●第141話 投稿者:YS  投稿日:12月17日(日)02時17分30秒 「・・さて、偶然とはいえ、よく無事につけましたね・・」  ロイは今ある小屋の前にいた。  ここはランディ達が使っている小屋だ。以前、道に迷った時、偶然見かけたことがあったので間違いないだろう。  すでに三回は来ているはずだが、まだロイは道を全然覚えていない。  ゆっくりと扉を開くと、そこには誰もいなかった。 「・・おかしいですね、ここで間違いないはず・・」 「・・動くんじゃねえ・・」  いつのまにかランディがロイの横に現れ、ボウガンを突き付けた。 「・・物騒ですね、子供相手に・・」 「ガキでも油断はできないからな、特にお前の場合は魔法兵器がついてるらしいじゃないか」 「・・今は魔法兵器と呼ぶのは適切ではありませんよ、例の魔獣と合成しましたから、合成魔獣といった方がいいでしょうね・・」 「どちらでも同じことだ」 「・・安心してください、ポチはまだ調整中で教会で眠っていますし、今回はこれを渡しに来ただけですから・・」  そういうとロイは懐から紙を取り出して、ランディに渡した。 「・・何だ、これは?」 「・・ポチ・・いえ、合成魔獣の設計図ですよ・・」 「なぜこんな物を持ってきた?」 「・・約束したからですよ”努力はする”とね・・」  それだけいうとロイは小屋から出ていった。 「・・理解できねえガキだな・・」  ランディは誰もいない小屋の中でそう呟いた。 「・・さて、どうやって帰りましょうかね・・」  ロイは誰もいない森の中でそう呟いた。  偶然ついたので帰り道すらわからない。尚かつロイは方向音痴だ。 「・・アーウィルさんでもいませんかね・・」 「呼んだか?」  唐突に地面からアーウィルが現れた。 「・・心臓に悪いですよ、それ・・」  生首のようにも見えるアーウィルを見て、ロイはいった。怪談話は好きだが実物は嫌いだった。 「・・出てきてくださいよ、そういうのは苦手なんですから・・」 「わかった」  ゆっくりと出てくる姿はゾンビのように見えた。 「・・恐いですから、今度から別の逃げ方をしてくださいね・・」 「ああ、すまない」 「・・ところでまだ”継承の儀”は始まってないですよね・・」 「時間的にはまだだな」 「・・別に場所が関係ある物じゃないんですよね・・」 「儀式自体に場所が関係するならエンフィールドで行うことはないだろうから関係はないだろうな・・なぜそんなことを聞く」 「もし、あの二人がある程度本気で戦うとしたらこの街がもつと思いますか?」 「おそらくただでは済まないだろうな」 (ほうっておけばの話だが・・)  アーウィルは心の中で付け足す。 「・・ですから、他の場所でやってもらいたいんですよ・・」 「だが、かなりの力を持つ者が戦うとなると被害を受けない場所というのは限られるはずだが?」 「・・結界の中なら大丈夫ですよね。確か、アーシィさんの家にそういった物があったはず・・」 「だが、そこでやってくれるとは限らないが・・」 「・・ですから、今からいって話をつけるんですよ・・」  ”継承の儀”開始まであと3時間。 ●第142話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:12月17日(日)15時01分07秒  夜も更けてきた。満月が天の高みを目指してゆっくりと、しかし着実に昇っていく。それは地上で何があっても変わらないのだろう。  陽のあたる丘公園。そこがあと2時間で戦場と化すことをエンフィールドの住民は知っていた。 「だ・か・ら!うちのヴァンパイア種は純血のヤツでも3,4時間直射日光浴びてると肌が真っ赤に焼けてヒリヒリするってだけなんだよ!俺みたいなハーフやクォーターともなれば完全に克服できる。その分魔力が低くなるけどな」 「ええ〜〜〜それじゃあ海水浴もできるんですかぁ〜」 「ティセ・・・それはどう反応すりゃいいんだ?」  その公園の敷地内にケイン、シープクレストからきたルシード、ビセット、ティセはいる。 「当然。ついでに言えば十字架なんぞ効きゃしないし、親父はガーリックトーストが好物だったか?」 「でもよう、昔から吸血鬼の弱点といったら十字架、ニンニク、日の光だぜ?」  後頭部で手を組みながらビセットが言ってくる。今4人は公園の外へと向かっている。 「ニンニクや日の光に関しては、当てはまる種族が人前にでるのが多かったんだろう。ツァルクハウゼン家は滅多に人前に出ない。  十字架に関しては・・・これは俺の憶測だが、『十字架で吸血鬼を退治できる』という意識の集中がある種の攻撃になったんじゃなかろーか?」 「出来んのかよ、そんな事?」 「ルシード、魔法ってのも“出来ると信じる”からこそ出来るんじゃないかな?」 「・・・そんなもんかな?」  とかなんとか言ううちに公園外に出る。と、すぐそばに立て札がたっていた。 「なんだこりゃ?えっと・・・『これより先、結界範囲内。死のうが腕がもげようがどうなろうが責任はとらず。よって立ち入るべからず』・・・警告文?」 「けっかいですか〜?」  と、向こうの暗がりから人影が現われる。銀色の髪に深紅の瞳、黒のローブではなく、動きやすそうなズボンと上着だが間違いない。ケインの師匠ヴァルカスだ。 「・・・ケインか」 「親父?なにやってんだ、こんなとこ―」  ガシッ。ヴァルカスの放った裏拳はケインのこめかみにヒットしていた。 「敬語を使うように。あと、親父ではなく『父上』もしくは『師匠』と呼べといってあるはずだが」 「・・・は・・・い・・・」  地面に突っ伏しながらも律儀に答えるケイン。 「こいつが・・・ケインの親父さん・・・」 「ルシード・・・なんか、少しだけ怖く感じる・・・」 「ふぇーん。ティセはおいしくないですぅ〜」  三者三様の反応をみせるブルーフェザー組。そちらに一瞥をくれるとヴァルカスは手に持ったロープのようなものを見せた。よく見ると、ロープらしきものの表面には魔法文字らしき物がビッシリと描かれている。 「公園の周りに結界を張っていたのだ。空間封鎖型だからこういったもので張らなければならんが、その分範囲外への被害は最小限ですむ」 「それを、公園の周り全部に?」  ようやく復活したケインが、かなり疑わしげに聞きかえす。もっとも、ヴァルカスは気にしていないが。 「うむ。他者のことも考えないようでは『人間よりも高等な存在』だなどとは言う資格も無いからな」  なんか釈然としないが、まあ町へは被害を出さないと言う意味のようだ。それならそれでいい。「それに・・・」  ヴァルカスが、今度は少し遠くを見るような目で呟く。常にはない小声で。 「下手に損壊したら、『コードΩ』達と本気のど突き合いをせにゃならん」 (コードΩ?)  いぶかしむケインとルシードだが、ヴァルカスはそれ以上なにも言わずにロープらしきもので公園の外側を巻いていった。  一方こちらはジョートショップ。アリサの料理目当てで来たピートとヘキサ、あとはアーシィとフローネがお邪魔していた。 「ごちそーさん!」 「はぁ〜食った食った。これだけ食えば明日の朝までだいじょーぶだな」  いや、それは普通だと思うが。 「君達・・・本気でこの店が食費で潰れるよ」 「もう少し遠慮ってものを考えて欲しいっす!」 「でも本当に美味しかったです、アリサさん」 「ありがとう、フローネさん」  と、扉のカウベルがなる。姿を見せたのはロイと、アーウィルだ。 「あ!アーウィル!今日こそは『雷鳴山魔法兵器事件』の時のこと教えてもらうぞー!」 「げ・・・ピートがいたか・・・」 「それはおいといてアーシィさん。少々頼みたいことがあるのですが・・・」  ロイは森の中でアーウィルと相談した事を話し始めた。  ●第143話 投稿者:美住 湖南  投稿日:12月18日(月)18時08分10秒  ディムルはカイルのことを知っていそうな人物からの聞き込みをほとんど終え、次はアーシィに訊いてみようとジョートショップへと向かった。 「遅くにすみません。アリサさん、アーシィいますか?」  ジョートショップのドアを開けるといきなりそう訊ねた。さすがにピートは帰っているようだ。フローネはすでにさくら亭に戻っている。 「あら?アーシィクンならロイクンやアーウィルさんと一緒に家に戻ったけど」 「?なんか奇妙なメンバーですね」 「3人でごそごそ変な相談してたッスよ」 「テディ、変ななんて失礼よ」 「・・・じゃ、アーシィの家に行ってみます」 「そう?気をつけてね」  陽の当たる丘公園を通りすぎた頃。 「(リサは知らないって言ってたしな。あ、アーウィルから聞かなくちゃな。3年前か・・)」  いきなり思考は中断された。頭に流れ込んでくるような"音"。それは今までに聞いたことがなかった。  ディムルは耳を押さえたが魔法的な音にはほとんど意味がない。 「うっ・・」  物理的な音と混ざって不協和音となる。集中すると“音”は弱まった。 「・・・はぁっ・・予定より少し早いんじゃないか?」  少なくともジョートショップ出たときは、あと1時間はあるはずだった。 「(アーシィならあとで訊けるな)」  彼は公園へと足を向けた。  公園の入り口に入ろうとしたとき、"それ"が目に留まった。ロープのような物が左右にぐるりしかれている。  手に取ってみると魔法文字が刻まれていた。ディムルに魔法文字に関する知識は魔法書で読んだ数ページぐらいなもの。イロハのイぐらいだ。 「なんだ?こりゃ」 そんな彼がそう言ったのも無理はないだろう。  一方、アーシィの家では 「んー。結界を作り出すものといったらこれぐらいだね」  そう言って出してきたのは5つの鏡のような物だ。 「どうやって使うんですか?」  ロイが訊ねた。 「これで五角形をつくるんだ。キーになる言葉を言うと結界ができる」 「成る程。勝手に結界ができないようにしてあるのか。必要なことだろうな」  アーウィルが感心したように言った。 「問題はどこにこれを置くかだね。野良猫とかに場所をずらされたら大変だ」 「誰かが持っていちゃダメなんですか?」 「それでもいいんだけど、誰がもつかだよ」  3人はどうするかを悩んでいた。 ●第144話 投稿者:タムタム  投稿日:12月18日(月)22時28分31秒 「ん〜、時間がないか…仕方ない。ゴーレムを使おう。…何処にしまったかな…?」 「あるなら最初から…」  そう言いかけたロイの言葉は突如聞えてきた声に中断される。 『探し物はこれじゃない?』 「そうそう。助かったよ」  声はすれど姿は見えず。もし、ここにアレフがいれば『身長160センチ、18歳、目元パッチリのポニーテールの似合う女性。目と髪の色は赤だ』と言い切った所だがここにはいない。だから、彼らにはどんな姿か想像つかない。 「…今の声は…?」  ロイが少々怯えた声で聞いてくる。怪談話は好きでも実体験は嫌らしい。 「ん〜、彼女は恥ずかしがり屋だからね。私の前にしか姿を見せないんだよ」 「いや、質問の意味が違うと思うのだが」  ずれた答えを返してきたアーシィにアーウィルが取り合えず突っ込みを入れる。なかなか冷静な奴である。 「解かっているよ。ここが元々幽霊屋敷なのは知っているね?彼女はこの屋敷に縛られていた幽霊なんだ。最も、今はこの屋敷を護る精霊だけどね」  手にしていた五つのカプセルをもてあそびながら淡々と語る。どうやら其れが目当ての物だった様だ。 「ではそろそろ行こうか」  そして彼等は陽のあたる丘公園へと向かった。 「ん〜。この辺でいいかな」  そう言いながらアーシィは五つのカプセルを放り投げる。公園までは少し距離があるが、取り合えず起動しとこうと思ったらしい。  シュボッ。なんだか気の抜けた音がして五体のゴーレムが現れる。その姿はこれと言って特徴の無い人間の姿をしているが、全部が全部同じ顔である。ハッキリ言って不気味以外の何者でもない。  アーシィは鏡を手渡し、短い呪文を唱え命令を与える。そして、ゴーレム達はそれぞれ配置に着く為走り出した。 「げ!?」  中に入るのが何となく躊躇われた為か、結界の周りを歩いていたディムルは凄く嫌そうな声を上げる。  其れはそうだろう、同じ顔をした二人の男が鏡を持って前方から走ってきたら、まず驚く。次いで、人によってはいきなり殴るかもしれない。  だが、ディムルは殴りはしなかった。何やら聞き覚えのある声が聞えてきた為である。 …この結界は空間封鎖型の物?それにしても… …こんな物も有るんですね… …以外と几帳面なんだな… 「アーシィにロイ?そしてアーウィルか?」  まず間違い無いだろう。少し歩くと向こうからも近付いて来たのだから。 「何やってるんだ?こんな所で」  声の届く距離まで近付くと、取り合えず声を掛ける。向こうも不思議そうな顔でこちらを見ている所を見ると、同じ疑問を持っているのかもしれない。 「…まあいいや。なあ、アーシィ。カイルって知っているか?」 「カイル?」  記憶を探ってみると、何故か『チェストー』などと叫んでいる魔族の青年が思い浮かぶ。が、多分気のせいだろう。会った事が無い訳だし。 「多分…知らない。私の恩人である神出鬼没の吟遊詩人に聞けば解かるかもしれないけれどね」  何だかよく解からない事をのたもうた。そして、ふと表情を変え、 「準備が出来たみたいだ。≪ペンタグラム・ラン≫」  言葉に応え光が走る。上空から見れば五芳星が描かれているのがわかるだろう。ここまですれば街は安全だ。…公園内は無事では済まないだろうが… ●第145話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:12月19日(火)14時01分09秒 「それで、これからどうします?」  やれることは全てやってしまったため、全員手持ち無沙汰になった。 「ん〜。とりあえず、ケインが怪我でもするといけないから、クラウド医院の二人に待機していてもらおうかな?」 「じゃ、自分は急な用事を思い出したので」  アーシィの一言に敏感に反応し、アーウィルは空間を破壊して逃亡するべく義腕を構えた。 「ちょっと待て」  一瞬早く、ディムルがアーウィルの髪を掴んで引き戻した。 「さっきは邪魔が入ったが、今度は教えてもらうぞ。カイルのことを知ってると言ったな?」 「ああ、あれか。……また今度じゃ駄目か?」 「駄目だ」 「解った解った。……ま、街が壊される心配は少なくなったし、いいだろう」  そして、アーウィルは三年前の出来事を話し始めた。 「三年前、東方で割と大きな都市国家が滅びたことは知ってるな?」 「確か、大規模な魔法実験の失敗で国全体が異界と化し、一時的に同盟を結んだ周辺の国々がありったけの魔道砲ファランクスと 魔法使いをかき集めて解決した、と聞いたが……」 「表向きは、な。実際は大規模な魔法実験なんてもんじゃない。ただの低級な悪魔を召喚する実験だった。 優秀なスタッフが揃っていれば失敗する可能性は皆無だったはずのな」 「……その原因が、カイルか」 「当たり。何が目的かは不明だが、いきなり実験中に現れて過剰な魔力を注ぎ込んだ。その結果……」 「最悪だ……」  アーシィが顔をしかめた。 「そう、最悪だ。本来、低級な悪魔を召喚するだけの設備しかなかったところに、上級悪魔が召喚されてしまったんだからな。 当然、無制限解放だ」  上級悪魔の無制限解放。最悪の部類に属する魔道災害だ。  通常、何を召喚するにせよ、かならず制限がかけられる。そうでなければ召喚された存在は好き勝手に暴れまわることとなり、 まず第一に召喚者の安全が危うい。 「まず、その周囲半径百キロ圏内にいた人間全てが魂を喰われた。あとは連鎖反応的に出現したその他の悪魔やら何やらが暴れまくり、 三十分で全人口が消滅。このまま放っておくと……」 「"奈落堕ち"ですね。理論上でしか存在しない現象ですが」 「そのとおり。空間に蓄積された魔力が臨界点に達して弾け飛び、時空に穴を開ける。魔界と通じる巨大なブラックホールでね。 一旦開いてしまったら現代の技術では閉じることは不可能だ」 「……それにどうおまえが関係してるんだ?」 「その時、異界と化したその都市を消すように依頼されたんだ。それでその都市を消した。それだけだ」 「ずいぶんあっさり言いますね……」 「他に言いようがないだろう? ……ま、そんなわけでこの<戮皇>で都市を消し飛ばし、依頼を果たした。 参考になったか?」  その時、ふとディムルは違和感を覚えた。何かが引っかかる。 「アーウィル……」  我知らず、言葉が漏れた。 「おまえ……何を隠してる…?」 「? 別に何も隠しているつもりは無いけどな」 「いや……何でもない…」  釈然としない表情で、ディムルは考え込んだ。 (カンの良い奴だな……)  表面上は平静を装いながら、アーウィルは笑った。 (だが、自分とカイルが『共犯』だということは解らないだろう。事実を知る者は、全員念入りに殺しておいたからな)  本性を覆い隠す仮面の向こう側で、アーウィルは心底楽しそうに笑った。  公園の中では、“継承の儀”が始まっているはずだ。満月の下で。 「良い月だな」  その満月を見上げるアーウィルの両眼が、一瞬黄金色に輝いた。 ●第146話 投稿者:ashukus  投稿日:12月19日(火)18時43分54秒 その頃、公園の中 「なぁルシード、あの鏡持ってる奴さ、さっきの奴と同じ顔じゃない?」 「そんな気もするが・・・気のせいじゃねぇのか?」 実際に彼らは同じ顔なのだが、と、黙っていたヴァルカスが口を開く 「これは、この空間封鎖以外にも何者かが結界を張ったようだ、これで町は安心だな」 「さしずめアーシィ辺りか?」 ケイン、正解である。 「さて、ケイン“継承の儀”を始めるぞ」 「わかっ・・・わかりました師匠」 「うむ・・・」 その瞬間、ヴァルカスの威圧感が一気に増した。一方ルシードたち三人は 「なぁ、ルシード俺たちはどうするわけ?」 「どうするってもな・・・・見物してりゃいいんじゃねぇか?」 「ティセも見物ですぅ〜」 少し離れて座り込むルシード。それに対してケインは 「おい、見物なんて出来るレベルじゃないんだからな。とは言っても結界張っちまったしな」 と、ヴァルカスが思いもよらない事を言い出した 「ケイン、我を忘れて他人を傷付けるようではいかんな・・・・そうだな、追加制限として彼らを傷付けてはいけないというのを付けるか」 「ってことは、ルシードたちに被害を及ぼさないようにしろと?」 「そういうことだ」 そんな会話にルシードたちも入ってくる 「あ?俺たちはそんなにヤワじゃねぇよ」 「そうだぞ〜これでも保安局員だからな」 「ってなわけで、死なない程度に見物させてもらうぜ」 とそんなルシードにティセ 「ご主人様ぁ〜死なないでください〜」 「・・・・おい、ティセ話が噛み合ってねぇぞ」 「あう〜・・・」 そんな訳でルシードたち三人は少し離れて“継承の儀”を見物することにした 「大丈夫なのか?・・・・まっ、しょうがない」 ケインはファングを取り出し、構えをとる。対するヴァルカスは構えというものはとらず、自然体で立っているだけだ、が、その威圧感は鳥肌が立つほどだ 「いく・・・行きます、師匠」 「うむ、来いケイン」 ケインはファングを構えてヴァルカスに突っ込んでいく。かくして“継承の儀”は始まった。 ●第147話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:12月20日(水)18時35分23秒  始まった継承の儀。ケインはルシードたちを背にする位置に立つと一気に詠唱をはじめた。 「我は汝の仮初めの主―」 「ほう?」  『ファング』の覚醒解放状態での発動。対するヴァルカスは光弾を放つ。が、 「―汝が名、『守護する白爪』!」  『ファング』の発動と同時、光弾が消失する。 「ふむ?」 「いっけぇぇぇ!ヴァニシング・ノヴァ・バーストモード!」  閃光と轟熱と爆音が全てを圧倒した。  ズガドゴゴォォォン!!!  爆音と衝撃が結界を叩く。 「始まったようだね」 「にしても・・・どういう威力出してやがんだ?」 「これは・・・ヴァルカスの宣言は実行可能ということだね・・・」 「そういえば・・・」  と、ロイが思い出したように口を開く。 「まだ公園内にルシードさん達がいたようですが?」  ・・・・・・・・・・ 「「「なっにぃぃぃ?!」」」  アーウィルを除く全員が驚愕した。  大地を揺るがす振動が収まる。ルシードたちは当然無事だ。目を回しているようだが。  ケインの計画はこうだ。初手から最大威力で吹き飛ばす。  いまだ白い火柱が立ち上がっている。障壁も無力化するから直撃したはずだ。だが、ケインはなにか違和感を覚えた。何か― 「なるほど。そういう形態があったか」  火柱の中から聞こえる声に、ケインはようやく違和感の正体を見つけた。 「周囲の、ひいては魔法を構成する魔力さえ吸収・増幅してエネルギーへと変える。人間のおもちゃにしては、なかなか上等だ。  だが、所詮はおもちゃだな。本来なら発動者自身も魔力を吸い尽くされてまともな戦闘力は発揮できない。また、吸収許容量以上で構成された魔法は、無効化できない」  そう。普段なら覚醒解放をしたら倒れそうになる。要するに― (桁外れなんてもんじゃないほどの魔力で・・・障壁を張った?)  そして、火柱が掻き消え、火傷1つ負っていないヴァルカスが現われる。 「では、いくぞ」  気楽に、洗濯物でも取り込むように言い放つ。 「来たれ,『闇の魔王』」  と、ヴァルカスの背後に漆黒の翼を持った人型が現われる。 「闇・・・上級精霊の無詠唱召喚?」  闇、そして光の精霊は本来ひたすら長い詠唱を唱えてやっと召喚できる代物だ。確かに召喚者の魔力が精霊を屈服させうるレベルならばなんとかなるかもしれないが。 (どういう魔力してんだ、まったく!)  横っ飛びに飛ぶ。相手の出方が解らない時のくせだ。 「消せ!」  ヴァルカスの、あまりにも簡潔すぎる命令。闇の精霊は漆黒の球体を生み出すと、それを光速で転移させた。『ファング』へと。 「!」  『ファング』の刀身に触れると、球体は消えた。球体に飲み込まれた、刀身の大半も巻き込んで。 「これで、お前の借り物の力は無くなったわけだ」  残った柄を構えながらケインは舌打ちした。まだ障壁程度なら張れるだろうが、一方向のみだろう。  ヴァルカスのセリフは続く。精霊はすでに消えている。その手にはどこから出したのか、一本の苗木。 「さて、これは一週間前に編み出した技だ。楽しませてくれよ―木々の精霊よ」  そこから先は、ケインの理解を超えていた。放り出された苗木が突然、一挙に成長し、その触手がこちらを狙ってきたのだ。 「なんじゃそりゃぁぁぁ!」  ケインはもうひたすら逃げ回り始めた。 ●第148話 投稿者:タムタム  投稿日:12月21日(木)20時20分24秒 「これが継承の義?」 「ん〜。なかなかシュールな光景だね」  ディムルとアーシィは呟いた。ルシード達が公園内にいると聞かされ結界の中に入った途端目にした物が、大木に追い回されているケインの姿だったためだ。  大木は根の部分を足の様に使い走っている為、見方によっては素敵なくらい気持ち悪い。  因みにアーウィルとロイは何故か結界の外にいる。何か理由が有ると思うのだが…。 「どうした、ケイン。真面目にやれ」  その様子をのんびり眺めていると、ヴァルカスから叱咤の声が飛んだ。別に大木と追いかけっこをするのが継承の義と言う訳ではない様だ。当たり前である。これが継承の義なら結界を張る意味が全く無い。 「さ、早く結界の外に出ようか」  そう言いながら、未だに目を回しているルシード達をディムルと二人で引き起こす。ルシードと、ビセットは殆ど時間を掛けずに復活したが、ティセは目を回したままだ。仕方が無いのでここはご主人様に頑張ってもらう事にしよう。 「じゃあ、さっさと帰ろうぜ」  ケインと大木の追いかけっこを見てしらけてしまったのか、ビセットがつまらなさそうに言って小石を投げる。その小石は軽く放物線を描き、何故か跳ね返ってきた。 「え?」  困惑の声を上げたディムルが結界との境界線まで行き、一言。 「出れねぇ」 「は?」  その言葉に間髪入れずアーシィは間の抜けた声を出す。同じく境界線まで行き何やら調べ、 「ん〜、結界同士が相互干渉を起こしている。どうやら閉じ込められた様だね」  とんでもない事をさらりと言い放つ。 「出る方法はねぇのか?」  ルシードが慌てず騒がず聞いてきた。なかなか肝の座った奴である。 「有るには有るけど、一度破ると張り直さなくてはならなくなるから、継承の義が終わるまで待って様か?」 「でもあの調子じゃな」  走り回っているケインの姿を見て、ディムルが溜め息交じりに言う。この様子では何時終わるのか判らない。最も、終わったりしたら継承の義は失敗になるだろう。 「ん〜、ケインの精神も以外と脆かった様だね」 「いや、あれは仕方ないんじゃないかな?」  ビセットがケインの肩を持つ。確かにあんな物が目の前に来たら、精神衛生上大変よろしくない。 「ん〜。仕方ないか…」  そう呟きながら、アーシィは何故かヴァルカスの元へと近付いて行く。そして、残り三歩ほどの所で足を止め声を掛ける。 「ロード・ヴァルカス。少しケインの目を覚まして上げたらどうです?」 「確かにこのままではつまらないな…では如何する?良い案でも有るというのか?」  余り興味無さそうにヴァルカスは言う。だが、質問をして来たと言う事は少しだけ当てにしているのかもしれない。 「ん〜、ケインに戦う理由を見つけさせれば良いと思う」 「例えば?」 「私なら…大切な人を護るため、その為なら例え相手が神でも戦って見せる…」 「…なるほど…」  その言葉を聞き、深く頷く。アーシィの瞳に宿る決意は少なくともヴァルカスには本物に見えたから。もし、この街を破壊すると言ったら間違い無く戦いを挑んで来るだろう。 「さて、如何したものか…」  何時までも走り続けるケインを見ながら、ヴァルカスは呟いた。 ●第149話 投稿者:美住 湖南  投稿日:12月21日(木)22時32分35秒  このままではどうしようもない。だが、手助けをしたらケインのためにならない。継承の儀はケインのためにあるのだ。 「外には出れねぇ。下手するとこっちまで巻きこまれかねねぇ。さて、どうするかねぇ」  シュールな光景を見ながら言う。360°どこを見ても気味の悪い光景なのだから見ないためには目を瞑るしかないわけだが。 「ま、今のところこっちに来ないことを祈ってるか(そーいや前に似たようなことあったよな)」 「どうして応戦しないんだろな。逃げたくなるのもわかるけど」  ビセットが呟く。 「そーだな。火を使えば簡単だと思うが」 「簡単にゃいかねぇ理由があるんじゃねぇの?」  ディムルの言葉にルシードが応えた。ティセはどうした、ティセは。 「どうだか」  アーシィのほうを見るといつもとは違った目をしている。いつでも戦える、そんな目だ。  それを見てぼーっとしているのがバカらしくなった。 「外からならどうにかできるかもな」  少なくとも、入って来れたのだから外から干渉することはできる。…はずだ…。  境界線まで行き、 「出れねぇからどうにかしてくれねぇか?」 「どうにかしてくれも何も、入れなかったんだからどうしようもありませんよ」  一応、声は通じるようだ。  ロイが反論(?)する。それなりに筋は通っていると言えよう。 「ポチは?」 「調整中で眠ってますよ。最もいてもどうしようもないと思いますよ」 「んじゃ、アーシィの家行って何か探してこい」 「主の了承がないと不法侵入になりますよ。それにアーシィさんがいないと精霊さんが入れてくれないような気がしますけど」 「精霊?」 「えぇ。アーシィさんの家に縛られているみたいです」  ここまでずーっと言っては返し、言っては返しの連続だ。すぐに切り返せるロイはすごい。 「……うーーー。まさかアーウィルが壊すわけにもいかねぇしな」  魅力的な選択方法だ。これを選べば簡単に脱出できる。 「やれと言うならやるが、困ったことになるだろう?」 「そーなんだよな」  誰か忘れている気がする。誰か。一体誰だ? 「…シュウなら…」  アーウィルがボソッと呟く。ロイにも聞こえていないようだ。しかしディムルの耳は特別製。 「シュウがどうかしたのか?」  結界が張られていても通じるのだからここまでいくとなんと表せばいいのか。読心術かもしれないけどね。 「いや」 「?(カイルならスパッと考えるんだろうか)」  書いてはいないがこの間もケインは追いかけ回されている。  ケインが弱いもの。何があっても護るかもしれないもの。人。  もちろんケインの弱みをディムルは知っている。 「マリア連れてこい」  唐突に言った。何の前触れもなく。いきなり。 「は?こんな時間に?ショート氏が許しますか?」  こんな時間に出歩いている君も君だ、ロイ。 「マリアにおれが魔法教えるっつえば喜び勇んでくるだろうよ」  マリアの魔法に対する探求心(??)をくすぐる言葉だ。 「……考えますね。ディムルさん」 「それほどでもないさ」  ちらりとケインを見て言う。さて、それまでケインは保つのか。否!保ってもらわねばいけないのだ。そして、マリアの効き目は如何に? ●第百五十話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:12月22日(金)17時20分42秒 『あらあら。これはこれで面白いけど、このままじゃラチがあかないわね……』 (まったくだ。しょうがないんで、少し発破をかける。それまで見張っててくれ) 『はいはい。ま、“ロード”のデータはあまり多くないから、これは良い機会ね。好都合だわ』  そんなワケで、ロイとアーウィルはショート家の屋敷の前に到着した。 「起きてる気配はありませんね……」 「もう真夜中を過ぎてるからな。正面からノックしても入れてくれそうにないし……しょうがない、 昔取った杵柄だ。忍び込むぞ」 「……それはつまり、昔は泥棒だったってことですか?」 「傭兵ってのは、多芸でないと務まらんよ」  至極真面目な表情で答え、アーウィルは屋敷の庭に侵入した。 「…と、どんな警報装置があるか解らんから、ここに乗っててくれ」  言うなり、アーウィルは左手でロイをつまみ上げると巨大な義腕の掌に座らせた。  ほぼ同時に、アーウィルの足が止まる。 「うーむ。早速あるな……」 「何ですか?」 「地雷だ。対人用感圧式」 「じ……」  庭にそんなものを仕掛けるなと、ロイは声を大にして訴えたくなった。 「その他にも手榴弾と連結したワイヤートラップ、熊用の槍を仕込んだ落とし穴、などなど」 「……ゲリラ戦でもやるつもりなんでしょうか?」 「マリアの趣味かもしれないな。全部魔法がかけてある。通信販売で買ったんじゃないか?」 「……売ってるんですか? こんなのが」 「ああ。……それから、踏むと幻霊がつきまとって離れなくなるトラップも仕掛けてあるぞ」 「……そういう話はやめて下さい」  心底嫌そうにロイは身震いした。 「仕方ないな……ちょっと跳ぶか」 「跳ぶ?」 「ああ。しっかりつかまってろよ」  とりあえず、ロイが三本しかないアーウィルの義腕の指の内、親指に当たるもの掴むのとほぼ同時。  いきなり眼下にエンフィールドの夜景が広がった。飛んでいる。一瞬ロイは錯覚した。 「あのー。月並みな質問で恐縮ですが、どうなってるんですか?」 「ちょっと跳んだだけだ。下から行くと時間がかかりそうなんで、一旦屋敷の屋根に着地してから、 アリアの部屋を探す」 「ちょっと跳んだだけって……」  魔法で身体能力を強化した気配はない。つまり、このバケノモじみた跳躍能力はアーウィル本来のものだということだ。 「……あなた、本当に人間ですか?」 「本当にその答えが聞きたいか?」 「………」  などとやっていると、殆ど何の音も衝撃もなく屋根に着地した。 「さて、マリアの部屋を探すか」 「立派な不法侵入ですね、これって」 「それは言わない約束だ」 「……一つ、気になったんですが」 「何か?」 「屋敷の中もやっぱりトラップだらけなんでしょうか?」