第五十一話 くびれ鬼   1967年10号(3月5日号)掲載

 お酒を飲んで、調子よく歌を歌いながら歩いていて、あやまって池や沼に落ちて死ぬ人がいる。

 これはあやまって落ちたのではなく、「くびれ鬼」という妖怪が、引っ張り込んだのだと昔の人は考えていた。「くびれ鬼」は池や沼でおぼれ死んだ人の恨みのなりかわりだと言われる。そして、この世に残った死人の霊が、柳の下などに出て、いきなり通行人を、池や沼の深みに引っ張り込むのだ。

 だから、昔の子供は深い池や沼などには近づかなかったのだそうだ。


第五十二話 日より坊   1967年10号(3月5日号)掲載

 しとしとと雨の降る日、山登りをしていて、急に晴れることがある。ひょいと草木の生い茂る岩場に目をやると、いつのまにやら、つるつる頭の、奇妙な顔をした、じいさまがいる。

 びっくりして逃げようとすると、空が曇り始める。すると、今までいた、じいさまの姿が消えてしまっている。

 このじいさまは、茨城県に晴れたときだけ出る「日より坊」という妖怪だ。

 「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ」と歌いながら、遠足の前などに、紙人形を作って軒下にぶら下げる。

 この歌は、姿を現すと天気になる「日より坊」が出てくるのをお願いする歌なのだ。


第五十三話 白蔵主   1967年11号(3月12日号)掲載

 徳川時代、飛騨高山に、妙な男が現れた。その男の名は「白蔵主」。どこから来たものか、分からないけれど、奇怪な術を見せるので、見物人が集まった。

 この男は、懐から瑠璃瓶(ガラスの瓶のようなもの)を取り出して、「この瓶がいっぱいになるくらいの見物料がいただければ、満足です。」と言った。

 そこで、一人の町人がお金を入れたところ、チャリンと音がして、中に入ったお金が、瓶の底に小さく縮んで粟粒ぐらいの大きさに見えた。

 みんな不思議がって、金を二回三回と入れてみたが、やはり小さく見える。

 そんな馬鹿なと、商人が空の千両箱を差し出したところ、小さな瓶は、瓶より大きなその千両箱も、あっという間に飲み込んでしまった。

 「馬はどうだろう。」と、馬を入れた人もあったが、瓶の中でハエのような大きさの馬が動き回るのだった。

 そのとき、何十台もの車にたくさんの荷物を積んだ行列が通りかかった。行列の先頭にいた武士が、好奇心を大いに刺激されたらしく、「いくら何でも、このたくさんの荷を積んだ行列は入るまい。」と言った。

 白蔵主は笑って、少し瓶の口を広げる仕草をした。すると、車も馬も人も、瓶の中にぞろぞろと入り、中でアリのように歩くのが見えた。それだけでなく、白蔵主までが、身を躍らせて瓶の中に入ってしまった。

 ぼんやり見ていた武士たちはびっくりして、棒で瓶を叩き壊してみたが、そこには何もなかった。

 それから一ヶ月後、泊蔵主が車や荷物を指揮して、大阪の方へ向かっているのを、見かけた人があったという。

 このガラス瓶の正体は何なのかは全く分からない。


第五十四話 妖精    1967年12号(3月19日号)掲載

 昔、優れた腕の絵師がいたが暮らしは楽でなかった。毎日絵馬を描いていたが、いっこうに売れなかった。

 ある日、彼は庭先で妙な小人が遊んでいるのを見つけた。その様子があまりにおもしろいので、それを絵馬にしようという気になり、どんどん写生して絵馬にした。

 ところが、その絵馬が大評判になり、売れに売れて、絵師は金持ちになった。

 そして不思議なことに、この絵馬を描くようになってから、夏でも冬でも、石の間から小人のようなものが出てきて、目の前で遊ぶようになった。

 だが、家にきた絵師の姉には、その小人が全く見えない。不思議に思って、友人を連れてきて指さしたが、やはり見えないという。

 絵師は、他の人には見えないものが自分にだけ見えることに、だんだん気味が悪くなって、ある時思い切って、石を投げつけてその小人を殺してしまった。

 そのときから急に絵馬が全く売れなくなり、元の貧乏な絵師に戻ってしまったという。おそらく、その小人は、妖精とか小鬼とか福の神とかいわれているものだったのだろう。


第五十五話 火車    1967年13号(3月26日号)掲載

 葬式の時、昔は土葬だったので、棺桶を持って墓場へ行った。いきなり、暴風雨が起こり棺桶を吹き飛ばすことがある。あわてて棺桶を見ると死体がなくなっている。

 昔の人はこれを「火車につかまった」とか言って、大いに恥じたという。なぜなら、その人が生涯のうちで悪事をたくさん働いていると、地獄から「火車」という妖怪が迎えに来ると、昔の人は信じていたからだ。

 「火車」は「魍魎」とも書き、もうりょうとも言われる。

 万一「火車」が来ても、棺桶を守っている僧が、数珠を空に投げつければ、何事もないと言われている。


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