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第147回  工房の 時の流れに  〜 彼女の場合 〜



彼女は、ずっと、眼を閉じていた。   やがて、彼女は眼を開けて、そして、彼を観た。


”どうして、、、、。”
”いったいどうしたっていうのよ、私。”


彼女の眼から、涙が流れ落ちた。

”こんなに好きなのに。
 好きで好きでたまらないのに。”

溢れ出る涙を、拭く事もせずに、
彼女は、彼を観ていた。




   ”私は、彼が好き。”


”彼も、私が好き。
 好きって言ってくれる。
 私に微笑んでくれる。
 私だけを見てくれる。”



   ”私は、彼が好き。”


”でも、でも、
 この、止まらない涙は何故なの?”


”不安、怯え、孤独”

”違う、違う、そんなんじゃない。
 そんなもの、ない。”

”今、この時は、こんなに倖せなのに、、。”

”今、この時が永遠に続けばいいのに。”


決して叶う事の無い願いを口にした時、彼女は輝豸雄が微笑んでいる様な気がした。
優しく微笑んでいる様な気がした。

                                                   第148回に続く