●第381話 投稿者:ファウスト  投稿日: 7月29日(日)16時19分52秒 一方ロイがいなくなったローラ達は・・・・ 「ケインさん」 「何だ?」 「ロイ君は?」 時波より先にローラが聞いた。と言うより時波のセリフを取った。 「あれ?そういやいねーな」 「どこ行ったんでしょう?」 「捜しに行く?」 との、ローラの提案に対して二人は。 「捜しに行ってる暇なんてない」 「ほっとくんですか?」 「いいの?」 実際、ロイは料理大会の出場者の控え室にいるのだから、探しに行ってもあまり意味は無い。三人もどうせそこに行くからである。 「良いんだ。それより俺が教えてやった料理、ちゃんと作れよ」 「うん!」 「ローラさん、がんばってください!!応援しますから!」 しかしこの後、時波は由羅に会ってローラの応援を止めてメロディの応援にかえるのだった。 そして、この時点ではローラがどんな料理をケインに教えてもらったかはこの三人しか知らなかった・・・。 ●第382話 投稿者:タムタム  投稿日: 7月31日(火)20時35分43秒 「ん〜、ちょっと遅くなってしまったね」 「…いつまでも食材の選別なんてしてるからだろ…」  コロシアムの通路を控え室に向かいながら言うアーシィへ、アルベルトは半ば以上呆れながら言う。 「仕方ないよ。まさか、アリサさんや由羅姉さんに変な物を食べさせるわけにも行かないし」 「当たり前だ!他の連中ならともかくアリサさんに!」  そこまで言い、アルベルトはふとアーシィを見る。何時もと変わらない笑顔を浮かべているが、何故か身の危険を感じ、 「あ、いや…アリサさん…や由羅に食べさせる物を選ぶのは当然だ!」  取り繕うようにして言い直す。…なんとなくだが、身の危険は去ったようだ。まあ、アーシィの性格を考えたら予測できるような理由だ。なんてったって……なんだから。 「その通りだよ、アル。……選ばなかったら少々大変な事になってかもしれないし……」  そう、用意されていた食材の中には“イチイの実(種に毒がある)”や“スベスベマンジュウガニ(肉に毒がある)”、挙句の果てには“トリカブトの根(言うまでも無く毒)”まで用意されていたのだ(他多数在り)。  しかも、それらは似た様な食材と一緒に置いてあったのだから理解に苦しむ。  まさか、主催者側が「料理人には目利きも必要」とかいう理由で混ぜたわけでは無いだろう。と言うか、そうでは無いと思いたい。 ―そんなこんなで控え室― 「これから最初の出場者を発表するので、呼ばれた人はこちらに来てください。トリーシャさんにメロディさん。ヴァネッサさん……」  その他にアーシィは数名の名を呼ぶ。一応、仕事として区別しているのだろうが、トリーシャやメロディを“ちゃん付け”で呼ばないのはなんだか可笑しな気がする。 「アル。皆を会場に連れて行ってくれないか」 「おう。では皆さん、付いて来て下さい」 「…アルベルトが丁寧に喋ってやがる…」  出場者を引き連れて会場に向かったアルベルトを見て、ケインが信じられない物を見たかのように呟く。 「…仕事なんだから、おかしくないと思うよ」  取り合えず、アーシィはそう弁護する。いくら、態度の大きさが逆立った髪の量に比例すると言われるアルベルトでも、きちんと分別はつけている……事だってある。 「それはそうだろうだがな。いや、まあ言いか。ところでアーシィは誰かの手伝いでもするのか?」  ケインがちらりとマリアを見ながら言う。きっと、自分と変わって欲しいのだろう。 「えっ。アーシィはマリアのお手伝いだよ☆」 「…………」  何故だか、ケインを奇妙な沈黙が支配した。 ●第383話 投稿者:ashukus  投稿日: 8月 3日(金)00時26分48秒 会場に出場する選手が出揃った。ヴァネッサ、クレア、トリーシャ、マリア、メロディ、ローラ(五十音順)だ。 そして手伝いとしてアーシィとケインの姿も見える。 「と言うわけで始まりました。エンフィールド大料理大会!!」 ワァァァァァァァッ!! 音声拡張のマジックアイテムを通してグラシオコロシアムに響いたアナウンサーの声。それに轟音ともとれる歓声を上げる観客。何故にこれだけの人数が居るかというのは突っ込んではいけない。 「え〜っ、ではルールの説明です」 アナウンサーにルールの書かれた紙が渡される。アナウンサーはそれに視線を落とす。 「ルールは簡単。こちらで用意した食材で料理を作っていただき、よく多くの審査員を倒した……失礼…コホン」 『正直』なアナウンサーは思わず口が滑った。せきを一つ吐き、気を取り直して続ける。 「よく多くの審査員の支持を得た選手が勝利ですっ!!」 ワァァァァァァァッ!! 「制限時間は一時間ッ!!審査ポイントは『味』『盛付けの美しさ』そして『危険度』です!!」 「き、危険度って…」 アナウンサーの言葉にトリーシャは思わずポツリと呟き、冷や汗を浮かべていた。 「ふにゅう?きけんどってどういうことぉ?」 「皆さん料理の自信が有るみたいですので、危険なほど美味しい料理の事なのではないでしょうか?」 メロディの素朴な疑問にクレアは生真面目なボケで答えた。言うまでもなくメロディは大きく頷いて納得している。 と、そんなクレアとメロディの受け答えを見ていたトリーシャは小さく呟いた。 「クレアさん…全然逆だと思うんだけど…」 「トリーシャ様?何か?」 「え?な、何でもないよ。アハハハ…………ハァ…」 この料理大会は大丈夫なのだろうか?心の中でそう感じながら、トリーシャは大きなため息をついた。 一方、その横ではヴァネッサ、マリア、ローラがバックに炎を巻き上げながら睨み合いを続けていた。気のせいか眼からスパークが放たれている気がする。気のせいだと思うが… 「ん〜…これはどうしたものか」 「覚悟を決めるか」 何か三人の雰囲気に押されているアーシィとケイン。冷や汗を浮かべながらそれぞれ呟き、互いの無事を祈って手伝いの位置につく。 そして、ついにアナウンサーが戦いの開始を告げる。 「それでは……開始ッ!!」 ワァァァァァァァァッ!! ●第384話 投稿者:タムタム  投稿日: 8月 5日(日)18時04分41秒 ―タタタタタタッ。シャカシャカシャカ。ジュワァッ!。どごーん☆!?。―  会場中に、それぞれが料理をしている音が響き渡る。料理のテーマが『自由』なため、各々が得意な料理を作ろうと腕を振るっている。  だが、この料理大会と言うもの、会場から料理を作るのをただ眺めているだけでは今一盛り上がりに欠ける。そのため、ここはアナウンサーの腕が試される場面でもある。 「あらあら、なんだか皆さん、楽しそうね」 「そ、そうですね。アリサさん」 「…なんでアルベルトくんがここにいるのかしら?」  アナウンサーの微妙なトークを聞きながら率直な感想をもらすアリサに、何故かアルベルトが答える。しかも、ちゃっかり審査員席に座っているのだから、由羅が疑問に思うのももっともだろう。 「細かい事は気にするな」 「それもそうねぇ」  あっさり納得する由羅。良いのかそれで?。もしかしたら、最初から大して気にしてなかったのかもしれない。  その間にも、料理は着々と完成に向かって行ったりしているが、ケインがローラに振り回されていたり、アーシィがマリアに振り回されていたりしたのは言うまでも無いだろう。 「それにしても、どんな料理が出来るのかしら?」  その一言で、二人の表情が凍りつく。例え雪国に放り出されたとしても、ここまで見事に凍りつきはしないだろう。その時丁度、マリアの料理が爆発したり、ローラの料理を味見したケインがうずくまったりしていたのだから、仕方ないと言えば仕方ない。 「あ、俺、そろそろ仕事しないと…」 「ふふふ、逃がさないわよぉ」  やる事も無いのに、そんな事を言いながらその場から立ち去ろうとしたアルベルトの腕を由羅がつかむ。アルベルトに逃げ場は無かったようだ。 ●第385話 投稿者:美住湖南  投稿日: 8月 5日(日)21時45分48秒  ケインがうずくまる瞬間をバッチリ目撃してしまった、売り子ディムル。理由の分からぬ怖気を感じながら弁当、ジュース、酒を売りまくる、売りまくる。 「にーちゃん!こっちに弁当2つ!!」 「おう!ところでこのお題は何だ?」 「“自由”だとよ!ローラちゃんやマリアちゃんがスゲーことやってるから楽しみだよ!」 「へー・・・。(ケインやアーシィなら大丈夫か・・・。人間離れしたやつらだし。料理が出来上がるまでなら大丈夫だろ)」  審査員席でアルベルトが荒縄で椅子に縛り付けられている頃。 「やったあ☆爆発しなかったよ!アーシィ、味見して!!」  緑色の、(グロテスクであり、危険を本能的に感じさせる、蛍光色の)液体を小皿にのせ、鼻先に差し出す・・・。 「う・・・いい、よ」  言葉を詰まらせながらも味見をするアーシィくん。さあ、そのお味は? 「(まずっ。これは・・・)おいっ(おえっ)、美味しいよ・・・」  名前まで呼べないアーシィ、それはどういう味なのか!?  さて、ローラの料理を食べてうずくまったケイン!その後はどうなっている? 「ちょっと、ケイン!どーしちゃったのよぉ!?」 「すまねぇ。いきなり腹の調子が・・・」  言い終わる前に退場門に走り出ァす! 「な、ケイーン!なーによー!!」  と、その神速とも言える速さであるにもかかわらず、アナウンサーは、 「ケイン助手、“逃げ”は減点対象です!そして、試合中に意図的な退場をしたらコンテスト終了後に「生け贄」となります!!  なんだその「生け贄」とは!?そんな疑問が観客の心に過ぎる中、料理は着々と完成していた!  観客席で、 「(あのケインを止められるアナウンサーって・・・)」  淡い疑問を心に抱くディムルであった。 ●第386話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 8月 6日(月)10時23分21秒  ケインは、今、悪夢を見ていた。  これまでもたいがいの危険な目には遭ってきたつもりだ。  もとよりヴァンパイアの家系に生まれ、幼い頃から魔法その他の戦闘術を叩き込まれた。  故郷を飛び出してからは寄る辺も無い流浪人。飢えに苦しみ病に倒れ、それでも必死になってここまで生きてきた。  だからこそ。大概の危険には対応できるし、危険の排除、危険からの回避も充分に体得している―つもりだった。が。 (去るも死、残るも死、か・・・)  このグラシオコロシアムは、戦場と言う言葉が小さく聞こえるくらいやばい領域だった。逃げれば生け贄、残れば手伝いで卒倒・・・逃げ場はない。 「ねえねえ!今度のこれは自信作よ!かの伝説の食材『斜め接続式タカマダラオオワシ』の肉を使ったソテーなんだけど、味見してみて」  斜め接続式タカマダラオオワシ。古文書にすらその存在は未確認とされている伝説の珍鳥。なぜそんな生物の肉があったのか疑問だが、本当の問題は別のところにある。  この鳥、一説によると、猛毒をもっているらしい・・・ 「ローラァァァ俺の事殺す気か?」  一通り説明した後に料理を物質崩壊で消滅させる。ローラは多少むくれたようだが、さすがに猛毒の食材と聞いては審査員に食べさせるわけにもいかないと判断したようだ。    その後も妙な食材と妙な料理がぽこぽこと出てくる。教えた料理はまだ出来てはいない。 「あれだったら、他の出場者がどんな料理を出してきても渡り合えるんだが・・・」 「今最後の煮込みの途中!完成まで40分はかかるってケインも言ってたじゃない!」  だからって殺人級の料理を作らなくてもいいような気もするが、待ち時間が暇だと言う事だ。  残り時間は30分。次第に調理場には「まともな料理を作る」チームと「みょうちくりんな料理が出来ている」チームに分かれ始めた。 ●第387話 投稿者:熱血王  投稿日: 8月 7日(火)22時57分08秒 「なんか・・・壮絶だな〜」 目の前で繰り広げられている料理大会の,各選手の料理,または調理中の風景を見てコウはそんな 事を考えた。 「すごいですねぇ。ああ,また爆発してます〜今のはマリアさんでしょうか〜。」 コウの横に立っているセリーヌも,コロシアムの場内で巻き起こる事にいちいち感動している。 この二人がこの大料理大会の会場に来たの事は少し時間を戻す事になる。 「・・・なんか,人がいませんね。」 この街に来てまだ数日だが,なぜか今日は道に人影が見当たらない。 「そうですね〜,これでは道を尋ねる事もできませんし。」 何時の間にかいなくなってる。なんて事が無いように極力自分の前を歩いてもらっているセリーヌも不思議そうに言った。 「そうですね,店の位置がわからないと探しようが無いだろうし・・・ん。」 街の建物の位置を記憶する為に道に立っている建物を見ながら歩いていたコウは,幾つかの建物の 壁に同じような張り紙がしてある事に気付く。 「なんだろう。」 そう言って,コウはその張り紙を見る。 「・・・なるほど。セリーヌさん,ちょっと来て下さい。」 「はい,なんでしょう?」 「あの,今日って『エンフィールド大料理大会』らしいですよ。ほら。」 コウは,こちらに寄ってきたセリーヌに張り紙を見せた。 「はあぁ,通りで誰もいない訳ですねぇ〜。」 「セリーヌさんはこの事を知らなかったんですか?」 「はい〜,ここ何日か夜鳴鳥雑貨店を探してましたから〜。」 さらりと言ったセリーヌの言葉にコウは一瞬目眩を感じた。 「(なんでそんなに長い間探して辿り着けないんだ・・・。いや,今その店に行った所で店には誰 もいないだろうな)」 街中の人間が料理大会に行っているだろうと仮定すれば,それが当然だとコウは考えた。 「あの,セリーヌさん。僕らも行きませんか?その料理大会に。」 「あの〜,その前に夜鳴鳥雑貨店へ・・・」 「多分今行っても開いてませんよ。それに場所を聞くために人を探さなければなりませんから,きっとコロシアムまで行かないと人は見つかりませんよ。」 それらしい事を並べ,セリーヌを説得するコウ。今の説得は効果があったようだ。 「・・・そうですね。それではコロシアムに行って道を聞きましょお〜。」 そして二人はコロシアムへ向かった。 二人は本来の目的を忘れ,選手の調理風景を眺めていた。 「ちょっとー,早く味見してよ〜。」 ローラは作っている料理を味見してもらうためにケインをゆする。 「あ・・ああ・・・」 キレイなお花畑と川を眺めていたであろうケインはうわ言のようなものと一緒に目を覚ました。 「ちょ・・・待つんだマリア!!」 アーシィはちょっと休んでいる間にマリアが両手を前に伸ばしているのが見えた為,力一杯叫ぶ。 「え〜い☆」 マリアの気前のいい掛け声と共に調理台の上で爆発が起こる。 「・・・はあ。」 アーシィは一面に飛び散ったり,吹き飛んだりしていないが。毒々しい色と光沢を持ち,グツグツ と沸騰しているスープのような物をみてため息を吐いた。 他の調理台では,クレアとトリーシャが美味しそうな臭いがマリアとローラの作った料理?の悪臭 に掻き消されているいるのを気にせず,ひたすら手を動かしていた。 「・・・この街には,真ともな人とそうでない人の境界線みたいなのがハッキリしてそうだな。」 目の前の壮絶な景色を見ながらコウは呟いた。 ●第388話 投稿者:ashukus  投稿日: 8月 9日(木)12時45分17秒 そんな訳で… 「終〜了〜っ!!」 アナウンサーの声が響く。時間が来たらしい。果たして料理は完成したのだろうか?各々の調理代を見てみると… クレアとトリーシャはまともだ。メロディも盛付けに問題があるようだがいちおう『料理』だ。ヴァネッサは…何だか色が危険だがギリギリといった所だろう。 だが… 「出来た〜☆」 「見て見て、あたしも出来たわよ〜」 得意げに言うローラとマリアの調理台の上には『生物』が生み出されていた。色、形ともにかなりグロテスクなものだ… とにかく二人がそれぞれ生み出した『それ』は料理の域など遥かに凌駕し、まさに生物だった。これは奇跡の業である。 「え〜…」 アナウンサーはローラとマリアの調理台から発せられる死臭……異臭に言葉を詰らせた。 その様子を見ていた特別審査員こと劇物処理係のアーウィルとロイは揃って思った。『ついに来た』と… その間にも審査員、アリサとアルベルトと由羅はクレアとトリーシャとメロディ、そしてヴァネッサの料理を審査していた。 ヴァネッサの料理は強敵だったみたいだが、審査は大方終わった。 そしてついにローラとマリアの『それ』が… 「え〜突然ですが、審査員の臨時交代をさせて頂きます」 アナウンサーがそう告げると何時の間にか現れたアーウィルとロイが審査員席に座った。 と、そこへローラとマリアが生み出した『それ』が並べられる。 「はい☆」 「残さないでよ?」 「「……」」 想像はしていた。かなり凄惨な料理が出てくると…しかし、その想像を超えた物体に二人は思わず黙り込んだ。 マリアのその物体は緑をこれでもかと濃くした液体で、何故か皿から逃げ出そうと皿を這っているのだ。 ローラのそれは死臭に近い匂いが漂い、ひんやりと冷えているのに沸騰しているような…異常なこれもまた液体だった。 「これが人間の作った物か?」 「これは…すごいですね」 アーウィルとロイは呟き、恐る恐るその物体に箸を付ける。息を呑む観客、沈黙が会場を包む。 そして十数分後… 「味覚を閉鎖して正解だった」 「器用な人ですね(人じゃないでしょうけど)」 常識の通用しない二人はそんな事を言いながら控え室へ戻っていった。ダメージは無い。なんとも恐ろしい二人だ。 そして会場の観客は二人の英雄に惜しみない拍手を捧げたという。 「え〜それでは、今回の審査結果を公平に判断し、トーナメント戦を行いたいと思います!!」 「え?聞いてないけど?」 トリーシャはアナウンサーに問う。しかしアナウンサーは焦ったように無視して続ける。 「それでは対戦を発表します!!」 「あの〜」 「第一試合、マリア選手対クレア選手」 ワァァァァァァァッ!! 「第二試合、ローラ選手対トリーシャ選手」 ワァァァァァァァッ!! 「第三試合、ヴァネッサ選手対メロディ選手」 ワァァァァァァァッ!! 沸き返る観客。だが、アナウンサーが告げたそれは明らかに審査結果を反映したものではなかった。 ただ…ローラとマリアを危険と判断し、早く落とそうと目論んだのであった。 ●第389話 投稿者:タムタム  投稿日: 8月 9日(木)19時26分53秒 (ん〜、これは参ったね……)  マリアの作った料理が余りに『あれ』だったため、突っ込む事すら出来ずに見逃してしまってた。気が付いてみればトーナメントが始まり、相手はクレアだと言う。思わず遠くを見てしまいそうになりながら視線を動かし、そのまま『つい』っと視線を逸らす。  ほとんど本能的なものと言って言い。なんか…、恐かったのだ。アルベルトの顔が。まあ、クレアの相手がマリアなのだ。間違い無くそれが理由だろう。なんか、いろんな意味で『参った』な状況だ。 「…マリアちゃん…さっきの料理は予定と違った気がするんだけど……?」 「ぶ〜☆。ちゃんとこの本の通りに作ったのに!」  アーシィの言葉に膨れるマリア。予定では“一応”、『料理』が出来るはずだったのだ。そう、最低限食べれるだけの。間違った方向性の『必殺の料理』は出来るはずが無かったのだ。 「……あのね、それは『正しいスライムの創り方』……」 「えっ☆?あれ?間違えちゃったかな☆」  マリアの手にした本にはきちんとそう書いてある。調理中には見てなかったので、おそらく一夜漬けで覚えていたのだろう。…食材から、スライムを創り出すのだから、ある意味凄いのかも知れない…。  だが、このままでは問題だ。ロイやアーウィルの胃袋が、では無い。自分の身が、だ。このままではまた、スライムを味見する事になってしまう。それはいくらなんでも遠慮したい。  アーシィはすぐさま思考をめぐらす。一流の料理人は一度食べた料理を再現できると言う。そして、作らずとも料理の味がわかると言う。しかし、悲しいかな。アーシィは二流の上に、作るのはマリアだ。  それでも、一応食べれる物は出来るはず。食べれない物よりはましだろう。きっとアーシィも『審査』くらいは受けさせてあげたいに違いない。 「マリアちゃん。美味しい料理の作り方を教えて上げるよ」 「ぶー☆!マリアの料理は美味しいもん!」  そんな事を言うマリアを何とかなだめ、一応簡単な料理の作り方を伝授する。 「この料理は基本的に薄味なんだよ。だから……」  …いきなり調理の原点まで遡りやがった。だが、これなら比較的まともな料理は出来るだろう…多分。 ―その頃の審査員席― 「…なんだか、怪しいおじさんって感じがするっス」 「いや、おれには単なる馬鹿兄貴に見えるな」  アーシィを見ながら、テディとアルベルトがいらん突込みを入れていた。だが、本人には聞こえていない。  ……そして、すぐさま第一回戦が始まろうとしていた……。 ●第390話 投稿者:YS  投稿日: 8月16日(木)01時45分50秒 「それでは第一試合、マリア選手対クレア選手の死合開始です!」  なぜか違和感の”ない”発音の違いには誰も突っ込まないまま、アナウンサー――いつもの審判だが、今日は本人の強い希望でアナウンサーと呼ぶことになっている――は料理大会を進行させる。 「それでは最初に各選手に審査員を強制指名してもらいましょう」  その死刑宣告と同時に会場は一気に静まり返る。クレアだけがその理由に気がついていないようだった。ちなみに、審査員の指名は今回の大会で急遽エントリー確認後に変更された部分の一つである。 「それでは兄様を…」  すぐさまクレアがアルベルトを指名する。 「ちょ、ちょっと待て…」  実はクレアはアルベルトにおいしい料理を食べてもらいたかった兄妹愛とも言える行為なのだが、マリアの料理が”アレ”なことを知っているアルベルトにとってはクレアの一言はまさに死刑宣告だっただろう。講義の為口を開こうとしたアルベルトだったが……。 「なお、指名された方はドクターストップがかかるなどの特別な状況にならない限りは拒否権はありません」  すぐさまアナウンサーに止められた。会場からは安堵と同情の声の後、新たに絶望の声が上がった。  「じゃあ、マリアは…」  そう言いつつ会場内に目を向けるマリア。このときほとんどすべての人は顔を背けている。  ケインが複雑な顔でマリアを見ている以外では、誰もマリアの顔は見ていなかった……はずなのだが。 「ハメットにき〜めた☆」  株を上げようと思っていたのか、それとも偶然目が合ったのか、お面のせいで目をそらしてもわからなかったのか……ハメットは第二の餌食に確定させられた。 「え〜、それでは立候補者を……」  すぐさまロイとアーウィルが手をあげる。これで4人だ。もちろん他に餌食になろうとする奇特な人物はいなかった。 「思いのほか立候補者が出たようですね。では、最後の審査員は私が決めさせてもらいます。由…」  そこまで言ったところでアナウンサーが凍りつく。アーシィが強烈な殺気を放った為である。 「…勇敢な私が最後の審査員を務めさせていただきます」  この瞬間、アナウンサーは審判に戻った。