(1997.04.15) (2001.03.17改稿)
近ごろは、文庫本もかたっぱしから絶版になってゆくので、目に触れたら買うことにしている。 ――小林信彦『ドリーム・ハウス』〔新潮文庫、絶版〕 p.20より
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◆昔から、小林信彦氏の小説が〈なんとなく〉好きでした。特に意識せず、新刊を目にするごとに買って読んでいました。ところがあるとき――というのは1997年ごろ、『イーストサイド・ワルツ』を読んでいた僕は、
「自分は、じつは小林信彦の小説が〈なんとなく〉ではなく〈とても〉好きなのだ」
と自覚しました。
トワ・エ・モアの歌「ある日突然」ではありませんが(古いですが)、目の前にいる女友だちが、友だちではなく恋人になった瞬間に似ているとでも申しましょうか。
◆突然の意識の変容。さあ、そうなると、じっとしてはいられない。さっそく本屋に走り、まだ買っていない文庫本を買っておこうと探し回りました。
と・こ・ろ・が。
棚には、ほとんどないのですね、小林信彦作品。
「ウッソー、この間まであったはずだろう」
仰天して新潮文庫の目録をみると、小林氏の過去の作品はほとんど絶版になっているではありませんか。ほんとうに絶版? そんなもったいないことするか、ふつう?
◆出世作『唐獅子株式会社』が生き残っているのは当たり前として、『唐獅子源氏物語』はもはや無くなっている。それから、朝日新聞での連載中に、当時大学生だった僕が毎朝楽しみに読んでいた『極東セレナーデ』も、主人公が死んでは生き返る輪廻転生の爆笑物語『悪魔の下回り』も、映画人必読の基本図書『世界の喜劇人』も、『笑学百科』も、佳品の連作『ビートルズの優しい夜』も、薬師丸ひろ子主演で映画化された『紳士同盟』も、鬱屈した青年期と1960年代への鎮魂歌『夢の砦』も、あれも、これも、ことごとく絶版なのです。
◆2、3の小林信彦ファンの方に伺ったところによれば、これは僕の勘違いではなく、ほんとうに絶版になっているとのこと。まあショックでしたね。さっきの比喩を続ければ、恋人だと思っていた女性が、じつはもう人妻だったというようなショックだ(ちょっと違うかもしれませんが)。
いったいどういう〈裏事情〉があるのか知りませんが、こんなことがまかり通る出版状況は正常でしょうか。僕は日本文化のためにひそかに怒りました。
◆主要作品のうち、多くはすでに持っているのがせめてもの救いでしたが、こうなると作戦を立てて、計画的に古本屋を回るなどの方策を取らなければなりません。
とりあえず、僕は小林信彦氏の絶版文庫本のリストを作り始めました。それがこのページで、情報収集の目的をかねて、1997年の4月に公開しました。
今(2001年)、ウェブで検索すると、小林信彦作品について詳しいデータを作っておられるページもあります(「小林信彦 文庫化作品ほぼ完全リスト」など)。
となると、ご覧の方には僕のページはもうあまり意味はなく、削除してもいいようにも思います。でも、私的な収集記録の意味もありますし、データは最低限の更新をして、なお存続させます。
◆初稿以来、4年の間に、さらに絶版が増えています。おいおい……ってな感じです。新潮文庫では以下の通り:『ハートブレイク・キッズ』、『イエスタデイ・ワンス・モア』『イエスタデイ・ワンス・モアPart2』(両作品ともに60年代へのほろ苦いタイムトラベル)、『世界でいちばん熱い島』、『イーストサイド・ワルツ』(隅田川を舞台にした甘い、しかしやりきれない恋物語。読むべし!!)、『ドリーム・ハウス』、『怪物がめざめる夜』(おそろしいほどの影響力を持ったコメディアンが主人公の怪談。絶版にしていいの?)、『日本人は笑わない』(エッセイ。文庫化されたばかりなのに!)
ちなみに――絶版作品の収集に関して、岡島昭浩氏にはたいへんお世話になりました。伏して御礼申しあげます。
この文章の初稿を書いてから何年間かで、インターネットの古書店や、ネットオークションの充実は目を見はるべきものがありました。そういった環境の変化もあって、かなりの数をそろえることができました。とはいえ、文庫本・新刊本がすぐに絶版になる出版状況は、改善されていないようです。これについてはMY HOBBY Clubのページが詳しいです。どうぞ訪問を。(2001.03.17)
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