●第91話 投稿者:タムタム  投稿日:11月17日(金)20時27分43秒  会場が薄暗くなり、舞台にスポットライトの光が当てられる。その中央には可愛らしいドレスに身を包んだ少女が立っている。一つお辞儀をし、よく通る声で挨拶を始める。 「今日はぁ、演奏会に来てくださって、どうもありがと〜。あたしは進行役のローラで〜す。最後まで、聞いて行ってねぇ」  客席から盛大な拍手が送られてくる。ローラは少し照れながらプログラムを覗きこみ、 「一曲目はディムル・マークレットさんのバイオリンによる『永遠の旅人』です。みなさん、静かに聞いてねぇ」  舞台袖に引っ込むローラと入れ違いになる様に、ディムルが舞台中央へ歩いて行く。そして軽く礼をし、演奏を始めた。 「いや〜、いい曲だな〜」  最前列に座りながら、シュウはすっかり寛いでいた。先ほどまでの緊張はすでに無い。ちなみに、アーシィは会場が見渡せるように一番後ろ。ディムルは演奏が終わると舞台袖で待機となっている。  この後何曲かはヴェティス劇場の劇団員や住人による演奏と続く。そして休憩を挟み、三曲目がシーラとアーシィの演奏。一番最後が、シーラの伴奏で孤児院の子供達による合唱となっている。  時間は進み、ディムルの演奏は無事に終了する。何事も無くプログラムは進み、 「今から、三十分間の休憩で〜す。時間を間違えないでねぇ」  ローラが休憩を告げる。その言葉を聞き、リサがアーシィに近付いてきた。 「今の所は何も起こってないけど、油断するんじゃないよ」  背後から、静かに告げる。アーシィは頷き立ちあがった。休憩後の三曲目に出番が回って来るので、舞台袖のディムルと配置換えをする為だ。  観客も座っている事に疲れたのか、ある者は立ちあがり、ある者は外へ出ようと移動を始める。その時、『ドスッ』と鈍い音がリサの耳に入った。目を向けるとアーシィの後ろに男がいる。その手にはナイフが握られ、ナイフはアーシィの背中から生えていた。 「えっ?」  目を見張るリサの前から男は立ち去ろうとするが、それより速く… 『クロノス・ハート』  全ての時間が凍りつく。その中で静かに立ちあがったのは、テンガロンハットを目深にかぶった青年。『本物のアーシィ』だ。ナイフを刺されたのは魔法で生み出された偽者、前回雷鳴山に出現した『謎の魔物』と同じ存在。  原理の一部を解明しただけなので、簡単な行動くらいしか出来ず戦闘能力は全く無い。まだまだ未完成の魔法だが、囮としては役に立ったようだ。 「ん〜、こうも上手く行くとは…」  信じがたい展開だが、残された時間は少なく、すぐに作業を開始する。 ―まずは伝言を残すため『偽者』に魔法を施す。これで、アルベルト達にこの事は伝わるだろう。  次に、リサ、ランディ、アーシィを囲む様に六枚のカードを投げ、詠唱を開始する。その言葉に応えるかのように、カードを頂点とした、円六芳星と複雑な魔法文字が出現。魔方陣は次第に輝き始め、三人の姿を跡形も無く光の彼方へと消し去る。残されたのは『偽者』のみ。  三人が出現した場所はローズレイク。演奏会を台無しにする訳にはいかないので、転移魔法で一気に跳んだのだ。  それにしても、疲労が激しい。転移魔法はカードを使いサポートできるので未だ良いが、クロノス・ハートは完全に自身の魔力だ。『呪いと封印』が掛けられている身にはかなりきつい。銃はもう使えないだろう。  最後にコートの下から夜闇を思わせる、深く蒼い刀身を持つ二振りのナイフを取り出し距離をとる。右手は順手、左手は逆手に構えている。そして、時は動き出す― 「ここは…?」 「…何が起こった…」  リサとランディが口々に呟く。リサが最後に見たのはナイフを突き立てられたアーシィの姿、ランディは気付かれないうちにその場を離れる筈だった。が、目の前に広がる風景はのどかなものだ。 「リサ!今はランディを捕らえる。説明は後だ!」  その言葉にリサの神経は戦闘モードへと突入する。ランディへ躍り掛かり次々とナイフを繰り出す。その攻撃は速く、相手にボウガンを抜かせない。  アーシィは手にしたナイフの、柄尻の部分を胸の前で合わせ捻り、丁度小さな弓のような形にする。名前は『月光双牙』ナイフのときはナイフとしてしか使えないが、この形状なら周囲の魔力を吸収し、指を指し念じるだけで矢を放つ事が出来る。 「出番が来るまで一時間…か。それまでに何とかしないといけないな」  月光双牙を左手に、カードを右手に持ち気合を入れる。ロ―ラ達の期待を裏切るような事は許されない! ●第92話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:11月18日(土)20時06分48秒 『ふふふふ、なかなかやるわね。さて、ランディを時間内に何とかできるかしら? 一時間を過ぎたらゲームオーバーよ』 「誰も聞かないナレーションはいいから、さっさとデータを集めてくれ。情報収集能力は君の方が上なんだから」 『あなたも都合が悪くなったら『リセット』、頼むわよ。幸い、リサも居るし。まとめて消しちゃえば、 誰にもあなたの仕業とは解らないわよ』  「解ってる。最悪でも少し地形が変わる程度で済むな、この調子なら」 『ところで、本当に良いのかしら? 演奏会が駄目になったら、あなたのお人形さんが悲しむんじゃないの?』 「トゥーリアは、自分の人形ではない。それに……」  誕生の森の中に作っておいた隠れ家の中で、アーウィルは目つきを鋭くした。 「自分たちの“存在意義"が如何なる状況でも最優先事項だ。忘れたわけではないだろうな? <コードα>」 『はいはい。解ってるわよ。そう言えば、将棋はどうだったの?』 「……僅差で負けた」 『あ、そう』  しばらく沈黙が降りたが、すぐにそれは破られた。 「アーシィの魔法……どうも引っかかると思ったら、タナトス魔法の気配がした」 『やっぱりね。今のところ、一番警戒すべき要素だわ。早めに消しちゃった方が良いんじゃないの?』 「それは早計だ。こちらにはっきり敵対しているわけではない。それに、万全を期そうとすると少々大袈裟になる」 『そう……まあいいわ。あなたの機能は大規模破壊に特化してるものね。確かに、少し大騒ぎになるかしら?』 「ああ。下手をすると、この街が消える。それでは意味が無い」 『それはそれでわたしは面白くて良いけど、ね…』  セントウィンザー教会。 「やっぱり来たか……」  伝言を聞き、ディムルは唸った。 「とにかく、早く加勢に行かねえと……!」  アルベルトが槍を持ち、今にもすっ飛んで行こうとするのを、シュウが押し留めた。 「ちょっと待って! ここで統制が崩れたら、相手の思う壺かもしれません。伏兵が居ないという保証は無いし」 「その通りです」 「同感だ」  ロイとケインが同意する。  今のところ、護衛以外にはこの事は知らされていない。混乱を防ぐためだ。特に、シーラには知らせていない。 「自警団のバックアップは期待できません。ここに残る者と、加勢に向かうものを分けましょう」  ロイが提案する。 「そうだな。しかし、誰が行く? 数で押し切ろうとすれば、逆につけこまれる。少数精鋭で当たったほうが良いだろうが……」 「そう言えば、アーウィルの奴は? 今は一人でも手が欲しいんだが……」 ●第93話 投稿者:美住 湖南  投稿日:11月18日(土)23時25分30秒 「アーウィルは客席にはいなかったぞ」  言ったのはディムル。 「うーん・・・。アーウィルがいないのはむちゃくちゃ惜しいが、ここはうまく2つに割ろう」 メンバーは、アルベルト、ケイン、シュウ、ディムル、ロイ+ポチ。 「そうだな。ロイとポチはぜったい一緒だから、実質5人。まあ、2、3ってとこだな。少数精鋭もなにもあったもんじゃないな・・・」  それぞれ能力に得意分野があるため、難しい。アルベルトとシュウは槍、剣の接近戦。ケインは中距離戦。ディムルは魔法主体の長距離だが接近戦もできる。ロイは、ポチがいるのでほぼ全部と見ていいだろう。 「相手はボウガンだからな・・・他にもあるかもしれんが」  話し合いの結果、グーパーで決めることとなった。さて、決まったのは、シュウ、ケイン、ディムルチーム、アルベルト、ロイ+ポチチーム。 「じゃあ、俺たちがアーシィのほうに行くと言うことでいいですね」 「あぁ。頼んだぞ」  見事なナイフ裁きで技を繰り出すが、ランディはうまく避けていく。ボウガンを出させないことには成功しているが、ダメージも与えていない。このままでは疲労だけがたまる。  『月光双牙』から矢がひらめく。あいにくダメージは入らないがこっちに気を逸らすことはできた。左肩にリサのナイフが入る。 「っぐぅ・・」  しかし、間合いが近くなりすぎた。ランディの膝蹴りがリサの腹部に叩き込まれる。 「がぁっ・・・」  息が詰まり、ためていた空気が一気に絞り出される。痛みと酸素不足で身動きがとれない。それを利用され、拳が顔に入り、蹴りがやはり腹部に。自らの傷など考えないある意味、決死の攻撃だ。『月光双牙』も出せない。攻撃の度に微妙に位置が変わりなかなか打ち出す機会を与えてはくれないのだ。 「(さすが、元騎士団団長。侮れない)」 「えぇっと、あの『伝言』によるとローズレイクに行ったようですね」 「近い分行くのは簡単だが、学園や孤児院まで余波が来ないといいな」 「恐いことを言うなディムル」  エンフィールド学園前を通り過ぎ、もうすぐローズレイクに着くところだ。  タイム・リミットまであと、50分。 ●第94話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:11月19日(日)10時25分16秒  タイムリミットまであと45分といったところか。ケイン、シュウ、ディムルはローズレイクにたどり着いた。  そこではリサが叩きのめされ、アーシィも追い詰められていた。ランディも肩に深手を負っているようだが、動きにはまだキレがある。  五分五分どころか、七割方不利な状況だ。 「アーシィさん!」  シュウが呼びかけるが、アーシィは防戦一方で返答できない。 「ケイン!お前確か神聖魔法使えたろ!リサを頼めるか!?」 「足止めは頼むぞ」  ディムルとシュウ、ケインはそれぞれ駆け出す。ディムルとシュウは武器を掲げてランディへと、ケインは地面に倒れ伏すリサへと。 「ちぃ!」  数で不利と睨んでランディが退こうとする。だが、背後には火柱と氷の塔が生まれていた。走りざまケインが放ったファイア+アイスペンデュラムだ。 「おおおぉぉぉ!」  アーシィに拳を打ち込む。だが、アーシィも受身を取ると体勢を立て直す。そして、ランディはアーシィとディムル、シュウに囲まれた。 「ティンクルキュア」  神聖魔法でリサの傷を癒す。意識はあったが、内臓のダメージが大きくて動けなかったようだ。「ありがと。もう大丈夫だよ。それより、ランディは?」  向こうではいまだに接戦が続いていた。三人がかりでもランディはなかなか倒れない。  それぞれの攻撃を見切り、避け、あるいはあえて急所をはずして受け、逆に至近距離からの体術の連携でダメージを与えてくる。状況はせいぜい五分五分といったところか。 「さすがに、元騎士団団長なだけあるね・・・」  リサの言葉を聞きながら、ケインは沈思黙考していた。  ここから教会までは走って15分。呼吸や衣装を整えるのに5分かかるとして、あと25分で片をつけねばならない。  なのに、ランディは強い。このままでは消耗戦になり時間を食う。しかも乱戦なので迂闊に魔法も使えない。 「これしか、ないか・・・」  決意する。発動するかは向こうの機嫌次第。不確実な方法だが、彼の行使可能な術の中で現状打破ができるのは、これだけだ。 「我は汝と共に歩む者。汝は我の傍らに佇む者。汝、我が呼び声に応え、我が願いを叶えたまえ」 詠唱する。初耳の呪文なのか、リサがこちらを向くが、応えるつもりは無い。  精霊召喚術。彼が振り子の水晶に込める魔力の、真の源。地水火風雷氷の精霊を具現化する秘儀。彼の故郷、隠れ里の伝承にある技。 「来たれ、汝が名、『風の獅子』。来たりてかの者を封じよ」  声と同時、ケインの前に風を纏った獅子が現われ、大気が唸るような咆哮をあげる。途端、乱戦中の4人が揃って動きを止める。 「あれ?」 「ちぃっ!どうなってやがる!」 「なんだなんだ?!」 「ん〜と・・・」  要するに、4人の周囲の空気が硬化したせいで身動きが取れなくなったのだ。 「ここまでやるつもりは無かったんだが・・・どうも精霊の機嫌がよすぎたか?」  呆れながらもケインはランディ拘束用のロープを取り出した。風の獅子は満足気な唸りをあげた。 ●第95話 投稿者:ashukus  投稿日:11月19日(日)21時36分24秒 「ケイン=T=クライナムか、資料にはこんな能力は書いてなかったが・・・」 ロープを握り、歩いてくるケインを見てそう呟くランディ、と、その左手が少しずつ動き出しアーシィにボウガンを向ける 「!!」 「なんでこの状態で動けるんだ!?」 「アーシィさん!!」 「アーシィ!、くっ、仕方ないか」 仕方なくケインは召還を解除する、風の獅子が消え周囲の空気も元に戻る。同時にボウガンを放つランディ、 身動きが取れるようになったアーシィは矢をなんとか避けた。と、ランディが何かを投げる バァァン 爆音、そして閃光が辺りを包む。そしてそれらが引いた後、ランディの姿は消えていた。 その頃セント・ウィンザー教会 休憩時間が終わり演奏が再び始まる、後ろから観客の様子を伺うアルベルト、教会の外を見張るロイ と、三人の柄の悪い男が教会へと近づいてくる。手には刃物が握られている 「きやがったな」 「そのようですね」 アルベルト男達の存在に気が付き外へと出てきた。そして槍を構える その時、男の一人が一瞬でアルベルトとの距離を詰めナイフを繰り出す キィィン 「(速え、訓練に訓練を重ねた動きだな)」 そう思いながらアルベルトは後ろへ飛び距離をとる、が、相手はなおも間合いを詰め、ナイフを繰り出す 「(チッ、コイツ戦いに慣れてやがる)」 その頃残り二人の男がロイの魔法兵器ポチと対峙していた。二人の男がポチに斬りかかる が、ロイはポチをガードさせるだけで攻撃はしない 「どうしますか・・・手加減なんか出来ませんし」 そう、ポチは魔法兵器である、生身の人間が魔法兵器の攻撃を食らえば即死はまず間違い無い、と、男が剣を振り上げる キィィン その瞬間、男の持っていた剣が何かに弾き飛ばされ宙を舞う、 振り向いたロイと男二人の目線の先にはリサ、アーシィ、ケイン、ディムル、シュウの姿があった 後退りする男二人、だが誰かに背中がぶつかった、その誰かを見る男二人 「どこへ行く気だ?」 アルベルトだ、先ほどの男は片付けたらしい、その時、男二人がやけくそでリサ、アーシィ、ケイン、ディムル、シュウへ突っ込んでいく 片方はダメージの少し残るリサ、もう片方は外見的に一番弱そうなシュウへ そしてシュウは刀を抜き構える、そして 『亜楠流剣技 燕刃』 瞬間、シュウの周りに円を描く剣閃が現れる、飛び込んでいった男は前のめりに倒れる 「いちおう、みね打ちです」 一方リサ 「手負いだからってなめてもらっちゃ困るね」 男の繰り出した剣を無駄の無い動きでひらりとかわし、男の腕を後ろへひねり喉にナイフを突き付ける 「まっ、あきらめな」 こうしてランディには逃げられたものの三人の男を捕まえることに成功し、タイムリミットにも間に合った ●第96話 投稿者:タムタム  投稿日:11月20日(月)23時03分54秒 「後は任せたよ」 「早く行かないと間に合わねぇぞ」  言うと同時に走り出すアーシィに、アルベルトは男達を縛りながら短く答えた。 「何か嬉しそうですね」 「ああ。あいつ、かなり楽しみにしていたからな」  ポツリともらしたシュウの呟きにアルベルトが答える。すでにロープは縛り終えている。 「シーラと一緒に演奏できるからか?」  ディムルが率直な疑問を口にする。 「それだけじゃねぇよ。あいつはな…」  そこまで言ってアルベルトは口を紡ぐ。言うかどうか迷っているのかもしれない。彼の目線は会場の中を追っていた。 「遅いぞ」 「何処で油売ってたのよ」  控え室に飛び込んだアーシィを待っていたのはルーとパティの厳しい一言だった。シーラは間に合った事に安心した様だが。 「ん〜、ちょっとね」  そう言いながら、コートの中からフルートを取り出し机に置く。大した装飾もされていない純銀製のフルートだが、何処と無く素朴な美しさを持っている。 「随分使い込まれているな」 「まあね」  コートとテンガロンハットを壁に掛けながら、ルーの方を見もせずに答える。そして、銃やら杖やらナイフやらを外しテーブルへと置いていく。 「あんたって何者?」  テーブルの上に置かれた武器を悪戯されない様、鍵付きのケースに入れながら、パティは呆れたような呟きをもらす。 「ん〜、難しい質問だね」  軽い調子で答えてみるが、適切な言葉が見当たらない。本当に難しい質問だ。 「あの…いつ頃から吹いているんですか?」  フルートを手に、近付いて来たアーシィへシーラが訪ねる。 「ん〜。十…四、五位からかな?その頃出会った人に、音楽の素晴らしさを教えてもらったんだよ」  もし、その人に出会えなかったらどうなっていただろうか?訳の解からない復讐心に支配され、目に付いた盗賊や捕獲業者を殺し、力のみを求めて遺跡へ潜り、強力な武器を集めて回った荒んだ日々。  そんな状態から救い出してくれたのが、旅の音楽家だった。その人の音楽で心が安らぐのを感じ、大切な言葉を思い出した。 『優しい人になってね…』  たった一言だったが、それで十分だった。破壊の力が護る力へ変わるには。 「もうすぐ出番だって」  パティの一言で我に返る。そして、シーラとアーシィは舞台の方へと移動した。 「流石にあれじゃ勝てないか」  とある部屋の一室で、鎧を着た青年が諦めの混じった声を漏らす。目の前には怪我の手当てをしている壮年の男がいる。 「一対一じゃ負けねぇんだがな」  その言葉が負け惜しみじゃない事は知っている。だが、一騎打ちの出来る状況を作る事が出来なくなっているのも、また事実。 「さて、どうするか…」 「ほっほっほ。その必要は有りませんよ」  次の手を考え始めるが、その思考は中断される。 「首領!?どう言う事です?」 「あなた達は彼等の力をどう見ます?」  青年の質問には答えず、逆に問い掛ける。 「特徴的な強さが見られます。ハッキリ言ってまとめて相手にするのは避けたいですね」 「当たり前だ。そんな事をしたらここの組織じゃ勝てねぇ」  相手の力を過小評価しない二人を見て、首領は深く頷く。 「仲間にしたらさぞ心強いでしょうねぇ」  予期せぬ言葉に、二人は怪訝な顔をする。 「そう、やな顔をしないで下さい。しばらくは様子を見る事にしましょう」  言う事だけ言うと、またほっほっほと言う笑い声を残して部屋を出て行く。残された二人の表情はより怪訝になっていた。 ●第97話 投稿者:YS  投稿日:11月21日(火)00時32分58秒 (・・はあ、どうしてこんなことになったんだろ・・)  ロイは舞台の真ん中、それも一番目立つところに立っていた。理由は簡単だ。歌いたくないと言ったから、指揮者を任されたのだ。  歌が下手なわけではなかったが、人前に出るのは極端に苦手だった。だからこそ歌うことを断ったのだが、逆効果だったようだ。そして、音感があるという致命的な理由で指揮者に選ばれた。  孤児院の子供達による合唱が終わり、演奏会は大盛況の内に幕を下ろした。  後日、教会での打ち上げにて・・ 「まったく、被害がなかったからってろくに取り調べもせずに釈放ってのはどういうことだ」 「まあまあ、そのくらいにして楽しみましょうよ」  絡んでいるのはアルベルト、絡まれているのはいつものようにディムルだ。相変わらず絡まれるのが得意なようだ。  演奏会の後、捕まえた三人の取り調べを行う前に牢屋に入れておいたのだが、被害がなかったことと怪我をしたのは三人の方だという理由で勝手に釈放されていたのだ。アルベルトの怒りももっともではある。 「・・怒るのはわかりますけど、打ち上げでそういうことを言われても困るんですけど・・」  ロイは一人でローラの作った食事を食べている。なぜかここには人が来ないからだ。あまりおいしいとは言えなかったが、食べられなくもないような気もする。・・気のせいかも知れないが。 「・・トゥーリアも最近はだいぶ人間に馴染んできたみたいですね・・」  リオの手を引いてはしゃいでいる少女を見ながら、塩の塊を口にして思わずむせそうになる。そのまま飲み込んだが。  アーウィルは結局事件が終わってから姿を現した。リサには、 「アンタがいなかったお蔭でこの程度ですんだ」 などと言われていたが、本人は気にしていなかったようだ。  ケインはただ働きのままあの日を終え、いまは仕事を探しに街に出かけている。  アーシィは念のためクラウド医院で見てもらっているが、心配はなさそうだ。  シュウは・・まあ、いつもの通りだ。 「・・流れ者・・ですか・・」  ロイは出会ったことのない男、ランディのことを考えてみた。  だが、結局は空想の域を出ることはない。ただ、浮かんだことは 「・・よく考えるとこの事件にかかわった人のほとんどが流れ者なんですよね・・」  その呟きは誰の耳にも届かなかった。 ●第98話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日:11月21日(火)22時18分51秒       『水底の影』  ローズレイク。  一隻の中型の帆船がゆっくりと進んでいる。南方からの交易品を積んだ貿易船だ。目指しているのは、 エンフィールドの港で立つ朝市。  と、唐突にその後方数十メートルの水面が膨れ上がり、爆発した。同時にそこから巨大な水飛沫が尾を引き、 帆船に向かって突進する。  恐ろしい速度だ。現代魔法の使えないこの湖の上では、逃れる術は無い。  一瞬にして水飛沫が帆船に追いつき、激突する。船上から悲鳴が上がるが、それを掻き消すように 巨大な破壊音が広い湖上に響き渡った。  刹那の間に、帆船は沈んだ。跡形も無く。  しかし、水飛沫は止まらない。速度を緩めず、港の桟橋に向かって更なる破壊を撒き散らすべく突進する。  だが、それは果たされなかった。  人の集まり始めていた港の桟橋に、変化が生じる。無数の膨大な魔力の塊が、突進する水飛沫に向けて 撃ち出された。  この辺りでは、ローズレイクに張り巡らされた結界の効果は薄い。大型の建築物でさえ原形を留めぬ程に 破壊し尽くす攻撃が謎の襲撃者に叩き込まれた。 オオオオオオオオオオオオ………!!  咆哮のような大気の振動が周囲に伝わり、人々の鼓膜を打つ。 「しぶといな……」 「ん〜。水棲ドラゴンの一種か?」 「まったく……何だあれは?」 「何とか食い止めてください! こちらは人の避難を…!」 「頼んだぞ!」 「でも、本当に何なんでしょうねぇ…?」 「やれやれ……これってボランティアだよな……」  幾つかのあまり緊張感の無いセリフと共に、先程に倍する威力の攻撃が放たれる。  破滅的な爆発に沸騰したように湖面が泡立ち、水飛沫が一瞬霧散する。水中に微かにうねる長大な 黒い影が見え、それっきり湖は静かになった。 「仕留めた……わけないよな」 「ん〜。何しろ相手は水中だからね……どうしても魔法の威力が減じてしまうから……」 「逃げただけ、か」 「どっちにしろ、これは大問題だな。ローズレイクを通じて交易ができなくなれば、これはこの街にとって死活問題だ」 「下手をすると、エンフィールドが街として存在できなくなりますよ」 「どうでも良いが、朝飯を食べないうちに運動したんで空腹だ。さくら亭で食事にしないか?」 ●第99話 投稿者:美住 湖南  投稿日:11月21日(火)23時35分24秒  見事にずぶ濡れていた服などを魔法で渇かし、さくら亭に来た。あいにくパティは朝市に行っているらしく、リサがウェイトレス役をやっている。 「いらっしゃ〜・・・あぁ、あんたたちかい?」 「最初と最後の声のトーンが違うな」 「そんなことはどうでもいい。ディムル!手伝いな。ここのアルバイトだろう?」  つっこみを一言であしらう。 「んげっ。こっちはしっかり運動してきたんだぞ!?」  しかし、ディムルの抗議もこの場合通用しない。いつもより客が多いため、リサ1人ではさばききれないのは目に見えている。新たに客も来ている。シュウ達のことだが。 「時間外手当、あたしも一緒に頼んであげるよ」  普段はお昼前からだが、今は朝食時。時間外手当を要求するのも当たり前といえば当たり前。ついでに言えば、今のディムルには金がない。 「・・・悔しいが、手伝う」 「じゃあ、はやく準備しな」 「おう」  そして、朝の戦争が終わり、パティも帰ってきた。先ほどまでの喧噪はどこへやら。静かなものである。 「いったい、あのドラゴンはなんだったんだ?棲んでるなんて聞いたことがないが」 「そうだ、訊こうと思ってたんだ。ローズレイクには大きい魚って大顎月光魚以外にいるかい?」 「え?そうねぇ・・・いないんじゃないかしら?聞いたことないけど」 「やっぱり」 「そうですよね」 「う〜〜ん」  などと、色々言っている。そこに、ディムルが大声を上げた。 「そうだ!パティ」 「なによ」 「時間外手当を要求する!!」 ●第100話 投稿者:HAMSTAR  投稿日:11月22日(水)10時34分11秒  さくら亭で遅めの朝食を済ませると、ケインは町をぶらつき始めた。朝から大規模魔法を使用したせいか、身体が重く感じる。 「あ〜居た〜!」  顔をしかめる。ここ数日遭遇を避けていたが、とうとう見つかってしまった。 「ねえねえ!ケインって『せいれいしょうかん』っていう魔法が使えるんでしょ!マリアにも教えてよ〜!」  一気に近づいてまくし立てる。この町のトラブルメーカー、『暴発魔法少女』と勝手にあだ名した少女、マリアだった。  後ろにはシェリルにクリスもいた。  なんにせよ、マリアには会いたくなかった。こうなるのは目に見えていたからだ。 「どこから聞いたんだか・・・まず言っておく。無駄だ。精霊召喚術は基本的に遺伝によるものだ。どんなに努力しても精霊使いの血を引いていないと使えない。  ついでに言えば効果もランダム性が強い。精霊の調子が悪ければ突風程度しか起こせないし、良すぎると尋常じゃない破壊をもたらす事もある」 「む〜〜〜」 「あの・・・それじゃあもし、精霊が暴発したらどうなるんですか?」  むくれるマリアを尻目にクリスが尋ねてくる。 「そうだな・・・もっとも破壊効果の大きい『炎の魔人』が最大出力で暴走するとしたら・・・」  軽く上を向き、顎に指を添えて答える。 「熱量だけでエンフィールドの半分が消滅、残り半分も熱波や衝撃波で完全焼失、ってとこだろ」 『ええええええ!!!』 「そんな・・・そこまで強いんですか、精霊って・・・」  「そうだよ、シェリル。俺が行使できる精霊は六種―炎の魔人、水の女王、大地の蛇、風の獅子、氷の狼、雷の龍」  そこまで言ってから肩をすくめる。 「そのどれもが人知の及ばないほどに強力な存在だ。彼らを服従させるなんて出来ない。あくまで精霊召喚は精霊の機嫌次第―それもわがままで気まぐれな子供よりも性質が悪い。  俺としては、威力は低くても確実な効果が望める通常魔法をオススメするね」 「な〜んだ。つまんないの〜」  どうやらマリアは諦めてくれたようだ。今度はクリスが質問してくる。 「ところでケインさん。今朝のローズレイクの騒ぎって・・・本当にドラゴンなんですか?」 「さあなぁ。まあなんであれ、エンフィールドの危機に繋がりかねない事態なのは間違いない。  『雷の龍』が最大出力で召喚できれば仕留められるかもしれんが、そうするとローズレイクが死の湖になる。それはやだしな」 「ねぇ・・・マリアちゃん。そろそろ急がないと・・・学校・・・」 「あぁ〜〜〜そうだった!」  沈みかけた沈黙を破ったのはそんな会話だった。登校途中だったらしい。 「あ、それじゃあ僕達は失礼します」 「おう、頑張れよ・・・ああそうだ。お前ら今度の休みの日に錬金魔法教えてくれないか?」 「ええ。良いですよ。それでは」  そういってクリス達は走り去っていった。その背中を眺めながらケインは目つきを鋭くした。 (ランディ・ウエストウッド・・・ヤツはいつかまた現われる。その時までに手札を多くしないとな・・・)  しばらくしてから、ケインは教会への道を歩き始めた。最悪、午前中はのんびりしようと固く誓いながら。