98.07.29
ふしぎな声
あれは高校生の時、1985年のことだった。ある日、いつものように朝7時になれば自動的にスイッチが入るラジオの音で僕は目覚めました。
ところが、その日僕を起こした声はいつものアナウンサーの日本語ではなかった。何か田舎のおじさんのような、ゆっくりしとした朴訥たる声で
ナーパ、タツォー? インドゥクヨリー、キタリチー、モノツォー?
てなことを言うのです。じつに不思議な声であった。ザ・フォーク・クルセダーズの歌「帰ってきたヨッパライ」に出てくる「神様」の声のようでもある。
すぐにアナウンサーの解説が入りました。「お聞きいただいたのは、古代の人の声です。『お前はだれか、どこから来たのか』と言っています」というのです。
じつは、それは開催中のつくば科学万博会場からの中継でした。あるパビリオン(追記参照)で「古代人の声が聞ける」というコーナーがあるらしい。今思うと、おそらく筑波大の城生佰太郎氏が発案されたのではないかと思います。先のせりふを漢字仮名交じり文に直すと、「汝は誰そ? 何処より来たりし者そ?」ということになります。
僕は、「古代人の声」が聞けることを知って、それだけで無性に科学万博に行きたいと思ったね。ところが、ちょうど受験勉強が山場にさしかかっているところで、とても観光旅行どころではない。泣く泣く諦めました。
大学に入ってから、国語学の道に進んだわけですが、その動機の一つには、「あの古代人のおっさんや、そのほか、いろいろな時代の人と会話がしてみたい」ということがありました。
そういえば、僕は小学1年生の時からタイムマシンに憧れていた。時間旅行は物理的には不可能なはずですが、それが、昔のことばを知ることによって、心の中で実現できてしまうのですね。これはわくわくするほど楽しいことだ。そう思いませんか。
追記 「言語生活」406 1985.9「新・ことばのくずかご」(p.95)に引かれた「週刊朝日」1985.07.19の記事によると、これは松下館で、古代語というのは「弥生語」であったようです。(2000.02.07)
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