updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

6020. 子会社の人材派遣会社に移籍するようにというのですが
 「移籍」(または転籍)は、一般によく使われる言葉ですが、必ずしも法律上の用語ではありません。法律的には、親会社からの解雇(あるいは合意解約)と子会社への新規採用(契約の締結)と考えられます。
 解雇は合理的な理由なしに一方的にはできませんし、合意解約は労働者の合意なしにはできません。
 1998年に日興証券の同様な試みのニュースが流れました。

 1998/02/20 女性1500人を別会社に  日興証券が大リストラ(共同通信ニュース速報)

 大手証券の日興証券は二十日、全社員約八千人のうち女性の事務職社員約千五百人を全面的に関連の別会社に移籍し、派遣社員扱いにする方向で検討に入ったことを明らかにした。
 日本版ビッグバン(金融制度改革)による証券界の本格競争に備え、事務部門を別会社化することにより中長期的な人件費の削減を目指すのが狙い。国内の大手企業が本社業務をこれほどの規模で外部に委託するのは極めて異例で、思い切った試みとなる。従業員組合などとの調整を経て今春以降、早期に実施したい構えだ。
 昨年表面化した総会屋事件後の新経営陣の下で同社は、不祥事の再発防止を進めるとともに収益体質の改善策に取り組んでいる。今後も営業現場に人員を重点シフトさせ、事務部門は極力合理化、本社で抱える必要のないものは外部に委託する計画。
 日興の社員は昨年三月末時点で、男性約四千六百人で女性が三千四百人。このうち女性社員は支店で顧客対応する営業職の社員が半数強を占め、他の社員が本社を中心とした事務部門に携わっている。事務部門の女性社員の移籍先は、日興の子会社で人材派遣業の日興証券ビジネスサービスの予定だ。
 大幅な組織変更が社員の不安を高めかねないことから、給与など社員の待遇は、別会社に移った後も当面は変更しない方針だ。同社は業績重視型の報酬体系への移行や、早期退職制度の導入なども模索しており、組織のリストラ、社員の活性化に向けた新しい人事制度の導入を進める。


 この時点では、女性だけを不利に扱って、退職・解雇をせまるわけですので、明らかに性別による差別であると考えられます。

 男女雇用機会均等法第11条は、定年、退職及び解雇に関する女性に対する差別を 禁止しています。したがって、今回の女性社員だけを転籍することは、男女雇用機会均等法第11条に違反することになります。
 男女雇用機会均等法第11条

  1 事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女子であることを理由として、男子と差別的取扱いをしてはならない。  2 事業主は、女子労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。  3 事業主は、女子労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項若しくは第二項の規定による休業をしたことを理由として、解雇してはならない。

 おそらく、この点の指摘があったのだと思いますが、次のような記事がありました。
 1998/02/25 ◎男性社員も子会社移籍、出向対象に=事務部門外注化で−日興証券時事通信ニュース速報

 日興証券は二十五日、本社のスリム化などを図るため、既に打ち出した一般職の女性社員約千三百人だけでなく、男性社員も総合職を含めて人材派遣子会社の日興証券ビジネスサービス(本社東京)に移籍、出向させる方向で検討していることを明らかにした。事務部門の外注化を促進するとともに、男女差別が生じないように配慮する。


 まさに、日興証券としては、最初の計画が「男女差別」であることを認めたことになります。
 その後、この事件については、次のような報道がありました。

 1998/05/11 女性社員の子会社移籍撤回  日興、労基法上無理と判断共同通信ニュース速報

 女性の事務職社員約千五百人を子会社に移籍する大リストラ策を検討していた日興証券は十一日までに、このリストラ策を事実上全面撤回する方針を労働組合側に伝えた。社内の反発に加え、労働基準法上問題が多く、実行に移すのは現実的に不可能と判断したため。


 会社が、正社員の移籍→派遣労働者化を中止した理由としては、
 まず、女性社員を中心に反発の声が強かったことが挙げられています。
 労働組合が、しっかりと反対したかどうかは報道がありません。会社のやり方をしっかりとチェックできる組合であれば、組合が一番大きな役割を果すことができます。
 次に、正社員を移籍させるのは入社時の労働契約違反になる恐れが強いなど労働基準法上問題が多いことが分かって、実現不可能と判断したことが指摘されています。

 同社は「内容を詰める前にリストラ案が表面化してしまった。詳細に検討してみると法的に難しいことが分かり、時期尚早との結論に達した」としているようです。

 この記事の「労働基準法違反」というのは、正確には何を意味しているのか判りませんが、本来、「移籍」というのは、ある会社から解雇されて、新会社に使用者が変わることです。解雇に合理的な理由が必要です。本件のような人件費節約を目的とする会社の「リストラ」のような「攻撃的解雇」は従来の判例理論からも、解雇の合理的理由とは認められないのです。
 さらに、労働者派遣法は、派遣労働の導入によって、常用雇用を代替してはならないことを法の本来の趣旨としています。本件のように、常用雇用(正社員)を派遣労働者に代替させることを目的とするようなリストラをねらいとした移籍は、労働者派遣法の趣旨を歪めることになります。労働行政(職業安定行政)としても、厳しく行政指導することが必要だと考えられます。


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