下郷笠鉾保存会(淺見 佳久 会長)により、平成30(2018)年6月30日、『秩父大祭 下郷笠鉾と祭礼行事概説』が発行されました。

 本書は、「3代目笠鉾建造120周年及び屋型付設100周年を記念し、次の100年を見据えて、『下郷笠鉾と祭礼行事』を正しく保存継承するために、祭りの担い手及び大祭参加者を対象とした啓発研修資料として企画編集」されたものです。



 『秩父大祭 下郷笠鉾と祭礼行事概説』(以下『概説』という。)では、まず、秩父大祭について、秩父神社と信仰、人々の暮らしと祭礼の意義などが述べられます。

 その上で、「秩父祭屋台6基」に対する重要有形民俗文化財の指定に至るまでの経緯が、秩父市→埼玉県→国のそれぞれの告示と指定書の写真により説明され、また、文化財保護法の改正を受けた秩父屋台囃子に対する文化財の指定・解除の経過から「秩父祭の屋台行事と神楽」に対する重要無形民俗文化財の指定までが、それぞれの根拠となる告示により、しっかりと整理されています。

 そして、下郷笠鉾の創建から3代目笠鉾の建造や屋型の付設などの変遷について、近年の知見を含む史料に基づいて丁寧に記述されるとともに、下郷笠鉾の特徴や構造概要、見どころ等について、驚くほど細密な写真や図録を用いて詳細な説明が行われています。

 また、下郷の祭礼行事と組織について、大行事を始めとする祭礼組織並びに祭礼準備から組立、例大祭、解体、申し送りに至る祭礼行事の運営手順、曳き廻しの役割分担や見どころ、秩父屋台囃子が豊富な写真や図により、わかりやすく、きめ細かく説明されています。




 『概説』の中で特に注目したのは、下郷笠鉾の創建から現在までの経緯が、下郷町会の内部資料に基づき、事実に即して記述されていることです。
 秩父市は、これまで、秩父大祭の笠鉾・屋台について、江戸時代の創建時に既に現在に至る原型があり、それに改修を加えて今日の形になったという姿勢を頑なに固執してきました(「秩父神社例大祭屋台とその沿革」(昭和35年11月20日)、「秩父祭屋台」(昭和38年3月25日)、これ以降の刊行物なし)。

 『概説』では、明治29(1896)年の3代目笠鉾建造と2代笠鉾の皆野町原への譲渡。そして、大正6(1917)年の屋型付設について、「笠鉾台帳」や「総会決議」に基づいて、「新築委員長」や工事総額、構成町会ごとの賛同者の人数、工匠までが明記されました。

 地元自治体が編纂した公的な報告書を第1次資料として継ぎ接ぎされがちな中にあって、今回の刊行では、「笠鉾台帳」を始めとした下郷町会の内部資料に基づいて、歴史上の事実がありのままに記述されたことは、画期的であり、高く評価されなければなりません。




 本書は、下郷を構成する6町会の世帯に配布されています。
 「啓発研修資料」と呼ぶには、高い見識による内容豊かな刊行物です。今後、構成世帯の下郷笠鉾と祭礼行事に対する認識と誇りが高まり、その保存継承に大いに寄与するに違いありません。

 下郷笠鉾保存会による今回の『概説』の刊行は、他の屋台町の保存会に先例のない、また、秩父市の文化財保護行政では遠く力の及ばない事業となりました。
 秩父大祭の未来に燦然と輝く功績が残されたと言っても過言ではありません。




令和元(2019)年10月、下郷笠鉾保存会(淺見 佳久 会長)から『
秩父大祭 下郷笠鉾&祭礼行事要覧』(A5版60ページ)が発行されました。前年の『秩父大祭 下郷笠鉾と祭礼行事』に続いて、今回は、関係者向けガイドブックとしての発行です。

 本書により、下郷笠鉾と祭礼行事に対する関係者の認識が一層深まり、その保存継承に大いに寄与する。その一方で、町会構成員にとって、日常生活を送る自町会への誇りや意識をより一層高めるに違いありません。

 祭りの日に鉢巻きしてお祭り騒ぎをするだけでなく、祭礼行事を担う者であれば、本来、誰もが身に付けておくべき知性が集約されています。



                                             


(2018年 8月 2日 中村 知夫
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