●第131話 投稿者:美住 湖南  投稿日:12月10日(日)23時01分24秒  街は赤い光に包まれていた。闇色の影が家々を撫でると新たな光が生まれる。それは山の山頂からでも見えた。子供達は感じたことのない恐怖に身を震わせた。子供達は泣き始めた。赤い、深紅の炎に自分たちの街が覆われていく様を見ながら。泣かなかったのはただ一人。灰色の髪と青い目を持った少年。当然だ。火事を起こした犯人が分かっているのだから。その、闇色の影の正体も、この後どうなるのかも。  その少年の後ろに漆黒のローブを着た人影が立った。 「!」  音が出そうなほど素早く目を開けると目の前にパティの顔があった。 「!!!」  声のない叫び声をあげると身体はゆっくりと後ろに傾き・・・。 「うぉおおお!!」  スツールから落ちた。 「大丈夫かい?ディムル」  隣に座っていたリサが声をかける。数分だけ寝ていたようだ。 「・・・なんとかな」 「どうしたのよ?」  呆れながらも起こすだけ、優しいのかもしれない。 「夢見てた」 「夢??」 「昔のことだよ。戻ってこない過去のことだ」 「?よくわかんないけど、起きたなら仕事してよ。出前があるんだから」  前言撤回。仕事のノルマを果たしてほしいだけのようだ。  パティは怪訝そうな顔をしながらも準備されていたおかもちを手渡す。場所は孤児院。先ほどのケインのこともあり、速く行って来てほしいのかもしれない。 「はいよ」  カウベルを鳴らしてディムルは出ていった。 (今頃思い出すとはな。似てるヴァルカスが来たからか?)  10年経とうとも孤児になった記憶はそう良いモノではない。孤児にした犯人が自分の兄ならばなおさら。 (エンフィールドからシープクレストか・・・)  真昼間から黒い服を着た人が陽の当たる丘公園に入っていく。ヴァルカスだ。  ディムル達子供を助けた人物にして魔法の音を聞き取れる耳を授けた張本人にあまりにも似すぎている男。 (もしかしたら”アイツ”のことわかるか?)  そう思いながらも、 (・・・ケインが絡んでるんだ。後であえるだろう)  出前をするために孤児院へと向かった。  今のディムルにとって、”アイツ”はそれほど重要な人物ではないのかもしれない・・・・。 ●第132話 投稿者:YS  投稿日:12月11日(月)00時16分53秒 「・・あうう、眠いぃぃ・・」  ロイは眠たかった。なぜなら、迎えにきたはずのケインと後からきたローラがロイのことを完全に忘れ去って、さっさと帰ってしまい帰り道がわからないまま一夜を過ごしたからだ。  ポチがいれば少しはましだっただろうが、今は改良中のため起動していない。ロイは自分の足で夜通し歩き続けていた。  因みに、現在はジョートショップ前だ。どこをどう歩いていたのかわからないが、何とかここまでは帰ってきた。 「・・ここで寝ようかな・・」  思わずとんでもないことを考える。  そして、近くにディムルの姿を見つける。 「・・あううぅぅ、ディムルさーん・・」  普通の人ならば聞き取れないほど小さな声で呼びかける。耳の良いディムルでなければ、気がつくことはなかったかも知れない。 「ロイ君?こんなところで何をしてるんだい?」 「・・昨日の夜から道に迷ってたんです・・」 「昨日の夜から?」 「・・山道でオオカミに襲われたり、川を泳いで渡ったりしてました・・」 「・・よく生きてたね」  というか、それ以前にどこを迷ったのだろうか。 「・・というわけで孤児院まで連れていってください・・」 「ちょうど出前だからいいけど、孤児院の人たちは探しにこなかったのかい?」 「・・あそこにはセリーヌさんも居ますから一日程度じゃ探しには来てくれませんよ・・」  こうして、ロイはディムルのお蔭で孤児院に帰れることになった。 ●第133話 投稿者:タムタム  投稿日:12月12日(火)12時31分57秒 「(イヤな予感て当るものかしらね…)」  陽のあたる丘公園のベンチに腰掛けながら、溜め息と共に煙草の煙を吐き出す。先程エレイン橋の上で聞いたアーシィの言葉が蘇ってきた。 ―心当りは有る。あれは多分…私の事だ―  正直言ってそれ程の驚きは無かった。ゼファーの話しを聞いたとき、何となく予測がついてしまったから。未だ子供だった頃、血まみれで倒れていたアーシィを見つけ、怪我が治るまでの半年間だが一緒に暮らした事がある。  あの頃は記憶が無くなっていた事もあるのだろうが、無口で無愛想といった暗い奴だった。だが、怪我が治った途端、―奴等は全員殺してやる―それだけ言い残し姿を消してしまった。  <ルナティック・ナイトメア> と呼ばれていたのは恐らく、姿を消してから旅の音楽家(吟遊詩人)に出会うまでの数年間の事だろう。長かった三つ編みもその人に出会った後切ったらしい。 「(今のあいつからは想像できないわね)」  例え言った所で誰も信じないだろう。ゼファーが何の為にあんな事を言ったのかは解からないが、捕まえる為では無い事は確かだ。だから、少しだけ安心できる。 「先輩たち、何時までこの街に居るつもりかしら…?」  街の通りを一人歩きながらフローネは呟いた。平日の為行き交う人は殆どいない。よって、独り言を言っても気に止める人間は誰もいない。  表向きの任務である魔法犯罪者の逮捕(シュウの事)と裏?の任務である召喚魔獣の件、両方とも片は付いた…と思う。  しかし、シープクレストに帰る様子が見られないのは自分には知らされていない重要な任務が残っているのだろうか。と、真面目な性格の為そう考えてしまう。  あの生真面目なメルフィでさえ寛いでいるのだ。もしかしたら、特別休暇なのかもしれない。…多分違うと思うけど…  ふと、前を見て少し驚いた表情になる。何やら黒い物体がふわふわと近付いて来たのだ。 「う〜。はらへった〜」  …説明するまでも無くヘキサである。だが、フローネの方は始めて見る生物に興味を持ったのか、いきなり両手でヘキサを掴んだ。 「かわいい〜」 「はっなっせ〜。俺はアーシィに用があるんだ〜!」  目を輝かせているフローネの手の中でジタバタもがいてみるが、そんな事で脱出できるはずも無く大人しくなる。しかも、余計に腹が減る。 「アーシィさんて確か、前髪が長くて目が赤い…」  顔を思い出そうとしたが、浮かんで来たのはルシードの顔だった。確かに前髪が長くて目が赤い、ちなみにヘキサもそうだ。だけど、全然似ていない。 「めしが俺を待っているんだ〜」  早い話が、今だ体調の優れないアルベルトとシュウへ見舞いの品を持って行く事になっているので、アーシィに付いて行けば食い物に有り付けると考えているようだ。 「よく分からないけど…一緒に捜しましょうね」  新しい玩具を手に入れた子供のようにフローネは上機嫌になっていた。 ●第134話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:12月12日(火)16時38分14秒 ≪“ロード”、か。また面白いものが出てきたな≫ 「はい。いかが致しましょう?」 ≪相変わらず、おまえは私に対しては態度が硬いな。……まあ、いい。そのハーフが継承を受け入れるならばそれで良し。 もし、拒否した場合は……≫  微かに、笑う気配。 ≪少し、そのヴァルカスと遊んでやれ。おまたち……<コードΩ>と<コードα>が組めば、いい勝負だろう。私は見物させて貰う。 ここ五十年程はかなり退屈だったからな≫ 『わたしも』 「……君はこの前遊んだばかりだろう」 『いいじゃない。減るもんじゃなし。ケイン……だったっけ? 遺跡に入ったときに採ったデータに、 気になるところがあったから、あの魔法兵器を端末にして監視してたのよ。元々は、あれわたしのだし』 「一つくらい上げてもいいだろう。ロイはあの歳で大したものだ」 『そう思ったから、一つプレゼントして上げたのよ。まあ、あの子が制御系を乗っ取ったからできたことだけど』 ≪雑談はそろそろ終わりだ。良いな? <コードΩ>、<コードα>。当面の目的は、この街の存続だ。 邪魔となるものは全て排除しろ≫ 『はい……』 「承知致しました……」 『「我が主(マイ マスター)」』  忠誠を誓う声を最後に、“彼”の下僕たちは姿を消した。 ≪ヴァルカスか……≫  その呟きを聞く者は、誰も居ない。 「あ。あの人は……」  人形にようにヘキサを抱いて歩いていたフローネは、見覚えのある人物を見かけた。  細身のシルエットに不釣合いなほど巨大で武骨な義腕。相当にインパクトがあるので、そう簡単には忘れられない。 「お? アーウィルか。よりによってあいつと……」 「? あの人がどうかしたの?」 「ああ。とんでもねーヤツだよ。何しろ、あいつが来たときのドサクサでオレは飯を食い損ねた」  それはかなり違う気がするぞ、ヘキサ。  と、ヘキサを抱いたフローネのすぐ横を、人影が二人分、猛烈なスピードで走り抜けた。 「アーウィル!!」 「アーウィルさん!!」 「今日こそは」 「健康診断を」 「受けて貰うからな!!」 「受けて貰いますからね!!」  言わずと知れた、クラウド医院のトーヤとディアーナだ。 「誰が……」  無論、簡単に捕まるようなアーウィルではない。 「健康診断なんか受けるかーっ!!」  凄まじい爆発が、轟音とともに道路を埋め尽くす。青い光が視界を塗り潰し、爆風でフローネは数十メートルも飛ばされた。  だが、不思議にも怪我は無い。全くの無傷だ。  ついでに、何故か未だにヘキサをしっかりと抱いていたりする。 「うーん……。最近特にエスカレートしてるような気がするぞ……」  アーウィルの立っていた場所を見ると、見事な大穴が開いている。恐らくここから地下に逃げたのだろう。 つくづく、非常識な男だ。 「また逃げられましたね……」 「ううむ。ここまで俺の診断から逃げ切るとは……カッセル老以来の、手応えのある獲物だ」  獲物なのか、おい。 「でも! 最後に笑うのは医者です! ふふふふふ……」 「そうだな。ははははははは……」  何故か、がし、と手を握り合って謎の笑いを上げる二人から、フローネとヘキサはこっそりと逃亡した。 ●第135話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:12月13日(水)14時47分18秒 「ディムル?ああ、さくら亭からの配達か。ごくろーさん」  セントウィンザー教会の玄関先でディムルと迷子だったロイを迎えたのは、昨日からの騒ぎの中心人物、ケインだった。ただし、なぜか剣を握って素振りをしているが。 「ケインさん・・・迎えにきてくれる約束でしたよねぇ・・・」 「いろいろあってな」  ロイが思いっきり睨みつけるが、あっさり受け流す。もっとも騒動の顛末を知ってる者からすれば (あっさりしすぎてねえか?)  疑問に思うディムルだったが、とりあえずは弁当を配るのが先だ。 「な〜んか今朝からガキどもがなつかなくってな。どうかしたのかな?」 「いや、当然でしょ!」 「ローラ。それに・・・トリーシャ?」  ケインの疑問に即答したのは、教会から出てきたローラとトリーシャだった。 「あ、ディムルさん。お弁当の出前?それなら奥に運んどいて」 「ローラさん・・・僕の事忘れてませんか?」  ロイの呟きは誰の耳にも留まらなかった。 「ケイン、お前・・・勝てるのか?」 「んあ?」  教会の食堂。子供たちが食事し終えたころに、ケインが入ってきた。そして、ディムルが聞いたのが、これだった。 「だから、今夜の“継承の儀”の事よ!なんか黒ずくめでイヤ〜な感じのヤツと戦うんでしょ?!」 「なに言ってるんだお前ら・・・勝てるわけないだろ」  食堂内にはディムル、ローラ、トリーシャになぜかロイまでいた。ローラの質問に、ケインはあっさりと答えていた。 「「「へっ?」」」 「当然だろ。今の俺は外部強制の二重の能力封印のせいで人間と同等の力しか出せない。対して親父は第一次封印は常時解放されてるし、第二次封印も自由に解ける。  しかも親父はあれで幾多の修羅場をくぐってきた。実力の差、魔力の差、実戦経験の数、第六感、からめ手を含む戦略etc・・・どれも俺を凌駕している。勝てるわけ無いさ。」 「じゃあなんなんですか?“継承の儀”って・・・」 「簡単にいえば、『世の中には自分より強いヤツがいるぞ』って自覚する事と『殺されるのは誰でも嫌だからむやみに力を使わないようにしよう』って理解することだろ。  強大すぎる力を持つと、大抵は力に溺れて周囲に迷惑かけまくった挙句、自滅しちまうからな。それを自己抑制する意味があるんだろ。能力封印だって“冷静な感情及び理論的判断が出来る”時だけ解放可能なものなんだ。  ま、多分親父のことだから『俺は一歩も動かないから、お前は俺を楽しませることが出来たら合格』ってとこだろ」 「じゃあ、受けるんだな」 「当然」  ケインはなにも気負いしない感じで言い放った。と、今度はトリーシャが質問する。 「ねえ・・・ケインさんってやっぱり・・・血、吸うの?」  これはある意味、今夜の一件よりも深刻な問題かもしれない。ヴァンパイアといえば吸血だし。 「トリーシャ・・・お前“青汁”好きか?」 「え?」 「あれって栄養価はいいけどやたら不味いだろ。あれと同じさ。確かに生命力の補充には最高かもしれんが、自分の血なめてみりゃその不味さに気づく」 「なんか・・・アバウトね・・・」 「うちの一族や周囲の隠れ里―ハーフやクォーター、あと迫害された人間とかが住んでるんだが、少なくともそこじゃ吸血なんて事は許されない。  大体、普通に三食食ってりゃ平気なんだよ。要は生命力が補充できればそれでいいんだから。生に近いほどいいらしいが、特に気にするやつはいないな」 「でも!昔からヴァンパイアに襲われて死んだ人って大勢―」 「俺の一族+αといったろ?他の一族の事なんぞ知らん」    「ほんとーに、アバウトなのね・・・」 「ところで・・・」  と、今まで聞いていただけのロイが口を開いた。ケインを指差して、 「なんで昼日中にでて平気なんですか?」  ケインは、なんだか物凄く疲れてきたような気がした。  約束の時間まで、あと六時間ほど― ●第136話 投稿者:ashukus  投稿日:12月13日(水)16時57分51秒 例のケインの約束の時間まで、約五時間。皆それぞれの時間を過ごしていた。ここは自警団団員寮、シュウの部屋 コンコン 「う〜ん、誰?」 シュウはふらつきながら扉を開ける ガチャ 「メシ〜メシ〜アーシィはどこだ〜」 扉を開けた瞬間、黒い浮遊物体もといヘキサが部屋へと侵入してくる 「アーシィさんならさっき・・・って、あっ!!おいちょっとヘキサ〜」 ヘキサはシュウの静止を振り切って、さらに侵入し部屋を物色し始める 「おっ、あるじゃねぇか、ケケケ」 先程アーシィが持ってきた見舞い品を掠め取るヘキサ 「おい、貰っていくぜ。次はアルベルトの部屋だな」 そう言うとヘキサは素早く部屋を飛び出した。当然追い駆けるシュウ、だが 「あっそれは!!ヘキサ、そりゃ犯罪だっておい・・・あっ・・・」 走ろうとしてよろけるシュウ。と、フローネが 「あの、大丈夫ですか?」 「ああ、どうも、あれ?え〜っと、たしかブルーフェザーの」 「フローネ・トリーティアです。あなたと戦ったあの時以来ですね」 一定の距離を取り警戒しているフローネ 「はっ?戦った?たしか最後に会ったのは俺を捕まえた時だったような・・・まぁいいか」 「覚えてないんですか?それに『まぁいいか』って・・・(また感じが違うみたいだけど・・・・もしかしてこの人って)」 フローネは『怪奇殺人二重人格男』という幽霊に憑り付かれた男が二重人格となり知らない間に人を殺していくホラーを思い出すがその事は心に閉まっておいた その頃、アルベルトの部屋 「ぶえっくしょん!!」 アルベルトは前日の無理が祟ってかなり調子が悪いようだ。心配性とも言えるクレア、ドクターからもらった薬を必死に探す。と、その時 コンコンコン 「ゴホッゴホッ、あ〜?誰だ?おっ、もしかするとアリサさん?」 この状態で起き上がってよいのだろうか?起き上がったアルベルトは扉を開ける。 「ゴホッ、なんだアーシィかよ」 扉を開けた先には見舞いの品を持ってきたアーシィの姿があった 「っと、おいアル、大丈夫か?」 「大丈夫な訳ねぇだろ、ゴホッゴホッ」 今にもアーシィに風邪を移しそうなアルベルト、と、後ろからクレアが大きな声をあげる 「兄様!!立ちあがらないで下さいとあれほど!!」 「ゴホッ、わかったよ。おいアーシィ、風邪が移ってもいいんなら入れ」 「ああ、そうさせてもらうよ」 と、アーシィがアルベルトの部屋に入ろうとした瞬間、ヘキサがすり抜けて行き、アルベルトの部屋に侵入する 「ゴホッゴホッ、おい、ヘキサ何の用だ」 「おらアルベルト、お前も食い物よこせ」 ヘキサの手には先程シュウから強奪した見舞い品を持っている。と、それに気が付いたアーシィ 「んっ?たしかそれは、さっき・・・」 「ケケケ、アイツから奪ったんだよ。だからお前もオレに食い物をよこせ!!」 ●第137話 投稿者:美住 湖南  投稿日:12月14日(木)21時03分05秒 「そうだ、ケイン。カイルっつー名前、聞いたことあるか?」 「カイル?」  カイルというのはディムルの言う”アイツ”の名前だ。 「そうだ。姓は・・・いろいろあるな。デスバートとか、キルグラスとか」 「かなり危険な言葉ですね。死の鳥に殺す草−解釈すると毒草ですか?」 「・・・いや・・・知らない」  奇妙な姓にかなり怖ろしげな顔をしている。 「じゃ、孤高の大賢者、タナトスに最も近づいたもの、ってのは?」 「しらん。いったい何なんだ?その二つ名は」 「自分で言ってんだよ。他にもいろいろある」 「そのカイルってやつ、ナルシストか自信過剰?」 「そーかもしれないが、少なくとも、鏡を見てにやりってのはなかったな」 「そうか」 「なんだかつまらないですね」  ロイが本当につまらなさそうな顔をする。  そして、「おれも行く」となかば無理矢理約束を取り付け、さくら亭へとディムルは帰った。 「いつもなら結構嫌がるよな」 「そうですね。ま、彼もいろいろあるんでしょうね」 「ほんっとに、お前7才か?」 「もちろん」  ディムルはそのあと陽の当たる丘公園にいった。見かけたときからかなり時間が経っているが、もしかしたらいるかもしれない。 「(やっぱり、いないか)」  陽の当たる丘公園には下見に来たのだろう。戦いの始まりは相手を知ることと戦いの場となるところを知ること。それをケインの師匠であるヴァルカスが知らないはずがない。 「やばっ、さくら亭に戻らねぇとな」 言葉は緊迫しているが、口調に緊迫さがない。  そしてさくら亭。 「戻ったぞ」  パティに告げ、カウンターの中にはいると、 「またお願いできない?」 「は?」 「だから、出前。シュウとアルベルトに。出前と言うより差し入れかしら?」  確かシュウとアルベルトは寝込んでいるという話は一応、ディムルにも入ってきている。 「なるほど。別にいいよ(聴きたいこともあるしラッキーなのかな)」 「じゃあ、これお願い。自警団寮よ」  渡されたのはバスケット2つ。 「わかった」  速くも自警団寮。  コンコン。 「入るぞ。パティからの差し入れだ」  部屋の中にはシュウ一人。フローネは帰ったようだ。部屋があれているのが気になる。 「ん?・・ディムルか」 「なんか気になる言葉だが、まあいい。カイルってやつを知ってるか?」 「えー・・・聞いたことはないな」 「じゃ、流浪の大魔術師は?」  この二つ名も自称だ。 「ないね」  これは即答。 「そうか。ここにおいとくぞ」 「すまないね」  あと4時間弱と言ったところか。 ●第138話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:12月15日(金)14時40分57秒 「うーむ。ま、いきなり聞き込みを始めてすぐに手掛かりがあったら、それはそれで拍子抜けだよなあ……」  ディムルが独り言を呟きながらさくら亭に向かっていると、前方に妙なものがあることに気付いた。  路面に敷き詰められた石畳が、モコモコと動いている。そう……まるでモグラが動いているように。 「モグラ…? いやそんなはずは……」  警戒しながら見ていると、ボコリ、と道路に穴が開き、よく知った顔が現れた。 「……アーウィル?」 「おや、ディムルか。奇遇だな」  それはこっちのセリフだ、とディムルは思い、次いで呆れた。 「何やってるんだ? 地面に潜ったりして」 「例の二人から逃げてる」  相変わらず、地面から首だけ出してアーウィル。  かなり間抜けな図だが、生首が置いてあるようで気持ち悪い。 「おまえの医者嫌いは良く知ってるが、普通ここまでするか?」 「色々あってね。どうしても医者に行くわけにはいかないんだ」  いい加減呆れ果てたディムルだが、とりあえずこいつにも聞いてみよう、と思いついた。 「むやみやたらに名前の多い奴だな」  今度はアーウィルが呆れている。 「まあ、おまえの異名だって三つどまりだからな。……で、知らないか?」 「うーん……知らんこともない」 「なにっ!?」 「自分は、特に裏稼業の中でも一番汚い仕事をよく請け負ったからな。あれは確か三年前……」  アーウィルが首まで地面に埋まったまま記憶を辿ろうとしたした時…… 「いましたよ!!」  通りの向こうにディアーナが現れた。そのまま全速力でこちらに走って来る。 「うーむ……」 「おいっ!?」 「そういうわけだから、また後ほど」 「あ、こらっ!!」  ディムルがアーウィルのいい加減に散髪した灰色の髪を掴むより速く、アーウィルは再び地下に潜ってしまった。 「くっそ……あいつ本当に人間か?」  罵ったため、ディムルはアーウィルが最後に言った言葉を聞き逃していた。 「……『タナトスに最も近づいたもの』、か。少々調子に乗りすぎのようだな、カイル。そのうち殺しておくか……」 「……何の用だ、<コードα>」 『別に。我が主の命により、今夜の“継承の儀”を見届けに来ただけよ、ヴァルカス』 「ふん……。では、<コードΩ>も来るか」 『当然ね。何か不都合が起きた場合の保険として。彼は、特に命令に忠実だから』 「不都合か……もしそれが起きた場合、貴様たちで対処できるのか?」 『愚問ね。わたしたちのどちらか片方でも、十分にあなたの相手が務まるわよ。ただ、あの方は慎重だから』 「貴様たちの主……寿命のある身でありながら、我ら“ロード”を凌駕する存在となったあの男か」 『あら、ずいぶん詳しいのね』 「当たり前だ。だが、あの男は死んだ筈……」 『確かにそうよ。死んでいるわ。……今はね』 「……『今は』?」 『ふふふふふ。あなたたちヴァンパイアは、そのうち嫌でも知ることになるわよ。楽しみに待つことね』 ●第139話 投稿者:タムタム  投稿日:12月15日(金)23時10分47秒  自警団団員寮を出た所でアーシィは足を止める。右手でヘキサを摘み上げているのは人の見舞い品を持ち去ろうとするので強制排除処分としたのだ。(見舞い品はきちんとシュウに送り返されている)  足を止めた理由は何故かフローネがこちらを見ながら立ち尽くしていたためである。取り合えず、フローネにヘキサを見せてから、 「忘れ物?」  と聞いてみたがどうやら違うようだ。それでも差し出したヘキサはちゃっかりその手に抱きかかえている。 「…シュウさんの事で、少し聞きたい事があるんです…」  なんだか思いつめた表情でそう切り出して来たため、断る訳にもいかず取り合えず歩きながら話しを聞く事にした。 「あの人は何時もあんな感じなんですか?」 「ん〜、知り合ってからそれ程長い訳ではないからよく判らないのだけど、私の知る限り君達が言うような犯罪を犯す人には見えないね」  フローネの質問に対し、アーシィはハッキリとそう言いきるが、 「最も、人間なんて見た目通りの性格とは限らないんだけどね」  それに続く言葉は先程の答えの逆を行っている。その様な事を言われてはフローネとしても困るのだが、確かにその通りだとも思ってしまう。 「それはそうかもしれませんけど…」  実際この目で見ているし戦ってもいる。だがしかし、話してみると到底犯罪者とは思えなくなってしまい気持ちが揺らぐ。 「…あの人は…極端過ぎます…」  声にならない呟きをもらし、そのままうつむいてしまった。 「ふみぃ、アーシィちゃんがしらないひととあるいているの〜」 「でも、あんまり楽しそうじゃないわね」  確かに、メロディと由羅が見た感じでは暗い雰囲気が漂っている。別に意識した訳ではないと思うのだが由羅はそ〜っと近付いて行き… 「な〜にしてんのよ」  いきなり背後から声をかける。アーシィは特に驚きもせず振りかえるが、フローネの方はそうも行かなかった。驚きの余り、手にしていたヘキサを放り投げてしまう。  だが、放り出されたヘキサは目を回しながらもメロディにキャッチされた。取り合えず無事である。 「やあ。由羅姉さんとメロディちゃん。散歩かい?」 「???姉さん???」  どう見てもアーシィは人間で由羅はライシアンである。さらに、由羅よりもアーシィの方が若干年上の気がする。なんだかよく解からず首を傾げていると、 「おねえちゃんはメロディのおねえちゃんなんです。でも、アーシィちゃんはメロディのおにいちゃんではないんです」 「???」  メロディが説明?してくれた。だがそれで解かるはずも無く、さらに混乱してしまった。このままでは頭の中が疑問符で一杯になってしまうだろう。 「細かい事は気にしちゃ駄目よ〜」  そんなフローネを見て由羅がの〜てんきな声をかけた。が、(細かい?)消えるどころか新たな疑問符が生まれてしまった。すでに頭の中は一杯なのか、目の中にも疑問符が現れている。 「ん〜、簡単に言うと私が勝手に言っているだけなのだよ」 「はぁ」  確かに簡単だ。簡単過ぎて新たな疑問符が生まれそうになるが、取り合えず納得する事にする。これ以上生まれて来ては身体中に溢れてしまうだろう。それだけは如何しても避けたかった。  これがもしビセットだったらもっと簡単に終わっただろう。真面目過ぎるのも時と場合によっては問題のようだ。 …もう少し大雑把に成った方が良いと思うよ、私としてはね…  そんな事を考えてしまうアーシィだった。 ●第140話 投稿者:ashukus  投稿日:12月16日(土)20時18分55秒 由羅、そしてメロディと別れて少し経った。フローネは相変わらず考え込んでいる。と、ここでヘキサが口を開く 「そういやアーシィ、お前これからジョートショップに帰るんだろ?」 このヘキサの言い回しの後どうなるかは分かっているアーシィ 「ヘキサ、ジョートショップを潰す気なのか?」 今に始まった事でもないが、ジョートショップはアリサさんの料理目当と思われるリサやピートなどによって食費が増大しているのだ 「い〜じゃねえかよ、ケチケチすんなよな〜」 「ん〜どうしたものかな」 そんなアーシィの言葉をよそにヘキサはジョートショップの方へと飛んでいった 「しょうがないな・・・・ん〜君はどうする?」 「えっ、私は・・・」 陽のあたる丘公園 不真面目ではないのだが大雑把に物事を考えるルシード、ビセット。 そして物事を考えているかも分からないティセは陽のあたる丘公園にてヴァルカスを探していた 「なぁ、ルシード一つ聞いていいか?」 「あ?なんだよ」 「いくらS級危険種でもさ、こっからシープクレストまでは遠すぎるだろ?」 「たしかにヴァンパイアとは戦ったが、到底そんな事は出来そうもねぇな」 と、そのルシードの言葉を言い返すように木の影から声が放たれる 「種族が同じだからといっても、その力には差があるものなのさ。人間であってもそれは言えるだろ?」 「あ?誰だよお前」 木の影から姿を現したのはケインだ、と、ルシードが言葉を放つ 「たしか、ケインとかいったよな、お前が“継承の儀”とかいうのを受けるんだろ?」 ルシードのこの言葉にビセットが反応する 「ってことはヴァンパイアなのか、それでやっぱり他人の血とか吸ったりするわけ?」 「ほぇ〜ティセの血はおいしくないですぅ〜!!」 ルシードの後ろに隠れるティセ。力の抜けるケイン、さっき教会でそんな事を話したばかりなので、もう詳しく説明する気力は失せている。 「そもそも『ヴァンパイア=血を吸う』ということ自体が間違いだ。少なくとも俺の一族+αはな」 と、ビセットがそのケインに追い討ちをかける 「そういえばさ、今は暗いからいいとして、なんで朝とか昼間に外に出て平気なんだ?」 「・・・・・・・・」 「それとさ、やっぱり十字架とかニンニクとか苦手なわけ?」 そんなビセットの言葉にそこらに落ちていた木の枝を重ねて十字架を作り、ケインに向けるティセ 「ケインさん、十字架ですぅこれでティセの血は吸えません!!」 「・・・・・・・・」 「おいティセ、おまえ何やってんだ・・・・」 ケインとルシードは身体中の力が一気に抜けていくような気がした・・・