『南蛮ぎたるら』考
〜「第6回石見銀山文化賞・特別賞」受賞に寄せて〜

マリオネット 湯淺 隆(ポルトガルギター)


●「南蛮」は、日本人にとって、遠きものへのあこがれの源泉だと思います。通信による情報などまったくない時代。日本人は、はるかな海のかなたからやってくるポルトガル人に強烈な衝撃を受けたはずです。その衝撃は、やがて、日本人の内部で昇華され、ひとつの美意識にまで高まりました。「南蛮」ということばを耳にするだけで、はるかな海のむこうに、心をときめかせる人々がたくさんいただろうと想像します。作家・山本兼一●「利休にたずねよ」直木賞/「銀の島」は石見銀山を目指す話●

「あ、マリオネット…。あの変わったことをやっている人達ね〜。」と言われたのは、いつのことだったろうか。確かに「マリオネット」は他に類を見ない「変わったこと」をやっていたので、正面から反論する気にもならなかったが、恐らく十中八九嘲笑を含んでいたその物言いに、少なくとも私どもが気を良くした記憶はない。

それから十数年を経た今年2013年、私と「マリオネット」は「第6回石見銀山文化賞・特別賞」を受賞することになった。周知の通り「石見銀山」はユネスコが認定した世界遺産。16世紀、ポルトガルが先鞭をつけた大航海時代、「石見銀山」で製錬される上質な「銀」は、遠く欧州の果てまで名を馳せていた。また「石見銀山遺跡とその文化的景観」は、「.鉱山(金・銀・銅)に関係する世界遺産」ながら、深い森の自然に恵まれ、永年の人的努力により、その豊かな生態系との共存を奇跡的に保ってきた。この賞は、それらの歴史と文化を有する世界文化遺産「石見銀山」を、広く世に普及した活動に対して贈られる。因みに今年は「日本・ポルトガル交流470周年」である。国内外でも様々なイベントが企画されている。その記念すべき年の受賞の奇遇に、私と「マリオネット」は更に深い僥倖を噛みしめている。

ところで、もとより私は日本人が弾くべき「ポルトガルギター」の必然的表現とは何か?を自問してきた。その結果たどり着いたのが、東洋と西洋の出会いに端を発する「南蛮文化」の持つ「美」であった。その「美」の半分以上は、この国の「美」である。その「美」を前に、私たちはネイティブである。その「美」の中へ、日本人たる私は素直に入って行ける。しかし、その眼差しによる創作は、通俗的な外来楽器としての「ポルトガルギター」演奏を前提とすると、嘲笑的な「変わったこと」として映ったのだろう。さても、前例のない事を「変わったこと」と言いたくなるのは世の常だが、そんな揶揄に抗するのは不毛な議論に身を落とすようで、私は好まない。もし、私の信じた「美」が普遍に触れているなら、いつか多勢にも理解されよう。私は長年その思いで「私のポルトガルギター」、言い換えるならば『南蛮ぎたるら(namban guitarra)』を弾き続けてきた。

今回それが報われた。本当に嬉しい。私は素直に胸躍るように喜んでいる。そして、この受賞は、「マリオネット」が信念を持って他に類を見ない「変わったこと」をやり続けてきたからだと自負している。私どもの活動を認めて頂いた「石見銀山文化賞」の主催者・中村ブレイス(株)の中村俊郎氏には、心より深い感謝を申し上げる次第である。私はこの受賞を契機に、より深く広く『南蛮ぎたるら』の世界を追及しようと決意をあらたにしている。当然その創作において、大航海時代「南蛮貿易」の最終目的地であった「石見銀山」という場(=文化・歴史)の磁力(=地力)は、絶対に外せない要所である。今後とも私どものインスピレーションの宝庫、またイメージの源泉として末永いお付き合いを請うばかりである。最後になったが、その「美」を創り上げられるのは、異才のマンドリン奏者・吉田剛士とのユニット「マリオネット」しかないと確信している。今後とも皆様のご支援を賜りたく、ここに「第6回石見銀山文化賞・特別賞」受賞を謹んでご報告させて頂く。
http://www.nakamura-brace.co.jp/topic/culture/index.html