●第171話 投稿者:ashukus  投稿日: 1月11日(木)17時50分36秒 「ぐっ!!・・・」 デッドリー・ウェッジの直撃を受けた覆面の男は後ろへ吹き飛ばされる。かなりのダメージだろう。 そんな男にアーシィは当然ながら追撃をかける。足の速さを活かして広がった距離を一気に詰めてロッドを振り抜く。 「くっ・・・(この男、ここまでやるとは)」 アーシィのロッドが覆面男を切り裂くと思ったその瞬間、覆面男は何の動作も無しにその場から消える。 「捉えたと思ったんだが、どう言う事だ?」 相手の出方を警戒しながらアーシィは辺りを見回す。すると突然、自分の後ろの方から人の気配が現われ、後ろを振り返る。 「!」 するとアーシィに向かって覆面男の折れた刀が一直線で飛んでくる。アーシィは咄嗟の反応で銃を抜き、魔法弾を放つ。 キィン 魔法弾は見事命中、その折れた刀は吹き飛ばされる。その刀を見ながら覆面男は 「・・・『物』に差が有り過ぎたな。所詮は無銘か(アイツがあれの封印さえしなければ・・・)」 そして覆面男の独り言を他所にアーシィは銃を男へと向ける。だがアーシィは銃が避けられた時の手を考える。 これでチェックメイトとはいきそうに無いからだ。 「(チェックだ。さて、どう出る?)」 アーシィが引き金を引き、魔法弾が放たれる・・・・・・しかし、その魔法弾は覆面男に届く前に何かに衝突、その何かと共に相殺した。 「なんだ?何をした」 「アイツらの言うところの『呪いの力』さ・・・ククク」 訳の分からない事を言いつつ覆面男は10本ほどのナイフを取り出し、真上に投げる 『物体移動』 瞬間、ナイフが意思を持ったかのように動き出し、覆面男を守るように飛び回る 「・・・終わりだ」 覆面男のその一言でそのナイフは次々にアーシィへと向かって飛んでいく 「(これは魔法か?いや、魔力が感じられないが・・・)」 あらゆる角度から襲い来るナイフを避けながらも魔法弾を放ち、次々にナイフを撃ち砕いていくアーシィ 「(魔法力を使いすぎたな、早く勝負を決めないとな)」 消費が凄まじいデッドリー・ウェッジと魔法弾の連射でアーシィの魔法力は尽き始めており、隙あらば勝負を決めようとする。 一方の覆面男は再びその姿を消す。彼もまた持久戦を避けたいようで一気に勝負に出るようだ。 「・・・・・・(負担が大きいな・・・『読み』が使えなくなるが、しかたない)」 アーシィの背後に姿を現した覆面男は無言でアーシィにナイフで斬りかかる。しかし・・・ 「何!?」 アーシィはハンドスプリングで飛んで来たナイフの一本を避けると同時に片手を離し、覆面男に魔法弾を放つ 「くっ!!」 突然の事に覆面男の反応が一瞬遅れ、避けきれなかったその魔法弾が男の覆面を切り裂く。 見事な着地を決めたアーシィは追撃を加えようと覆面男に銃を構える。そして彼は見た・・・ 「!!」 「しまった・・・」 男はすぐに顔を腕で覆うがアーシィにははっきりとその男の素顔が見えた。それは・・・ 「くっ・・・逃げるのは好きじゃないが・・・審判、俺は棄権する」 焦ったようにそう言うと男はその姿を消した・・・ 『あの、ちょっと!!』 審判の呼びかけも空しく男は何処かへと消えてしまった。 『あ・・・あの・・・え〜・・・とにかく!!覆面選手棄権と言う事でアーシィ選手の勝利です!!』 ワアァァァァァァァ!! ●第172話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 1月12日(金)17時46分29秒 「アーシィ。大丈夫か? その傷」  一旦控え室に戻ったアーシィの背後に、いつの間にかアーウィルが立っている。いい加減に慣れたので、 特別驚きはしない。 「ん〜。…ま、内臓には達してないから、そう大騒ぎするようなことじゃないよ」  少々上の空で答える。やはり、さきほど見た光景の衝撃が大きかったらしい。 「ああ、そうそう。あの覆面の正体は、あまり言い触らさない方が良い」 「……何?」  唐突に、アーウィルが妙なことを言う。あの覆面の下の顔は、アーシィ以外には見えなかったはずだ。 「あれは、シュウであってシュウではない。全くの別人みたいだったろう? 少しばかり、 複雑な事情があるのさ。過去に相当キツイことがあったらしくてね」 「……何故、そこまで詳しい?」 「身内に、情報収集が得意なのがいるんでね。頼みもしないのに、色々な情報を頭に送り込んでくるのさ」 「………」  ランディは森の中を無言で前進して行く。他の男達は、偵察と進路・退路の確保に専念し、 ランディのサポートに回っている。だが…… 「……何で貴様が俺にくっついて来るんだ?」 「おや、ずいぶんな言い草だね。技師が自分の仕事の成果を見に行ってはいけないのか?」  かなりのスピードで進むランディに、まったく遅れることなくついてくるその男は言った。 服装は黒装束で、一見して一種の戦闘服とわかる。だが、男は自分のことを『技師』と言った。 「俺の雇われてる組織と、貴様の属してる組織の間での取引は、『情報の売買』と『兵器開発の援助』だ。 荒事にまで首を突っ込むな」 「そういうわけにはいかないな。君たちの持ってきたあの設計図……あれは大変興味深い。 あれに私の研究データを加えれば、素晴らしい作品に仕上がるだろう。私の作品はまだ不完全だからな」  微かに狂気の匂いが漂うセリフを吐き、男はくくく、と含み笑いをした。 「魔物の体内に無数の魔法文字を書き込んで戦闘能力を数十倍に増幅。さらに、厳重な精神拘束を幾重にも施して、 従順かつ強力な下僕に仕立て上げる。だが、まだ改善すべき点は多い……」 「一体につき、操作のために二人〜四人の術者が必要だったな。…で、その点を改善すべく、 自律行動が可能なように精神拘束を緩めてみたら、途端に暴走しやがった。貴様の言う通り、 フサの脳味噌を使った結果だぞ」  忌々しそうにランディが吐き捨てる。 「まだ試作体の段階だからな。当然、そんなことは予想していたよ。こういったことに犠牲はつきものだ。 ……そうでなくては面白くない。そう思わんかね?」 「ふざけるな」  かなり本気で頭にきているランディは、まともに取り合おうとしない。 「それに、私には他の仕事もある。…裏切り者を始末しなければ」 「……あのウィップアーウィルのバケモノ野郎か。やめとけ」 「何故だね?」 「あいつは単に貴様らの組織を利用しただけだろう。裏切ったなんて微塵も思ってねえだろうな。 天災かなにかだと思って諦めたほうが無難だ。あいつは殺しを楽しんだりはしねえが、 必要ならいくらでも残虐にも卑劣にもなれる。貴様のお仲間は、八つ裂きになって帰って来たそうだな」  別段珍しいことでもないのか、ランディは淡々と言う。 「くくくく。まあ、一理あるかもしれん。…だが、あの男の義腕一本だけでも、大きな犠牲を払う価値はある。 じつに興味深い研究対象だよ。…それに、他にも面白そうな連中が大勢この街には居る。 いずれ、全員私のコレクションに加えたいものだな」  ニヤニヤとした笑いを浮かべ、男は悦に入った表情をした。 ●第173話 投稿者:YS  投稿日: 1月14日(日)02時33分26秒  アーシィの試合が終わった頃、ロイは妙なことに気がついた。 (・・あれはケインさんとランディさんでしょうか・・)  以前にアーウィルから借りた通信球とよく似た玉を眺めていると、そこに知り合いらしき人影が写ったのだ。  眺めていたのは複製し改造した受信用の物で、別の場所に配置した複数の送信専用の物がえた情報を引き出す機能がある。誰かを追尾機能がないため確認が取れないのが欠点だ。  そして、もう一つ妙なものを見つけた。試合会場、つまりここから離れていく人影だ。顔は見えなかったが、試合会場にいたポチからの情報と比較した結果、間違いなく同一人物だ。 「・・あの、ディムルさん。これからどこにいくんですか?」  前を歩いているディムルに質問する。もし急ぎの用がないなら、確認のためにどちらかに行ってもらうつもりだ。 「試合を見に行くつもりだけど・・」 「賭けですか?」 「生活費があまりなくてね」  心底絶望的な顔でいう。相当きついのだろう。 「・・だったらバイトしませんか?」 「紹介してくれるのかい?」 「・・いえ、違いますよ・・」 「じゃあ、どういう・・」 「・・今から言う方向にいる覆面さんを尾行してほしいんですよ、報酬はこの位で・・」  ロイが出した金額は5000ゴールド。十分すぎる額だ。 「覆面?」 「・・さっきまで試合していた人みたいですよ・・」  その一言でディムルの表情が変わった。 「わかった。けどそんなに子供から貰うわけには・・」 「・・大丈夫ですよ、教会の維持費に回すつもりだったんですが足りなくなったらケインさんに援助してもらえますから・・」 (・・強制的にですが・・)  最後は話さないでおく。誰であろうと油断さえしていてくれれば、どうとでも扱える。それがロイが昔教わった生き残る方法だ。 「わかった」  本当はわかっていない。わかっていれば余計に受け取る気にはなれなかっただろう。ディムルは覆面を追うことで頭がいっぱいだったのだ。  ディムルはすぐに覆面を追いかけにいった。 (・・さて、追い付くかどうかわかりませんが、とりあえずは大丈夫でしょう。ポチも皆さんが出場しなかったお蔭でメモリーが余裕だったからアーシィさん用に組み替えてありますし・・)  そうして考えごとをしていると、別の情報が入ってくる。  いや、正確にはすでに入ってきていた情報だ。  魔物が興奮しているのだ。何匹いるかはわからないが、少しずつ街に近づいてきている。先ほどまで・・正確には今朝からだが・・はたまたま興奮していたのだと思っていたが、違ったようだ。自警団や公安が試合に参加しなかったのはこれが理由なのだろうか? 「・・えと、トリーシャさん・・」  『診殺』を見たため放心していたトリーシャに声をかける。 「え!?どうかしたの?」 「・・えと・・」  そこまでいって止まる。誰か手伝ってくれそうな人のところまで連れていってほしかったのだが・・  延々と病気にかかっていてシュウはだめ。ここまでくると病気と呼べないのではないかとも思ってしまう。いままで、ロイは病気にかかったことがないからだが・・怠惰病というものがあるならかかったことはあるかもしれない。  ディムルは覆面を追っていった。分身できるはずもないので無理だ。  アーウィルは・・頼めばいいかもしれないが、あてにはならない。なにより彼とは約束してある。なにかあれば手伝うとこちらからいってあるので向こうから要請がないので彼の興味のあることは起きていないということか、あるいは誰にも知られたくないのだろう。  ケインは先ほど”見た”ばかりだ。自警団も公安もなぜか出払っている。あと残るは・・ 「・・ブルーフェザーの人のところに連れていって貰えませんか?」  さんざん悩んだ結果、ロイはシュウに勝ったことのあるルシードを頼ることにした。 ●第174話 投稿者:美住 湖南  投稿日: 1月14日(日)14時55分10秒  まず最初、困った。何が困ったって、覆面男の行った場所がわからないのだ。腕を顔にもっていったと思ったら、いきなり消えた。移動魔法を使ったかかもしれないがそれにしては突然すぎた。 「わー!!どこに行ったぁぁぁぁ!!」  思わず声に出したが周りにほとんど人がいないのが幸いした。奇異なものを見る目や避ける人はいたが。 「どーするかなぁ?カイルだとマジで隣町に飛んだりすっからな。消える魔法なんて威力はたかがしれてるし」  こう考えていくと血が上っていた頭が冷え始めた。 「(確か、覆面は破れてたよな。覆面して試合に出るからにゃぁ人気がないところに行きたがるか?それとも人がいっぱいいるところに行くか・・・)」  人気がないところと言えば立入禁止区域で、人がいっぱいいるところと言えば観客席、コロシアム入り口、受け付け周辺、控え室。考えればキリがない。 「魔法使うか」  意を決すれば話は早い。 『リタ・サオ』  腕を前に出し、相棒である槍の銘を呼ぶと光が集まり一本の槍が姿を現した。  前後左右を見ても人はいない。 「誰も見てねぇか」  石突きとなっている魔法石を外し、代わりの石をどこからともなく出しはめ込んだ。こうすれば使いやすい。 『風よ、黒き人を探し出し我が前に映し出せ』  人差し指で長方形を描き出すと”黒き人”に当てはまる人物が次々と映し出された。その数約30。  魔力を使うので声に出さざるをえない。 「げっ・・・」  当てはまるのは髪が黒、服が黒、目が黒、等々。 『変更。服、黒き人を探し出せ』  その数は10人に絞られ、上から下まで黒は3人。1人は背が低すぎるので却下。・・・よく見ると自分だ。改めて自分の背の低さを実感してしまうと同時に魔法の難しさを知る。 「はあ・・・場所は・・・森と・・・コロシアム内」  森とコロシアムのほうを見比べる。コロシアムに決めた。森のほうが気になるが、服が違う。「さあぁて。5000ゴールド、ゲットだ」  唇が三日月の形になった。  お前は金しか頭にないのか? 「ほう。ここが例の・・・」 「そうだ。お前のような暴悪が好きそうなシロモノだ」 「くくっ。そうだな私にはピッタリだ」  男は先だって進む。ランディの皮肉をあっさりと交わして。  遺跡の入り口に入る。4時方向からナイフが飛んできた。全員何とか交わす。槍が男の鼻先をかすめ、上から剣、槍、ナイフなど鋭利な武器が多数降り注ぐ、地面が割れ落とし穴になる。男とランディはそのことごとくを交わすがついてきた男たちはそうもいかない。ほとんど何かしらの餌食になった。  遺跡の防衛機構が最大になって働いているようだ。 「面白い・・・研究には危険が無くてはな・・くくく ●第175話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 1月14日(日)18時20分47秒  ケインは正直ランディ一行が何をしようとしているのか、まるで検討もつかなかった。  アーウィルと別れたあと、ランディ一行を追いかけていたのだが、まさか未発見の遺跡内部に足を踏み入れるとは思っていなかった。 (誤算だな・・・)  そうごちながら姿を現す。実を言うと、透明化していたわけではない。そもそも透明化するということは光を透過してしまう、すなわち本人も目が見えない状態になる。  ケインがいままで姿を見せなかった能力はカメレオンの擬態の進化発展型というべきものだ。 「まったく・・・ランディ一派とは違うやつも混じってるな。挙句に遺跡は罠の雨あられときたか」  辺りを見回せば黒ずくめが数人倒れている。姿を消しているうちに目立たない者から倒したせいだ。  ロープは持ってきていないので手甲と鋼線で木に縛り付けてある。もう手甲+鋼線のセットも必要ないかもしれない。彼は『人あらざる者』であり―魔力の具現化もできるようになったのだから。 「おまけに一人はマッドサイエンティストか・・・コレクションにされたら適わんし、出てきたら殺しておいた方がいいよな」  もっとも、手っ取り早い方法を選ぶなら入り口から特大規模の魔法を叩き込めば終わりだろうが、遺跡の詳細が不明な以上、迂闊に手を出すわけにも行かない。  と、ケインの第六感ともいうべきものが異常を捉えた。ここからはかなり離れているが、第一封印を完全解放させた状態ならば捉えられる。モンスターの大群のようだが。 「ま、あっちはリカルドたちがいるからいいか。ってこのことを察知していたのか」  ならばどうやって?そんな疑問が浮ぶがどうでもいいといえばどうでもいい。自分の知らない情報機関でもあるのだろう。  そうこうしているうちにランディらは遺跡深部に入っていったらしい。と、ケインは眉間に痛みを感じた。 「痛っ!」 (まだこの感覚量に身体が慣れてないな・・・町なかで解放させてたら脳に異常をきたしかねんといったところか) 「急に力に目覚めるってのも・・・考え物かな。普段は“閉ざして”おくか」  第一封印部分的発動。感覚器の能力が半分ほどに落ちる。これでも常人を超えるレベルだが。  地べたに腰を下ろしてランディ達を待つ。あの技師はなにがなんでも殺しておこうと心に決めて。  その頃、アルベルトたちは魔物の大群を目視可能な距離にいた。今ここには自警団と公安維持局の主力が集結、迎撃態勢を整えていた。 「なんて数だ・・・」 「こんなモンスターの大群と戦うのか・・・」  弱気になる団員に対し、リカルドは一喝した。 「いいか!確かに凄い数だ。だが、統制がとれてるとは思えん。チームワークを乱さなければ、必ず勝てる!」 「そのとうりだ!いいか、お前ら!こっから先へは進めるなよ!」  アルベルトが言葉を継ぎ、愛用の槍を構える。モンスターの大群との距離は30メートルにまで近づいていた。  一方、コロシアム内を進む男が一人。ディムルは黒服の男を追っている。もっとも、彼の頭の大半は (5000、5000、5000)だが。  と、彼の視界に一人の男。黒服ではない。見慣れた顔には多少困惑が浮んでいるようにも見える。 「アーシィ!」  ディムルは彼、アーシィに声を掛けた。 ●第176話 投稿者:タムタム  投稿日: 1月14日(日)19時47分52秒  選手控室。そこでアーシィはいつも以上にぼーっとしていた。ここまで試合が進むと一筋縄ではいかない連中が残り始める。自然と試合は長引き、待ちの時間が長くなって来る。  ふぅ。と溜息を吐き天井を眺める。別に何かが見える訳ではない。だが、気持ちの整理をするのには丁度良いかも知れない。頭の中に有る幾つかの疑問を思い起こしていく事にした。  かなりどうでもいい事だが、最初自警団と公安の人間は大武闘会には出場しないと言う情報が有った。が、パメラ、ボル、ギャランは試合に出ていた。ちょっぴり変に思ったが、基本的に三人とも問題児。命令無視でもしたんだろう。(もしかしたら厄介払いかも知れない…)  変といえば何故か未だにポチの姿を見ていない。試合もしてるし、勝ち残っている筈なのに、である。もしかしたら、ただ単に時間帯の違いかも知れないが。  まあ、それらの事は些細な問題に過ぎない。一番の問題は先ほどアーウィルが残していった言葉だ。 『あれは、シュウであってシュウではない。全くの別人みたいだったろう? 少しばかり、複雑な事情があるのさ。過去に相当キツイことがあったらしくてね』  シュウの過去に何が有ったかはアーシィには知る由も無い事だ。が、アーウィルの言葉が正しいならシュウは二重、もしくは多重人格と言う事になる。 「(相当きつい事…か)」  何と無く解らない気がしないでもない。受け入れる事が出来ないほどのつらい事実…それに直面した時、人は無意識のうちにその事を心の奥底に押し込んでしまう事がある。  その後、“別の人間”として生きるか“壊れる”かはその人しだいだ。シュウは前者の様だが…アーシィは後者だ…。 ―炎の魔法の直撃を受け、弾き飛ばされたその小さな身体が鞠の様に地面を転がる。目の前の女性が何か叫んでいるが何も聞こえない。駆け寄って来ようとするがその腕はがっちりと捕まれている。  その子は無数の切り傷と大きな火傷を負った身体を持ち上げる。泣きながら女性を捕えている男に向かって行くがかなう筈も無く、蹴り飛ばされ宙を舞う。  男は隣にいた男に合図をする。合図を受けた男の手から氷の槍が生まれ、放たれた。刹那、女性が自分を捕えていた男の腕に噛み付き、その子の前に踊り出る。  氷の槍が女性を貫き、目の前が鮮血に染まった。覆い被さって来た女性の身体から流れ出た液体はその子の髪も、身体も、瞳をも赤く染めてゆく。  何やら言いながら遠ざかって行く男達を見ながらその子は知った。大切な“姉さん”を護れなかった事を。その子は誓った。男達に対する復讐を。だが、その記憶は心の奥底へと追いやられ、憎悪だけが残された―  紆余曲折を経て今に至るが、この記憶は未だに封印の下に眠っている。一度壊れてしまった精神だが、今はある程度落ち着いている。(それでも、相手によっては…)  とその時、突然聞きなれた声が聞こえてきた。見ると、控室の入り口からディムルが入って来た所だった。何だか切羽詰った様子から察するに、応援に来た訳ではない様だ。 「黒服は何処行った!?」 「黒服?あの覆面選手の事かい?」  なぜにディムルが彼を捜しているのかは解らないが、とりあえず聞いてみる事にする。 「ああ。5000…じゃなかった、そいつの事だ」 「?。ここにはいないよ。でも、何でそんなに躍起になって捜すんだい?」 「5000の為。っと、もしかしたら、そいつはカイルかも知れないからな」  5000と言うのはよく解らないが、理由は解った。 「彼はカイルじゃないよ。戦ったからよく解るさ」 「え゛?」  壁に貼ってあった試合表を見ると、アーシィVS覆面となっていて、勝者がアーシィとなっていた。視線を戻すと、赤黒い物が見えた。アーシィの脇腹にべっとりとこびりついた物を指し尋ねたら、切られたと言う答えが返ってきた。 「…別の所を捜すかな」  そう言うと、ディムルは控室から立ち去った。そして、丁度入れ違いになる様に審判が姿を現す。 「アーシィさん。そろそろ試合です。準備してください」 ●第177話 投稿者:ashukus  投稿日: 1月14日(日)21時26分45秒 ワアァァァァァァァァァ!! 『さて、怒涛の快進撃を続けるアーシィ選手。対するは実力派剣士レオン選手』 お決まりのアナウンス、そして試合場にアーシィとレオンが姿を現す。 『それでは・・・・・・試合開始!!』 ワアァァァァァァァァァ!! ヒートアップする観客席でディムルは覆面男を見つけた。観客席を通りどこかへ向かう男から少し距離を取って尾行する。 「(5000G、5000G、当面の生活費は心配ない)」 自然と顔が笑っているディムル。と、そんな時に・・・ 「《俺を付けている奴、一つ教える。俺は『カイル』とかいうあんたの追っている人物じゃない》・・・これは」 ディムルの頭に覆面男が直接語りかける。 「それでも、おれも生活かかってるんでね《フッ、たかが5000Gのために死にたいのか?》」 まぁ、なぜそこまで知っているのかは別として・・・ 「面白い、おれを殺すとか?《そうだ・・・と言いたいが、今日は武器も無ければ時間もない。これで失礼するさ》」 そこまで言った(?)その時 バキッ 「なんだこの野郎!!」 突然、鈍い音と共に観客の一人が怒鳴り出す。そして 「わ、わざとじゃねぇんだよ!!」 「てめぇが殴ってきたんだろ!!」 「手が勝手に動いたんだよ!!」 「ふざけんじゃねぇ!!」 バキッ 「てめぇ、何しやがる!!」 バキッ その観客二人は殴り合いを始め、それは徐々に乱闘騒ぎへと発展していく 「おい、ちょっと通せ・・・コラ!!通せ!!《フン、人間など愚かしい存在だな。一発殴ればこの有り様・・・さて、そんな状態では魔法も使えまい》」 その騒ぎにディムルも巻きこまれ身動きが取れない。その間にも覆面男は何事も無い様に歩いている 「くそっ、お前の仕業かおい、逃げるな!!」 そんなディムルを無視して覆面男は姿を消した・・・ 「5000Gが逃げる!!静まれぇぇ!!」 『グラビティ・チェイン』 その瞬間、観客たちの動きが鈍くなる。その間にディムルは覆面男を再び探しだした。 コロシアムを抜け出した覆面男もといシュウは祈りと灯火の門にいた 「(フン、しょうがない。あの出来そこないの『合成魔獣』は俺が始末をつけるか)」 と、その時、唐突に肩を叩かれ後ろを振りかえる。そこにはルシードを探すトリーシャとロイの姿が 「(こいつらは・・・アイツの知り合いか。面倒だな・・・)」 「どしたのこんな所で?風邪ひいてるとか聞いたけど歩き回って大丈夫なの?」 「いや、まだ治っていないけど・・・まぁ散歩だ(フン、なんで俺がアイツの口調を・・・)」 「ふ〜ん、無理しちゃ駄目だと思うけどな」 「ところでブルーフェザーの人がどこにいるか分かりませんか?」 ロイの発した『ブルーフェザー』という言葉を聞いた瞬間、シュウの顔が険しくなる 「どうかしましたか?」 「いや・・・ブルーフェザーの人か。分からないな・・・悪い、調子悪くなってきた。寮に帰らないとな(そうだ、あの男も今この街に)」 そう言うと彼は調子の悪い振りをする。 「ごめんね。それじゃあお大事に」 「トリーシャさん、とにかく探しましょう」 「そうだね」 そしてトリーシャとロイの二人は去っていった。その二人が去ったのを確認したシュウ、唐突にその姿を消しどこかへ行ってしまった。 ●第178話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 1月15日(月)17時29分18秒 「シュウのことは大丈夫そうだな。アーシィは馬鹿じゃない。いたずらに事を荒立てるような真似はしないだろう」 『そうね。ま、シュウは精神構造はかなり特殊だわ。ただの多重人格障害とは違って、 あれは一種の特化した環境適応能力よ』 ≪普段表に出ている人格は、本来通常の人間社会に適応しない真の人格をカモフラージュする機能を持っている。 結果として、極めて合理的なシステムを形成するに至っているわけだな≫ 「偶然か必然かはともかくとして、か。……それにしても、この街は大成功ですね、我が主」 ≪ああ。五十年前に、おまえたちをこき使ったかいがあったというものだ。次に忙しくなるのは…… 三百年後、全ての仕上げの段階だ≫ 「は……」 『楽しみね……わたしたちが自分の機能をフルに使える機会なんて、滅多にないんだから』 ≪そうだな。<コードΩ>、<コードα>。とりあえず、この街の治安組織に協力してやれ。ただし、目立ちすぎるな≫  その言葉を受け、このどことも知れぬ空間から、二つの気配が消失した。 「さて……こいつらの扱いも決めなきゃな……」  ケインは鋼線で縛り上げた黒装束たちを見、嘆息した。 「放っておくわけにもいかんし……。ん?」  不意に、ケインは異常に気付いた。いつの間にか男達は目を醒まし、全身に力を込めて鋼線を引き千切ろうとしている。 「やめとけ。人間の力じゃ無理だ。腕が千切れ飛ぶぞ」  だが、男達はやめない。それ以前に、どうも最初からケインの言葉が耳に入っていないようだ。  ギシギシと鋼線が軋み、今にも弾け飛びそうに見える。 「マズいぞ……もしかしてこいつら人間じゃない?」 ぶつん……  不快な、肉を断つ音が響く。そして同時に男達の身は自由になっていた。だが、鋼線はそのままだ。 「おいおい……。そんなのアリか?」  千切れたのは、男たちの腕だった。自らの腕を引き千切り、鋼線の戒めから解放された瞬間、 切断された腕を元通りに再生させたのだ。断じて、人間ではない。 「名前も知らない敵くん。どうかな? 驚いたかね?」  先程の技師の声が響く。 「この声は録音だから、会話はできない。あしからず。いま君が相対しているのは、私の作品の一つでな。 意識を失ってから数分経つと、このように本領を発揮する。戦闘能力はその辺の魔物とは比べ物にならないから、 気を引き締めて戦うことだね。あー、逃げることはできないのでそのつもりで。人格も感情も消し飛んでいるから、 どこまでも君を追っかけて来るよ」  ギリ……とケインは奥歯を噛み締めた。 「ふざけた真似を……」  そのケインの神経を逆撫でするように、技師の言葉は続く。 「これらと戦って生き残れたら、是非会ってもらえないかな? 私の研究に協力して欲しいんでね」  どうやら、これで終わりらしい。同時に、男たちが信じ難い瞬発力を発揮し、人間大の旋風と化してケインに襲いかかる。 ●第179話 投稿者:タムタム  投稿日: 1月17日(水)20時30分34秒 「ん〜…?」  鳩尾と顎にズキズキとした痛みがあるが、身体を起こし辺りを見回す。トーヤとディアーナが居る事から、ここは医療室なのだろう。しかし、何故ここに居るのか解らない。 「意外と早く目が覚めたな。身体の調子はどうだ?異常は無いと思うが」  トーヤに診察を受けたらしい。自分の身体を見回す。その時になって、上半身に何も着けていない事に気がついた。別に気にもならないが。 「試合、残念でしたね」  ディアーナに言われ、ようやく理解した。レオンと戦い、負けたのだ。 ―アーシィはレオンと向かい合う。魔法力が残っていない為銃は使えない。カードは使う気が無いので魔法も使えない。よって、手にしているのは月光双牙だ。  先に仕掛けたのはレオン。剣を腰だめに構え、突撃する。間合いに入ると同時に放たれた突きがアーシィを狙う。だが、アーシィも右手のナイフを振るい、軌道を逸らそうとする。  刃と刃が絡み合い動きが止まる。が、それも一瞬。レオンは手にした剣を横に振るいナイフを弾く。アーシィの右手側ががら空きになるが、それはレオンも同じ。すぐさま逆手に持った左のナイフを振るう。しかし、 「今の貴方ではわたしには勝てません」  左のナイフが相手に届くより早く、返された剣がその攻撃をも弾き飛ばす。この時点でアーシィを守るものは何も無い。距離を取り、体勢を立て直そうとするが、それはかなわなかった。  すぐさま追撃に移ったレオンがぴったりくっついて来ている。後ろ向きで逃げ切れるはずも無く、剣の柄尻が鳩尾に叩き込まれ、うつむいた所にすくい上げられた一撃が顎を捕えた。  徐々に意識が遠くなり、彼は気を失った。―  試合の内容を思い出し、ようやく鳩尾と顎が痛い理由を理解した。脇腹の傷も開いていないので大丈夫だろう。胸から背中に掛けての火傷の跡も、縦横無尽に走る古傷もいつも通り。異常は無い。 「大丈夫みたいだよ。トーヤ先生」 「それはよかった。ちょっと付き合ってくれないか?」  気が付けば後ろにリサがいた。一体何処に付き合えと言うのだろうか? 「無茶はするなよ」  そして、リサとアーシィは医療室を後にした。 「隊長!このままでは・・・」 「あきらめるな!」  自警団、公安とモンスターとの戦いは熾烈を極めていた。リカルドとアルベルトは負傷者を庇いながら戦うため、思う様に動けないでいる。加えて公安は実戦慣れしてない連中が多く、明らかに浮き足立っていた。 「ちきしょう。オラオラオラ!てめぇらどけやがれ!」  自棄になっている様な戦い方だが、アルベルトの槍は確実に敵を仕留めて行ってる。が、敵のほうが圧倒的に有利な状況に変わりは無い。とその時、一発の銃声が鳴り響いた。にもかかわらず、六体のモンスターの頭が吹き飛んだ。 「アル。水臭いじゃないか」 「アーシィ、リサ!」  近付いて来るのは紛れも無くリサとアーシィだ。アーシィの手に握られているのは何時もの魔法銃ではなく、古びた拳銃。撃ち尽くした銃弾を排出し、新たな弾丸を装填しながら隣に並ぶ。 「アル、皆を下げてくれ。今から面白いものを見せて上げるよ」 「あ、ああ…」  “あの時”と同じくアーシィは危険な目をしていたが、今はそれ所ではない。全軍に下がるよう声を張り上げる。そして、アーシィは右手と左手に多数のカードを持ち、呪文を唱え始める。 『炎と地のカードに込められし魔力よ、ただ純粋に調和するその力を示せ。わが魔力に導かれ奏でられるは紅き炎の交響曲≪イラプション・シンフォニー≫』 『風と地のカードに込められし魔力よ、荒振り破壊するその力を示せ。わが魔力に導かれ奏でられるは破滅をもたらす狂詩曲≪ストーム・ラプソディ≫』 『地と水と雷のカードに込められし魔力よ、互いを求め合うその力を示せ。わが魔力に導かれ奏でられるは終わる事無き輪舞曲≪アーク・ロンド≫』 『水と風のカードに込められし魔力よ、静かに留まりゆくその力を示せ。わが魔力に導かれ奏でられるは氷の乙女の鎮魂歌≪アイス・レクイエム≫』  その手に持ってた赤と緑、紫と緑、緑と青と黄色、青と紫のカードが形を失い消失し、ほぼ同時に魔法が放たれる。  地面から噴出した天を焦がすほどの炎が魔物を飲み込む。続いて発生した烈風が炎目掛けて収束したと思うと、すぐさま弾け飛び、熱波を伴う鎌鼬となりてきを切り刻む。そして、目も眩むほどの雷が荒れ狂い、止めとばかりに凍てつく冷気がモンスターを氷の彫像へと変え、永遠の眠りをもたらした。  これで、戦力は五分と五分。 ●第180話 投稿者:ashukus  投稿日: 1月17日(水)22時27分33秒 「オラオラオラオラオラ〜ッ」 アーシィの銃、アルベルトの槍、リカルドの剣、リサのナイフが魔物を次々と倒していく。 新種の魔物、数そして実践経験の乏しい公安局員という悪い状況の中、彼らは戦っていた。 アーシィ、リサの援護によって押されていた戦況は五分に傾いている。 「すげぇな」 自警団員の一人が呟いた。 「俺も頑張ろう《いや、その必要は無い》」 突然その自警団員の頭に声がする。しかしその声に気が付いた時その自警団員は気を失っていた。 「・・・この剣を借りるぞ」 彼の背後にいつのまにかシュウの姿があった。倒れている自警団員の剣を奪う。 「・・・フッ、こっちは何とかなりそうだな。手間が省けた」 アーシィたちの戦いを見て一言、そしてシュウはその姿を消した。 自警団詰め所 シュウは扉を開けて中に入る。そして壁に手を当て・・・ ギィィィィ 隠し扉を開ける。するとそこには地下へと続く階段があった。 「・・・フン、良い趣味をしている」 シュウは階段を降りていく。その階段の先には・・・ 「ここが例の・・・さて」 彼は何かの研究施設のような場所に辿りついた。そして辺りを見回す。と、その瞬間 ドサッ 地下室の天井を突き破って一体の魔物が降って来た。その魔物は興奮しているのか、辺りを手当たり次第に破壊し始める。 「・・・出来そこないの『合成魔獣』が」 それを見ていたシュウはそう一言、そして剣を構える。それに気が付いたその魔物はシュウに飛び掛かる。 「コロスコロスコロス」 「・・・フッ、死ね」 シュウは精神を集中させる。そして・・・ 『亜楠流剣術奥義ノ四 飛水』 向かった来た合成魔獣を一閃。強烈な斬撃を叩き込まれた魔獣の動きが鈍くなる。 「コロス・・・コ、ロス・・・コロ・・・ス・・・」 「・・・まだ生きているのか。『不良品』如きが」 シュウは魔獣を一瞥し再び剣を構え、流れるような動きで魔獣に斬りかかる。 『亜楠流剣術奥義ノ参 乱流』 刹那、無数の剣閃を身に纏ったシュウが魔獣を切り刻む。 「コ・・・ロ・・・ス・・・コ・・・ロ・・・・・・ス・・・・・・」 魔獣はその場に倒れ、動かなくなった。息絶えたのだ。それを冷たい眼で見下ろすシュウ 「フッ・・・・・・うっ、ぐあ」 その時唐突にシュウが頭を抑えて苦しみ出す。 「・・・時間か・・・力を使い過ぎた。しばらくは出れない、か・・・だが任は果たした・・・」 頭を抑えながらシュウは持っていた剣で部屋の柱を一閃。すると魔獣が部屋を破壊したせいもあり、 地下室が崩れ始めた。そしてシュウは魔獣の亡骸を残しその姿を消した。