●第371話 投稿者:タムタム  投稿日: 7月10日(火)22時12分44秒 「…ここまで騒がしいのは初めての気がしますね…」  ロイはさくら亭のすみっこのほうで呟いた。何故端の方にいるのだろう?。中心の方で妙に騒ぎ、パティに怒られている連中と同一視されたくないからだろうか…。それとも、他に理由があるのかは本人にしか分からないだろう。  時波の木琴の演奏は“しらふ”の連中には結構評判が良かったようだ。酔っ払い連中はまともに聞いていたのかどうかも怪しかったが…。 ―時は巡り、夜―  先ほどの騒ぎが嘘のように、さくら亭は静まり返っていた。理由は簡単。本日の食材が底をついた為である。  それは明日、朝一で仕入れるから良いとして、食べ物、飲み物が無くなったら、出すものが無い。それでも、残って話している連中はいたが、次第に人数が減り、宴会は解散となったのだ。  数人、あと片付けまで手伝ってくれた人間がいたのはパティにとって、嬉しい誤算だったろう。これでゆっくり休めると言うもの。 「それにしても、毎度の事ながら変な事ばかり起こるわね」 「まったくだ。それでもし、まだ出会わぬ美人が怪我でもしたらと思うと…」 「……アレフ…、あんた、帰ったんじゃなかったの……?」  パティは独り言を呟いたつもりだった。もちろん、誰かがいるなんて考えてもいない。そのため、少しだらしなくカウンターに突っ伏した状態だった。  だが、アレフはいつのまにかそこに居た。独り言に答えが返ってきた事に驚くが、相手がアレフだと少し納得できるのは何故だろう?。神出鬼没がアレフの身上だからだろうか?。 「ちょっとね…、忘れ物」  そう言って、アレフがパティに何かを手渡す。其れはハーモニカをかたどったアクセサリーだった。 「何これ?、どうしたのよ?」  首をかしげるのも無理は無い。心当たりが無いのだから。 「アーシィからのおみあげ」  そう言ったアレフは少し不機嫌そうだった。理由としては…やたらとおみあげを配っていたからだ。エンフィールドの貴公子を自負する物として、微妙にプライドを刺激されたからだろうか?  宴会後…アーシィはクロウをもう一度病院へ連れ戻したらしい。少し動きが変なので、傷が完治していないと思ったからのようだ。ちなみにアーシィはしばらく無理はしないように言われていたりもする。  ロイはケインが連れ帰ったから、迷子にならず教会についたことだろう。  シュウは自分が何故出歩いていたのかの疑問が解けないまま寮に戻ったし、ディムルはさくら亭の片付けが終了してから、風見鶏館に帰っている。  他の連中は帰る場所がさくら亭だったり、野宿だったりするので、詳細の程は定かではない…。 ●第372話 投稿者:YS  投稿日: 7月23日(月)23時20分28秒 『エンフィールド料理大会』 「……本当に料理大会に出るんですか?」  ロイの口から漏れたのは、驚きというよりは、呆れを含んだ言葉だった。 「やめた方がいいんじゃないか?」  ケインからも同じように、どこか諦めを含んだ言葉が漏れる。 「そんなにまずいんですか?」  時波の口からは疑問の声が挙がった。 「まずい」 「…正直に言って人間やめないと食べるのはやめておいたほうが良いかと…」  ケインははっきりと、ロイは遠回しに、それを批評した。 「なによう、ロイ君は一つも残さないで食べてくれてるじゃないのよ〜」  ローラが今も”それ”を食べているロイを見ながら言った。 「こいつは例外だ」  ケインはあっさりと言い放つ。 「…否定はしませんけどね…」  言ったロイの目の前には、さまざまなお菓子が並んでいた。すべてローラが作ったらしい。 「とにかく!あたしはロイ君以外のみんなにも食べてもらいたいの!」 「…誰も進んで食べようとしないから結果的に一人で食べているだけなんですが…」  実際、ロイの目の前に並んだお菓子は、すでに焼き立てとは程遠い状態になっていた。 「大会に出場となると少なくとも審査員の方々は食べてくれるとは思いますが」 「審査員になる奴が可哀相だな」 「…ですが、一応は食べられなくはないですよ…」  時波とケイン、ロイが口々に言う。 「今回はセリーヌさんが道に迷っていなかったから出場登録してないし、アリサおばさまも審査委員長で出場はないって聞いたから、あたしでも優勝できる可能性があるの!」 「他の出場者には勝てると思ってるのか…」 「その自信はどこからきてるんでしょうか」 「…他の出場者が全員棄権する可能性があることからすれば、可能性はありますね…」  ローラの言葉にそれぞれが独り言を漏らしたが、ローラは聞いてはいないようだった。 「とにかく、三人には協力してもらうからね」  ローラの言葉には、少なくともロイは逆らえそうになかった。  理由は簡単。逃れる為に教会から出てしまえば、帰ってくるまでに不必要な苦労をしなければいけないからだ。  そして、追い詰められたロイの行動は一つ。すなわち、他の二人の逃げ場も奪うことだった。 ●第373話 投稿者:タムタム  投稿日: 7月24日(火)22時08分05秒 ―ジョートショップ― 「もうすぐ料理大会っスね」 「そういやそうだね。明後日だったかい?」  思い出したかのようにいったテディの言葉に、リサが相槌を打つ。出されている紅茶を飲みながら、少し何かを考えているようだ。 「ア、アリサさんは出場しないのでしょうか?」  何の前フリもなく、少しだけどもりながら、アルベルトがアリサに訊ねた。  自警団の仕事をほったらかして来ている以上、いい度胸かもしれないが、ジョートショップの仕事を手伝うと言って来ているのだ。もちろん、許可は受けていない。やはり、いい度胸と言える。 「あさっての料理大会、ご主人様が出れば優勝間違い無しっス!」 「そんな事無いわよ、テディ。でも、審査員ですから、出場は出来ないんですよ」  少々興奮気味のテディと対照的に、アリサは落ち着いた口調で言う。だが、アリサが出場したら、問答無用で優勝だろう。それに、審査委員は正しい味覚と確かな料理の腕があってこそ勤まるというもの。審査委員長に任命されたのも、頷ける話でもある。 「確か、由羅も審査委員だったよね?」  リサの記憶が確かなら、由羅も審査委員に任命されていたはずだ。あまり知られていないが、由羅も料理は出来る。しかも、上手い。なんてったって、メロディに料理を教えたのは由羅なのだから。ちなみに、メロディは料理人として出るらしい。 「でも、料理人はマリアさんにローラさんにヴァネッサさんが出るらしいっス。ご主人様の身が心配っス」  何気なく酷い事を言うテディに、リサは安心させるように微笑みながら、 「大丈夫、きちんと手は打ってあるよ」  そう言ったのだ。だから、テディが言った事はリサにも良くわかる。一歩間違うと、二階で倒れているアーシィと同じ様な状態になりかねないのだ。マリアの料理の練習に付き合って食べ過ぎたらしい。だが、決して食中りでは無い。  本人曰く、“胃は丈夫な方”らしいが、通常の食材を使っていながら、なぜか爆発する料理を必要以上に食べたので、精神と肉体、両方にダメージを食らっているようだ。こちらはアルベルトとは違った意味でいい度胸をしているようだ。  …まあ、第三者から見たら、食中り以外の何者でも無い気がするが…。だからと言う訳では無いが、当日アーシィは審査員ではなく、食材運びをする事になっている。  ちなみにクロウは料理大会で使う調理器具(鍋や包丁)が少々足りないので、製作中。と言うより、仕上げている最中だ。もちろん、一日二日で出来る物では無い。ちゃんと、ずっと前から創っていたのだ。 「…まともな大会になるっスかね…」 「まあ、クレアも出るし、多分大丈夫だろ…多分な…」  不安になったのか、ポツリと呟いたテディの台詞に、アルベルトは自信が無さそうに呟いた。 ●第374話 投稿者:ファウスト  投稿日: 7月24日(火)23時25分25秒 自警団事務所で、シュウがリカルドに質問されている。 「シュウ君」 「隊長、何ですか?」 「アルを知らんか?」 「いや・・・俺は知らないです」 「そうか・・・ありがとう」 リカルドはシュウに礼を言い、どこかに行くようだ。 「いえ・・・」 実は知っている、さっきアルベルトにジョートショップに行ってくると言われて口止めされているのだった。 なぜアルベルトはシュウに教えたかと言うと何か起こったときには連絡しろとの事だ。 それなら行かなければ・・・と、シュウが途中まで言った所でアルベルトに睨まれ何も言えずただ見送ったのだった。 「全く・・・」 シュウは前無断欠勤したせいでアルベルトに「お前がいない時、大変だったが俺がそれをカバーしてやったんだ」と言われてしまい、しばらくアルベルトの言う事を聞く羽目になっている。 当然、シュウにはその記憶は無い。だが、自警団をサボった記憶はあったので納得するしかなかった。 「今頃、何してるんだろ・・」 場所変わってローズレイク。 で、クロウが釣りをしている。予定の半分の期間で怪我はもう治ったそうだ。 そして、何故釣りをしているかというと・・・。 「また、釣れましたっと」 これで、5匹目。釣りを始めて十分も経っていない。かなりの腕だ。 「あー、何だかこうやって趣味の釣りをするのも久し振りだな・・・・」 そう言いながら、釣った魚をバケツに入れる。 「・・・・5匹いれば良いか・・・」 いきなり何処からか包丁を出す。ついでに鍋、皿、まな板も。 「まずは刺身だな・・・」 クロウは魚をまな板に乗せて切りはじめる。 そう、クロウは作っていた包丁の切れ味を確かめるため、魚を釣っていたのだ。 魚ならそこら辺で買えばいい・・・と、思うかもしれないが久し振りに釣りもしたかったとの事。 「よし、出来た」 もう刺身が出来たようだ。で、食べる。何もつけず。 「・・・・これでいい」 どうやら、クロウは包丁を完成させたようだ。 だが、一応釣った魚は全部食べるらしい。料理を続けるのだった。 ●第375話 投稿者:熱血王  投稿日: 7月25日(水)00時56分50秒 「は〜。しかし・・・パティさんに代金払ったら財布が軽くなったな。」 ローズレイクで野宿をしているコウは木に架けてあるハンモックで横になりながら財布を投げてはキャッチする。 少しすると茂みの向こうで音がし始める。前回はロイという男の子が出てきたが,今回は人間かど うかさえわからない。 「(さて・・・どうするか)」 ハンモックから降りて茂みと向かい合う。 しばらくして茂みから出てきたのはセリーヌだった。 「あの〜,夜鳴鳥雑貨店はどちらでしょうか〜?」 「・・・は?」 コウは茂みから現れた女性がいきなり道を訪ねてきたのでおもいっきりマヌケな声を上げた。 「ですから〜,夜鳴鳥雑貨店です〜。」 夜鳴鳥雑貨店と言われたものの,コウはこの街に来てあまり日が経っていないので,どこにあるのか分からない。 それよりも何故街の中にあると思われる所に行くのにこの森の中に入って行ったのかを疑問に感じているコウ。 「すみません,僕はこの街に来たばかりなので知らないんです。」 「そうですか〜,それでは失礼しました〜。」 そう言ってセリーヌは茂みの方へと歩きだす。 「ちょ,ちょっと待ってください。そのお店は街の中にあるんじゃないですか?」 また森へと戻ろうとするセリーヌを見て慌てて止めるコウ。 「はい,そうですけど〜。」 「それじゃあそっちへ行っても永遠に着かないんじゃないですか?」 「・・・それもそうですね〜。」 すこし考えて納得するセリーヌ。 納得したセリーヌを見て安心するコウ。 「(・・・まあ,これでちゃんと街の方へ行くかな・・・)」 「それでは,改めて失礼します。」 そう言ってセリーヌはまた茂みへと戻ろうとした。 「ちょ・・・ちょっと,どこ行くんですか!?」 「はい,だから夜鳴鳥雑貨店へ・・・。」 当然のように答えるセリーヌ。 「・・・分かりました。(夜鳴鳥雑貨店なんて知らないけど,街に連れていかないと永遠に森の中 を探してそうだな)」 コウは仕方ない,と言った感じで街まで付いて行く事にした。 「何が分かったんですか〜?」 「いえ,何でもないです。それより,夜鳴鳥雑貨店って僕も行っていいですか?」 お節介っぽく思われないような言葉を選んで聞いてみるコウ。 「はい〜,もちろんです。」 何の疑いも持たずに了承するセリーヌ。まあ,セリーヌに限って断る事は無いだろうが・・・。 「それじゃあ行きましょうか?」 そう行ってセリーヌの手を取り,セリーヌの行こうとしていた方向とは逆の方へ先導するコウ。 「あの〜,私は向こうだと思うんですけど〜。」 「場所はよく分かりませんけど,街へ行くにはこっちへ行くのが近道みたいですから。」 「そうなんですか,それは助かります。」 普通に街へ向かっているだけだがセリーヌは納得したようだ。 ●第376話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 7月25日(水)10時39分14秒 「そういえば」  ロイが他2名を巻き込もうと口を開こうとした矢先、ケインがローラに尋ねた。 「その料理大会って、優勝したらなにか出るのか?」  賞品目当てらしい。 「?ケインって、まだロイに貸しがあるの?」 「いや、もう全額返済しおえたはずだけど。なぁ?」 「・・・ええ」 「じゃあなんでそんなこと聞くのよ?」 「いや〜ローラがそこまでして優勝したいなんて、なにかいいものが出るのかな〜と思ったんだが」  肩をすくめて言う。ローラは少し考え込んだ後、 「う〜ん、ちょっと判らないけど・・・どちらにせよ、もう申し込み期間は終わっちゃったよ」 「ちっ」  舌打ちをするケイン。それを見ていた時波は、ふと聞いてみた。 「ケインさんも、料理は出来るんですか?」  それに意外そうに振り向くケイン。苦笑いをしながら答えた。 「あのな。おれもあちこち一人旅してたんだから料理くらい出来るって。例えば・・・  そこらで捕まえたねずみの料理なんか結構得意だぞ」  その答えに、ローラたちは時波と同じ事を考えた。 『聞かなきゃよかった』 「まあそれは冗談として、だ。それなりには腕は立つぞ」  そう言ってから、ケインは自分の失言に気づいた。  ローラは優勝する気だ。で、自分たち三人に手伝って欲しいといっている。そこから導き出される結論は、一つ・・・ 「じゃあケインは本番までにわたしの料理を更に洗練させるための手伝いね」  嬉しそうに言うローラ。  ロイは、内心で喜んでいた。わざわざこちらから言わずともケインは手伝う道に入ったのだから。 「出場選手ってたしか、ローラさんのほかにはマリアさんとヴァネッサさんでしたよね?」  時波の言葉に凍りつくケイン。 「マジかよ・・・」 (マリア、すまん。どうやら俺はお前の事を裏切ることになりそうだ)  心の中で謝罪の言葉を述べるケイン。  一方、ロイは、 「これは修羅場になりそうですね・・・」  小さく呟いた。 ●第377話 投稿者:美住湖南  投稿日: 7月25日(水)21時39分47秒  その頃、雷鳴山では・・・。 「えー・・・あ、これか?」 「そーよ。出来るだけ多くとってちょうだい」 「へいへい」  料理大会と言えばやはりパティが出るべきなのだろうが、パティの父親が風邪で寝込んだために、屋台を彼女が開くことになってしまったのだ。そのために材料集めに来ている。もちろんさくら亭でバイトをしているディムルもいるわけだ。パティが屋台を開く理由についてはそれはそれと言うことで。 「今回も、まともには終わらないのかな・・・・」 「事件は起こらないでしょうね。・・・多分・・・」 「場所が場所だし、さくら亭は壊滅にはならねぇから安心しとけ(壊滅する前におさえないと、後が恐いしな)」  さくら亭に関して、怖ろしいほど愛着(?)を持っているパティを怒らせると大変なことになる。今まで嫌われかけた人々、数知れず・・・。 「ディムルー、何か言ったぁ?」 「うんにゃ、なんでもねぇ」 「そお」  信心も無いのに神に祈る。「頼む、事件が起こらないようにしてくれ・・・」  小一時間ほど経って・・・  籠いっぱいに山菜やら木の実やらをたっぷり詰め込むとパティがすくっと立つ。 「よしっ、んじゃあこれをさくら亭に置いてから次はローズレイクに魚釣りよ」  食材になる魚を捕りに行こうというわけだ。大顎月光魚がいるが、出てきたらディムルを楯に遣う気だろう。 「おっけ」  籠を背負うとパティが口を開く。 「・・・似合わないわね・・・」 「言うな」 「あ、そーだ」  無理矢理話を切り替えるように前を向いて話し始めた。 「ディムル、いつも作るの以外に何か作れる?」 「作るって・・・もちろん料理だよな」  その言葉に、「当然じゃない」とキッパリ、パティ。 「そうだなぁ。好まれるかどうかは別として、作れねぇ事はないが。どうしてだ?」 「だって、あたし一人で屋台やるの大変だもの。アーウィルはいきなりどっか行きそうな気がするし、リサも・・・ね」  パティには言えない。アーウィルが影の料理もとい劇物処理班として呼ばれていることを。 「(アーウィルって味覚あんのか?)」  答えは、無い。 ●第378話 投稿者:ashukus  投稿日: 7月27日(金)23時36分35秒 自警団事務所… 「全く本当に……ブツブツブツブツ」 リカルドに応対した後、アルベルトに対していろいろと愚痴りながら… 「料理大会か…」 一言呟き、自分には無縁だなとシュウは事務所の椅子に腰掛ける。しかし無縁というより自警団の仕事でそんな所へ行っている暇は無いのだ。無断欠勤が続いてクビに成りかねないからだ。だが可能性としてアリサさんが料理人として出ればそれ目当のアルベルト辺りに拉致される可能性もあるだろうが… 「鬼の居ぬ間になんとやら、と」 緩んだ笑みを浮かべながらシュウは椅子に体重を乗せる。鬼とはもちろん自分に対して理不尽な扱いをする髪が重力に逆らった槍使いの事である。今ごろジョートショップでお茶でもすすっているのだろう。という訳で… 「何か飲も…」 対抗するわけではないが、彼は椅子を立つと冷蔵庫へ向かう。途中、台所(?)でコップを手に取る。そして冷蔵庫を開けて見ると作り置きの麦茶が入っていた。とりあえずその麦茶をコップに注ぐ。手から伝わる感触でかなり冷えているのがわかった。咽が乾いているので少し嬉しい。そこで彼は思う。『どうせなら落ち着いて飲もう』と… そう言うわけで彼は椅子へと戻る。いや、戻ろうとした。そこで彼の動きはピタッと止まる。 「「「……」」」 時間が止まったように辺りの空気が凍る。そんな空気の中で無言の三人。そう、三人。シュウ以外に二人、何時の間にか緑の髪の少女と黄色いリボンを髪につけた少女がこの部屋にいる。要するにディアーナとトリーシャだ。 「……やっほ〜っ」 「やっほ〜…………じゃなくて!!」 俗に言うノリ突っ込みでシュウはトリーシャに返す。トリーシャは少し『乗ったくせに…』と言わんばかりの表情をしていたという。 「どうしてここに?」 「どうしてって、決まってるじゃないか」 「決まってる?」 と、そこでトリーシャの勢いで無言だったディアーナが台詞をよこせと言わんばかりに口を開く。 「今日は『料理大会』でしょ?トリーシャちゃんが出場するって言ったからあたし見に行こうと思って」 「それでどうして事務所に?」 「だって、あたし一人で見てても面白くないし…」 「別に俺じゃなくても……トーヤ先生とかは?」 「いちおう誘ったんだけど…」 どうやら断わられたらしい。ディアーナは苦笑しながら少し肩を落としている。が、すぐにパッと表情を明るくさせ… 「という訳で、この際もう誰でも言いかな?って」 「俺は『誰でも良い奴』に入ってるのか…」 「アハハ、スネないの、それじゃあ出発だよ」 トリーシャがシュウの腕を掴んで引っ張りながら言う。シュウの手に持ったコップの麦茶が揺れているのでこぼさないようにしている。そして、その後ろからディアーナも付いていく。何気に両手に花で羨ましいぞ!! 「ちょっと待ってくれって、俺今度サボったら多分クビに…」 「大丈夫だよ。ボクがお父さんに頼んであげるから」 ●第379話 投稿者:タムタム  投稿日: 7月28日(土)18時22分51秒  青天の下、空に花火が打ち上がる。料理大会の開催を継げるその音は盛大に鳴り響く。ここはグラシオコロシアム。大勢の観客の見守る中、開会宣言と共に料理大会は始まった。 「さあ、皆様!。長らくお待たせしました!。まずは審査員の登場です!」  声を張り上げるアナウンサーの台詞を合図に、審査員として招待された人が登場する。アリサを筆頭に数人ほどが。そして、随時紹介されながら席につく。その間にも料理するための食材などが運び込まれ、準備は整ったようだ。後は料理人を待つばかり。 ―そして、その頃の控え室― 「あたしは負けないわよ〜」 「ふふふ。あの氷の料理人直伝の腕を持つ私に勝てるかしら?」 「ぶー☆。優勝するのはマリアだもん☆」  そんな事を言い、微妙に火花を散らす3人を見ながら、トリーシャはクレアと顔を見合わせた。  なんだか、場違いな所にいるのは気の所為だろうか?。そんな疑問がその瞳には浮かんでいる。この大会は料理の腕を競うはずである。もちろん、より上手い料理を作るほうに、だ。間違っても“より多くの審査員を倒した人の勝ち”とかいうルールでは無いはずだ。  そんな失礼な事をトリーシャが考えているとは露知らず、クレアが口を開く。 「皆さん、凄い自信ですのね」  本気で感心している口調だ。だが、決して嫌味で言っている訳では無い。クレアは知らないのだ。3人の料理の腕を。だからこそ、その自信が料理の腕に裏付けされた物であると思い込んでいる。 「…そうだね…。ボクもあれくらい開き直れると良いんだけど…」  そうは言うが、トリーシャだって優勝は狙っているし自信だってある。それに、自分の料理の腕が決して悪くない事だって知っている。だから、開き直ると言うのは少々変な言い回しだ。ただ単に、少々呆れてしまっただけだろうか?。 「それにしても、私達はいつまでここにいれば宜しいのでしょうか?」 「もうすぐじゃないかな?」  クレアの問いかけに、適当にそう言ってみる。実際にどれだけの時間待っていればいいのか判らないが、時が来れば呼びに来るはずだ。 「ふみぃ、しつもんがあるのです〜」  なんだか暇を持て余しているような二人に声をかけたのはメロディだった。ちょっとした疑問が生まれたので今まで考えていたみたいだが、答えが出なかったので訊きに来たのだ。  その疑問とは“審査員の人が全員の料理を食べる前におなか一杯になったらどうするのか?”と言う物だった。 「大丈夫だよ。出された料理を全部食べるわけじゃないんだから」 「審査員の方達は全員の料理を少しづつしか食べませんのよ」 「そうなのですか〜?」  そう、一対一ならともかく、出場者が多いのに全部の料理は食べはしない。また一つ賢くなったメロディだった。 ●第380話 投稿者:YS  投稿日: 7月29日(日)03時52分13秒  一方、ローラと共に来ていたはずのロイは…… 「…ここはどこですか?」  約束通りに道に迷っていた。  そんなロイの目の前をエルが通り過ぎ、どこかの部屋に入ったようだった。  ロイにはまったくわからなかったが、そこは料理大会の出場者の控え室……つまり、ロイが探していた部屋だったりする。 「…エルさんは確か、マリアさんと仲が悪かったと聞きましたが…」  そんな二人が料理大会でぶつかったらどうなるのか。さらにマリアのことが気になっているケインも含め考えると、まともな大会になり得るのだろうか。  そんなことを無責任に考えながら、さらにロイは迷う。  途中、必要以上と思われるほど、大量の薬を運んでいるトーヤを見かけたりもした。出場者から考えると必要な処置だが、それを見た後では審査員の命が心配になってくる。  ディアーナが治療ではなく、応援をするという話があったが、それはトーヤが意図的に仕組んだというのもあったのだろう。 「…そういえば、ローラさんの料理って、普通の人が食べたらどういう反応をするものなんでしょうか…」  その疑問を今日解決できるかと思うと、少し嬉しくなるロイであった。 「また道に迷ってたのかい?」  そして、はたから見ると怖い笑みを浮かべていたロイに、誰かが声をかけてきた。 「…あ、アーウィルさん。劇物処理として極秘に雇われたと聞きましたが…」 「誰に聞いたんだ?」 「…あなたの相方だそうですが?」 「なるほど、ところで暇かい?」 「…ローラさんのところへ行くつもりだったんですが、主に応援くらいですから暇といえば暇ですね…」  そして、本心では知識欲を満たせない応援という行為は、好ましいものではなかった。 「だったら劇物処理として働いてみないかい?」 「…ええ、いいですよ…」 「即答されるとこのあと考えておいたセリフが無駄になるんだが…」  そして、ロイはアーウィルに料理大会の仕組みと劇物処理班の関係について聞いた。各試合の対戦方法は、既に開始まで時間があまりなかったので、聞く暇はなかったが、劇物処理班が出るタイミングはわかった。  主な審査員以外に会場内から自発、あるいは料理人からの指定で臨時の審査員を数名立てる。この時に危険と判断された料理の場合に自発的に審査員になり、すべての危険な料理を食べるらしい。つまり、通常の料理のみであれば必要のない仕事だ。 (…いざとなったらポチの転移機能で料理を亜空間にでも消し去ろう…)  だがロイは、なぜか本能的に命の危険を感じ、そう考えていた。