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00.12.17

プラスとイコール

 「プラス」「イコール」という外来語は、他の多くの外来語とはやや異なったユニークな使われ方をするようです。
 もともと、plus は前置詞、equal は形容詞ですが、ふつう、外国語由来の語句が日本語になる場合、名詞として使われるか、そうでない場合は

「基本給は約2500万円、一軍に帯同していれば、毎月500万、1打席ごとに30万円をプラスし、年間500打席を超えれば2億円のボーナス」(「FOCUS」1996.05.01)

というように「〜する」をつけてサ変動詞として使われたり、

俺は日本の中でトッププレーヤーになっているのだけれど、違う国に行ったら(必ずしも)イコールではない。(「週刊文春」1994.06.30)

というように「〜で」「〜だ」「〜な」などをつけて形容動詞として使われるのが大部分です。
 ところが、「プラス」にはまた次のような用法もあります。

 「ドイツや韓国では米国に(基地の)使用料を求めるくらいの態度で交渉に臨むのに、日本はなぜか膨大な基地を提供して便宜をはかり、プラスお金も出すのは面ような話で、納得できない」と〔石原慎太郎知事は〕語った。(朝日新聞 2000.03.01 p.38)

〔「紅白」とは〕一人の人が歌うのにたくさんのスタッフが送り出して、でまたその人が立つステージをほんとに大勢のスタッフが作っているっていう、そういう人の夢がかなう場所。で、それプラス聞く人が楽しむ人がいるっていう中で夢がかなう時間だったり場所なんじゃないかなあと思います。(松たか子=NHK「第50回NHK紅白歌合戦」 1999.12.31 21:30)

 前者の例は「そのうえ」や「おまけに」などと置き換えられる用法で、接続詞にあたります。英語ならば furthermore などというところでしょう。英語では plus を接続詞に転用して使うことはないんじゃないでしょうか(追記参照)
 後者の例は、いわば助詞として使われているようですね。「それと」と言う代わりに「それプラス」と言うのですから、「プラス」が「と」に相当しているのです。
 「イコール」の使われ方もこれと似ています。

 NHKテレビといえばつまらないというイメージが、まずある。(小林信彦『コラムの冒険』新潮文庫 p.243)

この「=」はもちろん「イコール」と読むのでしょう。接続詞の「すなわち」とか「とりもなおさず」とかに相当する用法です(記号のままで表しているところは珍しい)。
 また、次のような場合は、接続詞の「すなわち」でも言い換えられますが、助詞の「は」にも置き換えられます。

祖母は「お調子に乗っちゃいけません」って二言目には言いました。調子に乗ることイコール恥ずかしいことだと。(薬師丸ひろ子=朝日新聞 1995.07.26 p.16)

 「調子に乗ること恥ずかしいことだ」というときの「は」と、上の「イコール」とは、ほとんど意味が同じです。
 古来、日本語は、中国語や英語をはじめとして、外国語から多くのことばを借用してきました。とはいえ、その使われ方は限定されていて、ほとんどは名詞であったり、サ変動詞(「勉強する・エンジョイする」など)であったり、形容動詞(「綺麗だ・ゴージャスだ」など)であったりしました。
 一方、「が・の・を・に・へ」といった助詞など、構文の根幹に関わる部分は、外来語を寄せつけず、古来の和語(やまとことば)でまかなわれてきました。このことは、未来の日本語においてもおそらく変わりはないと思います。
 しかし、「それプラス」とか「調子に乗ることイコール恥ずかしいことだ」といった言い回しを耳にすると、「もしや」と思わないでもないのです。何百年か後には、「吾輩は猫である」ではなく、「吾輩イコール猫である」などという言い方が勢力を持って来はしないだろうかと……
 英語の接続詞を日本語の中で使う例は、これまでも、たとえば

「TSUTOMUくんの風邪が悪化してしまうよ!! But! この6日間は ほんとーに 長かったなー」(山根一眞『変体少女文字の研究』p.68)

のようにありましたが、この「But」などよりも、「プラス」「イコール」は日本語に違和感なくなじんでいるようです。勢力を持って来はしないかと思うゆえんです。

 なお、余談ですが、上で「接続詞」とした「すなわち」は、辞書によっては「副詞」としてあるものもあります。接続詞と副詞の区別はやっかいで、文法学者・山田孝雄は、接続詞も副詞の一種だ、「接続副詞」と呼ぶべきものだと言っています。


追記 英語でも plus は接続詞として使われると、榎本進氏より即座にご指摘をいただきました。いくつかの辞書の説明と、「New Yorker」などからいくつか用例をご教示いただきました。
 The American Heritage Dictionary にもあるということで、「plus」の項目を見ると、なるほど、まず「CONJUNCTION」(接続詞)とあります(僕の参照した他の辞典では「副詞」でした)。
 “[He] is a committed man, plus he hasimagination, vitality and national stature”
という例文も出ています。先に掲げた「プラスお金も出すのは面ような話で」という使い方は、これに似ています。このような英語での使い方を、日本語でもそのまま流用した可能性も含めて考える必要がありそうです。(2000.12.18)

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