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第159回  工房の カタログ販売の恐怖

「ちわ〜っス。お届け物で〜す。
 熊野輝豸雄さん、いらっしゃいますか?」

輝豸雄宛にその荷物が届いたのは、或る日の午後だった。

「は〜い、今行きま〜す。」
「おっ、輝豸雄。
 今度は何買ったんだよ?」
「そうだよ、何を買ったのさ?」
「えへへ〜、”スコタコ”買ったんだ!
 ハンコ、はんこ、ハンコは何処だ?」
「なにぃ! お前スコタコ買ったのか?」
「ねぇねぇ、スコタコってなに?
 それって、美味しいの?」
「あったぁ〜、ハンコ。
 この前、通販カタログで見つけて、思い切って買っちゃったんだ。」
「ふ〜ん、でも、スコタコって、
 とっくの昔に生産中止になってなかったっけ?」
「え〜、だって、カタログに写真も載っていたし、、、、。」
「ふ〜ん、そうかぁ。」

甘栗の言葉に、一抹の不安が、輝豸雄の頭を過ったが、
” まさか、そんな事は無いだろう、、。 ” と、思い直し、玄関先へと急いで出て行った。




そして、、、、。
何時までたっても帰って来ない輝豸雄を探しに甘栗が玄関先に行くと、
輝豸雄が、呆然と立ち尽くしていた。

      

「あっ。」
甘栗は
小さく声を上げた。
” 輝豸雄のヤツ、やっぱりパチ物を掴まされたんだ。”
”今時、スコタコなんて、妖しいと思ったんだ。”


立ち尽くす輝豸雄と、
その前に置かれた、” スコタコ ” のような物を交互に見比べながら、
甘栗は、必死に、言葉を探していた。


                                                   第160回に続く