●第161話 投稿者:美住 湖南  投稿日: 1月 5日(金)23時19分52秒  グラシオコロシアム。ディムルの姿があった。マリアから解放されたらしい。が、きっちり一緒にいる。 「さて、誰に賭けるか」  手元には200G。そんなに切り詰められているのか!ディムル!! 「次、アーシィだよ☆」 「相手は・・・ゴーレム(ハ)?なんだ!?こんなバカみたいな名前」 「いいネーミングにしないのかな?」 「決まりだ。アーシィに50G」  ・・・・・・。 「それだけ?」 「これからのことも考えて、だ」  この後、ディムルは1.5倍になった75Gを受け取る。 「えーと、パメラVSハーピー。アッシュVS炎星。アーシィVS・・・」  ディムルの言葉が止まった。 「どうしたの?ディムル」  マリアが用紙をのぞき込む。 「「・・・・・・ドクターぁ???」」  アーシィの相手にはトーヤ・クラウドとなっていた。 「冗談だろ?」 「どうするの?誰に賭ける?」 「・・・炎星に100G。相手がアッシュなら間違いないだろ?」  ディムルが受付に行く途中。  真っ黒で明らかに浮きまくっているランディにばったりと会った。 「・・・ディムル・マークレットか」 「?? 名前は言っていないはずだけど。なんで知っている?」  口元が引き伸ばされる。わずかに。 「ちょっとした情報屋さんがいるのさ。おっと。これは秘密だった」  あえて言った感じだ。どう見ても(聞いても?)口を滑らせたとは思えない。 「ま、いいだろ。そう言えばお前には聞いていなかったな。カイルというヤツを知っているか?」  ランディの表情が少し動いた。当然ながらディムルは見逃さない。 「大丈夫だ。この喧噪。聞こえるヤツはいないだろう?」  この話はランディの様々な経験とディムルの耳の良さがあって初めてできるものだ。他のメンバーならばここまでスムーズにはできないかもしれない。 「・・・ふっ。それもそうだ。いいだろう、教えてやる。  知っていると思うが、本名はカイル・ゼルレーム。異名やらなんやらのほうが有名みたいだがな。3年前の事件は知っているだろう。アレは・・・ウィップアーウィルも関わっている」  アーウィルの名を言う前の間が気になる。 「それは知っている。・・・あんたはもっと深いところまで知ってるようだな。アーウィルは言わなかったが」  ちょっとした間に言葉を滑り込ませた。 「ふむ。よほど知られたくないようだ。アレのことは。カイルと、ウィップアーウィルは『共犯』とだけ言っておこう。死にたくないんでね。何とか生き延びられたくらいだ」 「聞かないでおこう。・・・居場所は知っているか?」 「ずいぶんと前にローレンシュタインに居たらしいが、今はしらん」 「そうか」  ディムルは踵を返した。 「聞いておいて、こっちには訊ねさせないなんて無いよな。・・・お前とカイルの関係は?」 「おれの命の恩人であり恨む者、そして師弟。これでいいか?」  のちのランディがいうに、ディムルのかなり暗い部分がかいま見えたそうだ。 「十分だ」  ディムルは受付へと行った。 「(あいつがカイルが言っていた自慢の弟子か。・・さて、仕事仕事)」  ランディはいずこに行くか。  受付。 「(アーウィルとカイルが『共犯』。聞き出してみるか?でも、ランディのことは言えねぇから・・・)」  彼がもやもやとした思考の渦へ入ろうとしていると、受付嬢−ステラ・リップス−が、 「これで今試合の時間を終了させていただきます」 「あぁ!ちょっと待った!!」 ギリギリ、間に合ったらしい。 ディムルがステラの好みだった。これは彼女しか知らない事実であった。 ●第162話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 1月 6日(土)14時54分16秒 「遅かったな」  外に出たランディに、黒づくめで覆面をした男が声をかけた。手に、なにやら長い包みを持っている。 「ディムルに捕まってな……。三年前のことを聞かれた」 「ふん……あのことか。なかなか面白そうな連中のようだな、その二人は」  言うほど面白くもなさそうな口調で男は呟き、冷笑した。 「そう言えば、おまえはウィップアーウィルと雷鳴山で面倒事に巻き込まれたそうだな」 「そんな事もあったな。……まあ、あいつが人間ではあり得ない事ぐらいしか解らなかった」  相変わらず、面白くもなさそうに吐き捨て、男は歩き出した。 (アイツが風邪をひいていたお陰で、駆り出されずにすんだな……。今回だけは、あいつの甘さが役に立った)  ランディと男が暗い路地に入ると、すでに数人が待機していた。 「さて、さっさと給料分働いて片付けるぞ」  投げやりなランディの言葉を合図に、彼らは動き出した。 「ずいぶんでかい組織だな」  アーウィルから話を聞き、ルシードは唸った。 「ああ。根絶したければ、連邦をあげて叩くしかないぞ。所持する兵器の戦力だけなら、国家並だからな」 「でも、人数はそれに比べれば少ないんだろ? そいつらを捕まえちゃえば、それで終わりじゃん」 「ビセット……楽天的過ぎ…」  お気楽なビセットの意見を聞き、ルーティが嘆息する。 「そうそう。大甘だよ、ビセット。古代魔法の技術を使ってるなら、自律行動が可能なヤツだってあるでしょうが」 「バーシア……熱でもあるんじゃないか?」 「失礼ね! これが普通よ!」 「まあまあ、センパイもバーシアさんも落ち着いて…」  いつものやりとりを始める面々を見、アーウィルは溜息をついた。傍観しているルーティに耳打ちする。 「いつもこんな風なのか?」 「そう。いつもこんな風なの」 「よく今までやってこれたな……」  感心しているのか呆れているのか、かなり微妙な表情でアーウィルは言い争っているルシードとバーシアを見た。 「あ、そう言えば!」 「ん?」  急に声を上げたルーティは、伸び上がるようにしてアーウィルの顔を覗き込んだ。 「ねえ、まだこの街にいるんでしょ? その生命を持った人形って」 「まあ、居ると言えば居るが……ほとんどの人間は知らない。役所の戸籍も、自分が念入りに偽造した上で証拠を消してある」 「……そんなこと言っちゃっていいの?」 「証拠が無いからな。今の言葉を元に自分を自警団に突き出しても、自分が知らないと言えばそれで終わりだ」 「会えないかな……」 「あ! オレも!」  向こうでは、ルシードとバーシアの口論がとりあえず終結をみたらしい。 「本人は人間として生きたがっているからな……あまり人形として見られることは好きじゃない」  ようやく、ルシードがこちらに向き直った。 「コホン……。じゃ、話の続きだ。知ってる事を全部吐いてもらおう」 「残念だが……」  取り繕うように咳払いをするルシードを制し、アーウィルは義腕を構えた。 「そろそろ行かなくちゃならん時間なんでね。今日はここで失礼する」 「なっ……!? こら! ちょっと待て!!」 「第三起動」  青い光を纏った義腕の拳で目の前の空間を殴りつけ、硝子の砕けるような音とともにアーウィルは姿を消した。 「くそ……ゼファーから聞いてたことを忘れてたぜ……。空間を破壊して逃げやがった」 「こんな風に逃げられたってゼファーが知ったら、なんて言われるかしら?」 「うわー…手品みたい」 「すげーな……」  四者四様の反応を見せるメンバーをよそに、フローネは一人戦慄していた。 「やっぱり……あの人は人間じゃない…」 ●第163話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 1月 6日(土)16時58分05秒 「ぐぎょえええ!」  空間を渡ってきたアーウィルは、何かを踏みつけていた。転移後に高さ2、3メートルの辺りに放り出されたせいだが。 「なにやってるんだい、ケイン?」 「どけやぁぁぁ!」  アーウィルの足元にいるのは、金髪碧眼、コートを纏ったハーフヴァンパイア、ケインだった。今は眼鏡を掛けていない。  アーウィルが素直にどくと、ケインはゆっくりと立ち上がり、コートに足跡がついてないかチェックすると、 「お前なあ!空間転移かますのは本人の勝手だが人を踏みつけんじゃねえ!」 「いやしかし、これは不可抗力というものだよ」  怒鳴り散らすケインに穏やかに応じるアーウィル。 「で、君はこんなところでなにをしてるんだい?君のことだから武闘会にでたものと思ってたけど」 「ああ、親父からガラクタが部屋一杯に届いてな。それをここに売りつけてたんだ」  ここ、とは夜鳴き鳥雑貨店である。さすがに店主もあれだけの物を売りつけられてはたまらなかったようだが、魔術師組合に売れば倍以上になると言いくるめたのだ。  ちなみに総額13521ゴールド。  「そうかい」  話を切り上げてどこかへと立ち去ろうとするアーウィルだが、ケインのセリフに足を止めた。 「なるほどね・・・第一封印が解けた今ならわかる・・・お前、ほんとに人間じゃないんだな」 「それで?どうする気だい?」  振り返ったアーウィルの顔は―どこまでも涼やかで、しかし、その内側からは得体の知れない何かを漂わせる。 「・・・どうもしない。お前に喧嘩吹っかけたってなんの得にもなりはしない。どころか殺される可能性大だしな。ま、他人に迷惑かけないのなら手を出す理由もない。  安心しろ。俺はこれで口は堅いほうだ」 「・・・そうかい」  アーウィルの表情から何かが薄れていく気配。ケインは胸中で息をついていた。 (なんなんだ?今無茶苦茶怖かったぞ、オイ!)  と、その時、二人は同時に“何か”に気づいた。普通の人間なら気づきはしないだろうが、あいにく二人とも人間ではない。  アーウィルに目配せすると、アーウィルは首を振る。無関係のようだ。 「どうする?」  アーウィルの質問に、ケインはため息をついた。どうやら― (どうあっても面倒事とは縁が切れないようだな・・・)  一方、こちらはグラシオコロシアム。今、会場は異様なまでに盛り上がっていた。  なにせ、次の対戦はアーシィと、町一番の医師、トーヤ・クラウドなのだから。 「まさか・・・あなたが出場するなんてね・・・」 「わたしも男子なのでね・・・この大会に出たいという欲求くらいはあったさ」  会場で二人は対峙する。トーヤの参戦は、明らかに全員の予想外なことだった。 「せんせ〜い!無茶しちゃダメですよ〜!怪我しちゃうじゃないですか〜?!」  観客席からのディアーナの絶叫にもトーヤは 「心配するな。わたしは怪我人を作る側になるのだからな」 「・・・え〜と・・・それって物凄く危険なセリフじゃぁ・・・」 「ふっ・・・」  軽く苦笑すると、トーヤは構えを取った。左足を前にした、半身の構え。 「それでは・・・始め!」  審判が、試合開始を告げた。 ●第164話 投稿者:タムタム  投稿日: 1月 8日(月)16時36分13秒 ―観客席― 「う〜。どっちが勝つんだろう?ボク、緊張してきちゃったよ」 「まともに考えたらアーシィだろうけど…面白くなりそうだね」  握り拳を作って試合を見ているトリーシャとは対照的に、リサは椅子に寄り掛かりながらかなりリラックスしている。眼下ではトーヤとアーシィの戦闘が行われているが、双方共に素手だ。どうやらアーシィは銃も魔法も使う気はないらしい。  トーヤから繰り出される拳や蹴りを次々かわして行くが、必要以上に大きくかわす為、反撃する事も出来ない様だ。 「アーシィもまだまだ甘いね」  リサはそう呟くと共に、思わず(少し鍛えてやろうか)などと考えてしまい苦笑する。と、その時、戦況が少し変わった。トーヤの蹴りをかわさず、左腕でガードしたアーシィはお返しとばかりに右足で蹴りを放ったのだ。 「あーっ!惜しいっ!」  トリーシャが声を張り上げる。その蹴りは後ろに倒れ込むようにしてかわされた為、空を切っただけでダメージは与えられなかったのだ。  それにしても、トーヤは素人目に見ても強い。なぜ、町医者がここまで強いのか不思議でならないが、他の人は余り不思議に思ってないのか歓声は高まる一方だ。 「ん〜。これは困ったな…」  アーシィは呟くが、余り困った様には見えない。どちらかと言えば驚きと呆れているのを足して、三で割って端数を捨てた様な表情だ。(意味不明) 「ふっ、筋肉の動きからお前の行動が手にとる様に分るぞ。残念だがあきらめろ」  攻撃を後ろに倒れ込む様にしてかわした後、そのままばく転をして距離を取ったトーヤが、眼鏡を人差し指で上げながら冷静に言い放つ。 「……?」  思わず信じてしまいそうになったアーシィだが、ゆったりしたズボンにロングのコートを着ている以上筋肉の動きを見るのはまず不可能である。 「トーヤ先生、行きますよ」  言うが早いか、アーシィが一気に間合いを詰める。 「なに!」  アーシィを迎え撃とうとしていたトーヤは目の前に広がったコートを見て驚きの声を上げる。が、目隠しだと踏んだトーヤはすぐに左右を見るがアーシィの姿はない。 「くっ」  小さくうめき、上を向くと何かが横切った。間髪入れず振り返り、絶句する。上から降って来たのはアーシィではなく、テンガロンハットだったのだ。 「チェックメイトだよ。トーヤ先生」  右手を銃に見立て、人差し指をトーヤの頭に押し当てる。 「どうやら俺の負けの様だな」  あっさりと負けを認めたトーヤは審判へその事を告げた。 『アーシィ選手の勝利です』  ワァァァァァァ!!!歓声が上がる。その中でトーヤがアーシィへ恐ろしい事を告げた。 「お前は一つミスを犯したな。その少し腫れた左腕の治療は…ディアーナが行う」 「…!!まさかトーヤ先生…大武闘会に出た目的は…」 「知っているだろ?実戦に勝る経験は無いからな」  アーシィはそれ以上何も言う事が出来なかった。 ●第165話 投稿者:ashukus  投稿日: 1月 8日(月)17時10分34秒 男数人が去った後、暗い路地にはランディと黒ずくめの覆面男だけが残っていた 「・・・さて、あんたは例の『不良品』の始末が残ってるだろう?」 「チッ、面倒くせぇ」 「面倒くさい、か・・・フッ、あんたの能力なら楽なはずだが。場所はわかっているのか?」 「当たり前だ、もう使ってねぇ詰め所だ」 「・・・ああ、なら急いでくれよ。『不良品』が自警団に見つかると厄介だ」 「フン、そうだな」 そして、ランディは歩き出した。と、そのランディが唐突に・・・ 「そう言えば、聞いてなかったぜ。お前の目的はなんだ?」 「・・・目的?」 ランディの言葉にその男は不気味な笑みを浮かべながら 「あんたは『金』の為にだったな?俺は・・・そうだな強いて言うなら『興味』だな」 「ケッ、訳のわからねぇヤロウだぜ」 ランディは闇に消えていった。 「フッ・・・(俺はあんたが一番分からないけどな・・・とにかく、俺もやる事をやっとくか)」 そして黒ずくめの男は一瞬にしてその姿を消した ワアァァァァァァァ!! アーシィとトーヤの試合が終わったとき、観客たちは異常にヒートアップしていた。 しかし、控え室へと戻るアーシィはそれとは対象に憂鬱な気分になっていた。 なぜならこれからディアーナの『診察』もとい『診殺』をうけるのだから・・・ と、そんな時、次の対戦が始まり、審判の声が響く 「第四試合、公安維持局からギャラン選手!!そのエリート精神は異常とも言える公安の問題児です!!」 とっても厳しいアナウンスは別として、対戦相手は・・・オーガーだ 「それでは・・・試合開始!!」 ワアァァァァァァァ!! 「モンスターが僕に勝つ気ですか?」 ギャランは構えを取る。ひねりも無い教科書通りの構えを 「・・・・・・」 対するオーガーは無言で微動だにしない 「どうしたんですか?僕が怖いのかな?」 「・・・・・・」 その時だった。オーガーは突然前のめりに倒れこんだ。その後ろには 「・・・こんな雑魚じゃつまらないだろう?」 それは黒ずくめの覆面男だった 「おーっと、飛び入り乱入だ!!どうするギャラン選手!!と言うよりどこから入ったのか!?」 と、そんな時その男が審判に・・・ 「・・・おい、俺がこいつに勝ったら正式参加という事で良いか?」 「と言ってますが!!どうでしょう観客の皆さん!!」 ワアァァァァァァァァ!! 何気無く熱いシチュエーションに観客は再びヒートアップ 「と言うわけで良しとします!!それでは・・・・・・始め!!」 ●第166話 投稿者:YS  投稿日: 1月 9日(火)06時06分14秒  第四試合開始前、ロイはそれまでの試合において予想をすべて的中させていた。結果・・ 「・・10万ゴールドか、まだ足りませんね・・」  10万ゴールドもあれば、小さな土地であれば買えるというのに、ロイはそう呟く。  ロイの目的はこの大会で金を稼ぐこと、ただそれだけだった。そのためにポチも試合登録してあるし、全自動プログラムも組み込んである。  ロイ自身は金には興味はない。孤児院に世話になっていれば、生活費はかからないし、ポチの維持に必要な分は勝手に稼いでくれるからだ。  10万ゴールドもあるということは普通の暮らしならば、1年ほどならば何もせずに暮らせる金額ではある。 「随分豪勢だな、ガキにゃ多すぎるだろ」  いつのまにか、ロイは囲まれていた。囲んでいるのは数人の男達だ。ただのゴロツキとだろう。  彼等の足元に落ちている紙切れは、外したものだろう。その量から推測すると、かなりの金額を投入したのだろう。  もっとも、ロイの掛け金は最低1000ゴールド。投入金額だけなら負けてはいない。  ・・すべて的中しているので、的中率と回収率では圧倒的に上だが。 「ちょっと、貸してくれねえかな。俺等、貧乏でさあ」 「・・貧乏というわりには捨てた金額が多すぎるんじゃないですか?」  足元の紙をみる限りでは、1万は軽く賭けている。おそらく、勝った分もすべて次の試合にもまわしたのだろう。でなければ、計画性のなさそうな彼等がこれだけの大金を持っていたはずがない。 「だからさあ、ちょっとこっちきてくれないかな」  そういうと、男達はロイを人気のない場所にさそう。  断る理由もなかったので、ロイはあっさりとそれに従う。 「・・で、どうしてこんなところにさそう必要があるんですか?」  それなりに広いところで男達は再びロイを囲む。 「・・なるほど、子供から借りるのではなく・・」  そういいながらロイは懐に手を延ばす。 「・・奪い取るというわけですか・・」  気合いとか気迫、そういった物はまったくない状態でロイは懐からだした硬貨を投げつける。 「そんなもん効くかよ」  軽く払っただけで硬貨は男に弾かれる。  だが、次の瞬間払ったせいで、がら空きになった懐に、ロイの拳が埋まった。子供の一撃とはいえ、ロイの今の重さは30キロを越えている。それが全力で放つ一撃は、油断した大人一人を倒すのに十分だった。 「てめえ、このガキ!」  初めは仲間の冗談だと思っていたのだろう。だが、いくら待っても動かない仲間に冗談ではなかったことに気がつく。  ロイは、利子としてケインから奪っておいた宝石を一つ取り出すと、男達には聞こえないように、呪文を唱えはじめる。 「お、わかってんじゃねえか」  男達はゆっくりと近づいていく。先ほど仲間がやられた為、警戒したのだろう。そのため、ロイの呪文は男達が宝石を奪う前に完成した。 「・・天罰とかいうつもりはありませんが・・」  ロイが口を開けた為、警戒して止まる男達。 「・・死なない程度には実験に協力してもらいますよ・・」  いわれて、まだ何かするつもりだと気がついた男の一人がロイに向かって拳を振るう。 「・・もう、遅いですよ・・ゼロディバイド」  光が男達を包み込み、そして・・消えた。  あとには倒れた男達と無傷のロイが立っているだけだった。  宝石は粉々になっている。 「・・物質のエネルギーを無制限に増幅して放出する、いいアイデアだったんですが威力の調整ができないことと、一度しか使えないのが難点ですね・・って、聞いてないですね・・」  男達が倒れて動かないのを確認すると、ロイは第四試合に賭けるためゆっくりと受け付けに向かう。 「・・で、受け付けはどっちなんでしょうか・・」  連れさられたも同然なので道がわからない。  ロイが第四試合に賭けることは不可能になっていた。 ●第167話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 1月 9日(火)17時34分16秒 「大漁だな」 「大漁ですね」 「た、大漁って……」  妙に嬉しそうなトーヤとディアーナの横で、トリーシャが一人こめかみにうっすら汗を浮かべている。 「まあ、大漁と言えば大漁だね」  面白そうに闘技場を眺め、リサが飲み物を一口飲んだ。  現在、闘技場では飛び入りの覆面の男が、大量のディアーナの実験台……もとい、怪我人を製造中だった。  最初の試合でギャランを速攻で半殺しにし、正式に大武闘会に参加したのだ。 「それにしても、手加減を知らないヤツだね……。死人が出ないうちに、なんとかしたほうがいいかも……」  覆面の男が、容赦なく相手を叩きのめす様子を見、リサは若干表情を険しくした。 「うん。ボクもそう思う。……このままだと、助かる人も助からないかもしれない」  確かに、あの状態でディアーナの『診殺』を受けると、冗談抜きで命にかかわる恐れがある。 「そう言えば……あのバカは参加してないみたいだね……」 「参加してほしかったの? アーウィルさんに」 「参加するなんて言ったら一発殴ってやるところだったけど……あのバケモノなら、どんな相手にぶつけても安上がりなんだけどね……」 「丈夫そうだもんね……」  だが、実際はアーウィルはまたいつものようにどこかへ雲隠れしている。 「くそ……逃げ足の速い野郎だな」 「この場合『足』って言うのかなあ……」  思わずビセットに言い返しそうになり、ルシードは思いとどまった。今は不毛な言い合いをしている場合ではない。 「ゼファーが手に入れた資料によると……」  何故か『連邦最高機密』と赤い文字で書かれた冊子をめくり、ルシードは頭を掻いた。 「ルシード、なんかそれ持ってたらマズいんじゃない?」 「それは気のせいだ」  きっぱりと否定する。 「根拠は?」 「無い」 「不安……」  爆弾でも見るような目つきでその冊子を見、ビセットは呟いた。 「ゼファーって、いったい何者なのかしらね……」 「どうやって手に入れたのかしら、あんなの」  バーシアとルーティはかなり呑気だったが、ルシードほどではない。 「………」  フローネは先程から沈黙し続けている。 「フローネ、どしたの? なんか顔色悪いよ?」  それに気付いたルーティが怪訝そうに声をかける。 「…え? いえ、なんでも……」 「そうだな。あの野郎が消えてから、なんか顔色悪いぞ。大丈夫か?」  ルシードもこう見えてけっこう鋭い。 ●第168話 投稿者:美住 湖南  投稿日: 1月 9日(火)20時51分32秒 「ディ・・・ディムル。どうなってるの?」  試合はすすみ、次々とケガ人が出ている。気絶人が出始めているのでかなりヤバイ。 「さーなー。ま、黒服が妙に強いってだけだろ?今のところ」  興味なさそうに声を出す。それでも心では、 「(あの気配、あの戦い方、あの体格・・・準備ができてないってのに・・・)」  少なくとも、ディムルの目からはカイルにしか見えないのだ。 「そ・・それでも・・・」  強すぎることには変わりない。ほぼ秒殺に近いのだから。 「ディムル」  マリアがぴっとリングを指さす。「行け」と言いたいのだろうか。 「嫌だ!」  見事に一蹴した。 「受け付けに行ってくるよ」 「ディムルさん」  ロイだ。 「どうしたんだ?ロイくん」 「いえ、ちょっと」 「?」  頭の中が?だらけになっているディムルを少年は誘った。 「来てもらえますか?」 「別にいいよ」  この試合、賭ける気はなかった。マリアから逃れる口実に受け付けを出しただけ。受付嬢は奇妙な気配を出しているので行きたくないと言えば行きたくなかった。  連れて行かれたのは人気のないところ。 「この人達を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」  数人の男が折り重なって倒れている。気絶・・・と言っていいのか。 「これ・・・君が?」 「えぇ。魔法でちょっと」 「魔法にしちゃあまりにも・・・」  あまりにもすごすぎるのだ。ディムルの知識の限りでは。魔法に関してかなりの知識を持っていることを自負してはいるが、これは・・・。 「物質のエネルギーを無制限に増幅して放出するんです」 「む・・無制限!?増幅!!??」 「そうです」 「・・あ・・ぁ・・・ともかくドクターのところに連れて行こう。このままだと、ね」 「お願いします」  ポチがいないため、ディムルが抱えていくことになりそうである。できれば紐の何本かがほしいところだ。  ディムルはディアーナが『診殺』していることを知らない。  リングに近いのでラッキーとさえも思っている。 ●第169話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 1月10日(水)18時21分20秒  ケインはコロシアムの状況を『観察』していた。ちょっと空間をねじ曲げて映像を眼前の特定空間に映している。当然、『継承の儀』によって得た常人をはるかに上回る魔力があってのことだが。 「さてさて・・・変な事になってきたな。コロシアムで大騒ぎを起こして陽動、その間に仲間が行動するってわけだ・・・」  空間を戻して映像を消す。向こうは向こうでなんとかするだろう。 「で、どうするんだい?彼らを放っておいてもいいのかい?」 「それなんだが、アーウィルがランディを追ってくれ。あんたはこの町ではあいつと戦ったこともないんだろ?」 「見逃すかもしれないよ?」 「あいつらがこの町に被害を与えるようならお前も動くだろ。前にリサに『この町を破壊する気は無い』とか言ってたそうじゃないか」  「・・・実はブルーフェザーになんか目をつけられてるようでね。ケイン、君が行ってくれないか?」 「・・・さよか。じゃあシュウに連絡つけてもらえるか?」 「彼はまだ病気で寝てるんじゃなかったっけか?」 「まだ寝こんでんのか?」  そういってからふと、思いつくことがあった。コロシアムの黒服の体格が、シュウに似ているような気がする。  もっとも、シュウ自身標準的な体格をしているから人違いかもしれないが。 (雷鳴山でも別人っぽくなってた事があったな・・・)  今度、会って話しをしてみるか。そう思いながらケインはランディのあとをつけた。気配と、姿をかき消して。  『彼の言うとうり、面白いことになってきたんじゃない?彼ら、あなたに依頼してきた組織でしょう?コードΩ』 「まあな。しかしいまいち腑に落ちんな。トゥーリア―というよりもコッペリア効果が発動した人形か―を奪おうとしたり、アーシィを狙ったり。なにを考えているんだか・・・」 『で?どうするの?』 「さぁてな・・・」  道の真ん中で意識に聞こえる声に返事しながら、アーウィルは軽く空を見上げた。雲ひとつ無い青空だった。  グラシオコロシアムの医療室ではトーヤ、そしてディアーナの診察が続いていた。例の黒服のおかげでもう満杯である。トリーシャは部屋の外でやる事も無く壁にもたれていた。  と、何かを引きずる音。見やると、ロイとディムルが大量の気絶人を引きずってきた。 「あ、ディムルにロイ。と・・・なによ、その怪我人の山・・・」 「ああ、これですか。僕にたかろうとしてきたんです。で、撃退したと」 「そ、そう・・・」  冷や汗を流しつつ、苦笑いをするトリーシャ。ディムルにしても信じられない気持ちだったが。「で、一応診察してもらおうと思ってな」 「そう・・・まあ、大丈夫じゃない?まだ怪我人が多いから時間がかかると思うけど・・・」  そうこうしているうちにゴロツキの一人が目を覚ました。ゆっくりと顔を上げ、 「う、うあぁぁぁ・・・」  なぜか恐怖で顔を引きつらせて失神する。何事かとディムルが医療室を覗くと、ディアーナがいた。患者の『診殺』をして。 ●第170話 投稿者:タムタム  投稿日: 1月11日(木)06時46分43秒 「@#%$&*・\」  ディアーナの『診殺』を見てしまったディムルは言葉にならない声を出しながらその場を離れ始める。その表情は思わず『ム○クの雄叫び』と銘打ってしまいたくなるほどだ。  ロイは丁度見えなかったのか、不思議そうな顔をして首を傾げているが、トリーシャはそうもいかない。何しろアーシィが『診殺』を受けている現場を見てしまっているのだから。  その場面を思い出してしまったのか、その表情は恐怖にゆがみ始め、ディムルと一緒になってその場を離れ始める。それは余りに気の毒すぎて語ることも出来ない様な光景だったのだ。 「…あの…」  徐々に離れていく二人に声をかけるが、全く聞こえていないのかあるいは故意に聞こえない振りをしているのかは分らないが(恐らく前者)止まる気配は無い。 「…困りましたね…」  二人と男達を交互に見ながら考える。怪我をさせた責任としてここまで連れてきたが、二人が居なくては迷子になる可能性がある。 「…とりあえず、責任は果たしたと言うことで…」  あっさりと決断を下したロイは床に転がっている男達を尻目に二人の後に付いて行った。  何かが変だ。闘技場中央に立ちながらアーシィは考えていた。目の前には例の黒服覆面男がいる。トーヤと戦った後公安のボルと戦い、今は四回戦の筈である。だが、目の前の男はかなりの戦闘を重ねている。しかも、対戦相手がいきなり決まった様な気がする。 『さあ、やって参りました第四回戦。アーシィ選手対覆面選手。お互い死なない様に頑張って下さい』  とんでもねー事を言う審判である。一体何を考えているんだか…。 『それでは…始め!』  開始の合図と共に覆面が動いた。その一撃は鋭く、手にしたロッドで受け止める事が出来たのはほとんど偶然だ。 「単刀直入に聞く。その知識と技術を『組織』の為に役立てる気は無いか」  密着した状態から覆面が囁く様な声で聞いて来た。もしかしたら先ほどの一撃は手加減していたのかも知れない。 「どう言う事だ」  アーシィも囁くように問い返す。なんだか嫌な予感がする。 「創れるだろ?どこの軍隊にも負けない強力な『兵器』を。幽霊を精霊に変えれるんだ、簡単だろ?」 「!」  その言葉に背すじが凍る。それは当人以外に知る筈が無い事だ。すぐさまバックステップで距離を取ると、銃を抜き魔法弾を放つ。手加減無用の一撃だ。 「それが答えか…。まあ、俺には関係無い事だ」  来る事が解っていたかのように、流れる様な動作で銃弾をかわし刀を繰り出す。アーシィもロッドから剣の様に刃を出し受け止めようとする。が、刀は何の抵抗も無く振りぬかれる。  一瞬の間を置きアーシィの脇腹から鮮血がほとばしる。だが、すぐさま死に至るような傷ではない。覆面の刀を刃で受けたとき、刀が中程から切れ飛んだのだ。本来なら胴を真っ二つにされてもおかしくない一撃だった。  一方覆面は自分の刀を見て驚きの表情を見せている。そこに隙が在った。 『デッドリー・ウェッジ』  負の力が凝縮された楔が覆面へと打ち込まれた。