生保裁判連ニュース第5号 第3頁
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サン・グループ事件を通じて

何を問うのか

       弁護士 板垣善雄

 一 はじめに

 つい最近、水戸での知的障害者虐待事件が、テレビのワイドショーなどでよくとりあげられていました。サン・グループ事件も、同様の事件です。和歌山でも同様の事件があったと、新聞報道されています。さらに、大阪でも同様の事件があったと、聞いています。一体、どうなっているのでしょうか。耳を疑うばかりです。

 二 サン・グループ事件とは

 (一)サン・グループの実態

 肩パット工場を経営していたサン・グループという会社には、常時二〇名以上の知的障害者が働いていました。彼らのほとんどは・障害者施設や職安から紹介されて、サン・グループに就職しました。しかし、サン・グループの実態は悲惨なものでした。

 @W社長は、日常的に暴力を暴力をふるい、長時間労働や休日出勤は当たり前、賃金はほとんど支払わず、満足な食事も食べさせてもらえないまま栄養失調に陥った者もいれば、適切な治療を受けさせてもらえず亡くなった者までいます。

 Aまた、W社長は、従業員の家族に対しては、「自立の妨げになるから」と遠ざける一方で、事業資金が苦しくなると、障害者を預かってもらっているという親・兄弟の弱みにつけこみ、「一生面倒みてやる」と言って多額の寄付や貸付を強要しました。

 Bそればかりか、W社長は、信頼されて預かっていた従業員の預金や年金を横領し、それが無くなってしまうと、十分な説明もせずに、従業員の将来の年金まで担保に借金をさせ、その借入金も使い込んだのです。

 (二)金融機関の加担

 従業員たちの預金口座のあった金融機関は、サン・グループとも長い期間取引がありました。年金の振込直後、W社長によりそのほとんどの全額が引き出されていたことを、不審に思わなかったのでしょうか。また、年金担保融資の申込みを三、四人一度に受け付けてもいます。あまりに不自然だと感じなかったのでしょうか。金融機関は、W社長に加担したと言われても、反論できないはずです。

 (三)行政の放置

 こんなことがこの世の中で許されてれて良いはずがありません。しかしながら、現実には何年にもわたり放置されていました。
 施設や職安は、安易に知的障害者を紹介し、その後適切なアフターケアーをしませんでした。地域の福祉事務所や労働基準監督署は、保護者らから何度となく相談を受けながら、迅速な対応をせず事態を放置し、救出を遅らせました。
 さらに、県の障害福祉課は、平成七年二月まで事態を知らなかったと言います。実際に知らなかったならそのこと自体問題ですし、もし、もっと早い時期に知っていたのなら、なぜ、県下の各機関をり出さなかったのでしょうか。

 (四)W社長の逮捕・服役

 W社長は、昨年五月一五日業務上横領の罪で逮捕され、暮れには懲役一年六月の実刑判決をうけ、現在刑務所にいます。しかしながら、これは被害者四名についての年金被害の一部についてのみのもので、事件の本質である被害者への虐待や行政の無策は未解決のままです。

 三 民事訴訟での真相究明

 そこで、サン・グループの被害者たちは、事件を闇に葬らないため、昨年一二月一八日、W社長はもちろんのこと、国や県を相手に国家賠償の訴訟を提起し、また、金融機関に対する損害賠償の訴訟を提起することにしています。
 この二つの民事訴訟を通じて、事件の真相を明らかにし、その責任の所在を明らかにするとともに、二度とこのような事件が起こらないようにするため、「福祉」のあり方を問いたいのです。
 本年四月一四日に開かれた国賠訴訟の第一回期日において、弁護団団長の田中幹夫弁護士は、「この訴訟は人間裁判である」と述べました。人が傷つけられるのを見ていながら何もしないでいられる、そんな惰性の中で時が流れて行ってしまった、この事件の本質は、やはり一人一人の人間を重んじるというごく当たり前のことが、実はそんなにたやすいことではないのだ、ということを教えてくれます。
 これまでの効率のみを追い続けた「社会」が本当にそれでよいのか、知らず知らずのうちに「こころ」をどこかに置き忘れ、「生活」を育むことを切り捨ててはいなかったかということを、この裁判を通じて問い続けることになるのでは、と思っています。


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