検査薬の許認可を臨床検査技師の手に −ペーパー臨床検査技師の愚痴−


(2000/01/25改題)


 以下の文章は、1998年夏に某県技師会が県学会シンポジウムの企画の一環として募集した「なんでも言っちゃお」に投稿したもので、同年12月の会報に「検査試薬も作れない!」という題名で掲載されました。でも、反響は関連MLも含めてまったくありませんでした(泣)。
 唯一この問題に興味を持ち、検査センターの対応をはじめいろいろご教示くださった Ph.D.のIさんにお礼申し上げます。



1.要旨

 臨床検査薬(体外診断用医薬品、以下「検査薬」)の輸入販売製造の管理、許認可業務が薬剤師でなければできないことに疑問を持っています。べつに薬剤師が不適とかいう話ではなく、「なぜ臨床検査技師がそこに参加していないんだろう?」ということです。

2.疑問を持つに至った経緯

 私は、四年生大学の臨床検査技術学科を卒業し、国家試験にパスした後にある臨床検査機器メーカーの開発部に就職しました。仕事は、機器開発というよりは、測定法の開発に近いことを10年余続けています。
 入社当時すでに業界ではGMPの骨格が出来上がっており、ほどなく運用開始されましたので、薬事法関係は管理薬剤師の仕事、と長い間疑ってもみませんでした。

 「なんで検査薬を薬剤師が作っているんだろう? どうして臨床検査技師じゃないんだろう?」
 という素朴な疑問が芽生えたのは、2年ほど前に自分で検査薬の申請を行うことになったときでした。自分で、といっても、必要なデータを作成し、決められたフォーマットの書類のアナを埋め、あとは管理薬剤師がハンコ押して窓口に持っていくだけ・・・という状態にしようとしただけです。管理薬剤師が超多忙とのことで、私の担当する機器用の検査薬までは手が回らず、やむなくこちらでできることはやってしまおうと考えたのです。

 最近のお役所は、規制緩和や事務の効率化がはやっていて、わかりやすい?マニュアル類がかならず出ています。必要データも、相関や日差変動、検出限界など、検査従事者には耳慣れた評価項目が並んでいます。最終的には管理薬剤師にチェックしてもらうわけですし、ポイントさえ掴めば、むずかしい仕事ではありません。
 しかし、関係者の反応は厳しかったですね、「(薬剤師でもないのに)あなたにどんなデータが必要なのか、わかるの?」などといわれました。

 ふとまわりを見ると、許認可関係だけでなく、試薬(検査薬以外の校正液や洗浄液なども含む)の輸入販売製造関係はすべて薬剤師の仕事になっています。GMP導入前には多くいた臨床検査技師や化学科卒はまったくいなくなりました。
 人の入れ替わりが激しい、人手不足で管理者が実際の製造作業も行うといった状況にあって、薬剤師が残っているのは「抜けた穴を薬剤師で埋める」からです。でなければ、業務が立ち行かないのです。

 以上が、私の置かれている状況です。

3.社会的な状況の補足

 ご存知の通り、数年前から「臨床検査に使用する試薬は、原則として医薬品または検査薬として承認されたものとする」でなければ保険診療を認めない、ということになっています。
 この方針に沿って、大手検査センターの多くは「保険収載されているにもかかわらず、認可試薬キットの存在しないものをみずから製造し、薬事法の矛盾を解決する」、あるいは「使用してきた自家調製試薬を正規の認可試薬とする」目的で薬事法上の製造所などの認可を取り、管理薬剤師を置いているそうです。

4.意見

 私は分析化学教室出身ですから、試薬調製も検査業務の一部だと考えています。なのに、検査技師の作った試薬(自家調製試薬)は、検査試薬と認められないのです。もっとも、精度管理や品質管理のことを考えると、試薬のキット化はしかたがない・・・というか、むしろ勧められることだと思います。

 製品化が避けられないのならば、検査技師が企業で検査薬を作ればいいんです。ところが、別の職種の管理がなければ、作ったものを検査薬として認めてもらうことすらできない。私は、検査業務の一部を取り上げられた(やめさせられた)ような気持ちなのです。
 おかしなことだとは思いませんか。
「臨床検査技師がいなくてもだれかがかわりにやるから検査はできるけれど、薬剤師がいなかったら試薬が作れないから検査ができない」のですよ。

 もちろん、検査薬調製や検体検査ばかりが業務でないことは、わかっています。病院や各方面で、必要とされている臨床検査技師はたくさんいると思いますし、言い回しにやや飛躍があるのも認めます。
 ようするに、病院内だけでなく、メーカーにおいても「臨床検査技師の立場は弱い(というか、ないに等しい)」ということが言いたかっただけなのです。

 臨床検査技師のライセンスが他の職種に比べて弱いのは、臨床検査が独占業務ではないのもそうですが、検査作業以外の仕事が少ないことも原因ではないでしょうか。せめて、検査薬の許認可くらい、臨床検査技師自身の手に取り戻せないものか・・・と思い、投稿してみました。

5.蛇足

 ほんとうにその役割を終えたのなら、「臨床検査技師」という資格が消えてしまっても、それはしかたがないことだと思います。
 ところが、「病院内の検査以外に職能はないのか?」はあまり議論されていないし、医療現場に検査室や臨床検査技師が必要かどうかについての議論すら、まだまだ十分ではないと思います。こんな状態で、他職種や事情を聞きかじった一般市民のみなさんから「臨床検査技師なんていらない」と言われるのが我慢なりません。
 もっと、議論を盛り上げようではありませんか。

 それから、これから検査薬MR制度も整備されるということですが、臨床検査技師は「お客さま」の立場に甘んじようとしているように思えます。こういう(情報提供する側に回る)のは、臨床検査技師の仕事として不適当なのでしょうか。

 みなさんのご意見を伺いたいと思います。
 



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