ホームヘルパー訴訟を支える会ニュース
「88歳の願い」ニュース
NO3
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弁護士 青木佳史
1996年10月29日 午前10時から
大阪地裁202号法廷
まず、原告側から、原告と息子さんの具体的な介護生活の実態の理解のために、裁判にさきだって行われた弁護団による丸一日の原告らの生活観察記録に基づく介護の様子が述べられました。
午前7時ころから始まる朝食からトイレや痰の除去までの具体的な息子さんによる介護の様子、訪問看護婦が帰ってからの点滴終了のチェックやヘルパーが滞在中の様子、その後昼食介助から夕方にかけての頻繁な痰の除去といった様子が詳細に述べられました。弁護団に一日観察されることは、原告にとっても負担が大きいものでしたが、このようなリアルな実態が出されることで、裁判所にも介護生活の一端が伺えたように思います。
そして原告側は、これに続き、このような実態は実際に見て(やって)みなければわかならないとして、ぜひ原告の自宅に赴き、原告の様子を見てほしいと、現場検証の申し立てをしました。
次に、原告側は、大阪市のホームヘルパーの派遣要綱の変遷を紹介した上で、平成4年4月の改定で大きな転換があり、この時にそれまでの要綱を廃止し新たな要綱を制定し、画一的な上限を撤廃し、利用者の心身の状況に応じた派遣時間のレベルを設定したこと、これは厚生省の「ホームヘルプ事業運営の手引き」により各自治体の画一的な上限を批判されてなされたものであることから、これにより利用者の状況によらない市の都合による派遣回数の制限は否定されたはずであると主張しました。
そして、このような 改正の流れからすれば、大阪市が要綱で定める基準は、大阪市が主張したような「努力目標」などでは決してなく、個別の事情により増加はあるものの、原則として派遣の標準となる回数であると考えるべきであると展開しました。
さらに、大阪市が、派遣回数の決定については、大阪市の裁量として、「市町村の財政上の制約や人的制約など様々な事情を総合的に勘案した政策的判断を要する」としている点につき、大阪市の進める高齢者保健福祉計画のヘルパー増員目標は、目標の算出根拠についても利用者の実態調査も十分に行わないままニーズを過小に評価したり、常勤換算の時間をヘルパー一人あたり2184時間とするなど極めて特殊なもので目標値自体が数字のマジックにすぎず、その目標達成率の取り方も1週間にわずか2時間平均でしか働かない登録ヘルパー930人を過大にカウントし、しかもこれらのヘルパーを非課税世帯には全く派遣しない(非課税世帯には社協のヘルパーのみとして)で待機させながら、一方では社協のヘルパー不足を理由に派遣回数を制限しているという実態を指摘、大阪市の政策が利用者の立場に立たない机上の計画に終始おり、このような政策を前提にすれば、本件決定を裁量の範囲内であるとはいえないと主張しました。
これに対し、大阪市の代理人からは、前回の原告側からの求釈明への回答が書面で提出されましたが、原告の派遣の必要度の認識については前回の主張のとおりとして回答を避け、また訴訟前になって派遣回数を増やした理由はあくまでヘルパーの増員があったためとし、原告らの介護力や必要度には変化はなかったと断定しました。また、要綱の定めた派遣基準は努力目標であると繰り返し強弁しています。
そして、大阪市の派遣実績、派遣回数や派遣基準毎の統計については、各区毎のヘルパーの人員数と派遣世帯数についてしか回答せず、それ以外は統計をとっていないとの形式的理由で拒否をしてきました。 これを受け、原告弁護団からは、口頭で更なる釈明を求め、また、当日になって大阪市がヘルパー派遣日誌や医療要否意見書や在宅連絡表をようやく提出してきたことから、次回までに原告で分析し、問題点などを主張することになりました。
今回も、傍聴席の8割は埋まり、全く動員もしていないにもかかわらず熱心な傍聴者がたくさん詰め掛けてくれました。裁判所も傍聴者が第3回になっても減らないことから、この訴訟への関心の高さをひしひしと感じ取っている様子でした。
次回は、大阪市の提出したケース記録に基づき原告らの2年間の介護生活との闘いや行政への訴えの実際が裏付けられることになると思います。 年末の忙しい時期ではありますが、ぜひとも、傍聴をお願いいたします。
日記−10月29日− 立命館大学法学部学生
4月の提訴時の新聞記事を見て、「在宅介護の要であるヘルパー派遣の現状を国民の権利として憲法25条生存権侵害として真正面から裁判で訴えるなんてすごい意義がある」と思った。けれども、それ以降ほとんどこれに関する記事を目にすることもなく、訴訟の行方を気掛かりに思いつつもやり過ごしていた私。
開廷ー青木弁護士から、原告のある一日のその時々のお二人の状態・状況を中心に時間を追って説明されメモを取る。特養で介護をした経験があり、具体的に想像しながら聞いていた。こんなこと私にはできないというより、365日の在宅介護、誰だって体を壊しかねないだろう。
閉廷後、弁護団による報告会が行われ、和やかな中にも、視覚障害者の方から「子供が高校生になったら介護力と認定されヘルパー派遣回数が減らされた。」重度身体障害者の方から「週に一度のヘルパー派遣では自立は困難。」など現状を聞くことができた。
どうも私は福祉の分野でも特に高齢者福祉にばかり関心がいって、ヘルパー訴訟も高齢者に関する側面でしか受けとめていなかった。福祉は一部の人を対象とするのではなく、皆を対象とし、皆の問題であるとよく言われるが、それを再確認し、又、改めて自分自身の問題であるということも感じた。
今の福祉の状況を改善していくには、行政への地道な訴えが重要だと度々言われていた。それは、一番難しい事だけれど、当然の「権利」を実質化していくため、誰でもが人間らしく生きられるようにしていくために必要だということを考えさせられた一日でした。
次回公判お知らせ 1996年12月24日(火)
10:00〜 大阪地裁 202号法廷
公判終了後、 弁護士会館にて集会開催
ホームヘルパー訴訟もついにインターネットに登場するようになりました。
龍谷大学の脇田教授が主催するホームページにホームヘルパー訴訟に関する記事が載っています。このホームページには、保育料についての訴訟や、生活保護に関する争訟についても記事等が載っていています。
カラーの画面に、ニュース「88歳の願い」の最新版や、「支える会」入会のお願いも掲載されています。
インターネットと言うと、何だか近寄り難い、と思っている人もいるかも知れませんが、お上の情報やら、商業ペースの情報をただ受け取るのではなく、「こちらから」どんど
ん情報を発信していきたいものです。介護の問題で悩んでいる人、さまざまな先進的取
り組みを実践しておられる方、インターネットを通じても、お互いに交流がすすみ、介護保障ネットワークができればいいなあ、と思っています(「44歳の願い」です)。
このホームページのアドレスは、http://www.asahi-net.or.jp/‾RB1S-WKTです。