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網面サイズ分布解析法 Carbon Analyzer D Ver.5 |
1. はじめに このソフトウェアは、炭素の平均網面サイズおよびその分布を評価するために制作されたものです。 制作にあたり、以下の文献を参考にしています。 [1] R.Diamond, Ph.D.Dissertation, University of Cambridge, England, 1956. [2] R.Diamond, Acta. Cryst. 10(1957)359-363. [3] R.Diamond, Acta. Cryst. 11(1958)129-138. [4] R.Diamond, Phil. Trans. Roy. Soc. London A252(1960)193-223. [5]藤本宏之、白石稔、炭素、187(1999)83-87. [6]藤本宏之、炭素、192(2000)125-129. [7]藤本宏之、炭素、200(2001)243-248. [8] 藤本宏之、白石稔、炭素、213(2004)144-150. 2. 主な機能 (1)実測強度の吸収因子による強度補正 (2)モデル炭素網面の理論X線散乱強度の計算 ・ベンゼン・コロネンベースモデルでの計算の場合 最小計算サイズ:ベンゼン相当サイズ(二次元格子定数a0に相当) 最大計算サイズ:a0の29倍(約7nm) ・ピレンベースモデルでの計算の場合 最小計算サイズ:ピレン相当サイズ(二次元格子定数a0の2倍) 最大計算サイズ:a0の30倍(約7nm) ・混合モデルでの計算の場合 最小計算サイズ:ベンゼン相当サイズ(二次元格子定数a0に相当) 最大計算サイズ:a0の15倍(約3.5nm) (3)実測データの理論強度によるフィッティング 上記3種類のいずれかのモデル網面の理論強度を用いた実測強度のフィッティング (4)フィッティング結果からの平均網面サイズおよび網面サイズ分布の算出 解析可能な最大網面サイズは約7nmですので、それ以上のサイズの網面が試料中に含まれている場合には解析結果に誤差を伴います。 (5)手動による不純物ピークフィッティング(最大10ピークまで対応) (6) 解析データの保存 出力フォーマット:Excel形式(*.xls)ファイルおよびPDF形式(*.pdf)ファイル 表計算ソフト「エクセル」およびAdobe Acrobatがインストールされている必要があります。 (7) 印刷機能 プリンタの機種およびAdobe Acrobatのバージョンによっては、印刷結果の罫線がずれたりすることがあります。 3. 解析用データ取得のための推奨測定法 本ソフトウェアでは、解析対象となるデータをCuKa線をX線源としてカウンターグラファイトモノクロメータを使用して測定された炭素質材料(乱層積層タイプのもの)の11バンド強度データに限定しています。また、11バンドの解析を行うため、最小測定角度範囲として2θ= 70 - 89°の角度範囲の強度データを含んでいる必要があります。この角度範囲が含まれていないと、解析できません。バックグラウンド作成の都合上、2q=60-100oの範囲を測定することが好ましいです。サンプリング間隔は小さくなるほど解析に要する演算時間が長くなるので、0.1°程度にすることを推奨します。推奨測定条件は以下の通りです。 ・測定角度範囲:2θ= 60 - 100° ・サンプリング間隔:0.1°程度 ・試料ホルダー:無反射試料板 4. 炭素網面サイズ分布解析法の詳細 4.1 概要 本解析方法では、まずはじめに、Debyeの理論散乱強に基づいて、炭素網面モデルの理論散乱強度の計算を行います。得られた理論散乱強度データを用いて、あらかじめ吸収因子による強度補正を行った実測11バンドの強度をフィッティング処理し、それらモデル網面の重量割合を計算し、平均網面サイズおよび網面サイズ分布を評価します。また、不純物ピークが存在する場合には手動でそれらのピークフィッティングも行います。 上記の処理をするために、次の3つのモードを切り換えて解析を行います。 (1) 理論散乱強度計算モード 二次元格子定数、Ruland係数の設定、モデル網面の種類の選定および理論散乱強度の計算を行います。 (2) 最小二乗フィッティングモード フィッティング条件を設定し実測強度のフィッティングを行います。 (3) 不純物ピークフィッティングモード 不純物ピークの手動によるフィッティングを行います。 はじめに、(1)の理論強度計算を行い、その結果を用いて(2)のフィッティングを行います。その結果が良好でなければ、再び(1)の条件を変えて理論計算を行うか、(2)の最小二乗計算条件を変えて再フィッティングを行います。(3)の処理は、不純物ピークのある場合のみ行います。 4.2 理論散乱強度の計算 二次元格子定数、Ruland係数の設定を行い、以下に示しますベンゼン・コロネンベースモデル、ピレンベースモデル、 混合モデルの3種類のモデル網面(図1〜3)のいずれかを用いて理論強度の計算を行います。 (1) ベンゼン・コロネンベースモデル この場合には、二次元格子定数a0の奇数倍サイズ(1, 3, 5, ……., 25, 27, 29倍)のモデル網面(およそ0.25nm〜7nm)の散乱強度を計算することができます。図4は、a0=0.24302とした場合の理論散乱強度の計算例です。 (2)ピレンベースモデル この場合には、二次元格子定数a0の偶数倍サイズ(2, 4, 6, ……, 26, 28, 30倍)のモデル網面(およそ0.5nm〜7nm)の散乱強度を計算することができます。 (3)ベンゼン・コロネンおよびピレンベースの混合モデル この場合には、二次元格子定数a0の整数倍サイズ(1, 2, 3, 4,……., 13, 14, 15)までの モデル網面(およそ0.25nm〜3.5nm)の散乱強度を計算することができます。 |
![]() 図1 ベンゼン・コロネンベースモデル |
![]() 図2 ピレンベースモデル |
![]() 図3 コロネンベースおよびピレンベースの混合モデル |
図4 a0=0.24302nmとして理論散乱強度の計算 |
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図5 実測曲線(緑)とフィッティング曲線(赤)の比較 後者が高角側にシフトしているので、格子定数を大きくして再計算を行います。 |
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図6 a0=0.24492nmとして理論散乱強度の再計算 |
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図7 a0=0.24492nmとして理論散乱強度の再計算しフィッティングを行った結果 良好なフィッティング結果ですが、最も大きな2つの網面サイズのヒストグラム値が負になっているので、これらの網面のチェックボックスをオフにして再計算を行います。 |
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図8 負のヒストグラムのチェックボックスをオフにして再計算を行った最終結果 すべてのヒストグラムが正となり、またピークトップ位置も合致しています。R-因子も十分小さくなっているので最適解として妥当と思われます。 |
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石炭のような試料の場合には、11バンドの観測される角度範囲に多くの不純物ピークが認められることがあります。(図10) このような場合に対応できるように、本ソフトウェアでは、手動によるフィッティング機能を備えています。 |
![]() 図9 不純物ピークパラメータの編集 |
解析終了後、表計算ソフト「エクセル」を起動してxlsファイル形式で解析結果を保存することができます。 2つのワークシートとグラフシートを作成し、解析結果の書き込みを開始します。1枚目のシートには ・データの解析条件 ・得られた平均網面サイズおよび網面サイズ分布値 ・不純物ピークのピーク位置、強度、半値幅 などが書き込まれ(図10-1)、 2枚目のシートおよびグラフシートには、実測11バンドのフィッティング結果 および網面サイズ分布のヒストグラムが書き込まれます(図10-2, 10-3)。 表計算ソフト「エクセル」がインストールされていないと、保存ができません。 |
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![]() 図10-1 保存データの1枚目のシート |
![]() 図10-2 保存データの2枚目以降のシート |
![]() 図10-3 保存データの1枚目のシート |
プリンタにAcrobat PDFWriterをインストールしておくと、PDFファイルとして結果を保存することもできます(図11)。 プリンタの機種およびAdobe Acrobatのバージョンによっては、印刷結果の罫線がずれたりすることがあります。 |
![]() 図11 解析結果報告書の印刷例 |