●第391話 投稿者:タムタム  投稿日: 8月19日(日)09時26分34秒 「…どうしたんです。顔色が悪いですよ」 「…やかましい…」  審査員席で料理の音を聞きながら、ただ単に事実を述べたロイへアルベルトは力無く答える。漂ってくる匂いは美味しそうな物だが、おそらくクレアが作ってるものだろう。マリアの…とは考えていない。  何を考えているかはわからないが、アルベルトはやや青ざめた顔をし、うっすらと汗が滲んでいたりもする。そして、祈る様な体勢で固まっているのだ。 こんな状態でいられたら、心配せずとも気にはなる。 「♪」  そんなアルベルトの心情など露知らず、クレアは料理の腕を存分に振るっていた。聞こえて来る小気味いい包丁の音。漂ってくる香ばしい匂い。  大抵の人はその料理を食べてみたいと思い、思わず『料理を作って欲しい』と口走った男の大半はアルベルトに殴られるだろう。そんな想像をしてしまうほど、料理をする姿は板についている。  料理は順調に進んでいるようだ。 「☆」  アルベルトの心情はおろか、審査員、観客全員の不安を一切気にとめず、マリアは料理の腕を振るっていた。聞こえて来る謎の爆発音。漂ってくる独特のかほり。  大抵の人はその場を切り抜ける方法を模索し、思わず『****』と罵倒しようとした人間の大半は言う前にアーシィの無言の圧力の前に黙らされ、それに気付かなかった少数の人間はケインに人気の無い所へ連れて行かれる。  そんなちょっと危ない想像を掻き立てられるほど、マリアは料理は『アレ』なのだ。  それでも、アーシィは平然と味見をしている。見た目ほど不味くは無いのだろう。きっと。一応、順調と言えば順調なのかも知れない。 「いや〜、アルベルトさんも大変だなぁ」 「ふふ、そうですね」  トリーシャの応援に来ていたシュウとディアーナは会場を見下ろしながら、完全に人事のように言う。というか、他人事だ。  なぜ、控え室に行かないのかという話もあるが、入室制限が掛けられているのだから仕方ない。 「ところで、この勝負どちらが勝つと思います?」 「やっぱりクレアちゃんかな」  シュウが妥当な判断をした時、料理はほとんど完成していたりもする。 ●第392話 投稿者:ashukus  投稿日: 8月19日(日)11時12分35秒 「終〜了〜!!」 アナウンサーの声がコロシアムに響く。ある意味での死刑宣告を・・・ 「という訳で、審査員の方々お願いします」 そのアナウンサーの声で審査員席に二人の料理が置かれる。並べると更に・・・ クレアの料理はご飯に味噌汁、肉じゃがと言ったような庶民的な料理だ。しかし彼女の料理ならどんな料理だってフルコースにも勝るものとなるだろう。 一方のマリアの料理は・・・・・・ヤバイとだけ言っておこう。何の料理なのかは判別不可だが、とにかくヤバイ。 しかし、その料理にロイとアーウィルは勇敢にも箸を付け、口へと運んだ。 ・・・・・・無表情。何気なく、ただの一料理のようにマリアの作り出した『料理』という名の劇物を審査をしている。だが、何故か二人とも先にマリアの料理を口にし、後であたかも口直しをするかのようにクレアの料理を食べていた。 そして、二人は当然ともいえる結果を出した。 「・・・クレアだな」 「クレアさんですね」 クレアに二票。そこでアルベルトに救いの手が差し伸べられた気がした。何故なら、もう勝敗は決まったのだ。いくらアルベルトが猛烈にマリアを押そうとそれは無駄である。 「決まりだな。時間は節約しようぜ」 何かオーバーリアクション気味でアルベルトは審査員席を立とうとするが・・・ 「兄様・・・私の料理がお気に召さなかったのですか・・・?」 「ぐっ・・・」 素晴らしいタイミングで発せられたクレアの言葉。アルベルトの動きがヒタッと止まる。救いの手はフェイクだった。 「おぉ〜っと!!ナイス兄弟愛だ!!」 アナウンサーに殺気を篭めた視線を送りながら、アルベルトは再び審査員席に着いた。 「(でもよ・・・良く考えればこいつらは平気な顔して食ってたじゃねぇか、アーシィの奴だって)」 アルベルトはアーシィの方を見る。アーシィは微妙に笑みを浮かべながら審査員席の方を見ている。別にマリアの料理の味見でダメージを受けた様子は無い。 「(実は見た目ほどでもないんじゃねぇか?)」 そう期待を抱きながらアルベルトはマリアの料理に箸をつけた。手が震える。いや、これは武者震いだ。アルベルトはそう思った。 「「・・・・・・」」 生身の人間が食べるとどういうことになるのか、アルベルトの方を見て無言のロイとアーウィル。そして、アルベルトは料理を口へ運んだ。 「・・・・・・ぐ・・・ぐ・・・ぐおぉぉぉぉぉっ!!」 突然、口から緑の煙を吐き出すアルベルト。シャレになってないが、そこら辺をのた打ち回っている。 「兄様ッ!!」 そのアルベルトの異常な状態にクレアが駆け寄る。美しき兄弟愛・・・ と・・・ 「ク・・・クレアに一票・・・」 それだけ言って、アルベルトは絶命した。・・・・・・いや、死んでいない。何とか生きている。 「兄様!!こんな事をしている場合ではないですわ!!」 そう声を上げるとクレアは2m近くあるアルベルトの身体を引き摺ってコロシアムの医務室へ走り出す。アルベルトの巨体を引き摺りつつも何故か滅茶苦茶なスピードで、突っ込む暇も無くクレアの姿は消えた。 「あ・・・え〜・・・」 沈黙するコロシアム。そして、認めたくない。これを告げてはいけない。そう思いながらもアナウンサーは震える手でマイクを握った。 「ク・・・クレア選手、試合放棄とみなし・・・勝者、マリア選手!!」 ・・・ワァァァァァァァァッ!! 呆気に取られたように1テンポ置いた観客の歓声。だが、それは更なる地獄への歓喜でもあった。人間とは他人の不幸を喜ぶものなのだ・・・ 「・・・こ・・・これは思わぬ番狂わせだなぁ」 「そ・・・そうですね」 観客席のディアーナとシュウは思わぬ展開に冷や汗を流しながら呟いた。 ●第393話 投稿者:YS  投稿日: 8月20日(月)02時11分48秒 「え〜、それではこれよりしばらく場内の掃除を行います。選手の皆さんは控え室に一度戻ってください」  アナウンサーの声に従って、マリアやローラ達選手は一度控え室に戻っていく。  清掃……先ほどの死合の際に生み出されたであろう毒物などの排除のためである。謎の爆破跡を修理したり、なぜか融けた調理器具の補充などが、予想以上に酷かったため時間をかけて作業する必要性が出たのである。 「…アルベルトさんは大丈夫でしょうか?顔色も悪かったようですし、どこか具合が悪かったんでしょうか…」 「いや、そういう問題ではなかったと思うが」  ロイのちょっぴりずれた結論にアーウィルが突っ込みを入れた。  ロイがふと観客席を見るとセリーヌがいたような気がしたが、ロイは気のせいと判断し、あと数回分しか食べられそうにない自分の胃袋の方を心配することにした。いくら化け物のような胃袋でも入る量には制限がある。子供であるという弱みが今更のように襲いかかってきていた。  ケインは悩んでいた。このままではマリアと再び料理で敵対することになるからである。  ちなみに時波はかなり前にドクターのところに運び込まれている。 「いかにあのアナウンサーの目を誤魔化してマリアの方につくかが問題だな」  ケインは考えるが、今まで多くの経験を積んできたケインでも答は出せそうになかった。  一方ドクターの元に運び込まれたアルベルトは… 「大丈夫ですか?」  なぜかディアーナに看護されていた。アルベルトの返事はない。ディアーナの隣にはシュウもいる。心配して見にきたのだろう。  ちなみにアルベルト本人は意識がはっきりしていない状態である。クレアが連れてきた時にはすでにドクターは他の患者ーーどうやら料理の香りに混ざって広がった毒物(?)が観客にもわずかに被害を出したらしいーーを見るので精一杯らしく、アルベルトが運び込まれたことにも気がつかなかったらしい。そのため、クレアがドクターを呼びにいっている間にディアーナが来たというわけだ。  アルベルトにとっては泣き面に蜂である。 「とりあえず注射を…」  食中毒で注射の必要があるのかは疑問だが、ディアーナは迷わずに注射器を手にとった。  シュウは止めない。いや、止められなかった。今まともに治療をうけ、回復したならば審査員として復帰しなければならなくなるからだ。マリアが勝ち残った今、それは地獄以上の苦しみになりかねない。 (アルベルト・コーレイン…安らかに眠ってくれ)  シュウはそう心の中で思いつつ、アルベルトに背を向けた。  一方、陽のあたる丘公園では… 「平和だね…」 「そうだね」  クリスとリオが由羅に追われることのない時間を満喫していた。 ●第394話 投稿者:タムタム  投稿日: 8月23日(木)09時25分49秒 「アルの容態はどうだい?」 「…駄目ですね」  突然入ってきたアーシィに、シュウは首を振りながら答える。なんか『手の施しようがありません』と言われても、違和感すら生まれない。 「え?ぐっすり寝てますよ?」  ディアーナの言葉の通り、確かにアルベルトの意識は無いが、これを寝ていると表現していいものか?。個人的にはとても違う気がするが…。 「ん〜。これは……ドクターストップだね。私からトーヤ先生に言っておくよ」 「……えらく簡単ですね」 「それよりも、お兄様は大丈夫でしょうか?」  大丈夫では無い。だが、心配そうなクレアを前に、はっきりそう言える者はいない。 「ん〜、目を覚まさせるだけなら簡単だよ」  「?」といった状態のクレア達の見守る中、 「アル、クレアちゃんの事は私に任せて……」  と、のたもうた瞬間。アルベルトは瞬時に目を覚まし、アーシィの胸倉をつかみ上げた。だが、無理が祟ったのか、次に出てきたのは言葉ではなかった。  ―大変お見苦しい場面を…―、というテロップが流されてしまうな事態が発生し、そこは地獄絵図と化した。……アルベルト・コーレイン、完全リタイヤである……。  どこか遠くでそんな事が起こっている事など知る由も無く、第二回戦が始まろうとしていた。清掃も終わり、綺麗さっぱりな状況だ。 「それでは第二試合、ローラ選手対トリーシャ選手の死合開始です!」  先程の事が合ったためか、その発声は微妙に違和感を伴っていた。だが、他の人に気付かれるまでには至っていない。 「それでは審査員の強制指名ですが……ちょっと待ってください」  駆け寄ってきた連絡員とニ、三言葉を交わし、小さな紙を受取ったアナウンサーはそれを読み上げる。 「今入った情報によりますと、アルベルトさんはドクターストップがかかり審査続行不可能との事です!」  ウオオオオオオオオォォォォォォ!!  何故か盛り上がる観客。かなり恐ろしい物がある。 「それでは気を取り直して、選手に審査員を強制指名してもらいましょう!」 「だっれっに、しっよっうかっな〜♪」  なんだかとても、とても楽しそうなローラの台詞に、会場は水を打ったかのように静まり返った……。 ●第395話 投稿者:YS  投稿日: 9月 1日(土)00時23分29秒  静まり返った会場の中、ローラの方を向いている人が一人だけいた。  セリーヌである。 「それじゃあ、セリーヌさん」  会場から安堵の声が聞こえてくる。だが、会場は静かなままだ。 「では、トリーシャさん。指名をどうぞ」  アナウンサーがトリーシャを促す。  しかし、今度はローラの時とは違いトリーシャの方を見ている人は何名かいた。トリーシャの知り合い数名である。  その誰もが自分を選ばないでくれと目で訴えかけている。  それ以外には、会場の中でインチキと有名な占い師に何かを懇願しているマーシャルの姿もあった。 「えーっと・・」  トリーシャは困ってしまった。  友人を裏切るような真似もできないし、あそこまで必死になって選ばれない様にしているマーシャルや他の街の人を選ぶのも後味が悪い。  父親のリカルドを選ぶのも考えたが、一撃の王者が一撃で倒れるというのも可能性としてはないわけではない。  実際、自警団の中でリカルドに次ぐ頑丈なアルベルトも先ほどドクターストップがかかったのだ。大丈夫だという保証はまったくない。逆に大丈夫ではない保証の方が強いほどだ。 「・・アーウィルさんにしておきます」  その言葉の後、観客から歓声が沸き上がった。  同時にアナウンサーやアーウィル、ロイといった処理班と、その存在を知る者は複雑な心境だった。  処理班から選ばれてしまえば、それだけ被害が広がるからだ。 「それでは、犠牲・・もとい立候補希望の方、どうぞ」  しかし今回は誰もいない。 「あの・・」  アナウンサーはさりげなく、ロイの方を見る。  ロイは無言で満腹だという意思表示をする。  本当はまだ少しは大丈夫なのだが、マリアが残ってしまっている。その保険のためにも、ここは辞退することに決めたのだ。 「・・では、セリーヌさんとアーウィルさんに、他の審査員を指名してもらうことにしましょう」  すべてを進行役の権限で決定することもできなくはない。しかし、盛り上げる必要性と何より指名後の自分の命の保証のため、こうした形をとることにしたのだ。 「では、コウさんもどうですか?」  セリーヌのいきなりの発言にコウは固まる。 「ちょ・・」 「はい、ではコウさんに決定します」  ウオオオオオオオォォォォォォ!!!!  観客から歓声が沸き上がる。その声に掻き消され、コウのささやかな抵抗は誰にも届かなくなった。  聞こえたところで無視されるのは確実だが・・ 「では、アーウィルさん。指名を・・」  さりげなくアナウンサーは自分だけは選ばないでくれと身振りで伝えつつ、アーウィルを促す。 「そうだな・・リサを・・」 「はい、リサさんに決定です!!」  ウオオオオオオオオォォォォォォォォ!!  またも歓声が上がり、アーウィルの台詞は途中で聞こえなくなった。  実はアーウィルはリサを選ぶと後が恐いから・・と続けるつもりだったのだが、かなりの危機感を感じていたアナウンサーによって、即座に決定されてしまったのだ。  当然、リサはアーウィルに無言で殺意を送っていた。  明日もしリサが動けるようならば、アーウィルは逃げなければいけなくなるだろう。 「では、最後の一人を指名させてもらいます」  またも会場が静まり返る。 「教会のマスコット、ポチさんです!」 「ぐ!」  観客のほぼ全員から安堵と狂気のこもった複雑な歓声がもれた。  ついでにポチに向けられた愛玩動物を見た時特有の反応もあった。 (・・そういえば、ポチに味覚はあったのか?)  ロイは根本的に審査できるのか疑問を浮かべた。そして、少しでも食べられる様にするために席を立ち、散歩することにした。  当然この後、ロイは道に迷うことになる。 ●第396話 投稿者:タムタム  投稿日: 9月 2日(日)19時26分28秒  今、リサは前の試合のアルベルト同様、祈るような姿勢で固まっている。客席から見ていた分には対した事は無いようにも思っていたが、それは甘かったようだ。今なら解る。アルベルトの気持ちが。  目の前で作られている料理…。それはなんと言えばいいのか判らない。トリーシャの料理は問題無い無く、美味しそうな匂いが鼻をつく。それは良い。と言うか、そうでなくては困る。  だが、対照的にローラの料理はどうだ。とは言っても、見た目にはそれほど異常性は見られない。匂いは…判らない。トリーシャの料理に匂いが相殺されているのだろうか?。  それでありながら、味見をするたびにケインがしかめっ面をし、逃げ出したい衝動に駆られているのが解る為、より一層不安をかき立てる。 「(くっ、何であたしが……)」  そう声には出さず、胸の中でのみ毒づき、横目でこの状況を作り上げた元凶を睨みつける。しかし、アーウィルはのほほんと呑気に構えているだけで、意に介した様子は無い。席が両端に別れているが、気付いていない訳が無い。 「(…まずいな…)」  まだ、ローラの料理を食べてもいないのに、アーウィルはそんな事を考える。いや、そういう意味でのまずいではない。リサの事は完全に誤解なのだが、言っても信じてもらえないだろう。やはり、日ごろの行いが原因か? 「ぐっぐっぐ!」  待っている間の暇つぶしなのか、ポチは踊っていた。どうやら、早く料理が食べたいらしく、その動きは忙しない。舞っていながら待っていても、参っていないのはある意味すごいのかも知れない。 ●第397話 投稿者:美住湖南  投稿日: 9月 2日(日)20時44分59秒  控え室に様子を見に行ったディムル。その状態は何を言えばいいのか分からなかった。そこにいたメンバー全員がモップやら雑巾やらを手にして床を拭いているのだ。匂いで何が起こったかは想像がついたが・・・。考えたくはない。 「やあ、来たのかい」 「・・・あぁ」 「ディムルさん。モップが残っているので手伝ってください」 「バケツの水をかえてきて下さったほうが嬉しいのですが」 「・・・バケツの水をかえてきてからモップで拭くから」  とうてい逃げられる状況ではなかった。何せ、アルベルトは真っ青な顔をして死んだ魚のような焦点が合わぬ目で入り口のほうを見ていたのだから・・・。  会場ではとうとう、料理が出来てしまった。審査員の前に料理が運ばれる。トリーシャの料理は素晴らしい。真白な皿がその料理を引き立てている。しかしローラの料理は・・・。コメントは控えよう。 「それでは、食べていただきます!」  どこか酸っぱい匂いのするローラの料理。さて、それぞれの反応は? 「(・・・)」 「(これを食べろと?) 「(食べなきゃいけないんですよねぇ)」 「(ここまでひどいとは)」 「ぐっぐ!」  どれが誰だかを知るのは審査員のみである。  その後、リサ、コウ、セリーヌは運ばれ、アーウィルとポチは残った。運ばれた3人は気絶する前にトリーシャに票を入れローラは落ちた。審査員にとっては好都合なことであった。  そして控え室では。 「またか」 「まただね」 ●第398話 投稿者:YS  投稿日: 9月10日(月)02時56分59秒 「…かろうじてここはコロシアムの中ですよね…」  その頃、ロイはやはり迷っていた。珍しく一つの建物の中を迷っている。この分だと、次に迷った時は帰ってくることすら危ういかも知れない。  そこに通りかかったのは… 「ねえ、いまからおいしい物でも食べにいかない?」 …前言撤回、そこでナンパをしていたのはアレフだった。  どうやらうまくいっているようで、相手も満更ではなさそうだ。  ロイはしばし考え、行動に移した。 「…お父さん…」  ロイはアレフの服の裾を軽く握り、少し脅えたような顔でアレフを見る。当然アレフは戸惑う。 「子持ちだったのね。かわいい子何だから大事にしてあげてね」  そういうとアレフに声をかけられていた女性は立ち去った。  後に残されたのは、誤解をされたアレフと、意図的にその誤解を生み出したロイだけだった。 「……」 「…というわけでアレフさん、審査員席まで連れていってください…」  アレフに返事はない。ただ、何とも形容しがたい表情でロイを見ている。 「…なあ、子供がいるように見えるか?」  唐突にアレフにそう聞かれ、ロイは少し考え込む。 「…可能性としては”はい”ですね。事実を踏まえていう場合とお世辞の場合は”いいえ”ですけど…」 「それはお世辞になってない…しかも、可能性で認めてるし」 「…ええ、孫がいた方がうれしい人は多いですし…」 「それは根本的に違うと思うけど」  かなりショックを受けたようで、まだ立ち直ってはいないようだ。 「…とりあえず、審査員席まで案内お願いしますね。ついでに審査員も…」 「ああ、もう好きにしてくれ…」  完全に真っ白になったアレフは半ばロイに引きずられる形で会場に向かった。  会場ではローラが自分の料理を審査員以外に試食させようとしていた。普段から何度か試食していたはずのセリーヌまでもが倒れたということは、おそらくこれまでで一番の出来だったと思っていたのだろう。  本人だけは… 「ねえねえ、こっちのを食べてみてよ〜」  セリーヌを撃退した料理の他に作っていた料理を差し出して、ローラは会場内を駆け回る。  ちなみに、そんな物を味見させられていたケインは御先祖様と出会うか否かといった状態だった。  かろうじて意識の戻ったケインは即座に転移するように意識を集中させた。しかし、ケインを待っていたのはアナウンサーの死刑宣告だった。 「え〜、それでは無事あの世から生還したケインさんは以後審査員を努めていただきます」  ケインの動きが完全に止まる。そして、ケインは即座に転移した。  ケインは会場からの声が聞こえる場所に転移していた。 「え〜、ケインさんは逃亡したようですから最後に…になっていただくとして…」  なぜか一部が小声だったのが余計に何か恐ろしい物を感じさせたが、捕まらなければ関係ないとケインは判断し、さらにもう一度転移しようとした。 「まずは審査員としての役目をまっとうしていただきましょう」  ウオオオォォォォォォォォォ……  会場全体から狂気の明らかに含まれた声が聞こえてきた。 「どうやって捕まえる気だよ」  すでに安全だと確信してケインは一人呟く。 「ぐっぐぐ〜☆」  そんなケインの耳に、かなりご機嫌なポチの声が、いきなり聞こえた。 「へ?」 「ぐっぐぐ〜〜〜〜〜〜〜!!」  そんな声と共にポチの目が輝きを増し……  次にケインが目覚めた時、隣には放心したアレフとロイがいた。  なお、ケインはなぜか黒焦げ状態だった。 ●第399話 投稿者:タムタム  投稿日: 9月12日(水)22時43分09秒 「……げほっ……」  ケインは何かを喋ろうとして、口から黒煙を吐く。内部までしっかりとウェルダンで焼かれてしまったのだろうか?。料理大会で料理されるのだから、なかなかに皮肉な物だ。  だが、ダメージは回復してきたのだろう。とりあえず目つきはしっかりして来る。そこでケインが見たものは……取りあえずおいて置こう……。 ―控え室―  新たに運ばれてきた患者、リサ、セリーヌ、コウがベッドに寝かされていた。命に別状は無いが、かなりうなされている。が、取りあえず、何の処置もされていない。『休んでいればそのうち治るから』と言う事だからだ。  ちなみに、アーシィが調合した即効性の胃薬が有るにはあるのだが、遅効性の副作用が少々困った物なので、保留にされている。しかも、アーシィにその薬を飲んでいるのかとディムルが訊ねた所、 『こんな物を飲む気はさらさら無いね』  という、かなり問題のある発言をされている。曰く『何の問題も無い物だったら、ありがたみすら感じなくなってしまうだろ?』と言う事だ。 「さて、君達は決勝戦を間近で見てみたいと思わないかい?」  ディアーナ達に背を向けたまま、アーシィは唐突に切り出した。先ほどの惨劇の後(実はちょっぴり“引っかけ”られてた)、シャワーを浴び、ちゃっかり白衣に着替えていたりするので、何と無く、奇妙と言うか『怪しい医者』を連想させるが、それはこの際どうでも言い。 「えっ、いいんですか?」  ディアーナは何と無く乗り気のようだが、シュウとディムルは良くわからないと言った表情だ。なぜか、その言葉が何時もと違うような気もする。 「……まて、もしかして、俺達に審査員をやれって事なのか?」 「まっさか〜……」 「出来ればやってほしいって事だけどね。“君達二人”に」  ディムルの言葉を笑い飛ばそうとしたシュウだが、アーシィの言葉に凍りつく。決勝にマリアが残っているため、ある意味解らなくも無い、が、 『ただじゃすまないよな〜……』  シュウの考えている事はそれ以上に解り切った事だった……。 ●400話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 9月13日(木)09時23分04秒 「おい・・・」  ケインがどうにかこうにか復活したとき、なぜか彼の身体は会場にあった。  ロイとアレフがここまで引きずって来たのだが、そんなことは中までしっかり焼かれていたケインには関係なかった。  そして、会場で彼が見たのは・・・  もはや料理、否、人の創造しうるあらゆる物質を凌駕しているであろう、なぞのスープ。  ちなみにいつの間にやら第三回戦、メロディVSヴァネッサの試合になっていたようだ。どうせ、自分が意識を失っている内にこういうことになったのだろう。  ケインは、とくに疑問を抱かなかった。結局、この世における疑問というのは「疑問」に思わなければいいのだから。 「これは、誰が作ったんだ?」 「ヴァネッサだよ」  隣で、ごく平然と答えたのはアーウィルだった。どうやらもはや「審査員」に確定しきっているらしい。 「じゃあ、こっちのちょっと見た目は悪いけど、あくまで『子供が一所懸命作ったケーキ』っぽく見えるのが―」 「メロディのだよ」  審査員は、2人を除くとイブ、ピート、ルー。だが、そこにいる3人の表情はそれぞれ違っていた。  ピートは、単に食べ物を食べられるというだけが意識を占めているのかうきうき顔。イブは、そのポーカーフェイスについぞ見たことの無い恐怖が浮かんでいる。ルーに至っては顔面蒼白だ。 「・・・問題は、ヴァネッサか・・・」 「イブは料理の師匠ってことで、ヴァネッサに指名されたんだ」  小声で話し合うアーウィルとケイン。隣に座るイブにも聞こえたのか、小さな声で一言言ってくる。 「ヴァネッサさんは、栄養バランスを考えるあまり味に気が回らないようね」 「試食した事は?」 「・・・彼女には悪いけど、怖くてやっていないわ。まあ本人が自信満々だからなんとか今まで逃げられたのだけれど」 『さあ、審査員の皆様、ご試食をどうぞ!』  晴れやかな笑顔で告げるアナウンサーに、かなりの殺意を抱きつつ、ケインも周囲の者にならって、まずはメロディのケーキに手をつけた。 「美味い・・・」  多少甘すぎの気もするが、決して食べられないものでもない。今まで試食してきたものと比べれば雲泥の差だ。 (・・・マリア、料理の腕前でメロディに負けたな)  胸中でうめきつつ試食を終える。他の面子も特にこれといった不満はないようだ―次の料理に比べれば。  そして、ヴァネッサの料理に、ケインは恐る恐る手をつけた。  次に会う事があれば、あのアナウンサーがもう名乗りを上げることも出来ないようにしていやろうと心で誓いながら。