1996/12/14の第6回フォーラムの基調報告要旨です。当日の配布資料に含まれていました。 |
1996/12/14 第6回 医療・社会保障フォーラム基調報告要旨
S.Wakita
1.テーマ「How Much あなたのいのち=病人が患者になれない時代=」
の意義
○第5回フォーラムまでの論議を振り返る
第1回 看護婦不足問題 ナースウェーブの運動を背景に
第2回 医療・介護のネットワーク 寸劇を中心に 病棟から在宅へ
第3回 健康権 井上英夫教授の講演を中心に
第4回 付き添いはなくなるか? 付添い廃止問題
第5回 公的介護保険 北欧の実情(Dr.中本)介護保険
○昨年のフォーラムで確認されたこと
・北欧での経験 公的医療・介護を実現している例が現に存在する
・公的責任を明確にした高齢者医療・介護保障の総合的確立が急務
○1997年医療保険改悪をめぐる緊迫した動き
医療保険審議会、老人保健福祉審議会等の意見書
→患者負担増の医療保険改悪法案、介護保険法案 国会へ
岡光前厚生省事務次官の「汚職」発覚(11月18日)
→医療・保健・福祉をめぐる緊迫した状況
2.国民生活と保健・医療・福祉をめぐるこの1年の動き
○住民の健康権・生存権侵害の拡大
・家計収支の悪化 実質賃金だけではなく、名目賃金までもが前年以下に
預金利息の低率化、税・社会保険料と公共料金の負担の増大
・厳しくなる雇用 リストラ、就職難の拡大
出向・人員削減・採用抑制・非正規雇用の拡大、男女格差拡大
・自営業世帯に厳しい現実 「非効率」部門の切り捨てと大企業優遇
○社会保障制度審議会勧告と政府・財界の「反福祉」の考え方
・「小さな政府」と規制緩和論・地方分権論(国の公的責任の縮小)
「活力ある社会」のためには、営利主義・自由主義と格差拡大の容認
・国際競争のための企業負担の軽減
企業の海外への転出に歯止めをかけるための企業負担削減
雇用にかかわる負担(社会保険料・法定外福利の削減)
・社会保障制度審議会勧告(1995年7月)
→保健・医療・福祉の全面的改悪の考え方の支柱
1.社会連帯と保険主義 世代間などの国民相互の連帯を強調
2.低所得層を中心とした社会保障から「中間層」重視へ
3.貧困を軸にした社会保障から国民生活一般の保障へ
4.社会保障の権利性 自由なサービスの選択にすり替え
5. 国の役割の後退 官民の役割見直し
○保健・医療・福祉をめぐる主な動き
・国立病院の統廃合、病院・ベッド数の減少
・付添い看護の廃止、看護婦2交替制の導入
・業務委託の拡大 寝具・給食・検査など→医療ビジネスの台頭
・医療保険料負担拡大→国保保険料滞納と保険証取上げ(京都でも受診遅れ)
・保険医療をめぐる厳しい「指導」
→自治体キャラバン(京都府)、介護110番
ホームヘルパー派遣訴訟(大阪市)
生活保護の「水際作戦」と餓死事件(京都でも孤独死)
阪神大震災の被災者と予想される21世紀日本社会
3.介護保険構想を軸とした医療・保健・福祉の抜本的大改悪
○介護保険実現を前提にした、厚生省「医療改革」戦略
老人保健福祉審議会
1996.04.22 の最終報告「高齢者介護保険制度の創設について」
厚生省の「介護保険」構想 ″保険あって介護なし″
保険料の企業負担なし。財界からの圧力。きわめて低い介護サービスの水準
1996.12.02 「今後の老人保健制度改革と平成9年改正について」(意見書)
高齢者の患者負担を引き上げるよう提言
定額制維持と定率制導入の両論併記
医療審議会
1995.10 医療審議会基本問題検討委員会「医療提供体制の在り方について
(論点整理メモ)」
1996.04.25 医療審議会「今後の医療提供体制のあり方について(意見具申)」
厚生省の「介護保険」構想実現を前提
医師・看護婦の配置基準まで、全部大幅変更
→医療供給体制から「医療」部分を「介護」の方へ移す
病院ベッドの相当部分を、「療養型病床群」に転換
地域支援病院構想(救急医療などの中心的病院機能)
←現在の総合病院制度は廃止
医療保険審議会
1996.06.21 医療保険審議会「今後の国民医療と医療保険改革のあり方について」
(第2次報告書)
1996.07.21 医療保険審議会「当面の医療保険改革」
(第2次報告書のなかから、97年実施すべきもの)
1996.07.31 医療保険審議会「今後の医療保険制度改革について」
38項目の改革メニュー
1996.10.02 医療保険審議会「今後の医療保険改革の基本的な方向についての議論の
整理」
1996.11.27 医療保険審議会「建議書−今後の医療保険制度のあり方と平成9年改正
について−」
1996.12.06 医療保険審議会 厚相に建議書
年金受給者の国保保険料引上げを提言
○1997年改悪=国民・患者の負担増が中心
来年度からの当面の提案→将来はさらに負担強化の構想
社会保険料負担増に対する企業側からの強い抵抗
(厚生年金保険の保険料負担増、「介護保険」の企業主負担)
1.健康保険本人負担、現行10%→20%
2.高齢者の定率負担
現在、外来1科目1カ月1020円、入院の場合1日760円
(1994年から入院給食費の本人負担600円→760円に
アップ 96年10月から)→1割から2割の定率負担
★厚生省試算 現在の定額負担→老人医療費の約5%を高齢者が自己負担
1割の定率にした場合には、5%から10%への増=2.5倍(+6200億円)
2割の定率にした場合には、5%から20%への増=10倍 (+1兆3600億円)
(老人医療費のうち患者負担は約5%程度のため、2〜4倍の負担増に)
3.薬品代自己負担
薬の性格によつて、3割負担、5割負担、全額負担にわける。
・どうしても必要な薬 3割負担
・それほどでもない薬 5割負担
・ビタミン剤等 全額負担
★京都府保険医協会の試算
例:急性気管支炎・急性咽頭炎(3日間通院)の高齢者
現行月1回定額1020円の窓口負担
→定率2割負担で2310円(約2.3倍)
「軽医療」全額自己負担導入(後述)で1万1570円(約11.3倍)
4.厚生省戦略の背景とそれがもたらすもの
・マスコミ 「医療の全面的な改革をすることなしに、患者負担を増大させるだけで
は不十分である」という論調
○1983年の老人保健法が、医療全面改悪の出発点
→岡光序治編著『老人保健制度解説』(ぎょうせい、1993年)
(1)老人医療の自己負担分の無料化を定額制で有料化
(2)老人保健制度の創設 医療保険の財政調整・公的負担の縮小
(3)年齢による一律の医療差別の導入
(4)医療から介護に重点を置く老人病院・老人保健施設などの創設
○政府・財界の医療費負担削減・医療費抑制構想
1996.06.18 自民党行政改革推進本部「橋本行革の基本方向について」
(橋本行革ビジョン)→「国民負担率」の抑制
1996.07.10 財政制度審議会『財政構造改革白書』
赤字克服のため、患者負担増、混合診療、出来高制見直し等
公的負担・企業負担の軽減・相対的縮小
高齢者医療費増大 老人保健制度により、組合健保や政管健保からも拠出
→健康保険の赤字の原因として、医療保険全体の抜本的改革を展望
介護保険制度開始予定の2000年を目途に新制度へ
高齢者に対する医療サービスの相当部分数を介護に移すことで
医療費削減をねらう(介護保険の本質的な内容の一つ)
○医療保険全体の変質化
1.社会保険による医療の範囲を縮減
・給食・薬、さらに「軽医療」(風邪ひき・腹痛等)の保険外し
・「混合診療」の導入
・診療報酬の「定額制」「包括制」の拡大(出来高払い制度の見直し)
・「特定療養費」の範囲の拡大
・現物給付から現金給付・償還制へ
2.医療と介護の機械的分断と医療から介護サービスに重点を移す
3.利用者負担を拡大
・医療需要の抑制 償還制の導入
・家計への重い負担増
○医療供給体制そのものの見直し
・医師数、医療機関の配置、保険医定数制・定年制
・病院ベッド数を削減→「介護保険」構想と連動
・医師の研修のあり方
○医療・福祉分野での営利主義の拡大
1.医療の供給体制の変化
・1992年 医療法改悪
・1993年4月 特定機能病院と療養型病床群制度発足
→将来、日本の病院の一般ベッド120万床余の1/2を
半分ぐらいを療養型病床群にする構想
2.医療従事者の削減と労働条件の低下
・療養型病床群など介護重視医療施設
医師・看護婦の定数削減へ
3.直接の診療を担当する部局とそれ以外の業務委託の拡大
・医療ビジネスの台頭
医療法の改正による業務委託の拡大(外注化=アウトソーシング)
・非正規雇用の導入による人件費の削減
5.深めるべき論点と私たちの課題
○厚生省・財界の論理の誤りを正確に明らかにする
例:有料老人ホーム
○社会保障としての医療の重要性の確認
1この規約の締約国は、すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める。
2 この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には、次のことに必要な措置を含む。
(a)〜(c)略
(d) 病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出
・日本国憲法第25条
第25条〔生存権、国の生存権保障義務〕
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
・いのちと健康は金で買わなければならいのか 健康権・生存権の侵害
・所得の低い者が「保険医療」から締め出される危険性
・患者のための十分な医療を実現し、健康権・生存権を実現する
医療・介護体制の確立
・住民の要望・ニーズと民間企業による営利的医療・福祉サービスの矛盾
・住民と医療・福祉従事者との連携による地域医療・地域福祉の実現
→住民・患者負担の軽減のためには、医療費の公的負担・企業負担の必要性
住民と医療従事者の共同した取り組みの重要性
○福祉行政と民主主義
・福祉を食い物にする厚生省幹部
営利主義の風潮が拡大する中で、福祉や医療が利権と結びつく
住民・患者、医療・福祉従事者を裏切る政・官・業者の癒着
例:特別養護老人ホームをめぐる汚職問題
病院サービスの業者団体による政治献金と医療における業務委託拡大
・民主的な政治のなかでこそ福祉・医療が国民本位に充実する
厚生行政の密室性(非民主性) 医療行政も
国民的な監視の必要性
→北欧との対比