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98.08.16

不滅の日本語トンデモ本

 以前に『人麻呂の暗号』という、でたらめの語源の本を批判しました。しかし、この種の「日本語トンデモ本」は、いくらでもあって、種が尽きないようです。
 書店に行くと、某氏の『日本語(やまとことば)解読法』なる本が並んでいました。数ヵ月前に出版されたものらしい。どれどれ、と手に取ってみると、これが例によって「日本語トンデモ本」なのですね。
 「雲」とか「悲しい」とかいう、日本語固有の語(大和ことば)の語源を、すべて漢字音で説明しようとする書物です。たとえば「くも」の場合、「雲」の古い漢字音である「〓」(イゥン、というような音でしょう)が、ああなってこう変化して、「くも」に変わった、というのです。
 たしかに、大和ことばに見えるものでも、たどって行くと漢字音に由来するらしいものはあります。しかし、1冊まるまるこれで解釈されると、ちょっと面くらう。そうならそうでいいんだけど、前提がすべて「こうであるはずだ」という推論だけなので、説得力がありません。なのに、「国語学者は誤っている」などと書いてあるから、ちょっとムッとしてしまいます。
 こういう本はいかにも怪しい(し、あまり面白くない)ので、わざわざ買う人も少ないかもしれません。ところが、たとえばこの手の本を大新聞社が出していたりすると、読者もつい信用してしまうおそれがあります。
 現に、松本善之助著『ホツマツタヘ』『続 ホツマツタヘ』という本が毎日新聞社から出ています。これは簡単にいうと、「漢字が伝来する以前、日本にも文字があった」ということを書いている本です。
 こういう説は古くからあり、江戸時代には「ヒフミ(日文)」とか「アナイチ(天名地鎮)」とかいう名のいろいろな「神代文字」が主張されたようです。「ホツマ(秀真)」もその一つ。
 しかし、残念ながら、これらの「神代文字」は偽作です。今のところ、漢字の伝来以前に日本で文字が使われたという証拠はありません。
 「日本にも古くから文字があってほしかった」という当時の人々の気持ちは分かるし、神代文字が偽作され、広まった経緯を研究することは大切だと思う。でも、そういう文字が古代に本当にあったと信じ込んでしまうのは軽率だ。松本氏は、まさにそういう誤った姿勢で本を書いています。
 困るのは、それを毎日新聞社が大々的に(?)バックアップして、2冊もの単行本を出していることです。僕は広島の紀伊國屋書店で、これらの本を集めた「神代文字コーナー」があるのを見て仰天しました。
 そういうわけで、僕にとって毎日新聞社は、『人麻呂の暗号』を出している新潮社や、『もう一つの万葉集』を出している文藝春秋と同じく、ちょっと信用がおけないのです。


関連文章=「ホツマふたたび

追記 世田谷区の押野さんからお知らせいただいたところによれば、2000.10.21の「産経新聞」朝刊生活欄「いまが盛り」で、「先人のない道切り開く、古代日本固有の文字文化研究」との見出しで「ホツマ研究家・松本善之助さん(81)」が紹介されていたそうです。産経新聞の記者にはもう少し勉強してほしいところです。(2000.10.21)

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