マカオ世界遺産「聖ヨセフ修道院・聖堂」の
「フランシスコ・ザビエルの遺骨」の前で
「南蛮渡来」を弾く。

湯淺 隆

大阪日本ポルトガル協会15周年記念冊子に寄稿


 一昨年、マカオ政府観光局制作のPV収録のためのロケで、世界遺産「聖ヨセフ修道院・聖堂」において、私の曲「南蛮渡来」を弾く機会を得た。ポルトガルギターを弾き始めて四半世紀余り、この仕事は「やりたい事」と「できる事」と「やらなければならない事」が、理想的な形で合致したものとして実に嬉しい出来事だった。「やりたい事」とは、つまり夢である。「できる事」とは、求められて成せる事。「やらなければならない事」とは、平たく言えば生活のための諸事である。私の夢とは「表現」である。それが、求められる場所を見つけ、しかるべき評価を得る。これは、まさしく僥倖としか言いようがない。
 私の「南蛮渡来」という曲は、その名の通り大航海時代をモチーフにした曲である。その曲を、「フランシスコ・ザビエルの遺骨」を祀る世界遺産「聖ヨセフ修道院・聖堂」で演奏したのである。私はこのめぐり合わせを、ほとんど啓示のごとく感じる。もし私が、単なるポルトガルギター弾きだったら、こんな機会は得られなかったかもしれない。万一、立場として同様の機会に恵まれていたとしても、過去の歴史と同調し響き合うような深い感動には至らなかったであろう。
 「南蛮渡来」という曲は、「東洋人が何故ポルトガルギターなのか?」という素朴な自問から出来た曲である。その自問とは「やりたい事」と「できる事」と「やらなければならない事」の格闘であった。幸いにもこの曲は、初期の段階で「清酒・沢の鶴」のTVCMに使用され、この曲を収めたCD「ぽるとがる幻想」もそこそこのセールスを上げたので、今の私があるのだが、この曲に導かれるようにたどり着いた、世界遺産「聖ヨセフ修道院・聖堂」での演奏収録も、当初のこの素朴な自問があればこそであろう。
 ちなみにCD「ぽるとがる幻想」発売は、大阪日ポ協会の発足とほぼ同時期である。大阪日ポ協会は、このCDから始まる私どもの活動をいつも暖かくサポートして下さっている。昨年はマカオツアーにも御一緒させて頂き、楽しいひとときを同じくさせて頂いた。この場を借りて深く感謝の意を表したい。
 ところで今、私にはひとつ大それた夢がある。それはマカオ世界遺産「聖ヨセフ修道院・聖堂」での演奏会である。「聖ヨセフ修道院・聖堂」は、今まで弾いてきた会場のなかで最も美しく、信じられないほど響きもいい。そして、それ以上に私の「表現」に辻褄の会う場所は、ここをおいて他にはない。いつの日かきっと「南蛮渡来」が連れて行ってくれると信じてはいるのだが…。
 
 *「聖ヨセフ修道院・聖堂」での「南蛮渡来」と「ドン・ペドロ5世劇場」での「コインブラ」の演奏はYou Tubeで視聴可/当HPでもご覧いただけます)