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第141回  工房の 紫の薔薇の人


それじゃぁ、輝豸雄くん、今度は、あの娘にしよう。


   その人は、そう言うと、手に持った薔薇を輝豸雄に差し出した。

「何時もの様に、この薔薇を頼むよ。」
「え〜、またですかぁ?
 もう、いい加減にやめましょうよ、こんな事。
 毎回毎回、そんなに沢山の薔薇を贈るなんて、勿体無いですよ。」

  

「いいんだよ、輝豸雄くん。 好きでやっているんだし。」
「じゃぁ、せめて贈り主の名前だけでも入れませんか?」

   そう言って見上げる輝豸雄に、その人は笑って言った。

「輝豸雄くんには、まだ、解らないだろうなぁ、この気持ちは。」
「?・・・・・・・。」
「男には、浪漫が必要なんだよ。」
「ろ、、ろまん、ですか?」
「そうだよ、浪漫だよ。」
「ろまんですか。」
「そうさ、だから頼むよ、輝豸雄くん。」

   そう言うと、また、その人は笑った。

                                                   第142回に続く