第6回 マンドリンは立派なソロ楽器?




 マンドリンは、地味ながら大変ポピュラーな楽器です。老若男女を問わずマンドリンを弾く人はたくさんいます。しかし、その割にソロ曲、しかも無伴奏曲は、意外なほど演奏されていないように思います。
 例えばクラシックギターをやっている人なら、たとえ初心者でも普通にギターソロ曲、つまりベース音やアルペジオを入れながらメロディーを弾くようなソロ曲を演奏します。マンドリンにもいろいろ良い曲があるので是非皆さんもチャレンジして下さい。

 マンドリンのソロ曲の中でも、ピアノやギターなどの伴奏なしにマンドリン一本だけで演奏するものをとくに、「無伴奏曲」と呼んで区別することがあります。
 皆さん御存知のように、ギターの場合は原則的に無伴奏なので、わざわざそういう言い方はしません。これは、逆にいうとマンドリンが原則的に伴奏を必要とするメロディー楽器であるということを裏付けています。実際、マンドリンはヴァイオリンと同調弦の高音楽器なので、低音に乏しく、全く伴奏なしで長い時間演奏するのは、ちょっとつらいものがあります。(聴くほうは通常、もっとつらいと思いますが…。)しかしフルートのような単音楽器の無伴奏曲もあるくらいですから、まだマンドリン弾きは恵まれていると思わなければなりません。
 単旋律だけだと薄くなる響きを充実させるために、古くから様々な工夫がなされてきました。和音を多用するほか、重音のトレモロ、トレモロ・スタッカート、アルペジオ、左手のピチカートなど、おきまりのテクニックがいくつかあります。これらに関しては上級者向けの教則本の他、ビデオなども参考になると思います。その他特殊なものに、変則チューニングを使うものがあります。

 マンドリン古典曲には叙情的でロマンチックな曲調のものが多いのですが、特に無伴奏曲の場合その傾向が強いような気がします。カラーチェの前奏曲のように難しく凝った曲もあれば、ペッティーネの「クリスマスソング」や、パパレッロの「夜の鐘」のような比較的簡単な小品もあり、いずれも叙情的で美しいものです。一方、軽快でリズミカルなものは少ないように思います。カラーチェの「小さなガボット」などがその代表として良く知られています。
 18世紀のものはトレモロを使わないことと、様式的にバロックに近いため、かっちりした印象があります。レオーネの変奏曲やデニスの「カプリチオ」などが有名です。いずれもアルペジオが効果的に使われており、マンドリン弾きにとっては重要なレパートリーです。一方、20世紀以降の作品にはいわゆる現代音楽的な難解で聴きづらいものが多い印象がありましたが、近年は多様な新作が見られます。これらはいずれ時間がたてば淘汰されて、良いものだけが残るでしょう。
 その他、マンドリンの曲ではありませんが、バッハなどの無伴奏ヴァイオリンのための作品も時々演奏されます。中にはマンドリンに向いているものもありますが、対位法的に書かれた曲をうまく演奏するのは大変難しいものです。タテの和音で把握するのではなく、ヨコに流れる旋律が重なり合うのが対位法の構造です。同時に流れる複数の声部それぞれがきちんと「うた」になっていることが理想です。
 無伴奏曲にこだわることはありませんが、誰かに「何か弾いてよ」と言われたときに一人で弾いて聴かせられる曲は常に用意しておきたいものです。



PREV   BACK   NEXT