河野稠果 (1986,2000): 世界の人口[第2版]
東京大学出版会 A5 ¥3200
2000/4/20 ISBN4-13-052016-4

  1. 世界人口
    1. 歴史的推移
    2. 人口転換
    3. 多様性
    4. 二十一世紀
  2. 人口推計
    1. 国連人口部
    2. コウホート要因法
    3. 生命表
    4. 将来予測
こうのしげみ 73-78 国連人口部人口推計課長、86-93 人口問題研究所長。2000/4 現在、麗澤大学国際経済学部教授

第一章 世界人口

一  歴史的推移

Durand, John D.(1967): The Modern expansion of world population. Proceedings of the American Philosophical Society, III-3.
世界人口の推移
 高校教科書にも見える 8000 B.C. から世界人口の推移と 1750 から 50 年毎の推計値

Biraben, J.N.(1979): Essai sur l'Evolution dunombre deshommes. Population, 34-1.
人口拡大

 人口を対数軸にすれば 37000-35000 B.C.(旧石器中期と後期の過渡期)と 8000-5000 B.C.(新石器へ移行)、800 B.C.-0、800-1200、1700- 現代に人口拡大が見られる。 グラフは読み取りで誇張されている。
 要因として食料の安定と定住、栄養水準、離乳時期(不妊期 amenoria)を挙げる。 気象変動と比較したい。
 グラフはマルサスの停滞、低下、急増、の過程を示すと云う。 作為を疑う。実際に死亡率と出生率はどうだったか? 原論文を読めないと何とも。

Marthus, Thomas Robert(1798): An Essay on the Principle of Population. Johnson, London. マルサス『人口論』諸訳有り

  1. 男女の情熱は不変であり、人口の妨げがなければ常に幾何級数的に増加する。
  2. 一方、人間の生存のための食糧増産は人口増加より緩慢である。そして食糧を生産する土地の農業生産力は、初めは労働力をつぎ込むほど増加するが、やがて収穫逓減の法則が働いて生産力は頭打ちとなる。
  3. そのまま人口増加が続くと必然的に生活水準が低下し、人々は貧困に陥る。食料不足が起こり、遂には死亡率が高くなって人口増加は止まり、一時的には減少が起こる。
    (p.6, 要約)

 「マルサス的人口停滞」(p.9)とも呼んでいる。 獲得手段による食料供給の改善と維持限界を指摘している。

Wrigley, E.A.(1969): Population and History. World University Library, McGraw-Hill, NY.
 リグリィ『人口と歴史』速水融訳、筑摩叢書 275、1982年。
 慶応日本経済史研究室の輪読で、訳が固い。初版(1970?)、平凡社世界大学選書。
 著者は教区資料(洗礼、結婚、埋葬)から家族復元を確立した。数字を生の人間で裏打ちする書き方を新鮮に感じ、実験報告のような本が多いことに気付く。裏打ち無いモデルの未熟。産業革命以前から人口は増え、核家族化していたというデータは面白い。

 イギリス 11-19c. の人口推移。14c. 後半黒死病で 4M が半減、17c. 後半から18c. 前半男子転出により 6M で停滞。インド 300 B.C. と 1600 の例、100M で安定。


 古代・中世、データが限られるが、大雑派に多産多死。
 近世・現代、ヨーロッパ 18-19c. 技術革新で扶養力増加、栄養改善、衛生増進で多産少死、19c. 後半少産少死。
 Durand(1967) に戻り地域別に見ると、両アメリカは 19c. 転入で増加。つまり輸送技術の成果、および転出側(ヨーロッパ)の人口増加。アフリカとインドは 20c. まで安定、世界人口は 20c. 前半まで緩慢な増加だった。
 途上国での増加はヨーロッパから技術流入によると考える。50's 抗生物質や除虫剤が入り、途上国は多産少死となり急増する。 定説と云う上に「緑の革命」に触れるが、要因は良く解析されてないようだ。急増はアフリカのみで、むしろ独立そのものに原因があるように思うのだが。

 先進国は 60's から低出生率。途上国も 70's から出生率減少:

  • アジア(中国、韓国、台湾、シンガポール、ASEAN)
  • ラテンアメリカ(カリブ諸島、メキシコ、グアテマラ、コスタリカ、パナマ、ベネズエラ、コロンビア、チリ、ブラジル)

 残る高出生率はインド三国とアフリカ。 問題は少死社会になって初めて少産が定着するラグ。

二  人口転換

 多産多死、多産中死、中産少死、少産少死の段階仮説。人口革命とも。

(1955): Political and Economic Planning.
 著者不明。高校で見たから基本書だろうが、文献に無い。UN か?
イギリスの人口転換

 イギリスの人口転換。1750/1880/1930 と区切る。

  • 第I段階は死亡率が振動する。
    農業技術は天候に左右され、備蓄も充分出来ない。
  • 第II段階、出生率が直前増加、漸減。死亡率が安定、低下、漸減。
  • 第III段階、出生率、死亡率低下。

 第II段階直前の出生率増加の要因に、出産死と死産の減少、結婚年齢の低下、寡婦率の低下修道士/女も含むのか?を挙げる。 但し、増加は死亡率低下以前なので、納得できるのは結婚年齢と死産だけである。この時期、成婚率が上がったのか? 修道院は減少したのか?
 第II段階の死亡率低下の要因に、農具、品種、肥料の改良、新作物(じゃがいも、とうもろこし)、通信による技術交換、輸送による供給を挙げる。例にインド、ノルウェー(Wrigley, 1969)
 最初に低下するのは青少年死亡率で、伝染病の抵抗力として現われる。暖房、石鹸、上下水道。19c. ジェンナー、パスツール。衛生観念の確立。

 第III段階の出生率低下は第四章。

 第IV段階の説明は無いが、死亡率安定(1.2%)。WWII の死亡率低下、出生率上昇が面白い。要因を見るに出生率と死亡率は独立して扱うべきで段階説に意味は無い。出生率は社会認識「5人は居ないと」から「2〜3人欲しい」の転換、死亡率は都市整備と衛生教育、医学技術の上昇。出生率は平均出産年齢の人口と出産人数の関数であり、効果は社会認識の変化から十数年遅れて現われると考える。

Notestein, Frank W.(1953): Economic problems of population change. Proceedings of the Eighth International Conference of Agricultural Economics, Oxford U.P.

 農業社会で「家族」は生産、消費、教育、安全保障、老後の保障を受け持った。子供の教育期間は短く、死亡率が高いため高い出生率が必要であった。死亡率低下後も新しい考え方が出来るまで出生率は低下しない。工業社会が「家族」から機能を外し、技術教育を要求し、子供のコストを上げた。少数精鋭の考えが「小家族」を生み、出生率を下げた(p17-18, 要約)

Coale, Ansley J.(1973): The demographic translation. IUSSP, International Conference, Liege, 1. 同タイトル(1974): Scientific American, 23-3

 ヨーロッパは国別地域別の差異があったが、地域、文化、言語、宗教が同じなら同時に下がる。社会経済の近代化を要因と出来るか。
 ドイツは同時に低下し、フランスは出生率が先。死亡率低下を前提条件と出来るか。

Knodel, John E. & Etienne van de Walle(1979): Lessons from the past: Policy implications of historical fertility studies. Popularion and Development Review, 5-2.

 社会経済の近代化と出生率低下は十分に関連しない。経済、生活水準より文化、言語、宗教による。 つまり時期の予測にはマスの研究が必要か。社会学?


 人口転換は、ニュアンスの異なる複数の帰納モデルを指す。
 ヨーロッパのモデルから過渡期の人口増加を説明し、途上国の人口増加を予見したが、期間や量を予測できなかった。元々アフリカは出生率が高い。死亡率低下の条件が確定しない。
 また、少産少死後の答えを用意してない。出生率が回復するのか、振動しつつ低下するのか。曖昧だが他に大局を捉える仮説が無く、推計の大きな枠組みとなる。

三  多様性

United Nations(1999): World Population Prospects: The 1998 Revision. Vol.1. Comprehensive Tables. United Nations, ST/ESA/SER. A/177.

 南北格差。増加率はブラックアフリカ、中近東で高く、東ヨーロッパで低い。南は抑制されたとは云え多くを占める。人口置換水準を割った北が減少に転ずれば、南のみ増加となる。
 南の死亡率は青少年人口に支えられ低いが、平均寿命や成人生存数で見れば、養育コストのリスクは高い。年齢別構成を見れば、北は老年人口が重く、南は幼年人口が重い。合計では南の方が扶養人口が重く、再投資分を削ることになる。
 最後に人口密度でも南北差があり、人口と土地資源の比であるから、南が有利と云えない。南の人口状況は今後の経済発展、生活水準の向上に不利である。

 南の格差。出生率のヒストグラムで南北の差があったが、南は3グループに別れつつある。

  • 先進国のグループに近い(シンガポール、韓国、キューバ、バルバドス、トリニダードトバゴ、将来はタイ、イスラエル、ウルグアイ、アルゼンチン、チリ、コスタリカ、カリブ諸島)
  • 改善している(他のアジア、ラテンアメリカ)
  • 改善してない(アフリカ)

 同様に先進国も分化している。ここで総再生産率(GRR)は、女児の合計特殊生産率(TFR)つまり「すべての女性が再生産可能年齢を全うし(15-49才)年齢別出生率通り出産するとき」の女性一人当りの子供の数。年齢別出生率の合計の 0.5% で計算する。

四  二十一世紀

 途上国の人口は圧倒的に増加する。サハラ以南のアフリカと中近東でも家族計画が急速に普及しているが、期待通りの成果を収めるかが鍵となる。結果、増えた人口の食料確保、工業化の影響で問題が出る。
 将来人口増加が見込まれる地域はアフリカと南・中央アジア。特にアフリカは出生率低下が遅いと推計されている。逆に先進国も低出生率に懸念があり、EC population council 1984 の決議がある。

 先史時代から通して、国連の予測通りなら人類の増加率が 1% を超えるのは 20-21c. のみ。生活水準の低い国での増加は人類初の経験。若年人口が多く死亡率が低下し、出生率がまだ高いため、逆転している。少産少死だが年齢構成が違う、の意味。

第二章 人口推計

一  国連人口部

United Nations(1951): The past and future growth of world population: A long range view. Population Bulletin of the United Nations, No.1. ST/SOA/SER. N/2.
 最初の推計。60年代から五年毎各国別、それ以前は不定期主要地域、最近は二年毎、最新は1995年のデータで、2050年まで中高低一定の4シナリオ

 特定年齢の選好集積。出生数死亡数の登録漏れ。途上国の公式統計は一部を除いて信頼できない。先進国も国連準拠は数えるほどで、200 ヵ国ほぼ毎回新規に推計する。
 結果、政府調査より客観性、斉一性を得られる。

 選好集積は切りの良い年齢を答えること。レスリーJマイヤーズによると 1950 年アラバマ州国勢調査において、末尾の数字 0582376491 の順。1961 年インド男子の例でも同じ傾向が見られる。 この選好度は普遍性があるらしく、他書でマジックナンバーとして読んだ。
 インド、中近東、アフリカで 0-4 才がやや小さく、15-19 才が非常に小さい。前者は調査で幼少部分が落ちやすい傾向を表す。後者は文化的な要因で別の年齢層に分類されるためらしい。 日本で云う若者組か。

二  コウホート要因法

 同条件で出生した集団の人口現象(結婚、出産、死亡)を追跡し、十万人に正規化したモデル分析。ここで死亡(生残率)は生命表を作成するか、モデル生命表を使用する。
 Cohort はローマ軍制で Legion の十分割。0.1 Million の意味か。

三  生命表

生命表概形
 ある時点に生まれた十万人が、加齢によりどのように減るか。x 才から x+n 才の理想的値である定常人口 nLx から生残率を求める。
 俗に云う平均寿命は、出生時の平均余命 e0 = 100L0

 詳しくは 岡崎陽一(1980,99): 人口統計学 第2版、古近書院。
 東大経済学部の講義ノートで、人口統計の手順と演習。UN マニュアルに相当し、数字を読むに良い。著者は元・人口問題研究所長。初版消化に 20 年近いから年 150-250 冊くらいか。専門的な教養書『世界の人口』と比べて売れてる方かも。


Coale, Ansley J. & Paul Demeny(1966): Regional Model Life Tables and Stable Populations. Princeton U.P. モデル安定人口表。

United Nations(1982): Model Life Tables for Developing Countries. ST/ESA/SER. A/77. ラテンアメリカ、チリ、東アジア、南アジア、その他の五モデル。1955 年単一モデルを改訂。

 国連のモデル生命表は上のふたつ。
 母親の年齢別出生率と男女の年齢別死亡率が相当期間一定ならば、年齢別人口構造が安定する(Lotka,1939)。人口の年齢別構成は出生率の変化によるので、相当期間一定とすれば、途上国の年齢構造は安定人口で近似出来る。
 例えば、十五才未満の人口比率と最近の人口増加率が判れば、粗出生率、総再生産率、平均余命、年齢別死亡率が近似され、地域モデルと段階を選択出来る。

Brass, Willam(1964): Use of census of survey data for the estimation of vital rates. E/CN. 14/CAS. 4/V57.

 母親の標本調査で人口比率、既往出生児数と現在の生存数が判れば、まず女子一人当り平均死亡児数を得、次に母親の各年齢における平均死亡児数を生命表の死亡確率(出生時から子供の年齢 x 才まで)に変換する(経験的係数)。
 例えば乳幼児死亡率が得られれば、死亡率推定と生命表の選択に役立つ。

 センサスが二回有れば、生残率の実数から最も似たモデルと段階を選択する。一回なら安定人口モデルを使い、世界出産力調査(国際統計学会)、乳幼児死亡率も参照する。

四  将来予測

 出生数は女子人口と年齢別出生率から求める。出生率の予測は人口転換説に従うが、社会経済的条件につれ最初緩く、やがて急に低下すると考える(閾値仮説)。
 その時期は、増加率の趨勢、教育程度、結婚年齢、生活水準を考慮し、地域のバランスを図り、仮定する。特に文化的要因(地域)に留意する。島国は同質性が保たれ影響が早く、内陸国多民族国は遅い。
 東ヨーロッパと東アジアの経験から、総再生産率 2.5 から 1.5 を低下の最大とする。国家が家族計画を推進するなら、低下の時期と速度は促進されると考える。長期的には総再生産率 1.0 まで下がり、現在 1.0 を割る国は戻ると仮定する。
 年齢別出生率は一般に、35 才以上と 15-19 才が急激に低下し、相対的に 20-34 才が増大する。北西ヨーロッパ、西ヨーロッパ、南ヨーロッパ、北米、旧ソ連、日本、アジア(除く日本)、アフリカ(除くアラブ)、アラブ、ラテンアメリカの 10 地域のパターンに分ける(国連内部資料)。

 死亡率は平均余命と対応した男女年齢別生命表による。60 才まで 5 年で 2 才の伸びと仮定するが、社会経済条件を考慮する。
 例えば、中国は 1990-95 年を 66.7 才、2010 年まで 5 年 1.2 才の伸び、以降 1.0、0.8、0.5 と推計している。

 人口移動は把握しにくい。多くの国では比率が小さく、不確定要素が桁違いに大きい。景気変動、労働力需要、政治的状況、変動が大きく予測は難しい。
 把握の方法としては、国境データ、人口登録、実態調査から直接把握できるが、往々にして入移民人口のみで出移民や男女年齢別構成はほぼ不明。ある国の人口、出生死亡数が判れば、残差を計算して移動数が求められる。ここで生残率による推測値を用いれば、実数との差が移動数になる。
 フロンティアが消滅し、文化圏、経済ブロックに分化する傾向から、長期的には縮小、安定化と考えられているが、最近の動向を見ても減退すると思えない。むしろボーダレスな労働環境が整えば意欲は高まり、低運賃、輸送力増加は移動を容易にする。推計は難しいが、研究を要する。

 東大教養学部「世界人口論」の講義ノート。
 1974 年は国連世界人口年だったが、日本で人口学は社会か経済の関連分野と扱われ、独立した門を成さない。まともな教養書もなかったらしい。「講座を設ける学科が少なく、売れない」とある。
 私が地理に関連して学んだ当時、まとまった教養書はこの初版のみ、他は経済か地理の断片。現在まで用語集も無く、一般書の訳本で人口に触れるとき、算定方法か原語で内容を確認せねばならない。
 世界人口増加について。年平均死亡数を計算すると 1950 年以降は 50M 前後で安定。人口を時間について2回微分すると人口増加数の年変化率となるが、1960-70 年をピークに減少。この世代は 2010 年に再生産を終えるので、人口爆発はひと段落した。
 次の問題は出生の安定数と時期で、全人口の限界値も気になる。さらに人口構造の歪みをどのように吸収するか。出生死亡のアクシデントとして、性比を変える物質と伝染病、戦争がある。


Fumi, 2 Jan. 2001, noted 12-13 Jul. 2000.