第二十六話 アトバラナ 1966年48号(12月4日号)掲載

「アトバラナ」は、西南太平洋に浮かぶ、ソロモン群島に住む妖怪だ。

 南の島に行くと、夕方から夜にかけて、さまざまな怪鳥が鳴く。
 声を合わせて、不気味な合唱をする一群があると思うと、いきなりケケケと鳴く妖鳥もいる。
 ジャングルは暗く月は輝いている。そんな中で、特別大きな低音で不気味に鳴く鳥がいる。
 現地の人に聞くと鳥ではなく「アトバラナ」という妖怪であるという。

 昼はジャングルの中に潜み夜になると出てくる。
 それが家の中に入ると、人々はマラリアになるから、まじないの人形を作り、家の近くにおく。
 そして、家の中で火をたいていると、夜中にアトバラナが忍び込もうとして、ジャングルからのぞいても、入ることができないのだ。家の戸を開けて留守にしたりすると忍び込まれるのだそうだ。


第二十七話 油すまし  1966年49号(12月11日号)掲載

 九州の熊本県、天草の草隅越という山道には「油すまし」という名の妖怪が出る。

 昔のことなので今はもう出ないだろうと思って、ある時、孫娘を連れた一人のおばあさんがこの道にさしかかったとき、
「昔はここいらに油すましという妖怪がでたそうな。」
と話すと、ガサガサと音がして、
「今でも出るぞ。」
と言って「油すまし」が出たという。

 どうしてそこにそんなものがいるのか、また、なぜそんな名前が付いたのかは誰にも分からない。


第二十八話 かわうそ  1966年49号(12月11日号)掲載

 石川県の能登地方では、「かわうそ」が碁盤縞の着物を着た子供に化けて、夜、酒を買いに来るという。
「誰だ?」と声をかけると人なら「おれや」と答えるが、かわうそだと「あれや」。また「お前はどこのもんじゃ?」と聞くと「かわい」と答えるという。

 小松付近では「かわうそ」といわず、「がめ」という。「がめ」は水中の妖怪と信じられている。 時々子供に化けて出るそうだが「誰だ?」といって「うわや」と返事するのはきっとその「がめ」だろう。足音も、くしゃくしゃと聞こえるという。

 愛知県のある地方では、これに似た妖怪をタヌキの仕業と考えている。
 夜、戸を叩く者がある。「誰じゃ?」と聞くと、「おねじゃ」と答える。「俺だ」と言うことができないのですぐに化けの皮がはがれてしまう。

 これはきっと何か人間の真似をする動物か妖怪がいたのだろう。名付けにくいので一般に「かわうそ」は化けると言ったのだろう。


第二十九話 ぬれ女   1966年50号(12月18日号)掲載

 これは水辺に出る妖怪で北陸地方や島根県によく出たと言われる。

 昔、両岸にたくさん柳の生えた川があった。柳は柳行李の原料になった。
 柳の枝をとりあうため夢中になった若者たちは、ズンズン進んで川の上流に出た。
 そこは、柳の枝がたくさん生えて、川の水面が薄暗く不気味で人の寄りつかないところだ。

 急に黒雲が現れたかと思うと、今まで静かだった川はうなりを立てて波立ち始めた。なんと、水底から髪を振り乱した大蛇のような女が現れたではないか。長い舌をペロリと出したかと思うと、若者たちの舟をあっと言うまに沈めた。

 これは「ぬれ女」といわれ水辺に住む不気味な妖怪だ。村に逃げ帰った若者たちはブルブル震えながらこの恐ろしさを村人たちに伝えたという。


第三十話 手の目    1966年50号(12月18日号)掲載

 昔、東京がまだ、江戸と言われていた頃の話である。

 江戸を少しはなれればもうススキの野原が一面に続いていた。
 ある時、甲州街道沿いの調布で一人の盲人が無惨に殺された。

 それから月夜の晩になると、盲人の幽霊がススキの野原に現れるようになったという。よく見ると両手の手のひらに目が付いている。目が見えないがために無惨に殺された盲人の恨みで、目が手にできたのだろうか?
 この幽霊を誰言うとはなしに『手の目』と呼んだ。


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