●第121話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:12月 6日(水)19時01分00秒  青い髪の少女、フローネのホラー談義は終わったようだった。話を聞かされ続けた男、すなわちディムルはカウンターに突っ伏し、完全に硬直しているように見える。 「ええと・・・フローネ?」  こう尋ねたのはケインという男だ。彼は眼前の昼食―ドリアを平らげた所だった。 「なんでしょう?」 「そのオカルト趣味・・・何とかした方がいいと思うね。もしかしたら精神がいっちまってるのかもしれない」 「そんなことないですよ!」  顔を紅潮させてフローネが言い返してくる。 「あなたこそ・・・ピースクラフト先生の作品の良さがわからないんですか?」 「全然。大体お前、この世で一番得体の知れないものがなにか、わかってないだろ?」 「さっき危うくホラー地獄に巻き込まれそうになったくせに・・・」  パティのツッコミは敢然と無視する。 「なんなんですか・・・」  フローネは、多少怒気をはらんだ声で応じる。ケインの声は静かだったが。 「他人」 「「「?」」」  その場の全員が疑問符を浮かべる。ダウンしていたディムルまでもが。 「他人だよ。だってそうだろ?俺は自分以外の誰も理解しきれない。誰も俺を理解しきれない。  自分と極めて似た姿をしているのに、何を考えているか解らない、疑ってかかるべきか、信頼すべきかも判断できない。これを不気味といわずしてなんというのか・・・  まあ、師匠からの受け売りだけどな」 「じゃあさ、ケインって誰も信じてないの?」  と、これはマリア。 「いや。信頼と疑惑、その中間を選んでるつもりだ。というより、どちらかに偏る事なんてできやしない。“中庸”、これこそが大切なんだろ。どこぞの哲学者の言葉だけどよ」  呆気にとられる一同を無視して、ケインはコップの水を飲み干した。 「ところでバーシア、今日はなんでエンフィールドに?しかも知り合い大勢と一緒に?」  ケインが水の飲み干すころ、こう尋ねたのはアーシィだった。その相手はまるでチョコバナナのよーな髪をした女、バーシアにである。 「うん、ちょっとね・・・魔法犯罪者を追いかけてね?」 「まほうはんざい?」 「そう。シープクレストでは魔法は許可をとらないと使っちゃいけないのよ」  聞き返すマリアに答えるのは赤い帽子をかぶった少女、ルーティだ。 「変な法律のある町ね〜」 「しょうがねえよ。シープクレストとその周辺じゃ魔法を使えるやつの方が珍しいんだからよ」  こちらはパティとチャイナ風の胴着をきた少年、ビセット。 「行くのはやめといた方がよさそうだな・・・んで、その犯罪者がこの町にいると?」 「そゆこと。そろそろ隊長から連絡入っても良さそうなんだけどね〜」  と、その時、通りを病気のアルベルトが走っていく。やけに慌てているようだが― 「どうしたんだ、アルベルト?」  復活したディムルが呼びかけるとアルベルトは立ち止まり、表から声を張り上げた。 「ゴホッ・・・シュウが“魔法犯罪”とやらでブルーフェザーとかいうやつらにとっつかまったんだ・・・ゲホッ!」  それだけ言うと、再びアルベルトは駆け出した。一方、さくら亭の面子(フローネらは除く)は一斉に困惑の声をあげた。 「「「シュウが?」」」 ●第122話 投稿者:タムタム  投稿日:12月 6日(水)20時34分04秒  その時突然、さくら亭に電子音が鳴り響く。全員の目が通信機の持ち主、バーシアに集中する。 「こちらバーシア」 ≪メルフィです。すぐに自警団の事務所まで来てください。ルシードさんが魔法犯罪者を捕まえました≫ 「りょーかい。丁度全員揃っているし、すぐ行くわ」 ≪わかったわ≫  バーシアは通信機のスイッチを切り、フローネ、ビセット、ルーティを見る。 「と言う訳で、自警団の事務所まで行くわよ」 「いや、それだけ言われてもぜんっぜんわかんねーよ。予想はつくけど、ちゃんと説明してくれよな」  あんまりと言えばあんまりな説明にビセットが反論する。が、それは黙殺された。 「それよりも、自警団の事務所ってどこだっけ?」  その質問に「あっ」っと小さな声を上げる。ルーティに聞かれるまで疑問に思わなかったらしい。ちょっと困った顔をしながらアーシィに目を向け、 「解かった。案内するよ」 「どーもっ」  期待通りの言葉に笑顔で返した。  自警団事務所。そこに、ブルーフェザーのメンバーとさくら亭にいたメンバー(パティは除く)全員が押しかけた。当然、場は騒がしくなる。 「…ゴホッ…あー!鬱陶しいぞおめーら!ぐほっ!」 「アル、大人しく寝てなよ」  風邪を引いてイライラしているのだろう。いきなり大声を出した所為で今にも死にそうな様子だ。ここにトーヤがいれば間違い無くドクターストップが掛かっているに違いない。  この騒ぎを聞きつけたのか、シュウの手首に縄を巻いた男が扉から出てきた。 「ルシード!」 「おっ、ようやく来たか」 「だから、俺じゃないって〜」  シュウの言葉には耳を貸さず、バーシア達のもとへ歩み寄る。ここに来るまでは半信半疑だったが、シュウが捕まったのは本当だったようだ。 「ちょっと!シュウ君が何をしたって言うのさ!」  かなり酷い扱いを受けているシュウの姿を見て、トリーシャが食って掛かる。 「あ?うるせえな。関係無い奴は引っ込んでろ」 「関係ある!」 「ルシード、すっげぇがら悪い」  ルシードとトリーシャのやり取りを見ながらビセットがボソッと言う。フローネ、バーシア、ルーティも半ば呆れている。このままではどちらが悪者か判らなくなりそうだ。 「ん〜。一つ聞きたいのだが、魔法が使えないのに魔法犯罪者とはどう言う事なんだい?」  アーシィの放った一言に辺りが静まり返る。その場にいた全員が首を傾げた。 ●第123話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:12月 6日(水)21時51分52秒 「魔法が使えない?」  首を傾げるルシードのすぐ背後から…… 「その通り。シュウは魔法の素質が無い。それは不当な処置じゃないか?」  いきなり適当に切った灰色の頭が生えた。 「うわっ!? お前どこから生えた!?」  ルシードは思わずのけぞり、次いで非常識に馬鹿でかい義腕に再びのけぞった。  言わずと知れた、アーウィルだ。 「ルシード」  その更に背後から、髪を長く伸ばした長身の青年が現れる。 「ゼファーか……。お前、今までどこ行ってたんだ? いきなり居なくなったと思ったら、今度はいきなり現れやがって……」 「少し、面白いことを見つけたのでな……。それより、彼が魔法を使えないのは本当のようだ。よく注意して探ってみろ」 「…?」  どうやら知り合いらしいその青年の指示に従い、ルシードは目を閉じて意識を集中した。  その間…… 「何? あの変な腕の奴は?」  勝手に椅子を二つ占領し、くつろぎ始めたアーウィルをやや遠巻きにして、バーシアがアーシィに尋ねる。 「ん〜。何、と聞かれても……」  リサなら詳しく説明できるだろうが、かなり不穏なことになるだろう。さて、どう説明したものか……  ルーティ、ビセット、フローネの三人はと言えば、珍しそうに眺めている。殆ど珍獣扱いだ。 「……おかしいな…魔力が感じられない…」  目を閉じていたルシードが、かなり怪訝な顔で口を開いた。 「だからずいぶん前から言ってるでしょう! 俺には魔法犯罪なんか絶対にできないって!」  いい加減頭に来ているらしいシュウが、声を少し荒げる。 「ま、そうだろうな。魔法犯罪『もどき』なら別だろうがね」  誰にも聞こえないようにアーウィルは呟き、勝手に淹れた紅茶を啜った。その向かいではゼファーが、 やはり勝手に紅茶を啜っている。 (さて、せっかくこの街まではるばる来てくれたんだ。それなりに自分の役に立って貰おうか、ブルーフェザー)  そのアーウィルの思考を読んだわけではないだろうが……  対面に腰掛けたゼファーが口の両端を僅かに吊り上げた。 (お前の正体……何かは知らないが、ただの既知の存在ではあるまい。事実の片鱗だけでも掴んでみせよう……)  二人の策士は、揃って薄笑いを浮かべた。 ●第124話 投稿者:YS  投稿日:12月 7日(木)01時47分53秒  その日は色々あった・・らしい。  なぜ”らしい”かというと、ロイはぐっすり寝ていたためである。 「・・はあ、そうなんですか・・」  あいまいな返事を返された相手はフローネだ。しかし、悪い気はしていないようだ。それどころかものすごくうれしそうだ。  ロイは本を片手に話をしている。失礼ではあるが、読んでいるのがピースクラフトとかいう人のものだからだろうかよろこんでいる。  今いる場所はさくら亭だ。話を聞くと、どうやらここにしばらく滞在する予定らしい。先ほどから延々と繰り返されている怪談話の合間に聞いたので、本当かどうかはよくわからないが・・  今ここにいるのは、ロイに本を返すためにここにきたディムルと、教会からロイの帰りが遅いので探してきてほしいと頼まれ探しに来たケイン。それとついでに捕まえたアレフだ。  全員青白い顔をしている。フローネとロイの怪談話に、かれこれ2時間は、つき合わされているので当然かも知れない。  ケインは”もっとも得体のしれないのは他人だ”といっていたことをロイが聞いたことが最大の原因だ。 「・・信頼できないのは相手のことをまだ理解してない証拠ですよ・・」 と、いわれ、逃げようとしたところを捕獲された。  ディムルは本を返してすぐに逃げようとしていたが、 「・・いい”奇怪”ですから・・」 の一言で捕まった。  アレフは・・デートに誘うつもりでいたらしいが、すでに限界のようだ。これからデートをするのはたぶん無理だろう。  アーウィルは別室でゼファーと将棋をさしている。勝負は今のところ五分五分らしい。先ほどまではここでさしていたのだが、いつのまにかゼファーに弟子入りをしたメロディが帰ってから移動したのだ。由羅がこなければまだいただろう。もしかしたら、怪談話から逃げるために別の理由で移動したかもしれないが・・  シュウは試合の怪我が原因となりアルベルトに風邪をうつされたらしく、帰って寝込んでいる。  アーシィはカウンターの方で他のブルーフェザーのメンバーと話し込んでいる。 「・・あ、他にこの人の本ありますか?」  フローネの怪談が一段落したところでちょうどロイは読み切った。内容は・・ホラーとはいえるのか怪しかったが、興味深いものだった。だから、借りられるのならば借りてみたいと思ったのだろう。  とりあえず、これで解放されると思った他の3人は安心したようだったが・・ 「・・では、お礼に知ってるかぎりの怪談話でも・・」 ロイの一言で凍り付く。  そして、ロイの話でまた時が過ぎていく。  後日ケインの口からは”もっとも得体のしれないのは他人、それも子供だ”という言葉が出るようになったという。 ●第125話 投稿者:ashukus  投稿日:12月 7日(木)15時26分05秒 そして自警団事務所 ルシードとメルフィは事務所に駆け付けたリカルド、そしてトリーシャに引き止められ、まだ事務所にいた 「ルシード君、といったな」 「あ?なんか用かよ」 「シュウ君が魔法犯罪を起こしたとかいっていたが、どういう事かね?」 自警団隊長としては身内の人間の事については気になるようだ 「あ?アイツはシープクレストでの『連続ポルターガイスト事件』を起こした犯人なんだよ、 それに加え、七年前のある街での大量殺人、シープクレストに住んでたその街の生き残りに対しての魔法を行使した殺人未遂とかな」 「そんな嘘だよ、まさかあのシュウ君が!?」 「嘘じゃねぇよ、アイツはそういう奴なんだよ」 ルシードにメルフィも続く 「それは事実よ、現にルシードさんたちもその現場を目撃してる上に、彼と一戦交えてるわ」 「そういうこった、とにかくあいつの身柄を引き渡してもらうぜ」 ここでルシードたちに再びトリーシャが反論する 「でもさ、シュウ君には魔力なんて無いんだよ!!」 「そうよね・・・・でもルシードさん」 「ああ、アイツは俺の動きを先読みしたり、一瞬で俺たちの背後に回ったり、 人を宙に浮かせたり動きを止めたりしたぜ、アレはどう考えても魔法だろ」 と、ここでリカルドが口を開いた 「まあ、その事は私から本人に確認しておく・・・・それはそうとトリーシャ、少し外してくれないか」 「えっ!?どうしてさ、お父さん」 「ルシード君たちに話がある、それにここからは仕事の話なんだ、お前に聞かせるわけには行かないんだよ」 「ちぇっ〜、わかったよ」 そう言うとトリーシャは外へと出ていった。と見せかけ気配を消し、ドア越しに話を聞いている 「さて、私が聞きたいのは遥かシープクレストからエンフィールドまで魔法犯罪者一人の為に来たのかという事」 リカルドの鋭い問いにメルフィが答える 「もちろんそうですが?」 しかしさらにリカルドの追い討ちは続く 「では、なぜエンフィールドに滞在するのか、彼が目的ならば身柄を抑えて有無を言わさず連れて行けば滞在する必要も無いはずでは?」 「それは、彼が・・・・」 押され気味のメルフィ、その言葉をルシードが止める 「メルフィ、もぉいいだろ」 「ルシードさん・・・・」 「リカルド・フォスター、噂には聞いてたがな、さすがに鋭いぜ。確かに表向きは魔法犯罪者の捜査だけどよ、実は違う」 「どういう事だね?・・・・もしかすると、この前ローズレイクに現われた魔獣が関係しているのかね?」 リカルドの問いにルシードが言葉を放とうとした瞬間、メルフィが突然口を開いた 「ルシードさん!!捜査の内容は機密事項ですよ!!」 「あ?このままじゃ捜査がやり難いだろうが、しかたねぇだろ」 どうやら話はまとまったらしい 「では話してもらいたい・・・・・おっと、その前にトリーシャ、盗み聞きはよくないぞ」 リカルドは気が付いていたらしい、そしてドアの向こうのトリーシャは『ちぇっ』という言葉を残していった ●第126話 投稿者:美住 湖南  投稿日:12月 7日(木)21時55分13秒  ルシードの話をまとめるとこういうことになった。  あの魔獣は魔力をエネルギーとして存在する。シープクレストでも現れ、かなりの騒ぎになった。魔法動力プロセッサが動かなくなったのだ。“魔法”ということでブルーフェザーが動くことになりいいところまで追いつめたのだが、そこが海だというのが悪かった。水から水へと移動できるらしく逃げられてしまったのだ。このままでは様々なところで騒ぎになるだろうし、ブルーフェザーとしての面子も立たない。第一、自分が納得できない。  と言うことだ。個人的感情も含まれているようには思うが・・・。 「成る程。そう言うことならば、といいたいところだが・・・」 「この街で捜査をするのになにか問題でも?」 「それは問題ない。だが・・・」 「もったいぶらないで速く教えろよ」  いらいらと床を叩きながらルシードが言う。 「そうだな。その魔獣、おそらくもういない。というのはこのエンフィールドで捕まった−死んだと言った方がいいかな」 「なんだって!?んじゃ俺達が来たのは無駄足だったってことかよ」 「そう言うことになるね」 「「・・・」」 (こんなに簡単に終わっていいのか??)  いいのだ。それが悠久幻想曲。  場所は変わってさくら亭 「えー・・と、これで20杯目だな・・・」  仕事が無くなったとわかるとビセットが大食いに挑戦してきた。 「うそでしょ・・?40分でカツ丼20杯だなんて・・・」  パティもあきれ顔だ。ディムルはスコアをつけている。力がないのは怪談話の所為だろう。  1時間で30杯食べられたらタダ。ビセットが挑戦してきたのだ。親父さんもオーケーを出したので今こうしている。 「えー、ただいまの最短記録、1分53秒。一杯でだな」 「ビセットがんばれ!あと10杯だよ」  ルーティが後ろから声援を送っている。野次馬も遠巻きに見ていて営業どころではない。 「終わったらどうする?店じまいか?」 「父さんに訊いて・・・」  リサの食べっぷりで驚いていたパティだ。半分倒れかかっている。 「お!また更新。1分49秒。まだいけるか?」  まだまだだ。そう言うようにわずかだがペースが速まる。しかし、辛そうだ。無理をしているだろう。 「いつでもドクター呼べるようにしとかないとな。あと5杯」  ここで箸が止まった。固まって動かない。 「止めるなら今のうちだぞ。騒ぎを聞きつけてドクターが来る頃だろうから」  吐き気がこみ上げてきたのかトイレに駆け込むビセット。 「25杯で終わりか。1杯100G・・2500Gだな。確か他の街で1時間でカツ丼35杯の王者がいたな」  ディムルがぽつりと呟く。  ビセットは夕飯には現れなかったらしい。 ●第127話 投稿者:タムタム  投稿日:12月 9日(土)17時07分31秒 「あいつは馬鹿か?」  さくら亭で夕食を摂りながら、ルシードは毒づいた。ビセットがカツ丼三十杯に挑戦し、失敗した挙句気持ち悪くて寝込んでる。と、聞かされた途端こうである。ビセットもこれでは浮かばれない。(いや、死んでないって) 「今更何いってんのよ」 「ルーティちゃん、フォローになってない…」  もしかしたらフォローするつもりなんて無かったんじゃないか?そう思いつつも、一応フローネはそう言ってみた。 「所で、バーシアとゼファーは何処行ったんだ?」 「出かけたわよ」  ルシードの質問に、何を今更と言った感じでメルフィが答えた。本当は何処に出かけたのかが聞きたかったのだが、面倒くさくなったのかそれ以上の質問は止めにした。  アーシィの屋敷、その地下にある魔法の実験室でケインは実地訓練に励んでいた。  辺りに広がる風景はローズレイクのもの、そして、その訓練に付き合っているのは…アーシィのプログラムだ。 『ルーン・バレット、アイシクル・スピア、ヴォーテックス』  ケインが立て続けに魔法を放つ。アーシィはその火球をかわし、氷の槍を銃で撃ち砕き、小規模の竜巻を障壁で受けとめ、動きが止まる。  そして、障壁が解けた時の一瞬の隙を狙い、魔法を放つ。 『グラビティ・チェイン』  タイミングは完璧だ。と思った途端、アーシィに微かな笑みが浮かんだ…様な気がした。 『具現化される闇の魔法文字、全ての魔力を支配する絶対領域≪ディレクション・フィールド≫』  何時の間にか開放されていた闇の魔力がスペル・サインとなり、アーシィの左腕を包み込む。そして、放たれた重力はその左腕に集中する。  だが、魔法の効果は打ち消せないのか、その腕がだらりとぶら下がる。が、それに構わず詠唱に入る。 『我が声を聞き届けし大地の精霊達よ。この魔力を汝等の糧とし、我が望みし敵へ戒めと束縛を与えよ≪バインディング・チェイン≫』  左手に一瞬魔法陣が浮かび、ケインの足元から巨大な鎖が姿を現す。しかし、ケインの反応も速く、バックステップで後ろに下がるとすぐにファングで障壁を張る。  それでも鎖は意思を持っているかの様に、障壁の一点に集中し破壊しようとする。幾つかの鎖は砕け散るが、同時に障壁の方も力を失った。 「見た事の無い魔法だな」 「ん〜。これでも一応魔導師だからね。誰も知らないような魔法だって使えるんだよ」  部屋の壁一杯に映し出されている映像を見ながら、ゼファーが正直な意見を漏らした。アーシィの方も、何を指して見た事の無い魔法と言ったのかがよく判らず、かなり大雑把な答えになる。  その部屋にいるのは四人。ゼファー、バーシア、アーシィが魔法陣の外、魔法陣の中央ではケインが胡座を掻いて座っている。傍から見れば瞑想している様にも見えるが、あながち間違った表現とも言いきれない。 「所で<ルナティック・ナイトメア>と呼ばれる存在を知っているか?」 「???」  唐突なゼファーの質問にアーシィとバーシアは首を傾げる。二人に心当りは無い様だ。それを確認し、ゼファーが語り始める。 「そいつは月の綺麗な夜に現れる。月夜に映える、銀にも見える明るく青い髪、長く伸ばされた前髪の下から覗く赤い双眸。長い三つ編みと細い体つきの為、男か女かも判らない。  その手口は残虐非道。いきなり魔法を浴びせ、逃げようとする者の腕と足を銃で撃ち抜き、血の様に赤い大鋸まで止めを刺す。  それはまさに“悪夢”のような光景だ。最も、盗賊や奴隷商人、捕獲業者と言った連中の前にしか、姿を現さない様だがな」 「…何が言いたい…?」  話しを聞き、それまで黙っていたアーシィが口を開く。その内容には心当りがある。それどころか、自らが行っていた事と一致する。 「…そして、それを目撃したものは…ミートソーススパゲティが食えなくなったらしい」 「…物凄くイヤな落ちをつけるわね」  口ではそう言いながらも、バーシアは少し安心した気分になっていた。 ●第128話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:12月 9日(土)19時35分28秒     『サクセサー・オブ・トワイライト・ファング』 「ルナティック・ナイトメア、ねぇ・・・よっぽど暇なヤツだったんだろなー」  アーシィの屋敷からの帰り道、ケインは一人ぼやいていた。なぜか隣にはローラがいる。二人とも教会への帰路を歩いている。少し夕焼けがかっているが、まだ明るい。 「でも『ミートソーススパゲッティが食べられなくなる』って・・・」 「ゲログチョだったのかもな。ところでローラ、それなんだ?」  と、ケインが指差したのはさほど大きくない箱だった。きれいに包装されている。 「うん。今度セリーヌさんの誕生日だから、そのプレゼント」 「誕生日かぁ・・・そういや俺も今日で25だな。20・・・5・・・」  ふと目つきを険しくしたケインを訝るローラ。なにか言おうと口を開くー  運命とはいつだって唐突だ。事も無げに訪れて、覚悟を決める暇も与えない。 「ケイン・T・クライナム」  突然の呼び声に、ケインは振り返った。聞き覚えがあるどころではない、彼の人生の五分の四は聞きつづけていた声。そこには、一人の男がいた。  漆黒のローブ。魔術師の着る物と似ている。その顔には仮面がある。特大の真珠を削り、その表面には金銀その他多くの宝石。仮面舞踏会にでも使えそうな物だ。  そして、頭上に掲げられた右腕の先には―純白の光球。 「!!」  ローラを突き飛ばすと『ファング』を抜き放ちつつ横に飛ぶ。その後を閃光が焼き貫いていく。  『ファング』を長剣化させ男に向かって駆け出す。その後方で光球が分かれ、無数の小さな光球がこちらへ殺到する。  構わず男に剣を横なぎに振る。が、男は空間転移で避ける。殺到した光球は振り向きざま障壁で弾く。だが、その無数の光球は一つ一つが以前雷鳴山で遭遇した人形の火炎弾並の威力があった。  障壁を消すと、男はさっきケインのいた場所にいる。その手には雷が。だが、その腕は突然弾かれたように上を向く。  ケインの風の振り子が衝撃波をぶちまけたのだ。そして、ケインは一気に間合いを詰める。突きを繰り出そうとし、男の右腕にも魔力の剣が生み出される。  二人が動きを止める。お互いにあと数センチ、切っ先は届いていなかった。そして、双方共に武器をおろす。 「腕を上げたな。ケイン。飛び出したときよりよほどいい」 「・・・第一声がそれですか。ヴァルカス親父、いや師匠」 「・・・え?」  これは尻餅をついたままのローラ。無視しながら二人は話し始める。と、男―ヴァルカスが仮面を外す。  その顔は、形容しようもなく美しかった。彼を普通の美男子とすれば、世界の八割以上がブスになってしまうほどだ。だが、その剣呑な瞳は血のような深紅だ。 「ケイン。お前も今日25歳だ。一族の掟に従い“継承の儀”を行う」 「リュート兄さんがいたはずですが」 「あれは当主には不適格だ。確かに純血だから魔力は高いが、人間は我らの下で馬車馬のように生きるべきだ、など、前時代的にもほどがある。よって誅殺した。  対してお前はハーフながら、我らは人の影で平和に貢献すべきだと五年前から言っていた。素晴らしい意見だよ。よってお前が後継者にふさわしいと判断した。  日時は明日の深夜、満月が天高く昇るころ。遅刻は一時間までだ。拒否したり遅れた場合・・・このエンフィールドからシープクレストまで、一夜で灰燼に帰すぞ」 「なっ!この町とかは無関係だろ!脅迫のつもりか?!」 「脅迫ではない。宣告だ。“能力封印”を解放した私の力、知らぬわけでもあるまい?」  「くっ・・・」 「では期日、この町の『陽のあたる丘公園』とやらで待っている。ケイン・ツァルクハウゼン・クライナム。『サクセサー・オブ・トワイライト・ファング―宵闇の牙の後継者』よ」  それだけ一方的に言うと、男―ヴァルカスはフッと姿を消した。 「あんのクソ親父!無茶苦茶いいやがって・・・!」  拳を握り締めてケインが叫ぶ。ローラもローラで呆然としていた。  ローラには聞き覚えがあった。百年前に、母から聞かされたおとぎ話。  ツァルクハウゼン家。確か―ヴァンパイア種族最強の“ロード”と呼ばれる家のはずだった。 「なんで・・・日の光を浴びて平気なの・・・?」 「・・・家の家系のヴァンパイアには、日の光も十字架も聖水もニンニクもきかねえよ・・・」  ケインの呟きが、彼女のヴァンパイア観を覆し始めた。 ●第129話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:12月 9日(土)22時23分02秒 「やれやれ。前時代的でないのは良いが、少し甘いな。あいつは、別の意味で心配だ」 「そいつは自分も同意見。だが、この街を消されるのは困るなぁ」 「……気配は無かったはずだが」  ケインの師匠ヴァルカスは、何の気配も発さずに突如現れた目の前の男を睨みつけた。  ヴァンパイアの感覚は人間とは比べものにならないほど鋭い。しかし、この男からは気配はおろか、 体臭も呼吸音も、心臓の鼓動さえ聞き取れない。否、存在しないのだ。 「それは企業秘密。ヒントを言うと、不死は君たちヴァンパイアの専売特許ではない、ということだ」  巨大な義腕を唸らせ、面白くてたまらない、という表情でその青年は言った。 「ついでに、歴史の暗躍者も君たちの専売特許じゃあないんだな、これが」 「何者だ、貴様」  ヴァルカスはまったく油断の無い構えで問う。未知の存在だ。敵ならば滅ぼす。 「ウィップアーウィルという名前で呼ばれてる」  相変わらず、今にも笑い出しそうな表情で名のる。 「死者の魂を奪い去る夜鷹か。ふざけた名前だな」 「よくそう言われるんだよね、ネーミングセンスが無いとか」  お互いとも、相手が巨大な力を秘めていることを感じ取っている。が、義腕の青年は何の気負いも無く、 むしろ楽しんでいる。 「困るんだよなー。この街を消されると。我が主の主命を果たせなくなるし、個人的にも後百年ぐらいはここで遊んでるつもりなんだから」 「主……。ほう、貴様には主人が居るのか。言え」  ヴァルカスの両眼が禍々しい光を放った。 「言え。貴様の主とは誰だ」  ニィ…、とアーウィルの口元が吊り上がった。 「なかなか強力だな、これは。面白い。流石は“ロード"」  ニタニタと、耳まで裂けるような笑みを浮かべ、アーウィルは今まで被っていた人間としての仮面を脱ぎ捨てた。 「第六起動」 『右腕部特殊兵装<戮皇>・第一起動→第六起動 出力加圧』  義腕が咆哮を上げ、装甲が組み替わる。 『装甲組替・通常起動→大出力砲撃用』  巨大な肩部の装甲が展開し、砲塔に変形する。 「! 貴様はまさか!?」 「解ったようだな。尊敬するね!」  面白そうなアーウィルの声と共に、<戮皇>が吼えた。  砲口から巨大な青い光の柱が迸り、ヴァルカスに向けて殺到する。 「ちっ!!」  ヴァルカスは舌打ちした。 (あの伝承が正しければ、あらゆる攻撃と防御は無駄か……厄介な相手だ)  負ける気はしない。だが、正面から激突すれば周囲が無事にはすまない。今この街を破壊してしまえば、 ケインは確実に自分に敵意を持つ。 「この勝負預けたぞ! <コードΩ>!」  忌々しそうに叫び、ヴァルカスは姿を消した。  同時に、青い光の柱が地面に激突した。 「やーれやれ。面倒なことばかり起きるなー。平穏に暮らしたいのに」 『嘘ばっかり。嬉しくてしょうがないくせに。で、もう解除していい?』 「ああ、もういい。一回本性を出すと、戻すのが一苦労だ」 『はいはい』  どうでも良さそうな声と共に、何かが砕ける涼しげな音が響く。  同時に、乳白色で占められていた視界が硝子に描かれた絵を砕くように霧散し、見慣れた町並みが現れる。 『まったく、街中で第六起動なんて何考えてるの? わたしが空間を隔離しなかったら地殻が消滅して、 街がマントルの海に沈んでたわよ?』 「悪い。調子に乗ってはしゃぎすぎた。あんまり楽しかったんで。つい、な」 『なんか以前と立場が逆転してるわねー』 ●第130話 投稿者:ashukus  投稿日:12月10日(日)15時07分54秒 翌日、さくら亭 昨日あった出来事は既にさくら亭でも噂になっていた。正確にはローラが広めたのだが、いつの間に? 「へぇ〜ケインが人間じゃないなんて驚いたわね」 スパッと言い切るパティ、それに対しディムル 「正確にはハーフなんだろ」 そして朝食を食べながらリサ 「それで、その“継承の儀”とかいうのはいつなんだい?」 「ローラの話じゃ今日の深夜らしいわよ。なんでも遅刻したらエンフィールドからシープクレストまで一夜で灰にするって」 パティのこの言葉に反応したのか、今まで無関心だったルシードが話に入る。 「おい、こっからシープクレストまでどれくらいの距離があると思ってんだ?」 「どれくらい?」 「魔法兵器の、たしかファランクスとかいったか?まぁ、とにかくそいつの破壊力でも一夜じゃとても灰にできねぇ距離だぜ」 いつの間にルシードがファランクスの情報を入手したのか疑問だ・・・・・ 「とにかくシープクレストが灰にされちゃたまらねぇな」 カランカラン そういうとルシードはさくら亭のカウベルを鳴らし外へと出ていった・・・・・これはよく考えると食い逃げか? と、そのルシードを追って行く少女がいた。歳は15・6くらいのヘザーと呼ばれる種族だ 「あう〜ご主人様〜待ってくださいですぅ〜」 カランカラン その少女が去っていった後しばし沈黙する店内、そしてその沈黙を破ったのはパティだ 「・・・・・・ご、ご主人様?・・・・あのルシードって人?・・・・」 「いろいろあるんだろ」 何か知っているかのように呟いたのはディムルだ 「と、とにかく肝心のケインはどうしたんだい?」 仕切り直すリサ 「そう言えば今日は見てないわね、ディムルあんたは?」 「おれも見てないぞ」 いつもならさくら亭で朝食を取っているだろうケイン。しかし今日は居ない、どこに行ったのであろう? と、リサが気が付いたように口を開く 「そういえばあの馬鹿もいないね、どうしてるんだい?」 「アーウィルのこと?そう言えばアーウィルも今日は見てないわね」 エレイン橋 「ふぅ・・・・」 橋に寄り掛かりバーシアは煙草に火をつける。仕事はどうしたブルーフェザー 「・・・・・」 何か考え事をしているらしい。恐らく昨日アーシィの屋敷でゼファーがした話であろう 「・・・・・(『銀にも見える明るく青い髪、長く伸ばされた前髪の下から覗く赤い双眸』・・・まさか、ね)」 バーシアが煙草を川に投げ捨てようとしたその時、後ろからの声に手を止める 「ん〜煙草の投げ捨てはよくないな」 後ろを振り返るバーシア、そこにはアーシィの姿があった 「アーシィ・・・ごめんごめん、ついクセでさぁ」 バーシアの手に持った煙草が炎に包まれる。許可無く魔法使用可というのも便利で良いものだ。とバーシアが唐突に言葉を放つ 「アーシィ、あんた昨日ゼファーが言ってた<ルナティック・ナイトメア>に何か心当たりあるんじゃないの?」