番外編  工房の 階段を昇って


 その人は、
 普段は決して着ないだろう、とっても明るい服を着ていた。

 みんなで一緒に階段を昇り始めたのに、
 いま、
 彼女と居るのは、輝豸雄だけだった。

 どれくらい昇ったのだろうか?
 輝豸雄が振り返ると、
 階段は遥か下まで続いており、
 後を昇ってくる人たちもいないように思えた。

 「ねぇ、何処まで昇るの?」
 急に不安を覚えた輝豸雄は、息を切らせながら尋ねた。

 その人は、何も言わずに、
 振り返ることも無く、ただ、ただ階段を昇っていった。

 「ちょっと、、、、ねぇ、、、。」

 輝豸雄は慌てて後を追いかけ始めた。




 その螺旋階段は、
 何処までも何処までも続いているかのように見えた。

 「まるで、天にまで届きそうだ。」
 輝豸雄がそう思った時、前を行く彼女が振り返った。

 「ありがとう、てでおちゃん。
  もういいわ。
  ありがとう、みんなとお帰りなさい。」
 「えっ、でも。」
 「ありがとう、、、、。
  本当にありがとう、大好きだったわ、てでお、、、。」
 「・・・・・・・。?。でも、、、、。一緒に帰ろうよ。」
 「ダメよ、てでおちゃん。
  みんなが呼んでいるから、一緒に帰りなさい。
  ここはあなたが来ていい場所じゃないのよ。」

 「そんなぁ、ねぇ、どうして?
  どうして一緒に帰れないの?」
 「ごめんね、てでお、、、。
  最後まで、本当に優しい子。
  ありがとう、てでお、、、、、。   さ よ う な ら ・ ・ ・ ・ 。」
 「えっ、待って、待ってよぉ〜、、、、。
  ・   さ 〜 ん 〜。待ってよぉ〜。
  僕を置いていかないでよぉ〜。」








 ”お か あ さ ん ・ ・ ・ ・ ”

 輝豸雄は、工房の自室から空を見上げた。
 「今日は母の日だったんですよ、お母さん。
  僕は、あの時、本当はいつまでも貴方と階段を昇って行きたかったんですよ。
  でも、貴方はそれを許してくれませんでした。
  
  本当に優しかったのは、貴方だったんですよ、お母さん、、、。
  
  其処から、僕が見えますか?
  ぼくは、、、僕はいつまでも貴方の 優しい子 でいたかった、、、。」


 母の日ももうすぐ終わる。
 輝豸雄達の忙しい毎日がまた始まるのだ。


                                                   番外編おわり

                                                   もどる