労災隠し関連記事・リンク
「労災隠し」とは、企業・企業主が労災の発生を隠し、労働基準監督署に届出をしないで責任を逃れようとすること。
事業主には、事業場内外で従業員や社外労働者(派遣労働者、下請労働者など)が労働災害に遭ったら、労働基準監督署に届け出る義務がある(労働安全衛生規則則第97条→事業主に「労働者死傷病報告書」(休業4日以上の死傷災害は「遅滞なく」、4日未満は3か月分をまとめて)の届出を義務づけ。安衛法では届出義務違反(同法第100条)・虚偽報告等(第120条)に罰則を定めている)。しかし、労働安全衛生法違反の責任を追及されたり、あるいはメリット制度を採っている労災保険料が引き上げられることを嫌って、届け出ないで労災を隠す傾向が強い。
その結果、被災労働者やその遺族は労災保険の給付を受けられないことになる。とくに、在留資格のない外国人労働者が3K労働をさせられるなかで労災に遭うことが多いが、発覚すれば同時に、不法就労助長罪にも問われかねない。労働者の側も発覚によって国外退去などの不利益があるので事故が公になりにくい。事態が深刻になるなかで、労働省は1992年になってようやく摘発に乗り出し、検察とも連携して悪質事例での刑事責任追及を行うことになった。
また、派遣労働者や事業場内下請労働者が危険な作業を担当させられることが多いが、派遣先や受入れ企業との力関係から派遣元が圧力をかけたり、問題にすると労働者が雇用を失うことを恐れて問題が隠れてしまうことが少なくない。
最近では、異常な職場の状況のなかで過労死や過労自殺が増えているが、過労死をめぐる裁判のなかで、会社が従業員の健康・安全に配慮をしない事実、とくに労災隠しの事実が明らかにされる例もある。
労災保険の適用を逃れる一方で、健康保険での受診・受療をさせることから「健保流し」ということもある。
労災隠し関連記事
- 1992/10/21 労災隠しを厳しく立件へ−法務省と労働省
11年ぶりに労働関係の事件についての捜査会議を開き、とくに最近増えている外国人労働者がらみの労働災害隠しについて、厳しく立件していく方針を申し合わせた。(毎日新聞)
- 1992/12/22 外国人への労災補償が急増
日本での就労資格を持たずに働いている外国人が、仕事中の事故や病気で労災補償を受ける例が急増し、91年度に300人を超えたことが、労働省のまとめでわかった。給付を受ける外国人が増えた理由について労働省は▼不法就労であっても請求すれば補償が受けられる、という労災保険の制度が知られてきた▼「労災隠し」をして発覚した場合、刑事責任を追及されることもあるため、事業主が「ごまかすのは、かえってよくない」と考えるようになった――などをあげている。(朝日新聞)
- 1993/02/04 不法就労外国人の労災が急増 弱者へシワ寄せ、危険な職場 /埼玉
不法滞在外国人の労働災害が県内で急増していることが、埼玉労働基準局のまとめでわかった。安全教育も不十分な環境に置かれているケースが多いためだ。労災を隠す経営者も毎年のように摘発されており、外国人労働者支援グループは、悪質なケースには訴訟を起こして救済しようと取り組んでいる。(朝日新聞)
- 1998/07/09 「労災事故隠し」で捜索
大阪、愛知両労働基準局は工事中にけがをして労災保険を申請しようとした社員を即日解雇し、労災事故隠しをしたとして、名古屋市の中堅建築会社の本社と大阪支店を労働基準法と労働安全衛生法違反の疑いで捜索した。同社は事業者に義務づけられている労災保険への加入そのものをしていなかった。(読売新聞、共同通信など)
- 1998/08/10 女性社員が骨折 関空の機内食事業所を強制捜査 労災隠しの疑いで
関西国際空港内で機内食の盛り付けなどを行っている従業員が労災事故で負傷したのに報告しなかったとして、岸和田労働基準監督署と成田労働基準監督署は、労働安全衛生法違反の疑いで、労働者派遣会社本社(成田市)と同社関西事業所(泉南市)を家宅捜索した。(毎日新聞、共同通信など)
- 1999/03/20 労災隠しで建設会社など書類送検−横浜西労働基準監督署 /神奈川
工事中の労災を報告せずに隠したとして横浜西労働基準監督署は、工事を2次下請けした建設会社と、同社社長、1次下請け役員、▽元請けの現場総合所長の1法人3人を労働安全衛生法違反の疑いで横浜地検に書類送検した。(毎日新聞)
- 2000/02/16 「丸投げ」発覚を恐れ労災隠し 建設会社送検
上野労働基準監督署は労働安全衛生法(事故報告)違反でゼネコンと下請業者を書類送検。同法(特定元方事業開始報告)違反の疑いでゼネコンと役員を書類送検(共同通信、朝日新聞)
- 2001/03/21 連合通信社主催情報懇話会「労災隠しがなぜ、まかり通るのか」(毎日新聞・大島記者の取材報告)→10年間で58万件
- 2001/08/01 摘発され送検された件数が過去最多
10年前の約3倍に(毎日新聞)
労災隠し関連リンク
- 全国安全センター 職場の安全と健康ホットラインは、次のように労災隠しについて詳細に指摘している。
送検された件数 1991年―29、92年―66、93年―85、94年―58、95年―61件であるが、これも氷山の一角であろう。
事業主届出件数と労災認定件数の違い
*公表される労働災害・職業病統計は、いずれも事業主の届出に基づくデータである。したがって、「労災隠し」事案のほか、退職後の発病・死亡事例なども含まれていない。例えば、1995年度の労災保険の葬祭料・葬祭給付受給者=すなわち死亡災害は4,002人で、同年の事業主の届出件数による死亡災害2,414人の1.7倍、4年連続の増加を示している。労働災害の発生件数というと、一般的には「休業4日以上の死傷災害件数」(1996年162,862人)が用いられるが、「労災保険新規受給者数」は1995年で645,025人である。
- 外国人の労災 横浜・寿町の外国人労働者をめぐる差別の構造
- 労働者災害補償保険事業に関する行政監察結果(要旨)
労災隠し関連文献
- 村山敏「傷病報告書の虚偽報告−重大・悪質な労災隠し事件相次ぐ」安全センター情報165号(1992.2)11〜17頁
労災・労災保険の動き S.Wakita's Homepage
Last update: Dec. 29 2000