ちいさいなかま1991年8月号(第263号)32頁-37頁掲載文より
保育者と保護者が手をつなぐ子育てを
異常な保育行政の中で子どもたちのために力を出し合う喜び
京都・長岡京市 脇田 滋
「ちびっこ博覧会」の一層の市民的ひろがり
今年の4月28日の日曜日、市内の府立労働セツルメントで「ワクワクウキウキ ちびっこ博覧会 91 ―そうべえ、長岡京へ―」が開かれました。保護者と子どもや市民、2000人が参加し、楽しい保育まつりになりました。昨年の3月11日、初めての保育まつりとして「ワイワイガヤガヤ ちびっこ博覧会―いっしょにに子育てしてみよか―」が開かれ、約4000人近い参加で大成功しましたが、第2回目の今年は、会場がかなり狭かったにもかかわらず、あふれるほどの人出があり熱気は昨年と変わりませんでした。
朝10時に市役所前を出発した鳴子踊りのパレードは、お母さん、保母さん、子どもたち約100人が元気なかけ声とともに市内をねり歩き、JRの駅前で派手なデモンストレーションを行ってから会場へ到着しました。朝早くから準備された会場では、駐車場を利用した「ちびっこ広場」で、ダンボール迷路、コリントゲーム、トトロのはめ絵、お面づくりなどの企画が始まっています。10時30分から、画家、田島征彦さんの講演「絵本創りの中で学んだこと」と自らスライドを使っての「じごくのそうべえ」と「そうべえ ごくらくへゆく」の読み聞かせが行われ、多くの親子が熱心に聞きました。お昼タイムの後は、各保育所保護者会が企画した食べ物のお店や、バザー、おもちゃコーナーなどが大いににぎわいました。
準備の実行委員会には、公立、民間各園の保護者や保母職員をはじめ、地域の共同作業所などから、回数を重ねるたびに多くの人が参加しました。とくに、昨年の博覧会を見て、ある幼稚園の元園長さんから「竹細工の手作りおもちゃコーナーを担当したい」とうれしい申入れがありました。絵の専門家であるお父さんが描いた「ピンクのなまず」がポスターやTシャツを通じて市民に博覧会のイメージを伝えましたし、各園の保護者、保母さんたちが協力した「おたのしみオンステージ」では、合宿保育などで磨き上げられたお父さん、保母さんたちの演技に子どもたちが歓声をあげていました。
保母職員の人権救済の訴え
87年の「カラー帽子事件」以降、長岡京市の7つの公立保育所では、保育現場に異質な行政的強権的管理が強まっています。とくに最近では、保育内容の後退、保育条件の引下げが目立ち、保育行政担当者の、保母職員や保護者会に対する異常ともいえる強圧的な姿勢が強まっています。
そうした中で、今年4月3日、公立保育所の保母職員4名が、人権侵害・生理休暇取得妨害問題で京都弁護士会に救済を求め、京都下労働基準監督署に申告を行ない、新聞各紙で大きく取上げられました。
事件は、90年8月に、保母職員が労働基準法と市の条例に基づき生休を請求したところ、所長や保母長が「見直しが世間でいわれているときに、生休をとることは認められない」と取得を妨害し、中には請求用紙を目の前で破り捨てる等のいやがらせや人格無視を行ったというものです。問題は、数少ない健康回復の機会である生理休暇さえ認めない長岡京市の非人間的な労務管理のやり方です。
なぜなら、約70名の保母職員の半数が病院に通院し、長期の病休をとる者がその20%に近い割合に達するという信じがたい健康管理が行われているからです。腰痛、けいわん、骨折も少なくありませんし、女性特有の多様な病気が羅列された申告書は、それを受取った労働基準監督官が、職業病認定の申請と間違うほどの内容でした。
後述するように、保護者と協力しての各種行事の禁止など、保母職員を「24時間公務員」(福祉課や所長の発言)とする前近代的な労務管理が行われています。この発想のもとで保母職員に対して、日常的に数多くの「いじめ」、人格無視、人権侵害が、子どもが豊かに育つべき保育現場で行われているのです。
異常そのものの保育行政
長岡京市立の保育所をめぐる推移と現状を、保護者の目から見て要約すると次のようになります。
(一)保育内容の後退
正規保母職員の採用が今年で13年間も行われない中で、パート保母やアルバイト保母への依存が強まっています。その中で、87年7月15日、パート保母と正規保母の引継ぎ時間が30分カットされ、現在、引継ぎ時間は0分になっています。
88年4月には、お散歩の減少が指示されました(月曜日、土曜日は、散歩を禁止)。以前は、散歩が多くて子どもの靴の減り方が激しかったが、最近はめっきり少なくなったというのが保護者の嘆きです。88年7月、プールの水は固形薬を入れて2日間は使うことになり、88年7月、園庭の真ん中や玄関での泥んこ遊びが禁止され、遊ばせていた保母の写真撮影まで行われました。
(二)保育の中身を親に知らせない・子育てについての話合いを否定
現在、乳児の保護者・保母の連絡ノートは管理職に検閲されており、幼児になったら連絡ノートがなくされます。さらに、保護者、保母相互の子育てについての「クラス交流ノート」が禁止または廃止されています。
また、朝、夕はパート保母が担当するので、朝早く夕方遅い勤務の保護者はクラス担任の正規保母と話すことが中々できません。しかし、ここ数年、保護者に1日の子どもの様子を知らせる保育日誌が縮小されたり、その日のうちに消され記録として残らない「連絡ボード」に変えられてしまいました。
さらに、保育参観や保護者と保母の懇談会の時間が短縮され、懇談会に管理職が出席し、自由な話合いを監視するようになりました。以前は行なわれてきた保育所内での地域交流会、学習会の必要性を認められなくなりました。日常的に、保護者と保母職員の自由な話合いそのものがきわめて困難になっているのです。
88年8月以降は、日常の保育の様子がわかるスナップ写真の撮影・販売が禁止され、現在では、運動会、遠足、生活発表会などきわめて限られた園行事について業者が撮影したものだけが園で販売されることになりました。合宿保育などの保護者会行事の写真を園で販売することは禁止されています。また、保育所内での「ちいさいなかま」の普及も「お金にかかわることは園内で認められない」と禁止されています。
(三)保護者会の否定・表現活動の規制
ここ数年、こうした状況を批判し、改善する中心主体としての連合保護者会や各園の保護者会に対して、市の保育行政担当者からの圧迫が強くなっています。
まず、89年4月、当時の福祉課長が、「保護者会は、(1)所長をないがしろにするな。(2)保育内容に介入するな。(3)保母職員と話合うな」などの条件をのまないからと連合保護者会との話合いを一方的に拒否し、これが現在まで続いています。同時に、各公立園の所長が「連合保護者会は、運動団体であり、市として認めていない。連合のビラを門前でまいてもらっては困る」と発言するようになりました。
保護者会行事に保育所施設を利用させることと引換えに、ビラの内容、総会議案書の内容、ポスターの内容を所長が検閲し、市や保育所の批判を含むものは配布や掲示、さらに施設利用を拒否するようになりました。また、保育所門前でのビラ配布にも妨害が繰返されています。子どものカバンにはいっていた保護者会のビラを管理職が無断で抜取るケースが出ています。
一方、保護者会の行事(園と協力してきた夏祭り、もちつき大会、文化行事、新春お楽しみ会、クリスマス会、バザー、合宿保育)への園の協力が縮減され、91年4月以降は、一切、否定されることになりました。保護者会の代表は、現在、保育所の所長とまともな話合いをすることさえできません。
(四)保育料の一方的な値上げ
全国的に保育料が高くなりすぎ、値上げを控える自治体が多くなっていますが、長岡京市は四年連続で値上げしました。以前は連合保護者会と話合いが行われ、市としての説明会もありましたが、この3年間はまったく話合いが行われていません。その結果、長岡京市の保育料は、近隣市町村に比べて、最高額で約1万円も高くなっています。
いまこそ保育者と保護者が手をつなごう 子どもたちの権利をまもるために
91年4月2日、福祉事務所長、各公立保育所長名で、各公立保護者会長に保護者会行事の合宿保育を「やめていただくように」との申入れが送付され、行政が公然と保護者会活動の否定・禁止を宣言しました。長岡京市の保育運動はきわめて重大な局面を迎えることになりました。
保育所は、これまで子どもたちを中心にした保護者と保育者の結びつきが魅力の豊かなコミュニティだったと思います。そこにこの結びつきを断ち切ろうとする強権的行政的な管理がもちこまれてきました。以前みられた保護者と保母職員の心と心、手と手をつなぐ子育てがほんとうにむずかしくなっています。保母職員、保護者の人権と人格が無視されるところで、子どもたちが豊かに育つはずがありません。
しかし、最初に紹介した「ちびっこ博覧会 91」は、こうした厳しい状況の中で大きな盛り上がりを示しました。現在の状況は、思想・信条をこえ、子どものことを思う保護者や保育者なら誰もが憤りを感じるものです。
状況は容易ではありませんが、子どものことを真剣に考える保護者と保育者が互に手をとりあい、知恵と勇気を出し合って、正常な保育所を取り戻し、子育てを通した結びつきを強めなければと思っています。
全国の保育、福祉に関連する皆さん、ご支援を心から訴えます。
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