◆□キノの旅でハァハァしよう3□◆
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上記スレ、710さん作。



「あー、喉渇いたな……」
「紅茶は切らしてたんじゃなかった、キノ?」
「そうだったっけ?」
対岸に次の国の外壁が望める、青く澄んだ湖のほとり。
キノはエルメスを横に止め、小休止を取っていた。
「あ、そういえば、シズさんから貰ったジュースがあったよね」
「ああ、『なるべく早めに飲んでくれ』って言ってた、あれね」
ふと思い出したキノは、荷物をごそごそと探り、大振りのビンを取り出した。
蓋を開けると、柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「んっ……。あ、これ、すごく美味しい……」
一口含んで顔を緩めたキノは、ぺたんと地面に座り込むと、そのままラッパ飲みを始めた。
「ところで、僕もそろそろ燃料が切れるんだけど」
「次の国に着いたらね。んっ、んくっ……」
「ずるいなー、自分ばっかり」
エルメスと軽口を叩き合いながら、キノは喉を鳴らしてビンの中身を呷る。

ビンのラベルには小さく「アルコール分18%」と書かれていた。

「……ねえキノ。それ、もしかしてお酒なんじゃないの?」
「むっ……ぷあっ。らぁに、ェルメェス。なにがなんらっれ?」
数十分後、ビンの半分ほどの量を飲み干したキノは、すっかり呂律が回らなくなっていた。
普段は油断の無い目つきはトロンとして、頬から耳にかけてが朱に染まっている。
どこからどう見ても、完全な酔っ払いだった。
「だからぁ、キノは酔っ払ってるんだってば」
「なんらって? ボクが飲んでるのはジュースらよ? ジュースで……ひっく、酔うわけが……」
「ちゃんとラベル読んだ?」
エルメスに尋ねられ、キノは目を細めてラベルの表示を読んでいく。
「えっとお……あはは、あるこーるぶん18ぱーせんと、だって! あは、ほんとにお酒だ、あははは!」
「いた、いたっ! 痛いってば、何で叩くのさ!?」
何が可笑しいのか、エルメスのタンクをばしばし叩きながら、キノは陽気に笑い転げる。
そしてしばらくすると、キノはぴたっと手を止めて、ゆらりと立ち上がった。
「あれ、キノ、どうしたの?」
「ボクは旅人ら」
「……うん、そうだね」
「旅人は、こんな風に酔っ払っていてはいけにゃい」
「……まあ、それもそうかな。それで?」
目が座っているキノは、呆れるエルメスの脇で澄み切った湖水を見詰めて呟き、
「だかりゃ、ボクは水浴びをして酔いを覚ましゅ」
おもむろに服を脱ぎ始めた。

「キッ、キノ!?」
「んっ……ありぇ、外れないろ」
シャツを胸元まではだけたキノは、途中のボタンにてこずり、怪訝そうな顔を手元に向けた。
淡い膨らみを覗かせたまま、定まらない指でのたくたと服を弄り回す。
「……まあいいか。このまま脱ご」
「キノ、だからちょっと待てってば!」
キノはエルメスの制止も聞こえない様子で、ズボンの中から裾を引っ張り出し、無造作に脱ぎ捨てる。
シャツを脇に放り投げると、露わになった小振りな双丘が、微かにふるん、と揺れた。
「キノ! こんな所でそんな格好して、誰か来たらどうするのさ!?」
エルメスが咎めるように言うと、キノはズボンのベルトに手を掛けながら、唇を尖らせる。
「らから、人が来る前に酔いを覚ましょう……ひっく! と、してるんじゃらいか」
「それはいいけど、場所を考えろって言って……」
「ええい、うるひゃい!」
「うわあっ!?」
しつこく食い下がる相棒に腹を立てたのか、キノは片足を上げ、エルメスを蹴り倒す。
反動でふらふらしているキノの足元で、エルメスは柔らかい土の上に横倒しになった。
「ふふふ……参ったか! ボクの邪魔をする奴らは、みーんなこうなるのら! あははは!」
「うう……トラだ、紛れも無く大トラだ……」
勝ち誇ったキノは、嘆くエルメスとは対照的に、上機嫌でベルトを解き、ズボンをするりと足元に落とす。
「……しかも、露出癖まであるなんて、最悪だ」
「んーふふっふー、んっ、よっ、とっ!」
更に鼻歌混じりで靴紐を解き、ぴょんぴょんと跳ねながら、ブーツごと足首に絡まったズボンを振り払う。
ショーツ一枚を残して、キノは小鹿のようにしなやかな裸体を、余す所なく晒した。

「あははは、酔いを醒ますのらー!」
「あっ、キノ、せめて水着を……あーあ」
キノは両腕を翼のように広げ、勢い良く湖に飛び込んだ。
そのまま水面下に姿を隠し、5秒、10秒経っても顔を出さない。
「ちょっと……まさか、溺れたんじゃ……」
エルメスが不安そうに呟いた次の瞬間、
「ぷはあぁっ! あー、気持ちいいろー!」
水しぶきを上げてキノの身体が飛び上がった。
「あははー、エルメスもこっちに来いー!」
憮然とした声のエルメスに向けて、キノはパシャパシャと湖の水を飛ばした。
「……心配してソンした。にしても、なんて格好だよ……」
エルメスが思ったよりも水位は低く、立ち上がったキノの腿の半ばほどまでしかない。
濡れたショーツはぴったりとキノの腰に張り付き、中の淡い茂みが透けて見えている。
それはある意味、全裸でいるよりもよほど扇情的な光景だった。
「……ま、いいか。どうせ誰も見てないだろうし」
時折り届く水滴にうんざりしながら、エルメスは誰にともなく呟く。
「にしても、やっぱりキノが正気に戻るまで、このままなのかな……?」


「あの……シズさま。いつまでこんな事を続けるつもりですか?」
「…………」
陸の脱力した声に、超望遠レンズを付けたカメラを覗くシズは無言で答えた。
その顔は狙撃をする時のように引き締まり、その指は絶妙のシャッターチャンスを逃さない。
先日盗撮したスクール水着姿のキノの写真がパネルにされ、シズの脇に立てかけられていた。
「はぁ……嘆かわしい……」
「……陸」
「はっ、はい、なんでしょう!?」
こっそりと呟いた声が聞こえたのかと思い、陸の声が裏返る。
しかしシズはファインダーから片時も目を離さぬまま、空いた片手を陸の方に差し出す。
「フィルムが切れそうだ。予備を取ってくれ」
「……。解りました」
だらんと尻尾を垂らすと、陸は重い足取りで新しいフィルムを取りに行く。
いつも笑っているような顔が、今だけは泣きそうに見えた。