◆□キノの旅でハァハァしよう4□◆
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上記スレ、乱茶さん作。



〜カタチなんて…〜

朝。
いつものように、キノは夜明けと同時に目覚めた。テントの中で軽く伸びをして、「カノン」を手に
外に出る。普段通り抜き撃ちの練習をしようとして、何気なく視線をエルメスの方に向ける――――
「――?エルメス…エルメス?」
そこにエルメスの姿はなかった。何故かエルメスにくくり付けていた荷物は散乱していた。しかし、
盗まれたような形跡はない。エルメス以外には――――
その代わり異様な「者」が横たわっていた。歳は10代半ばを過ぎただろうか。黒い髪を肩ぐらいまで伸ばし、
そして何より異様なのは――そいつは「全裸」で、昨日エルメスを駐車していたはずの場所に寝ているのだ。
「…………」
キノは「カノン」を両手で保持したまま、ゆっくりとその「変態男(仮)」に近付く。男まであと1歩の所まで
近付くと、そいつの頭に――トゥキックを食らわした。
「…んあ、おはようキノ。昨日はぐっすり眠れたかい?…ってあれ、視界が…倒れてますよ〜起こして〜」
「――自分で起きてください。起きたら動かないで下さい」
「えっ?何言ってんのさ。よっこらしょ、っと。……え、『よっこらしょ?』」
男とキノの視線がかち合う。キノは冷ややかな目で男を見る。
「あれ、おかしいな…ボディーが…身体に………人間になってるのか……ってええ゛!?どうしよ、キノぉ!!!」
相変わらず銃口はぴたりと固定されている。
「あなたがどうしてボクの名前を知っているのかは知りませんが、今すぐエルメスを返して下さい。さもなければ撃ちます」
「だ・か・ら〜、僕がエルメスだってば!」
「エルメスはモトラドです。あなたの名前がエルメスだとしても、ボクが返して欲しいのはモトラドです」
「しかしそう言われましてもね――」

屋外で銃を向ける旅人の少女。忠告無視でぽりぽりと頭を掻く全裸の男。

微かな殺気の漂う中、こうして「人間化してしまったモトラドの話」が始まった…と思う。



延々と続く口論。
「だからね、人間になちゃったみたいだけど僕はエルメスなわけ。ここまでOK?」
「意味が分かりません。早くエルメスを返して下さい」
「えーと…まいったなぁ…」
証拠。
自分が「元モトラド」のエルメスだったという決定的な証拠さえあれば――
「ん〜・・・・・あっ、そうだ!キノ、思い出したよ!」
「隠し場所ですか?」
「ちゃうちゃう。確か1週間くらい前、熱いお茶を足にこぼして近くの川にダイブしてたよね!
こんな話、本人じゃないと分かるはずないよね!」
「――1週間も前から尾けていたのか……気付かなかった……」
「……随分と疑り深い性格ですこと」
「ボクは旅人ですから」
きっぱり言い切られた。他には――
「じゃ、じゃあこれはどうだい?3ヶ月くらい前に行った国で食べたお菓子…『焼き氷』に、
シロップじゃなくて間違えて近くのフランクフルト屋のケチャップをかけてたでしょ?
『これはハズレだったかも』とか言ってさ〜」
「…かき氷?」
「そう、それ」
「……では、水がものすごくおいしい国の話は?」
「それはこれから行く国でしょ?」
即答された。こいつはもしかすると本物の――

「エルメス――」
「何だい?」
「ボクは――――」
キノは再びテントに潜り込んだ。慌てて「全裸エルメス」が追う。
「――――寝ることにする。これは悪い夢だ。覚めればエルメスはモトラドに戻ってる」
「……現実逃避ですか。キノらしくもない」
1時間後。
キノはぱっちり目を開けた。むっくり起き上がる。軽く伸びをしてテントの外に出た。
「………」
外ではちょうど「変態男」もとい「エルメス」が、散乱していた荷物をまとめ終えたところだった。
相変わらず全裸だった。
「おはよう、キノ。現実と戦う覚悟はできたかい?」
「…まあね」
仕方なくテントをまとめ、携帯食料で簡単な食事を済ませる事にした。
「キノ〜、僕もお腹が空いたんですけど」
「モトラドは燃料でも飲めば?」
「人間が燃料なんて飲んだら死んじゃうよ――」

陽も差してきた頃、いつもと変わらぬ?1人と1台…じゃなかった、「2人」の
会話の調子が戻ってきた。

「あのさ、キノ。実はお願いがありましてね――」
「何だいエルメス?」
「服を貸してもらえるとありがたいんだけど…というか、全裸であることにツッコミが欲しかったり――」



草木以外何もない平原を、2つの人影が通り過ぎていく。
「重い……」
1つは若い感じのする男の子のような声。
「今までそんなことでぼやいた事はなかったよ。病気にでもなったかい?」
もう1つは少年のような、少し高い声。
くそ〜、とエルメス(注・人間。ここでは人間化してしまったモトラドを指す)が恨めしそうに
呻いた。
エルメスは普段キノが着ている白いシャツに、予備の着替えなのかハーフパンツ姿。足元には――
薄汚れたサンダルを履いていた。
「早くしないと日が暮れちゃうよ。――まったく、今夜はベッドのある部屋でゆっくり休みたいよ」
「な、なら手伝ってくれてもいいだろうに――」
キノは先頭を身軽に歩く。エルメスはかなり後れを取って息を切らしている。
無理もない――エルメスは、旅の荷物を 全 て 運ばされているのだ。
「何を言ってるんだい?一体誰のせいでボクまで歩いていると――」
「…すいませんです」
「しかし、どうしていきなり人間になってしまったんだろうね…旅をしているモトラドは、
ある日突然化けるのが常識なのかい?」
「(ボソっと)きっとパートナーが『つるぺた』な旅人だからだよ」
前を歩いていたキノがピタリと立ち止まった。遅れていたエルメスが追いつく。
そして――その後どうなったかは言うまでもない。

・・・

「さて、どうやらたどり着いたようだね」
陽が傾き始めた頃、ようやく2人は「水がおいしい国」の門の前に到着した。
「そいつはよかった……」
疲れきった様子でエルメスが呟いた。目下には青痣がくっきりと残っていた。
いつものように簡単な入国許可を済ませ、キノはさっさと国に入っていく。
「待ってよぅ…冷たいなぁ、キノは」
再び荷物を担いでエルメスは歩き出す。途中、平坦な道でコケそうになった。
「――お若いのに大変だねぇ、お兄さんも」
苦労して振り向くと、中年太りした審査官が苦笑しながら語りかけてきた。
「いやね、私も家では妻の尻に敷かれててね…うんうん、分かるよ、お兄さんの気持ち」
「さいですか…」
1人納得した様子で頷いている審査官を尻目に、エルメスはキノを追いかける。
「頑張れよ!」
びっ、と審査官は親指を立てたが、エルメスは肩をすくめるしかなかった。

「重い……」



「あのねぇ〜、旅人さん。部屋の空きはと〜っくにないの。それにこんな遅い時間に――」
「そうですか…」
あまり大きくないホテルの前で、キノと太ったおばさんが何やら言い合っているのが見える。
――どうやらおばさんは、寝ていたところを起こされたのが気に食わなかったらしい。
開店休業状態なのだろうか?
「キノ〜、どうしたの?何だか『校長別々』しちゃったみたいだけど」
「…交渉決裂?」
「そうそれ」
「今夜はここに泊まろうと思ったんだけど…部屋がいっぱいみたいで」
「さいですか〜、旅には苦労が絶えないねぇ」
「随分さらりと言ってくれるね……一体誰のせいでボクは」
「すんません」
即答。
新たな怒りの矛先を向けるように、おばさんはじろりとエルメスを睨み付けた。
「まったく最近の旅人ときたら――――ん?……(ウホッ!いい男!)」
「仕方ないね…次を当たることにしよう」
「強制的にさんせ〜い」
どこにそのような俊敏性を兼ね備えていたのか、おばさんは猛ダッシュを切った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!旅人さ〜ん!ちょ〜……って、待てやゴルア!!!」
ホテルを後にする2人(性格にはエルメス)の肩をおばさんはがっつりと掴んだ。
「きゅ、急にキャンセルがあったみたいでね…ささっ、どうぞどうぞ!」
半ば引きずるようにして、おばさんはエルメスの「お持ち帰り」に成功した。
「………まぁいいか」

・・・

キノ達が案内された部屋は、ホテルの外装から考えると「割といい」ようだった。
凝った調度品はないが、浴室、冷暖房設備は完備されている。1人用の部屋のためか
ベッドが1つしかなく、やや狭く感じることを除けば。
「ではエルメスさん、お困りのことがありましたら何なりと申しつけ下さいませ!」
「はぁ……」
食事は簡素なものだったのでキノはすぐ食べ終えたが、エルメスが慣れない食事に手間取っていたため
大分時間を食ってしまった。
キノはシャワーを浴びた。部屋備え付けのシャワーは水量こそ豊富なものの、何故か水温が上がらず
ぬるいままだった。
「冷た…」
客室用のパジャマに着替えて頭をごしごし拭きながら、明日の日程を考える。
明日は「おいしい水」を味わうことにしよう。携帯食料と弾薬も揃えないといけないし、そして何より――――
「………」
1人用のベッドを占拠する形で眠っている男を見て、ため息をつかずにはいられない。無言で拳を固める。
「――エルメスを修理に出さないといけない」

ごっ゛

「――冗談だってのに…」
腫れた側頭部をさすりながらエルメスが訴えるが、キノの耳には入らない。変わりにキノは
エルメスの背後に回りこむと、その肩をがっしりと両手で掴んだ。
「エルメス……」
「な、何ですかキノさん?」
顔をぶつけるくらい耳元に近付けると、ぼそぼそと話し始める。
「今日のボクは何だかとても気分が悪い。今は冗談に付き合ってられるほどの余裕がないんだよ。
何故だか分かるかい?」
「……何となく分かります」
「ならいいけど。ボクはもう寝るよ。おやすみ、エルメス」
キノは両手を解いたが、彼女が触れていた部分はエルメスの冷や汗でえらいことになったいた。
「あのさ、僕はどこに寝ればよいのかと――」
「いつも通りでいいんじゃない?」
ごろん、とエルメスに背を向けてキノは投げやりに呟いた。
「……さいですか」
諦めてエルメスは床に寝転がる。カーペットは敷いてあるが特に弾性があるわけでもない。
「……痛い。そして硬い」
しばらく不平を訴えたが、それが意味を成さないことを悟った。




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