updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3140.  派遣労働者にも産休や育児休業の権利はありますか?  登録型の派遣社員として7ヶ月同じ職場で勤務しています。今の職場は長期の雇用ということで、4月から来年3月まで契約を更新しました。既婚で、もし子供ができた時は、産前産後の休暇、できれば育児休暇もとりたいと考えています。休暇中の健康保険の出産手当金や雇用保険の育児休業給付はうけれるのでしょうか?
   派遣労働者も、健康保険に加入しているときには、産休中の休業保障として、出産育児一時金、出産手当金を受けることができる点では、何らの差別もありません。

 健康保険法第50条〔出産育児一時金、出産手当金〕
 被保険者分娩シタルトキハ出産育児一時金トシテ政令ヲ以テ定ムル額ヲ支給ス
 前項ノ場合ニ於テ被保険者ガ分娩ノ日(分娩ノ日ガ分娩ノ予定日後ナルトキハ分娩ノ予定日)以前四十二日(多胎妊娠ノ場合ニ於テハ七十日)ヨリ分娩ノ日後五十六日迄ノ間ニ於テ労務ニ服セザリシ期間出産手当金トシテ一日ニ付標準報酬日額ノ百分ノ六十ニ相当スル金額ヲ支給ス

 出産育児一時金というのは、正常出産(分娩)が健康保険の対象とする傷病ではないとされるために、特別に出産費用に応じた給付として設けられているのです。  出産育児一時金としては、政令で定める額として、被保険者が分娩したときに30万円を支給するものです(この額については最近の数字ではありませんが、少なくともこれ以上の額です)。

 出産手当金は、産前休業に対応する42日(6週間)、産後休業に対応する56日(8週間)について、標準報酬の60%が支給されることになっています。

>派遣元の就業規則には、出産に関しては労働基準法に準ずるとのみあります。

 これは、労働基準法第65条の規定に対応したものです。

 労働基準法第65条(産前産後)
 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十週間)以内に出産する予定の女子が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
 使用者は、産後八週間を経過しない女子を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女子が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
 使用者は、妊娠中の女子が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。



 なお、産前休業は、労働者からの請求があったときには与えることが必要ですが、逆に、請求がなければ与えなくても良いことになります。出産直前まで働くことも理屈のうえでは可能です。

 これに対して、産後休業は、労働者が働きたいといっても働かせてはなりません。6週間は、必ず休ませることが使用者(派遣元)の義務となっています。


>派遣先の雇用を続けたままで可能なのでしょうか?
>また雇用契約を中断することになった場合の扱いはそれぞれどのように
>なるのでしょうか?

 理屈の上では、もちろん可能です。

 ・派遣元と派遣先の間の労働者派遣契約

             労働者派遣契約
   ○−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−→○

 ・派遣元と派遣労働者の間の労働契約

      労働契約      労働契約       労働契約
   ◎========>◎========>◎=======>◎
              更新          更新
                    産休

 産休中働くことができない間は、派遣元は、ご相談者に代わる労働者を派遣すればよいのであって、派遣元と派遣先との関係では基本的に問題にすることはできません。

 また、産休中は、雇用契約(労働契約)は中断するのではなく、就労の義務が免除されていると考えられます。産休終了後は、職場に復帰するだけで、中断した契約が再開するのではありません。

 この点は、後で出てくる「雇用契約がきれている期間が1ヶ月以上ある場合は、派遣元との雇用関係もない」という派遣元の言い分との関係で重要なポイントです。

 産休をとっている期間、雇用契約がきれていると考えるのは誤りです。

 後で指摘しますように、労働基準法第19条は、産休中の解雇を明文で禁止していますので、産休をとっても雇用契約(労働契約)は継続しているのです。ただ、使用者は、労働者を就労させてはならないし、労働者は就労の義務を免除される、ということです。
 気になるのは、派遣会社、とくに登録型の派遣では、派遣元は、出産や育児にかかわる給付や扱いを、実際上、嫌がることが多いということです。
>派遣社員として働く前はブランクなしで正社員として雇用されており
>社会保険、労働保険とも通産で8年加入しています。

 このご相談の事例では、正社員としての雇用継続などは、とくに関係がありません。
 現在、健康保険と雇用保険にに加入されていればよいのです。

>派遣先の雇用契約がきれている期間が1ヶ月以上ある場合は、
>派遣元との雇用関係もないといわれましたので、社会保険などの
>扱いもどうなるのか不安に思いました。

 この点は、どういうことから私には判りません。
 そのような法律上の規定はありません。

 「派遣先との労働者派遣契約がきれている期間が1ヶ月以上ある場合」
 ということでしょうか。

 ご相談者が、これから産休を請求したとき、派遣元(派遣会社)は労働者を解雇することはできません。
 (1)次の労働基準法第19条の解雇制限の規定が適用されます。

 労働基準法第19条(解雇制限)
 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女子が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。
 但し、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。


 つまり、産前産後の女子が産休を取得した期間+30日間は、その女性労働者を解雇することができません。もし、産休中の労働者を解雇したときには、この第19条違反として、罰則が適用されます。

 (2)男女雇用機会均等法による出産労働者保護

 さらに、男女雇用機会均等法は、次のように、出産労働者を保護しています。

 男女雇用機会均等法第11条(定年、退職及び解雇)
 事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女子であることを理由として、男子と差別的取扱いをしてはならない。
 2 事業主は、女子労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
 3 事業主は、女子労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項若しくは第二項の規定による休業をしたことを理由として、解雇してはならない。


 ここでいう事業主は、派遣元です。

 この(1)、(2)から、派遣元は、出産する派遣労働者を解雇することを禁止されています。

 派遣元は、出産したら解雇するとか、契約を更新しない、ということを明確に言い出すことができません。

 そのために、法的な根拠のないことを持ち出してくるだと推測します。
 「派遣先の雇用契約がきれている期間が1ヶ月以上ある場合は、派遣元との雇用関係もない」というのは、何を根拠にしているのか、法的な根拠、契約的な根拠を聞き出して下さい。

 そのような根拠はどこにもないと思います。

 派遣元は、派遣労働者が1年の労働契約の途中で産休を請求したら、拒否できません。問題になるのは、派遣労働者が、次の契約更新の時点で、産休や育児休業を請求する可能性があるときに、派遣元が、契約更新を拒否するという場合です。

 形式は、契約更新拒否であっても、余程のことがなければ更新をするという合意があったり、状況からそのように理解されるときには、更新拒否は、「解雇」と同様な意味を有すると解釈できます。

 そうすると、そのような場合に、産休をとったり、育児休業を取得することが、更新拒否=解雇の理由であるときには、労働基準法第19条、男女雇用機会均等法第11条に違反すると考えられます。

 本来、派遣労働という雇用形態は、労働者を長期的に継続して雇用しなくてもすみ、産休などの使用者負担を逃れることを目的にして導入されたという性格をもっているとも批判されています。

 しかし、派遣労働者でも、産休や育児休業を取得する例が出てきています。

 派遣元・派遣先との間で、個別に約束することができれば、その約束によって、元の職場に戻ることは可能です。労働基準法や育児休業法には、原職復帰の措置について明確な保障がないという問題点がありますが、就業規則や個別の約束があれば原職復帰の権利が生じます。

 最後に、育児休業法による育児休業制度については、派遣労働者のなかでも、いわゆる「登録型」の場合に取得ができないという問題が残っています。

 育児休業法第2条は、「期間を定めて雇用される者」は、育児休業の申し出ができない旨が規定されています。現行の労働基準法第14条では、期間を定めて雇用される者は、原則として1年を超える期間をさだめて契約を結べませんので、子どもが1歳に達するまでの長期の育児休業になじまない、ということで適用を除外されています。

 派遣労働者のなかで、長期雇用を前提にした「常用型」派遣労働者は、育児休業の申し出ができますが、登録型派遣労働者の場合には、短期契約を前提にしており、育児休業を申し出ることができないことになっています。さらに、派遣元の労使協定で、継続雇用1年以内の者などを適用除外する旨定めているときには、常用型を含めて、育児休業を申し出ることができないことになっています。

 このように、女性の派遣労働者が、育児休業を取得する事例はきわめて限られることになります。しかし、期間を定めた契約でも更新を前提にしているときには、常用雇用と同様に考えられますので、育児休業法が適用されます。

 なお、育児休業制度について要約したものを参考資料に添付しておきます。

〔参考資料〕

【育児休業法による育児休業制度】

 1992年4月施行の育児休業法は、民間企業の労働者全体に、生後1年に満たない子を養育する男女労働者から休業を申し出たときに、事業主はそれを拒否できないとして、労働者に育児休業の権利を保障しました。この権利は、男女共同責任の見地から、適用対象を男女双方とされ、労働基準法の母性保護とは区別されており、違反に対する罰則もなく、実施機関も都道府県の女性少年室とされています。

 ただし、育児休業の期間は年休取得要件の出勤率との関連で出勤したものとみなされ、育児休業については就業規則の絶対的必要記載事項である休暇に含まれるだけでなく、育児休業の対象者や取得手続等についても就業規則に記載しなければなりません。
 1歳未満の子を養育する労働者は、事業主に対して、育児休業の開始予定日と終了予定日とを明らかにして休業申出をすることができます(育児法5条)。事業主は、原則として休業申出を拒むことができません(同6条1項本文)。育児休業は、1人の子につき、1回・1期間が原則です(5条1項但書)。なお、アルバイトなど短期労働者や労使協定による適用排除の可能性も予定されています。育児休業を理由とする解雇は禁止されています、育児休業中の賃金など所得保障については雇用保険法の給付として1995年4月から、一定要件のもとに育児休業給付(平均賃金の20%の基本給付金と5%の職場復帰給付金)が支給されることになっています。

 また、事業主は休業しないで1歳未満の子を養育する労働者について、時間短縮などの措置を講ずる義務を負っています。育児休業法は、このように画期的な育児休業の権利を保障しているが、期間が生後1年に限定されていること、原職復帰した場合の年休は配置の権利が明確でないことなどの問題点がありますので、労働協約や就業規則で育児休業が取得しやすい職場の規制が必要です。


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