秩父神社例大祭は、かつて、「秩父夜祭」として全国的に知られる祭りでした。しかし、今は、埼玉県外の一般の方にとっては、殆ど馴染みがないのではないでしょうか。

 昭和50年代まで、秩父夜祭について新聞各紙は、翌日12月4日の朝刊全国版で報道していましたが、今は、埼玉版が精一杯。NHKは、12月3日夜に実況生中継を入れるなど、全国ニュースで伝えていましたが、今は、せいぜい翌朝の関東甲信越エリアの扱い。秩父の人々が信じて疑わない「
日本三大曳山祭」の名称も、「裏付けの根拠が不足」との理由で「全国有数の曳山祭」とするなど、平成24(2012)年を境に使わなくなりました。

 テレビ埼玉は、昭和54年の開局当初こそ生中継を入れるなど、積極的に報道した後、暫くの間、取材にも来ていませんでした。 しかし、長年の沈黙を破って、平成26(2016)年から3年間、夕方の情報番組で大祭の現場から生中継を入れ(写真右)、平成27年に夜の「ニュース930」で御旅所から実況生中継を行ったほか、平成28年には「ユネスコ無形文化遺産登録記念番組」を制作するなど、積極的に大祭の模様を伝えました。しかし、平成29年以降、こうした扱いはありません。

 広報行政を担う秩父市当局は、報道からの民俗行事に関する問い合わせに対して、ゼンリンの地図1枚をファックス送信して済ますなど、日頃の
報道機関との信頼関係を損なっていないか。売り込みはしても質問に答えられないなど、勉強不足を露呈したり、自治体が本来業務として行うべきパブリシティを怠っていないでしょうか。

 情報発信の現状を祭り当日、駅前で配布される印刷物(パンフレット)を川越まつりとの比較で見てみましょう。川越まつりの印刷物(写真左)は、山車の一覧、案内図、祭り囃子、山車の構造、歴史、背景、見どころ、神幸祭など、写真や図面を用いて、初めて訪れた人にも祭りをわかりやすく説明しています。

 一方、秩父夜祭の印刷物(写真右下)は、内容が希薄なだけでなく、「曳行図」も実態は交通規制図で、方位も縮尺もデフォルメがきつく、受け取った見物客は、これを手にして一日中街中をさまよい歩くことになります。

 訪れる者に寄り添った意欲的な川越に対して、秩父は創意工夫なくおざなりの前例踏襲を業者に丸投げした結果、受託した業者のデザインがいくら優れていても、見物の役に立たず、もう一度来ようという意欲を失わせます。

  情報発信の有力な手段がウェブサイトです。秩父市公式ホームページ「秩父観光ナビ 秩父夜祭」をご覧ください。屋台町会が見物客に祭りを楽しんでもらおうと努めているのとは対照的な、その余りの無内容には気が遠くなります。
 
 年々低下する知名度とそれに伴って減り続ける人出。こうした情報発信の現状が大きな要因となっています。



(2021年 6月15日 中村 知夫)
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