updated Oct. 2 2000
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2521. 派遣法改正とクーリング期間  派遣法が改定され、いわゆる「1年ルール」「3年ルール」というのがありますが、「1年ルール」では、「脱法の道」として「3ヶ月のクーリング期間」があれば、また続けて同じ仕事ができるとありました。
 これに関して、「3年ルール」に当てはまる職種にもそのクーリングは適用できるのでしょうか?
 実は、私の派遣先がそのようなクーリング期間を設け、続けて働きたい人は3ヶ月休んで欲しいと言ってきてます。そしてその場合、その3ヶ月間は、他で派遣社員として働くことはできるのでしょうか?  もし働かない場合は、失業保険はもらえるのでしょうか?

   「クーリング期間」をめぐる問題は、派遣制度の矛盾にかかわるものです。
 派遣労働が、多くの問題を含んでいることを改めて感じます。

 〔1〕クーリング期間は労働者のための制度ではありません

 ご指摘の通り、本来であれば派遣先で正社員(または直用)化するのが筋であるのに、それを逃れる目的での「クーリング期間」というものです。

 クーリング期間という明確な制度がある訳ではありません。

 その根拠となる法律上の規定はありません。法律上の要件なども明確ではありません。労働者派遣法には、「クーリング期間」という用語はもちろん、それに当たる文言はどこを探してもありません。
 あくまでも「1年ルール」が使いにくいという派遣先からの圧力に対して、労働省が「譲歩」して、そうした「クーリング期間」を設ければ違反だと取締りをしないという「裏約束」とも言えるものに過ぎません。

 労働省の派遣先指針の以下の項目が「クーリング期間」の根拠と言えるものに過ぎません。
  http://www.asahi-net.or.jp/‾RB1S-WKT/hasaline.htm
 十四 労働者派遣の役務の提供を受ける期間の制限の適切な運用

 派遣先は、法第四十条の二の規定に基づき常用労働者の派遣労働者による代替の防止の確保を図るため、次に掲げる基準に従い、事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から一年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならないこと。
 (一) 略
 (二) 略
 (三) 労働者派遣の役務の提供を受けていた派遣先が新たに労働者派遣の役務の提供を受ける場合には、当該新たな労働者派遣の開始と当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣の終了との間の期間が三月を超えない場合には、当該派遣先は、当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣から継続して労働者派遣の役務の提供を受けているものとみなすこと。

 この太字の部分が、あえて言えば、クーリング期間の「法的根拠」と言えるかも知れません。つまり、「クーリング期間」は、派遣先と派遣労働者の間をできるだけ「完全に切り離す(無関係にする)」ための制度ですので、決して労働者の保護のための制度ではないことを理解して下さい。

 「クーリング期間」を、派遣労働者が同じ派遣先で長く働き続けられる保障の制度と考えるのは間違いだと思います。決して労働者のための制度ではなく、派遣先の脱法的な派遣労働者の利用を可能にするための制度です。

>「クーリング期間」があれば、また続けて同じ仕事ができるとありました。

 正確には、「3ヶ月を超えない期間」しかあいていなければ、同じ派遣労働者を受入れることができない、ということを示しているだけです。

 派遣先が、同じ派遣労働者に仕事をさせても違法にならないという派遣先の「免責」を定めるもので、ご指摘のように労働者に対して「同じ仕事ができる」ことを保障するものではありません。

 クーリング期間を「3ヶ月経てば仕事ができる」制度と間違って理解して、酷い結果になっても派遣先への責任追及をする根拠にはできません。
 この点をしっかりと押さえて置いて下さい。

>これに関して、「3年ルール」に当てはまる職種にもそのクーリングは
>適用できるのでしょうか?


 「3年ルール」自体が不明確なものですが、ご指摘のとおり、3年ルールにあった「クーリング期間」の考え方が、「1年ルール」で再確認されたというのが正確です。
 しかし、「そのクーリング」が労働者のための制度ではなく、仕事を保障する根拠にならない点についても、1年ルールの場合とまったく同様です。


 〔2〕何の保障もないクーリング期間

>実は、私の派遣先がそのようなクーリング期間を設け、続けて働きたい
>人は3ヶ月休んで欲しいと言ってきてます。


 この派遣先の言い分は勝手なものですね。

 〔1〕で指摘しましたが、クーリング期間は、派遣先が雇用責任を問われないためのものです。そのツケを労働者に負担させるものだと思います。

 いまのところは、単なる「口頭での説明」ですね?
 あるいは「口約束」ですね。

 できれば、文書などによる条件の徹底した確認が必要だと思います。
 3ヶ月経過したら、再度、派遣労働者として受入れる「契約書」が結ばれるのでしょうか?

 そうした契約書があれば、もし、3ヶ月経過した時点で、派遣労働者として受入れる状況になかったり、別の労働者が仕事に就いていたときに「契約違反」ということで派遣先の責任を追及することができます。
 しかし、通常、派遣先は、派遣労働者との間に雇用関係がありません。
 派遣先が、3ヶ月後に派遣労働者を受入れるという約束を労働者に対してするとは思えません。

 派遣先は、派遣元を通じて派遣労働者を受入れます。

 派遣先が約束し、さらに派遣元も同時に再受入れの約束をすることがなければ3ヶ月後に受入れもらえるという確実な保障にはなりません。

 クーリング期間自体が「脱法」的なネガティブなものです。
 つまり、「クーリング期間」後に、再度派遣先に派遣してもらうという保障をとりつけるのは、きわめて難しいのです。おそらく、派遣元や派遣先は、そうした契約書などの文書を残すことはまずないと思います。

>そしてその場合、その3ヶ月間は、他で派遣社員として働く事はできる
>のでしょうか?


 むしろ、この点は、回答者からお尋ねしたいことです。

 派遣元は、この「3ヶ月の間」についてどのように言っているのでしょうか?
 派遣労働者の場合、派遣元との間に雇用関係があります。

 クーリング期間の3ヶ月の間、雇用保障を派遣元が明確にしてくれれば、たしかに労働者にとっては、それなりにメリットがあります。

 同じ派遣元との間であれば、雇用関係自体は派遣先が変わっても継続することになります。3ヶ月の間、派遣先は変わっても同じ派遣元での仕事があれば、法的には、社会保険、雇用保険、有給休暇などで継続勤務となりますので、とくに大きな不利益はありません。

 京都のオムロン系の派遣会社では、優秀な派遣労働者が他で働かないように、労働者確保のために仕事がない日でも1日5000円を保障するというシステムを作っているとのことです。(日経産業新聞98年01月28日「オムロンパーソネルクリエイツ東京支店、待機・研修中も給与支給――派遣スタッフに。」)

 しかし、派遣元が、こうした休業保障で労働者との雇用継続を保障しない限り、3ヶ月の空白は、労働者にとっては大きな不利益をもたらします。

 社会保険、雇用保険だけでなく、折角の有給休暇も継続の保障がなくなり、ゼロに戻りかねません。この点について、派遣元、派遣先が何らかの保障をしてくれるのでしょうか?

>もし働かない場合は、失業保険はもらえるのでしょうか?

 この点も、派遣先や派遣元は、どのような約束をしているのでしょうか?
 回答者としても疑問に思う点です。確認して下さい。

 通常の考え方では、公共職業安定所の対応では、きわめて難しいと思います。

 雇用保険の失業給付は、公共職業安定所が独自の基準で行います。
 受給の要件は、労働者が「失業状態にあり、就労の能力がある」ことが基本です。

 あなたが、派遣元で休業保障を受けられない場合、事実上の失業状態にあることになります。しかし、現在の公共職業安定所は、登録型派遣労働者の場合、短期的には仕事がなくても、またすぐに別の仕事があるかも知れないとして、ある派遣期間が満了しても、失業給付をすぐには認めません。

 1ヶ月の待機期間を置いて、その間に仕事が見つからない場合に初めて、「労働者派遣終了証明書」(一般の離職証明書)を交付するように、派遣会社を指導しています。

 この指導については多くの問題があると思いますが、現実の運用であることは否定できません。詳しくは、FAQ3317参照。
 したがって、あなたの場合、3ヶ月のクーリング期間があっても、少なくとも最初の1ヶ月は雇用保険の失業給付を受けるのは簡単ではないと思います。

 さらに、1ヶ月後に雇用保険を受給できたとしても、3ヶ月後には再度、同じ派遣先に派遣されることが予定されています。その場合、給付日数が分かりませんが、仮に90日あるとして、かなりの日数を残して「再就職」することになります。ところが、通常であれば給付日数を残していたら受けられる「再就職手当」が派遣労働者の場合、「不安定雇用」であるとして受けられないという問題もあります。

 さらに、こうしたクーリング期間に類似した短期間での雇用保険受給で長期には労働者を継続して受入れるやり方が、マスコミで「摘発」され論議を読んでいます。
→「朝日新聞2000/05/08 雇用「中断」し失業手当 6県庁の臨時職員が」(この新聞記事については、問題の取り上げ方が議論になっています。法政大学早川征一郎教授のホームページ参照)
 今後も、雇用保険をめぐっては財政状況もあり、より厳しい方向が予想できます。

 要するに、待機(失業)期間を反覆して繰り返す登録型派遣労働と、現在の雇用保険の制度がマッチしていないのです。

 こうした制度の欠陥を、労働者の犠牲や負担で広げているのが、現在の労働行政です。制度の問題ですので、個別の対応では解決できないことになります。

 したがって、クーリング期間を利用した便宜的なやり方は、派遣元や派遣先にメリットがあることになりますので、派遣元や派遣先に何らかの雇用保障や休業保障をさせない限り、実際の解決は難しいと思います。

 クーリング期間後に、3年の経験を積んだ労働者を派遣で受入れたいが、3ヶ月の期間については、雇用保障や休業保障は何もしない、というのが、派遣先の虫のいい対応だと推測します。

 労働者としては、何も見返りがないのでしたら、クーリング期間にしばられる必要はありません。他に良い派遣先や就職先があれば、そちらへ行くのは当然です。

 クーリング期間の実体を正確に把握し、できれば文書で確認して下さい。
 もし、条件が悪いのであれば、改善を求めて話し合って下さい。

 派遣先や派遣元が、労働者を確保しておきたいなら、それなりの条件を示すべきです。オムロン・パーソナル・クリエーツのように雇用を継続して、休業保障をすることは、次善の方法だと思います。

 〔3〕派遣労働の建て前=一時的労働 長期は直用で

 日本では、派遣労働といいますが、外国では「一時的労働(temporary work)」といいます。日本の労働省や経営者は、この一時的労働という表現がまずいのでごまかして「派遣労働」と表現してきたと言えます。

 つまり、ある派遣先で長期に派遣労働を受入れるのは、「長期の一時的労働」を受入れるということになります。3年を超えての長期に継続する業務であれば派遣ではなく、常用の正社員で受入れるしかないのが労働者派遣の本来の建て前です。長期に「一時的労働」を受入れるという派遣先の間違った対応から多くの矛盾が生れていると言えます。
 実際には、この矛盾を個別に解決するのは、難しいのです。
 場当たり的な対応ですと、矛盾に矛盾を重ねることになります。

 期待に反する回答だと思いますが、労働者派遣という制度のもつ矛盾です。

 この機会に派遣で働くことの問題点を改めて考えていただきますように、また、声をあげていただくようにお願いします。一つずつの声でも、マスコミなどに集中すれば、大きな動きにつながる可能性もあると思います。

 また、できれば労働者が一人一人孤立するのではなく、労働組合などに連帯することの必要性も理解していただければと思います。

 地域の派遣労働者個人の参加を受入れる地域労働組合、地域労連に相談し、労働組合として、憲法・労働組合法が保障する団体交渉権を行使して派遣会社や派遣先に団体交渉を申し入れ、ベテランの労働組合役員と共同交渉して、派遣先に雇用責任をとらせることも考えられます。

 実際に、こうした取り組みをして、地域労働組合の110番相談をきっかけに適切な助言や顧問弁護士の援助を受けて、派遣先に直用化(嘱託で正社員の80%の賃金獲得、年収200万円プラス、定年までの長期雇用)を実現した例も、最近、生れています。

 根本的な解決は、あなたを必要とする派遣先が、それに相応しい長期雇用を念頭に直接採用することだと思います。この問題はあなた個人的な問題だけでなく、派遣労働者に共通する広がりをもった問題であることを確信して下さい。

 一人で悩まず、働く者のための地域ネットワークを遠慮なく利用して下さい。


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