石川県婦人相談所 (婦人相談所で聞いたお話をテープからそのまま起こしました)

  1. 婦人相談状況(別紙参照)

 電話相談が多く、面接は全体の1割程度。電話相談は、たくさん人がローテーションを組んで、婦人ダイヤル・子どもダイヤルの両方に対応している。電話相談に対応する人は、昔は学校の先生をしていた人、婦人補導員をしていて定年した人などキャリアのある人だったが、最近は電話相談員としての養成の講座を受けて多少経験をした人も中に入っている。電話相談員には法制度的資格はないが、経験を積んだりトレーニングをした人がほとんどである。

 夫婦問題の中で、DVは平成7年では28%。それまでは性格の不一致が一番多かったが、平成8年で逆転。平成11年ではDVは78%。

 電話で紹介されて婦人相談所に来ることもあるが、たいがいは他機関(女性サンタ―、家庭裁判所、他の電話相談機関など)からの紹介。来所では、窓口に直接来る人もいるが、この他機関からの紹介が多い。婦人相談所には一時保護機能(シェルター)があるのでここへ紹介されて来る。よって、来る人は深刻なケースが多い。自分でアパートを借りて逃げている人などそれは人それぞれだが、婦人相談所に来る人はごく一部。

 DV年齢別状況がM字になっているのは離婚カーブのM字とリンクする。中高年は暴力のサイクルがあり妻には非のない典型的なDV。リストラ、定年、不況などの要素で夫婦関係の共存が崩れた。また、奥さんも収入、社会的地位があったから我慢してきた。ここに来る人は、離婚意思の固まった人が多い。暴力をたちきる要因として、DVについての情報が社会にたくさんあるのでそれにあてはまるから相談してみようという人が多い。若いほうのDVは、暴力のサイクルは顕著ではない。典型的なDVには、男尊女卑、性役割などのジェンダーがあるが、若いほうは男女差別や性役割ではなく、子どもが一人生まれた段階でうまくいかなくなって、その夫婦が破綻していくプロセスの中で暴力が出てきた。20・30代のDVと60代のDVとでは教育・社会的背景が異なる。若い人達は、パラサイトシングル(親に扶養してもらって自分のお金は自分の楽しみに使う)をしていて、結婚すると経済的にやっていけなくなり、家計が破綻する。また、できちゃった結婚で、結婚とは何かを考えずに結婚し、その破綻する中で暴力が出てくる。

2、シェルター

 石川県内には民間のシェルターはなく、婦人相談所のシェルターが1ヶ所あるのみ。

 シェルターの利用は原則2〜3週間。期間はケースバイケース。何ら行くあてもないのに出て行ってくれとは人道上言えない。長い人で1ヶ月半いることもあるが、2〜3週間で解決できるように努力する。

 一時保護はDVだけではなく、生命・身体の安全ということでシェルター機能を果たしている。他の機関にはないので、既存の施設を利用するという国の方針で婦人保護の相談所をシェルターの代用に使っている。よって、専門的機関ではない。

 DVは本人に問題・非がないケースが多く、パートナーから理不尽な原因のない暴力を受けてきたということで、本人の安全が確保され、精神的・肉体的に安定を取り戻すと自分で考えて行動を起こすのでシェルター利用期間は比較的短い。そして、身内の援助などがDVには結構ある。本人には非がないので身内も一生懸命だが、危険で泊めてあげられない、本人も迷惑はかけられないということで、公的な婦人相談所を利用する。

 シェルター利用後は、3分の1が帰宅して夫の元に戻る。ほかには、アパートを借りてそこに住む、危険性が下火・緊急事態が回避され、間に弁護士が入る・朝廷が始まったなどで相手が不利益になることを悟って暴力が沈静化したときには実家に戻るなど、縁故を頼るなどがある。帰宅はいきつもたれつ。そこで注意するのは、戻ることを責めるのではなく、またなったときは再度シェルターを利用するように言ったりしている。それは当たり前だという受け止め方をしている。

 民間シェルターは、全国に25,26ある。公表しているもので20。多いのは北海道・東京・神奈川。DVの発祥の地は神戸で、震災の後弁護士達から言われるようになった。

3、警察・裁判所との関係

 DVが社会問題となって一番変わったのは警察。12月に通達が出た。ただ法律がないので、被害者が言わないと事件にならない。相談員と一緒に警察に行っても相談どまりになる。夫婦関係があるので当然だが、事件にしてくれと被害者はほとんど言わない。人を傷つければ夫婦であっても傷害罪。訴える・訴えないは別で取り締まるべきだが、法整備がされていないのが問題。

 DVの現場が保存されて相談所に来るケースはなく、警察で相談を受けて、今晩は帰さないほうがよい、本人が帰りたくないという場合、婦人相談所で保護する。婦人相談所が関与するのは時間が経ってから。現場の証拠を残すことはまだ警察はしていない。医者に行った診断書や日記があり、それに訴えたい意思があれば警察が動く。

 離婚意思が固まったときで当事者同士で話し合いができないときは家庭裁判所の利用を勧める。家庭裁判所で同じ屋根の下で調停が進められないときは婦人相談所で保護する。家庭裁判所とは持ちつ持たれつの関係にあり、ネットワークはできている。

4、婦人相談所

 婦人相談所を出たら追跡はしない。また相談に来た場合はそこから関わる。

 婦人相談所は、売春防止法(相談所・相談員・婦人保護施設の三本だて)が基礎にあるが、今は動いていない。婦人相談所には、一身上の問題がある人の相談機能と一時保護機能があり、その中にDVがある。昔からDVはあったが、暴力であるという視点が弱かったので少なかった。今、既存の婦人相談所を利用しようということになってはいるが、専門家ではないし、自主トレでやっている。婦人相談員という辞令が出ているのは婦人相談所の中では1人。石川県で4人。県は義務設置で、市は任意(金沢・七尾・輪島)。婦人相談員は専門家ではないが、売防法上義務づけられているので専門性はある。売防法上1人だが、地方行政で統合的にやっているので相談員はたくさんいる。

 シェルターに入ることは、身の安全を確保して心身を回復し、これからのことを考える。これをサポートして一緒に考えていく。ほとんど毎日会ってこれからどうするかを考えていく。戻る・戻らず別の方法をとるにしろ決断・自己決定をするのは本人で、その勇気づけをする。健康を回復し、正しい判断力を取り戻して、婦人相談所の手伝いのもとで次の段取りをはかってもらう。

 婦人相談所に行く前に福祉事務所に行かなければならないという法律はないが、運用上そのほうがサポートしやすい。福祉事務所を通したほうが、一時保護の後どうしていくかというとき、福祉的援助(生活保護、母子寮など)が必要になるのでよい。先に婦人相談所だと福祉事務所が自分たちのケースという認識が薄い。婦人相談所で保護されているからということで、福祉事務所が主体的に関わってくれない。婦人相談所の前に福祉事務所に行くことは、婦人相談所から出たニーズ。婦人相談所ができるのは一時保護と婦人保護施設入所の2つだけ。

5、対策

 DVをなくすには、加害者の意識改革が必要だが、治療は確立されておらず無理。

なくすには、対等でなければならず、パワーオブコントロールの縦の関係を横の関係にしなければならない。暴力の腐れ縁を断ち切るには、女性の自立(精神的・性的。経済的)が必要である。

縦の関係でも円満ならいいが、そこに暴力が介在した場合、妻は夫の所有物みたいなところがあり、女に暴力をふるってもいいという男性社会の男性の甘えがある。男女という人間個人のつながりで、その人らしさを構築することが必要であり、それが横の関係である。

 そして、女性が働けるような社会教育・家庭をつくることへの教育をしていかなければならない。高度成長期に男性は会社人間にならざるを得ず、女性は家庭という男性優位の社会ができてしまった。DVは、夫婦・個人のカップルの問題ではなく、社会問題であり、社会的に解決していかなければならない問題である。DVは、社会構造の中の女性に対する人権侵害、犯罪である。社会が変わらないと意識は変わらない。また、同性の足をひっぱらないよう、女性の意識改革も必要である。