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第11回
出場者一覧データの出もと
  ――著作権、そして入力の労力――

 僕のサイトには、「『紅白歌合戦』出場歌手・曲目一覧」のページがあります。このページを作ったのはけっこう早い時期でした。サイトを立ち上げた1997年初めにはもうほぼ今の形で公開していました。
 このデータは、NHKの雑誌「ステラ」や新聞発表などの資料を参考に、僕が以前から少しずつキーボードで入力していたものです。完成までに20日ぐらいかかりましたっけ。
 「こんな特殊なデータはだれも必要としないかもしれないな」
 と思いつつ、でも、だれかがいつかは、こういう電子テキスト化の作業をしなければならないはずだという使命感(?)もあって、インターネットでの公開に踏み切りました。
 そういうことはNHKなどに任せておけばいい、という考え方もあるでしょう。しかし、当時はNHKのサイトもまだ「実験中」であり、そもそもインターネットの日本語サイト自体の絶対数もまだまだ少なく、利用者も今ほどはありませんでした。

 実際に公開してみると、少なからぬ「紅白」ファンが世の中にはいらっしゃいました。僕の入力したデータを見て、
 「あの歌が第何回で歌われたのか分かってすっきりしました」
 と感謝のメールをくださったり、
 「これだけのデータを入力するのは、さぞかし大変だったでしょう」
 と慰労してくださったりしました。「分かる人は分かってくださる」と、僕は自己満足に浸っていたものです。

 ここで問題なのは、このデータには著作権があるのかないのかということです。一般に、新聞や雑誌に載った記事をそのまま無断で転載するのは盗作であり、著作権法に触れます。インターネットでは、そういうところは厳密にやらないといけません。もし、このデータにもとの「著作者」という存在があるのであれば、僕はネットでの公開を控えなければなりません。
 でも、いくつか著作権に関する本を読んだ結果、この手のものには著作権が発生しないらしいことが分かりました。電話帳などは、同じデータでも著作権法12条にいう「編集著作物」ですから、無断でコピー・公開はできません。また、いわゆる「データベース」も、同法第12条第2項により保護されています。しかし、「紅白出場歌手・曲目」というのは、たとえば「歴代内閣総理大臣一覧」とか、「年号一覧」とかいったデータと同じで、著作物には該当しないものと結論されました。
 僕は、安心してデータを公開しました。もちろん、僕のデータが何に基づいているかは明示してあります。

 ところが、このデータを公開して何年か経ったころ、僕の入力したデータとまったく同じ「出場歌手・曲目一覧」がほかのサイトで公開されているのを目にして、あっと思いました。
 こんなことを言うと、
 「おいおい、まったく同じデータがあっても不思議はないだろう。『紅白歌合戦』という番組はひとつしかないし、出場者・曲目の記録は新聞などでだれでも閲覧できる。それを入力する人があなたのほかにいても驚くにはあたらないじゃないか」
 と言われそうです。
 しかしですね、僕が入力ミスした個所までもそっくり同じなのです。どう考えても、僕の入力したデータをコピーして、自分のサイトで使っているとしか思えませんでした。
 僕はそのウェブマスターにメールを出しました。
 「そのデータは、僕のサイトからコピーなさったものではないですか。たしかに、この種のデータには、著作権は発生しないと思われます。いったん公表されたデータは、どう使うことも自由でしょう。しかし、僕がデータを入力するためは、いささか時間と労力を必要としました。また、データの正確さに対する僕なりの責任もあります。あなたのページに、僕のサイトのデータを使用したと、出所を明示していただけないでしょうか」
 こうお願いすることは、決してわがままではないはずです。そのウェブマスターは、僕の申し出に応じ、「参考:Yeemar's Home Page」と表示してくださいました。

 最近、これに似たことがまたありました。こんどは、大手の新聞社のサイトです。「紅白」の歴史をつづったページの中に、出場歌手・曲目一覧があって、それがどうも僕の入力したデータに「似ている」のです。
 似ているといっても、そのサイトに載っているデータは、僕のサイトのデータと異なるところが大いにありました。「出場回数」「歌手名」「曲名」の順番も違うし、歌手の姓と名との間に空白を入れているかどうかという点も違う。また、初期の「紅白」は、曲名に諸説あるのですが、そのサイトのデータでは、僕の書いている曲名と異なるものも多く見られました。
 とすれば、
 「それは、その新聞社が独自にデータ入力したんだよ。あなたのサイトからの流用と考えるのは被害妄想だよ」
 と言われても仕方がありません。しかし、どう見ても「筆跡が似ている」のですね。
 「筆跡」とは、こりゃまたへんな言い方かもしれませんが、こういうことです。
 同じ文字列を入力しようとしても、人によって、どうしても個性が出てきます。それは、たとえば英数文字の全角・半角の違い、「−」(マイナス)と「―」(ダッシュ)の違いなどで、10人が入力すれば、10人とも異なる字面になるといってもいいぐらいです。「筆跡」とはこのことを指します。
 「紅白」の歌手名・曲名は複雑であり、中にはアルファベットと数字と記号を組み合わせるようなものもあります。それぞれを全角にするか、半角にするかといった書き方が、その新聞社のページと僕のページとで妙に一致しているのです。
 実際の例は控えますが、僕の表記は、ある場合には半角のアルファベットと全角の記号とを混ぜたり(たとえば、「A−B−C」)、ある場合には半角のままで通したり(「A & B」)というふうに、独特の癖があります。その癖がそのまま表れています。やはり、僕のデータが下敷きだと推測されました。
 思うに、この新聞社のウェブ担当者は、まず既存の「紅白」データを検索して、僕のページのデータを取得したのでしょう。そして、おそらくは主として『NHKウィークリーステラ臨時増刊 紅白50回』という本を参考に、僕のデータを改めたものとみえます。というのも、僕のデータと違っている部分が、多くは『紅白50回』と同じ表記(これもまた特徴的)になっているからです。
 こうして、僕の「筆跡」を微妙に残しつつ、少なからず内容の改変された「紅白」データが新聞社のサイトで使用されるに至ったようです。
 証拠らしきものはつかんだけれど、これはちょっと、苦情を言うのもためらわれます。上の推測が当たっていたとしても、新聞社が僕のデータをノーチェックで流用・公開したというのでもないし、それなりに責任を持って校正しているようだからです。

 おそらく、これからもこの「紅白」データは、いろいろな人の手にわたり、さまざまなサイトに増殖してゆくのでしょう。僕としては「それを初めてネットに載せたのは自分だ」とひそかに(?)自負することで満足すべきかもしれません。しかし、願わくば、掲載前に僕宛てにご一報くださるか、「Yeemar's Home Pageによる」と書き添えてくだされば、たいへんうれしく存じます。

(2001.08.09)


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