロットの台詞のような文をブツブツと何かを呟きながら書き続けていた。この遺書の内容を見てしまったトリーシャは苦笑いするしかなかったという。ちょっぴり、罪悪感を覚えながら・・・ と、そこへマイクを通してアレフの声が響く。 「決勝戦、制限時間は一時間!!っていうか、お題はまた自由!!」 審査員にされるという恐怖から開放されたアレフはこれでもかと言うほどに浮かれていた。そんなアレフを前にして審査員3人の思いはそれぞれだった。 まだブツブツと呟きながら、世の中全てを呪っているシュウ。すでに覚悟を決め、刻一刻と迫るその時を静かに待つアーシィ。そして・・・ ディムルはというと某バ○ルロワイアルのような心境だった。逃れなれない絶望的な状況、それをあざ笑うかのような進行役、坂も・・・いや、アレフ。彼は目の前に置かれていた箸を手に取り、アレフに対して心の中で言う。『この箸をお前の心臓に突き刺してやる!!』と・・・ 「それではーっ!!開始ぃっ!!」 何所からともなく置かれたみかんの箱に片足を乗せながら、アレフはマイクに向かって叫んだ。そのアレフの声に一斉に動き始めるヴァネッサとトリーシャマリア(また五十音順)。一方、審査員達の死へのカウントダウンが始まった。 ●第404話 投稿者:YS  投稿日:10月 6日(土)23時31分42秒  決勝戦開始。しかし、それには一つの問題があった。 「…あの、アレフさん。材料が残ってませんよ?」  ロイの一言で会場は静まり返った。  観客を含め、参加者に審査員が材料があるべき方向を見てみると、そこにはなにもなかった。 「え〜と、司会変更後にいきなりこれ?」  戸惑った様子でアレフが言う。  材料がなくなって、当然と言えば当然である。なにしろ失敗作だけで食された料理の10倍はあった。食された料理も失敗作だったということは、この際気にしてはいけない。  それに加えて、最初に用意されていた材料の大半が何等かの形で毒を持っていたために、処分されていた。毒素のないはずの材料でさえ、あの威力だったのだから処分した人物は英雄として扱われても差し支えはないかも知れない。  おまけに一つ加えるとすれば、ポチがいつのまにか(失敗作を含め)食べていたのだが、それは除外しておこう。誰も気がついていない(振りをしていた)。人間我が身が一番可愛いモノである。 「え〜、それでは決勝戦のルールの発表ですが、その前に小休止を入れたいと思います」  アレフが進行役として機転をきかせた。 「…それで、どうします?」  すでに裏でこの大会を仕切り始めているロイが問う。 「材料がないんじゃ司会がいても無理だろ」 「…このまま終わらせたり、延期したりすると後が恐いですよ…」  ロイが言う後とは、これまでの試合で(選手でもないのに)散っていった審査員の報復、負けた選手による敗者復活戦の要求などである。  アナウンサーなどが復帰すると半ば強制的に(八つ当たりに等しく)アレフが審査員に選ばれる可能性もある。また、ロイも一応は人間である。さすがに連日、殺人料理を食べるのはつらいのだろう。  一番の理由はなぜか殺気だった観客だが、それはあえて言わなかった。口に出すことすら恐かったのだ。 「…材料をいまから集めようにも集めてきてくださった方々はほとんどが虫の息ですからね…」  その理由は(あまりにも採取するのに危険で)希少なモノを集めてきたためである。伝説級の食材を集めるための犠牲は想像を絶するものがあった。 「…材料集めも審査対象に入れますか?審査員の補佐付きでならそれなりのモノが集められると思いますが…」 「それだとその間の状況がわからないと観客が恐いぞ」  ただひたすら材料を待つだけというのは観客にとっては確かにつらいだろう。いや、つらいのは観客よりもその対応をするスタッフだが…  ちなみに、材料集めの補佐は暗黙の了解で、審査員に指名された三人である。もっとも、ほかに数名はいた方が良くはあるが、それは後で考えよう。 「…この通信球を改良すれば可能かも知れませんが…」  どう考えても即席では不可能だろう。…いや、方法はある。 「…アーウィルさんと時波さんが協力してくれれば何とかなるかも…」  ロイはなぜかあの二人が自分の知らないことを良く知っていることを知っていた。うまくいく可能性としては高いだろう。 「よし、決まりだな。それじゃ時間稼ぎは任せてくれ」  そして、ロイはアーウィルに道案内も頼みつつ時波の元へと向かった。その後、コロシアムには優秀弟子が出没したとか、しないとか。 ●第405話 投稿者:タムタム  投稿日:10月 8日(月)22時08分38秒 「DJアレフと〜」  で始まる、結構お馴染み?のトークショーが行われた。……らしい。なぜならそれはロイが帰ってきた頃には終わっていたからだ。改良は予想以上に早かった。はっきり言って、不自然なくらいだ。  その結果、本気でちょっとした事くらいしか行われなかったのだが、それはこの際大した問題では無い。長引いてた方が困った事になったかも知れないのだから。 「…使い方の説明などはこれに書いてありますから…」 「良し、これで何とかなるな」  一応知られてはまずい事なので、ロイとアレフはぼそぼそと喋っているが、うっかりスイッチが入ったままなのに加えマイクは口元。実は会場中に筒抜けだ。しかも、二人は狙ってやっている訳では無いので、もしかしたら天然素材なのかもしれない。 「決勝戦の追加ルールッ!それはっ、料理人による食材の調達っだーーー!!」 ―ぅぉぉぉぉぉぉぉ!!―  ほとんど“音の響き”と変わらないような観客の歓声。なんだか、恐ろしい物さえ感じられる。 「だが、ご安心!。その間の中継はこの『通信球・改。彼方の瞳に乾杯君』がここに写してくれる!。くぅー、お買い得だねお客さん。今ならおねだ……」 「ぐぅー!」  思いっきり話が違う方にそれてしまったアレフをポチの?(謎)が襲う。爆発音と同時に煙に包まれたアレフだが、出てきた時は無傷だ。ただ単に、演出的な効果しかなかったのだろう。もっとも、ここでアナウンサーがいなくなってしまっては元も子もないので、手加減したのかもしれないが。 「えーっと…、まあ、そんなわけだ。食材の調達の補佐はさっき審査員に指名された奴にやってもらうぞ。  この場合、トリーシャの補佐はシュウ。ヴァネッサの補佐はディムル。マリアの補佐はアーシィだな。補佐の追加はどうする?」  文句を言われるより早く、疑問を投げかけてくるアレフ。なかなかに賢いやり方だ。 「食材は自分達で獲ってくるんだからな。買ってきたり、家から持ってくるのは却下。それと、補佐する人間が一人で行うのも駄目。そこを良く考えて選んでくれよ。」  となると、本気で“補佐”を行える人を連れて行かなくてはいけないようだ。さて、誰を選ぼうか?。などと、料理人達+補佐が考えていると、いきなり近くに現れてアーシィの肩をつかんだ奴がいる。 「なぁ、俺達友達だよな?」 「……」  言うまでも無くケインである。ひじょーに解り易い奴である。ここまで来るといっそ清々しいくらいだ。……引き攣った笑顔で言われて、本当に清々しいかどうかはしらないが。 「……さて、マリアちゃん。誰を連れて行こうか?」 「じゃあ…、テディ☆!」  ……何を思って、テディを指名したのかはマリア以外には解らないだろう。きっと……。 ●第406話 投稿者:YS  投稿日:10月13日(土)03時13分37秒  そして、少し時間を戻して、こちらは裏方部隊。 「…というわけで、通信球の改造の手伝いをお願いしたいのですが…」  時波はまったく動かない。 「…ここにマリアさんが作ったらしき気付け薬とアーシィさんの胃薬があるんですが…」  がばっ!  無意識状態であっても、何か恐ろしいものを感じたのか、時波はあっさりと起きた。 「…(チッ)あ、起きましたか…」 「いまのチッ・・って、何なの?」 「…さあ?聞こえませんでしたけど?」  やや引き釣った表情の時波にロイは白々しくいう。  アーウィルは何かを諦めた顔でどこか違うところを見ている。  ちなみにその視線の先にはリサがいた。 「…よかったですね、まだしばらくは起きそうにないですよ…」 「ああ……」  これが一時凌ぎだとわかっているためかアーウィルは少し浮かない顔をしている。 「…それで、早速本題なんですが…」  そして、短い会議はあっさりと終わった。  そして、すぐに作業に移る。  方針は簡単。基本はすでに設置されている通信球の性能を高めること。範囲を広げたり、情報をより精密に送受信できるようにすることだけだ。  技術的な問題は得になかった。だが、致命的な問題も一つあった。 「…範囲外はどうしましょう?」  そう、範囲外があるのだ。即席ではどうしようもないことだが、あっさりとアーウィルが解決案を出した。 「知り合いに頼んでみる」  その知り合いが誰なのかはわからないが、それは問題ではない。今は解決しさえすればいいのだ。 「…それでも無理な時はアレフさんにフォローしてもらいますか…」  どこまでも他力本願である。ロイは元々はそうした性質の持ち主だが、最近何かが変わったように感じていた。 「…あれ?もう終わった…?」  考え事をしていたためか、それとも作業そのものが少なかったためか、あっさりと改良は終わっていた。 「…それでは会場に戻りますか…」 「そうだな」 「そうしましょう」  ちなみにこの後、ロイはポチと共にトリーシャの補佐役として、捕まった。理由はポチが可愛かっただけらしい。 ●第407話 投稿者:タムタム  投稿日:10月18日(木)20時38分23秒 「ヴァネッサは誰を選ぶ?」 「そうねぇ……」  ディムルの質問に真剣に考え込みながら、ヴァネッサは答える。 「やっぱり、小動物にしたほうがいいのかしら?」 「……それはちょっと違うんじゃないか?」  いくら、マリアがテディ、トリーシャがポチ(+ロイ)を指名したからと言って、それに習う必要性は無い気がする。真剣にそんな事を考えていたのだろうか?。 「ん?。ちょっと違うなら、こいつなんてどうだ?」 「はーなーせー!……って、何で俺がここにいるんだ!?」 「……ヘキサ……」 「……確かに“ちょっと”違うわよねぇ」  そう、アレフが取り出したのはヘキサだった。いや、それ以前に何処から取り出したのだろうか?。もしかしたら、アレフの背後にアーシィがいるのに関係があるのかもしれない。 「それじゃ、ヘキサで良いんだな?。時間も無い事だし、スタートッ!」  何の前触れも無い号令と共に、食材集めは始まった……。 ―雷鳴山―  マリアチーム事、マリア、アーシィ、テディは雷鳴山に来ていた。ここでなら、肉だろうが、果物だろうが、山菜だろうが取れるからだ。川まで行けば、魚だって取る事が出来る。  だが、アーシィが直接的に手を下す事は出来無いので、取れるものは限られてきていたりもするのだが。 「ねぇ☆、あれって食べられる?」 「ん、食べれるよ」  マリアが指差したのは握り拳くらいの果物で、その実はほど良く硬く、みずみずしさと軽い甘味が食欲を掻き立てる。だが、それが生っているのは少し高い木の枝。アーシィが手を伸ばしたよりも上。もちろんマリアでは背が届かない。 「どうやって採る気っスか?」 「ん〜、そうだね……」  ジャンプをするか、魔法を使えば簡単に採る事が出来る。アーシィはそう考えた時点で、ある事に気がついた。 「待ちなさい、マリアちゃん」 「ぶー☆」  案の定というか、何というか。マリアが魔法を使おうとしていた所だった。二人とも、すぐに魔法に頼ろうと言う癖でもついているのだろう。きっと。 「肩車をすれば十分届く高さだよ」 「それもそうだね☆」  そして、その光景を撮影?しているのはテディだったりもする。 ●第408話 投稿者:YS  投稿日:11月 2日(金)00時46分24秒 ―ローズレイク―  トリーシャチームはローズレイクにきていた。  ここなら魚がほぼ確実にとれるし、野草も手に入る。それにここの水は清めの水の源に使われるほどで、料理にも使えるはずだ。森も近くにあるので果実なども取れるかもしれない。 「・・ところで何を採取するんですか?」 「そうだな〜、大顎月光魚なんてどうかな?」  大顎月光魚、それはローズレイクにいるでっかい魚である。1メートルを超える巨体で肉食、あまり食用としては有名ではない。  あまり関係ないがロイは道に迷うたびにこの魚に追われることがよくある。つまりは人を襲うこともあるということだ。 「・・じゃあ、シュウさん。任せました・・」  シュウの返事は聞かず、ポチから取り出した道具をシュウに手渡す。 「一人でか?」 「・・ええ、そうです・・」  そういうとロイは近くの船を借りてくるために港に向かった・・つもりでカッセルじーさんの家に向かっていった。 (まあ、どっちにしても変なものは捕まえられないよな)  シュウは審査員として選ばれている。言い換えるなら自分の食べるものを取るのだ。手は抜けるはずもない。 「何してるんだ?」  そんなことを考えていたシュウに話しかけたジェノアは半ば必然的に協力をさせられることになった。  その後、トリーシャに案内をしてもらって船を借りにいったロイがややこげたクロウをつれて戻ってきた。こげている理由はなんとなく皆わかっていた。 「・・さあ、行きましょうか・・」  借りてきた船は5人乗りらしいが、ロイとポチは小さいので問題はないだろう。ちなみに船の持ち主も料理大会を見に行っていたようなので、無断で借りてきた。  クロウは趣味がつりらしいので役に立つはずだし、ジェノアの力でもなければ1メートルサイズの魚はまずつり上げられないだろう。つまりはこれで確実につり上げられるはずだ。 「・・で、誰が舵を取るの?」  トリーシャの言葉で全員が固まった。すでに船は進み始めている。 「・・つり上げたらポチで転移して帰ることにしましょうか・・」 (いいのか、それで?)  その場にいたほぼ全員が思ったが、あえて口ははさまなかった。 ●第409話 投稿者:熱血王  投稿日:11月 5日(月)22時23分48秒 「困ったわね・・・」 と,ヴァネッサは呟いた。 「確かにそうだな・・・」 合わせてディムルも相槌を打った。 何が困ったかと言うと,今から食料を調達する場所だった。 マリア達は雷鳴山に,トリーシャ達はローズレイクに。 では自分達はどこへ行けば良いのか?という事だ。 普通に考えれば,多くの食料を1度に調達できる場所は上の二つが良いのだが, 同じ所へ行っては何かと無意味な衝突があるかもしれない。 「おい,さっさとしろよ!このオレ様が付き合ってやってるんだからな!」 この場から動こうとしない二人に文句を言うヘキサ。 「仕方ないな・・・こりゃあ,衝突覚悟でどっちかに行くか?」 「そうね,このままここに居ても埒が明かないわね」 一応ここから動く気にはなったが,あまりヘキサに対して返事があるわけでは 無かった。 「てめえら・・・ん?」 ヘキサは,コロシアムから出てくる人影を見つけた。 「お,あいつはコウだな」 別に顔が分からないほど遠いわけではなかったので,ディムルには すぐに誰か分かった。しかし,良く見ると瀕死状態と言えなくもない。 外見と言うより,歩き方等がおかしい。やはり生物兵器並の料理の所為か? 「そんなの別にどうでも良いじゃない,さっさと材料を調達しに行きましょうよ」 ヴァネッサには本当に関心が無いらしく,少し苛立っている。 「まあちょっと待てってヴァネッサ。・・・お〜い!!」 ディムルは声を張り上げてコウを呼んだ。 するとコウはこちらに気づいて方向転換しようとしたが,足が反応せずこけた。 「ったくしょうがねえな」 「ぎゃはは,あいつバッカでぇ〜」 ヘキサはおお受けだったらしい。そしてディムルは必死に立ち上がろうと しているコウの所へと歩み寄った。 「おい,コウ。おまえあの料理にやられて良く起きあがれたな?」 「・・・ええ,昔はよく食中りとかにあってて,少しぐらいは大丈夫なんですが・・・」 「流石のその身体も耐えられなかった・・・と?」 「そう・・・です」 コウは見るからに弱まっている。 「おい,まだ死ぬなよ。お前確かローズレイクの辺りで野宿してたよな? あの辺りになんか野生の動物いないか?特に食えるやつ」 「・・・ええと,それなら以前・・・捕まえたのの残りがある・・と思いますけど」 それを聞いた一行は,すぐにその場へ直行する事にした。瀕死のコウをディムルが おぶって。 ●第410話 投稿者:ashukus  投稿日:11月 6日(火)09時50分52秒 再びローズレイク 「「・・・・・・」」  無言。ロイの渡した道具を見たジャノアとシュウは無言でいた。その道具、『竹竿』と『たこ糸』・・・ザリガニでも釣る気だったのだろうか? 「おい、釣るのなんだ?」 「トリーシャ達の希望としては・・・大顎月何とか魚」 「ザリガニか何かの間違いじゃないのか?」 「俺もそうであって欲しい・・・」 「「・・・・・・」」  再び無言。ヒューという、乾いた風のエフェクトが入ったのは気のせいだろうか?  しかし、何時までも突っ立っている訳にも行かない。何故ならシュウは少しでもまともな食材を集めなければならないからだ。さもなくば命の保証は無い。 「・・・・・・まぁいいか。その辺はどうとでもするとして、肝心なのは餌すらない事かな〜」 「そういえばな。おい、ロイ」 「何か?」  そう、そこには本当に竹竿とたこ糸しか入っていないのだ。餌の類が一切入っていない。つまり・・・ジャノアが頭を掻きながら口を開く。 「餌は自分達で集めろって事か」 「(あ、すっかり忘れてましたね。餌)・・・もちろん」 「(何だ今の間は?)・・・で?その大顎月何とか魚とやらは何を食うんだ?」  ジェノアの言葉にトリーシャが少し首を斜めに傾けて考え込み、少し自信なさげに言う。 「そうだなぁ、人間を襲うくらいだからね・・・・・・人間?」  その時、シュウは、いや、ジャノアやロイもまた、トリーシャでさえ何かに気が付いたようにハッとし、四人はお互いに顔を見合わせた。そして、怪しい薄笑いを浮かべる。 「人間・・・」  これはシュウ、視線はジェノアに向いている。 「ほぉ〜人間、ね」  これはジェノア、視線はロイに向いている。 「人間、ですか」  これはロイ、視線はトリーシャに向いている。 「人間かぁ」  そして最後にトリーシャ、視線はシュウに向いている。  無意識か、意識的にか、四人は薄笑いながらもそれぞれの間合いを取り、相手を警戒していた。ジリジリと、ちょうど舟の中心に置かれた竹竿とたこ糸を中心にして円形にスライドしていく。  そんな中、ジャノアが先陣を切った。 「いや、やっぱり餌は適度な大きさのほうが良いな。そうだろ?」 「いえ、小さすぎては問題ですよ。やはりここの適度としてはシュウさんが・・・」 「ほら俺男だしさ〜、トリーシャなんて絶対に食いつくぞ」 「ちょっと、ボクが食べられちゃったら誰が料理するのさ」 「「「「・・・・・・」」」」  再度無言。いや、今度の無言は先程までとは雰囲気が明らかに違う。何か、殺伐とした雰囲気が漂っていた。まさに決闘前の二人のような・・・いや、これはある意味で決闘だった。  この瞬間、二人の間で暗黙の了解がなされた。『話し合いは決裂だ。力ずくで相手を餌にしてしまえ』と・・・。  だが、今回は戦闘自粛という流れがある。そんな事は出来ない。いや、そんな事はどうでも良いが、彼らはある存在に気が付いた。やや焦げ、会議に参加せずに寝ていたクロウだった。