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 番外編  工房の ホ ー ム に て
 ” あれ? ”
輝豸雄は自分の目を疑った。
 ”あれ? 色が付いていないぞ? ”
夏期休暇を利用して旅行に行こうと思った輝豸雄は、
特急列車のホームにいた。
 ” 旅立ちは深夜に限る ”
それは輝豸雄の数多くあるポリシーの一つだったが、
その日のホームは、いつもと違っていた。
 ” サラリーマンが多い。 ”
それはいつも通りと言えばそうだったが、
今日の乗客はちょっと変わった感じがしていた。
薄汚れた、人生に疲れた感じがする人ばかりだ。
   
 ” さてと、 指定の席は、2号車のイ−2か ”
輝豸雄が、列車に乗り込もうと進み始めた時、前方から、視線を感じて、立ち止まった。
 ” はっ! ”
その人物は、真っ直ぐに輝豸雄を見ていた。
 ” 君は、乗ってはいけない。 ”
その人の眼は、輝豸雄にそう語っていた。
 ” 君は、まだ此処に来てはいけない。 ”
 ” 輝豸雄くん、もしも君に理解ある異性や、暖かい家庭があるのだったら、
   夜の列車にはくれぐれも注意して乗るんだ。
   まだ、君はこの列車に乗ってはいけない。 ”
結局、その列車は、輝豸雄を乗せることなく、ホームから出て行った。
チケットを握りしめながら、輝豸雄はあの人のことを考えていた。
 ” 本当は、本当は、あの列車に乗って行きたかったのに。 ”
 ” また、ぼくは、ぼく自身を、、、、。 ”
もう一度、輝豸雄はチケットを握りしめた。
 ” 本当の事は、何処にあるのだろう、、、。 ”
輝豸雄は、一人残されたホームで考えていた。
                                                   番外編おわり
                                                   もどる