今月の提言


1月の提言『2009年は未来に向けて"META"を合言葉に!』



2007年から顕在化していた米国サブプライムローン問題は、リーマンブラザーズの破綻後、世界同時不況の様相を呈してきた。08年年初の提言で指摘した通り、「デカップリング」論はあまりにも楽観的であった。09年のグローバル経済は試練の年であるが、各企業にとっては「危機バネ」を生かした「変革」の年となることを期待したい(注1)。

そこで、今年はこれまでの既定路線、マネジメントを超えて、未来に向けた変革の年となることを願って

"META"

をキーワードとした。ちなみに、METAはBEYONDと同義で「超えた」という意味で、これは下記の4つの頭文字をとったものである。

Management for the Future(未来に向けたマネジメント)
Evolution by Value and Culture(価値観と文化による進化)
Tactics and Strategy Reconsidered(戦略・戦術再考)
Agile Company Reconsidered(アジル・カンパニー再考)

「失われた10年(あるいは15年)」を経て日本企業も「選択と集中」が進んだ。ところが、集中し過ぎたために将来の種まで摘み取ったケースも見受ける。中長期的な事業ビジョンを考えるには、ポートフォリオ発想が不可欠である。景気後退局面での足元の対策も大事だが、遠近法マネジメントを実践し、製品・サービス、地域(国内、海外)、技術・ノウハウなどのポートフォリオ・グラフを活用して、未来を描いてほしい(注2)。

昨年の年頭の提言においても「企業文化ベースの経営」をお勧めした。企業文化とは企業内の人々が共有する価値観や信条、行動規範をいう。世界に統括会社、子会社をもつ企業にとって、異文化マネジメントは重要な課題である。その際、企業文化、価値観の果たす役割が見直されている。今年は、経営理念などによって明示的に示される価値観がグローバルに通用するかどうかを再検討し、異文化マネジメントの進化を図ってほしい(注3)。

戦略の巧拙が中長期的に業績に大きく影響することはよく知られている。前述した事業の未来を描くとともに、戦略と戦術を再構築してはどうか。戦略とは簡単にいえば「ライバルに勝つためのプラン」であり、それには競合他社との「違い」が不可欠である。今年は他社との「違い」、差別化に着目して、戦略・戦術を見直し、腰を据えて未来を見つめる年にすべきである(注4)。

アジル(Agile)とは「俊敏な」を意味する。つまり、アジル・カンパニーとは激変する企業環境に俊敏、機敏に対応する企業のことである。具体的には、商品開発が迅速、顧客に対するサービスが早い、会社の変革速度が速い、意思決定が早いなど、行動や変化のスピードが速い企業をいう。今年は未来を見据えた変革の年として、上述した点を再考して、素早く実行することを願うものである。

2009年は現在のビジョン、戦略を超えて(META)、未来に向けた第一歩を踏み出す年となることを期待したい。


注1:
デカップリング論とは、「米国経済が減速したとしても、BRICsなどの新興国の高成長に支えられ世界経済全体としては堅調に成長する」という主張である.

注2:
2008年8月の提言『ポートフォリオ経営とM&A戦略』を参照.

注3:
最近の実証研究によると企業文化の強い企業は弱い企業と比べてパフォーマンスが高いことがわかっている.詳しくは次の論文を参照.

Hirota, S., K. Kubo and H. Miyajima, Does Corporate Culture Matter? An Empirical Study on Japanese Firms, RIETI DIscussion Paper Series 07-E-030, 2007.

注4:
例えば、戦略の差が業績の差を生む例として、花王とライオン、キヤノンとミノルタ(現コニカミノルタ)のケースが有名である.花王とキヤノンの戦略の勝利が明らかである.詳しくは下記を参照.

三品和弘『経営戦略を問い直す』(ちくま新書)



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