在宅の仕事・経理事務系

 在宅の仕事(と言いつつ教材を最初に売りつけてくるタイプ)の勧誘を断るのに、もっとも効果的なのは「資格をすでに持っている」という台詞である。
 ところが、今回の勧誘のおねえさんは、そんなことでは全然ひるまなかった。
 たまたま時間に余裕があった時だったので、それならばと私も真剣に応対させていただいたのが、以下の記録である。

*最初の電話*

女 「もしもし、わたし、<在宅でできる>(はいはい、そんなに強調しなくていいから)仕事のご案内にお電話を差し上げたのですが」
私 「はあ(ああ、またか・・・)」
女 「経理のお仕事なんです。日商簿記の3級をとっていただいた後に、お仕事をしていただくことになるのですが」
私 「えっ? 3級でいいんですか? 持ってますけど」
女 「そうなんですか?(全然慌てた様子が無い。珍しい反応だなあ)でも、当社の規定で、資格を持っていらっしゃる方にも、もう一度試験を受けてもらうことになっているのですよ」
私 「・・・はあっ? 商工会議所の「日商簿記」ですよね? もう一度、3級を受けるんですか?」
女 「はい。詳しくは資料をお送りしますので、・・・・・・」
 
 次の日に届いた「資料」によると、今回のハナシは以下のようなものらしい。
・まず定められた教材やパソコンを購入、勉強し、日商簿記を受けて合格したら仕事が貰える。
・万が一委託された仕事が出来なかった場合も、違約金などは一切払わなくてよい。
・仕事の委託は、まず一年間。問題が無ければ翌年以降も継続可。
・万が一仕事が無かった場合は、既払い金は返金される。

*2回目の電話*

女 「資料は読んでいただけましたでしょうか」
 
 ここで、資料を読んで生じた疑問を抜き出してみよう。
1.パソコン(モデムはついているがプリンターは無い)と教材(基本操作のビデオ1本、参考書と問題集が各々1冊)と簿記の問題集と参考書など4冊、これが64万円もするのは変だ。
<パソコンが20万円として、ビデオはオマケと言いたいところだが1万円と考えよう。パソコンの参考書は2冊で1万、簿記のテキストも4冊で2万以上はしないだろう。以上で合計24万円・・・はて、残り40万はどこへ?
2.どこにも、「有資格者も再受験すべし」などと書かれていない。
3.仕事の委託の継続条件に、どのような判断基準があるのかの記載が無い。
4.仕事が無かったら返金ということだが、仕事が少ないという事態には対応しているのだろうか。
 
 4.について、仕事が少ない場合はどうなるのか、と訊ねたら「仕事は沢山ございますので」とのこと。万が一仕事が少なくて収入がふるわなかった場合の保証は無いらしい。
 3.の仕事の継続条件に関しては、「普通に業務をこなしていただければ」の一点張り。「普通」って「誰にとってのどんな普通」なのか答えてくれなかった。その挙げ句が
女 「とおみさんって、すごく論理的なアタマをしてらっしゃるんですね」 誉めてくれなくていいから、質問に答えてえな。
 
 というわけで、残る2と1について、話は核心へと迫っていくのだった。
 
私 「ズバリおたずねしますが、先日「もう一度試験を受けて」とおっしゃっていたのは、この教材を買え、ということなんですね?」
女 「はい、当社の規定になっておりまして、仕事の委託の前には、このコースを受講していただくことになっているのです」
私 「ということは、受講さえすれば、もう一度試験を受けなくても良いのでは?」
女 「はい」
 
 おいおい。
 
私 「でもねえ。パソコンはうちに3台もあるし、簿記の教材も山ほど(実家に)あるんですけど・・・。 ちょっと値段がねえ」
女 「そうかもしれませんが、コース終了後には確実に仕事を委託させていただきますので、一日3〜4時間程度で月に10万としても、すぐに取り返せますよ」
私 「すぐって半年後、ですか?」
女 「なんでしたら、上司にかけあって、パソコンは免除ということにさせていただくことも可能ではありますが」
私 「いや、パソコンもですが教材の方も必要ないですし・・・」
女 「申し訳ないですが、規定により(中略)仕事も確実にございますので(後略)。受講料については、フランチャイズ契約と思っていただければ・・・」
私 「フランチャイズ契約ぅ? あれは「契約料」であって、開業するための諸費用や事業に関する手数料じゃないですか? この教材とかは、そういう点で微妙に意味が違うと思うんですけど」
女 「あ、ですから当社の場合も、委託するための仕事をとってきたり、それを適切に委託したりするのにも色々費用がかかりますし・・・」
私 「64万って、教材費だけじゃないんですか?」
女 「はい。いろいろとややこしくなると大変なので、最初に費用をまとめて払っていただく形で・・・」
私 「ややこしくなる、って、でも収入に対して生じる費用を一つづつ対応させるのが普通じゃないですか?」
女 「そうかもしれませんが、当社の規定では(後略)」
 
 つまり。この会社のやり方によれば、仕事をしようとする人間は、「将来発生するかもしれない(もしかしたら発生しないかもしれない)収入」に対して、「その収入が発生したと仮定して、その際に生じた手数料など」を先にまとめて支払え、というのである。
 1万円稼ぐ為には1万円の仕事に見合った費用がかかるし、5万円の稼ぎには矢張りそれに見合った費用がかかる。この会社は一体何をどうして64万円という数字を出してきたのだろう?
 そんでもって、「万が一仕事が少なくて収入がふるわなかった場合の保証は無い」ということなので、どう考えても会社側が有利なハナシである。とほほ。
 
私 「(深いため息)それだったら、パソコンと教材で64万、なんて書き方をせずに、キチッと「契約手数料」って計上して明記した方がいいですよ。でなきゃ、悪徳業者と思われてもしかたありませんよ」
女 「そうでしょうか。でも、仕事はきちんとございますし(以下、延々と業務内容などを説明して下さるが、略)」
私 「申し訳ないですが、やっぱりする気がおきないんで」
女 「そうですか。・・・そうだ、もう一つメリットがあるのを言い忘れていました」
 
 もう一つ・・・って、今までになんかメリットってあったっけな?
 
女 「当社の委託した仕事で得られた収入は、どこにも申請しなくっていいんです!」
私 「はあっ?!」
女 「奥さんの収入が増えると、ご主人さんの配偶者特別控除が減りますよね。当社の仕事では、収入があったことを言わなくってもいいんです」
私 「(思わず震える声)・・・それって、あの、脱税・・・」
女 「いいえ。内職ですから、所得税法に特別に認められているんです。肩叩きして親からお金を貰っても、申告しなくてよいのと同じです」
 
 肩叩きのお駄賃(同一家計内での小額のお金の移動)と一緒にしてもらっては困る。わたしはあんたの会社と親子兄弟になったおぼえはないぞ。
 
私 「・・・あの、所得税法のどの条文に、そんな特例があるんですか?」
女 「条文・・・ですか? あの・・・上司の受け売りなもんで、ちょっと私はわかりません・・・」
私 「(再度深いため息)根拠が無いんだったら特に、こういうことはもう言わない方がいいですよ。悪徳業者と思われますよ・・・」
女 「そうですかねえ・・・」
 
 なんで、私が勧誘の人相手に説教せねばならんのだ・・・

*後日談*

 勧誘の女性には不運だったが、妊娠するまで私は会計事務所に勤めていたのだ。いや、そうじゃなくっても、ちょっと調べればわかること。嘘言うたらイカンよ。

 内職に関する特例は確かにある。「家内労働者等の事業所得等の計算の特例」といって、大雑把に言うと「所得計算の際、必要経費として65万円を収入から控除できる」のだ。とにかく、申告しなくてよいなんて言葉は一っ言も見つからない・・・。詳しく知りたい方は、タックスアンサーのサイトを覗いてみてはいかが?

SPECIAL THANKS : A.T 
(先輩、しょーもない質問でお手を煩わせてすみませんでした)

(2000.8.31)