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00.04.02

心臓ばくばく

 聞いたことのない、新しいことばであっても、妙によくニュアンスが分かることがあります。たとえば、「心臓がばくばくする」。「バクバク」と片仮名で書く方が多いのかもしれません。
 このことばを初めて聞いたのは、1996年だったかな。例によって、世間ではそれより早くから使っていたと思いますが、そのへんのことは知りません。でも新語には違いないでしょう。
 「心臓がどきどき」という表現では不十分なほど、興奮などで動悸が激しくなるさまをいうオノマトペでしょう。
 ふつうに日本語を話していれば、心臓の音を表すには「どきどき」、せいぜい「どくんどくん」、弱いときは「とくんとくん」と、d音・t音を離れることはないんじゃないんでしょうか。そこに「ばくばく」とb音を持ってきたのはすごいが、妙にワカル。こういう感覚は、日本語を母語にしている話者ならば、共有できるものと思います。
 従来、「ばくばく」といえば、「しまりのないさま」(「ばくばくした婆」)、「タバコを勢いよくふかすさま」、「物をさかんに食べるさま」――以上は『日本国語大辞典』に載っている説明ですが、僕は最後の、食べるときの「ばくばく」ならば使います。『日本国語大辞典』には用例が示してありませんが、前回でも引いた小沢昭一さんの本にも、

 この句も好きです。冬瓜は淡白で上品な味。冬瓜汁はサッパリしてるから夏場には絶好の食べ物です。
 でも冬瓜汁なんてものは、そうバクバク食べるものじゃないでしょう。(小沢昭一『話に咲く花』文春文庫 p.39)

というふうに出ています。
 「心臓がばくばく」の例は、あまり集めていませんが、たとえば次のようなもの。

北川〔悦吏子〕 〔シナリオを〕書くときは勢いで書くけど、オンエアを見ると、ウワッ、今の〔セリフは放送上〕大丈夫かなと思って、心臓がバクバクしちゃう。(「週刊朝日」2000.03.17 p.43)

確かに仕事となれば何千人もの人の前で歌だって歌う事もあるけど、心臓バクバクの事だってあるよ。(「週刊文春」1999.12.02 p.109 室井滋・すっぴん魂)

 さらには、野球の中日の星野仙一監督が

あれだけ心臓がばくばくしたペナントレースは何だったんだろうという空しさは残りますね。(NHK「スポーツドラマチック'99」 1999.12.23 19:30放送)

のように言っていた。
 星野監督は、もうけっこうな年だと思うけれど、若い選手に混じっていると、新しいことばをごく自然に使うようになるんだろうか。
 スポーツのときの興奮状態が伝わってくる言い方ですが、どうも、僕自身は使えません。「ばくばく犬食いする」というような、上品ではないイメージが付きまとうように思われるからです。

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