ボウリング寄席

えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席・・・

八五郎:こんちわぁ、大家さんいますかぁ~
大家:はいはい・・・なんだ、八っつぁんかい。やっと店賃を持って来たのか。たしか3ヶ月分たまってたな。
八五郎:ああ店賃? どうもすいません、大家さん、店賃だったらもう少し待ってもらいたいんですが・・・
大家:じゃ何しに来たんだい?
八五郎:いやぁ、今日はちょいとお尋ねしたいことがありやして。
大家:ほう、私に尋ねたい事?
八五郎:へい。あの、あっしん所に、女房が1人いるんですがね。 
大家:そりゃ、お前さんに何人も女がいるわけないだろう。
八五郎:なんてこと言うんすか。いやそれでね、その女房が最近ボウリングに首ったけで・・・。
大家:なんだい、店賃も払ってないのにしょうがないね。
八五郎:まあまあそれで、そのボウリングでストライクを3回連続でとると、「ナイス、ターキー!」って皆が言うんだそうで。
女房が思うには、2回連続の時はダブル、4回の時はフォース、その後もフィフスと続くのだから普通はトリプルでしょ? 
でも3回の時だけターキーってぇのはおかしい、わけ分かんない~って・・・なんでなんすかね?
大家:えぇー!・・・まぁ、それにはもちろん、わけというか、ことわりがある。
八五郎:そんな、ことわらないで答えてくださいよ。
大家:断りじゃなくて理(ことわり)だ。物事にはそれに備わった理由があるということじゃ。それじゃあ、わしは忙しいので、この続きはまたのお楽しみ~ということで。
八五郎:おっと、そんな野暮なこと言わずに、いま教えてくださいよ。
大家:う~む、つまりその・・・なぜかというとな、あ~まあ・・・これはいわゆる、ぎょうかい用語だということだ。
八五郎:魚介用語って、三枚おろしとか一夜干しみたいな魚屋の言葉なんすか?
大家:魚介じゃないよ、業界だ。芸能人がよく使う言い回しのことで、言葉をみんな逆さまに言うんだよ。
ボウリング業界もPリーグができてから、可愛いお姉さんボウラーが登場してアイドルのようになったからな。芸能界の慣習にならったわけだ。
八五郎:はあ・・・
大家:おいおい、ボウリングなのにピンとこないようだね。それでは例を挙げればだな、芸能界では「六本木で姉ちゃんとすしを食べる」ことを「ギロッポンでチャンネエとシースー」と言う。
八五郎:ほう、それで・・・
大家:だから「ストライクが3連続で来たー」ってことを、「イークストラがゾクサンレンでターキー」と言い、それが短くなってターキーだけになったわけじゃ。
八五郎:な~るほど、合点承知の助、ありがた山の寒がらす! じゃぁ、あっしはこれで、御免なすって!
大家:あれあれ、八っつぁん気が短いね、とっとと帰っちゃったよ。まさか今の与太話を真に受けたわけでもあるまいに・・・

八五郎:いやぁ、あの大家はてぇしたもんだ、なんでも知ってる。早速おっかぁに教えてやるか・・・おぅっ、おっかぁ、今けぇったぜ。
女房:まぁ、お前さん、仕事もしないで今までどこをほっつき歩いていたんだい。
八五郎:おいおい帰る早々、なんてぇ言い草だ。こちとら大家のところへ出かけて、おめぇが分からないって言ってたターキーのわけを聞いてきたんだ。
いいか、耳の穴かっぽじってよ~く聞けよ。これは芸能界の業界用語で言葉が逆になってんだ。「ストライクが3連続で来たー」ってことを、
「イークストラがゾクサンレンでターキー」と言い換え、それが短くなってターキーだけになったわけだ。どうだい、恐れ入ったか!
女房:もう~とんちんかんの、すっとこどっこいだねえ。あたしゃ、さっきボウリング場の支配人にターキーと呼ぶ由来を訊いてみたんだよ。
そしたら、昔アメリカの食卓で七面鳥が御馳走とされていたので、ボウリングの賭けの商品として3回連続でストライクを出した客に、七面鳥を振る舞っていたからだそうだよ。
ちなみに英語で七面鳥のことをターキーって言うんだってさ。
八五郎:てやんでい、べらぼうめ、店賃払ってないからって、大家に一杯食わされたか! そういえばわけを尋ねた時、なんだか言葉に窮しているみたいで、すぐに答えなかったもんな。
女房:まぁお前さん、ボウリングだけに、まんまと大家さんの手の上で転がされちゃったんだよ。

・・・お後がよろしいようで。

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