世界経済の景気の行方が深刻化している。筆者のまわりには回復するには2年はかかると見る向きが多い。ここは各国の指導者の腕の見せどころで、対策の巧拙が自国の回復スピードを左右するものと思われる。 ところで、筆者はこのような時期こそ次の成長戦略を練る好機であると考える。なぜならば、景気は循環し、低迷期に手を打つことで好況期に大きく開花する可能性が大だからだ。 そこで、筆者は2008年3月期決算企業の対前年増収率のランキングに基づき、増収要因を分類してみた。つまり、増収率ランキングの上位20社に関して増収要因をみると、M&Aが10社、海外市場展開が9社、独自の差別化製品・サービス等が4社であった(要因が複数あるため合計が20を超える)。増収要因は次の3点に要約されるのである(注1)。
上記の表の「増収要因」を個別にみれば、多くの説明は必要としない。M&Aや海外市場での拡販が企業の成長軌道の両輪であることは、読者の方々も先刻承知のことだろう。差別化に関しては、製品・サービスの独自性のみならず、事業モデルの差別化により成長している企業もあることに留意したい。ランキング8位の光通信は、成長が鈍化した複写機市場や保険市場を事業領域として、法人向けの強み、テレアポ方式と呼ばれる営業手法で再び成長軌道に乗った。 ちなみに、12月決算企業の中にも増収率が高い企業が存在する。たとえば、自転車部品のシマノである。シマノは60年代にトヨタに先駆けて冷間鍛造技術(金属を常温で変形させる技術)を確立し、世界最高水準の金属加工技術を有する会社だ。この技術力に基づき、加工精度が高く、他社が模倣しにくい製品分野に事業を絞り込み、「自転車のインテル」とも呼ばれ、自転車用駆動・ブレーキ部品では世界トップである。海外売上比率は85%で、欧州、北米、アジアなど世界22カ国に拠点を持つ。このような海外市場への展開と差別化製品により、07年12月期の連結売上高は2,117億円(前年は1,703億円)で対前年24%増となった。 こうした増収要因は、サブプライムローン問題に端を発する世界経済の変質を経ても有効である点に注目すべきである。そして、この時代に何ゆえに増収率か、成長路線か、と考えてほしい。筆者は、企業の社会的責任の根本は多くの人たちを雇用することにあると思う。会社で働く人々の活動を通じて、家族や他のステークホルダー、社会に貢献できることが企業の社会的責任、つまりCSRの基本ではないだろうか。とすれば、企業は永続企業として永久に成長することが肝要なのである(注2)。 世界経済が低迷する今、次代の飛躍に向けて今後の成長ビジョンを描くことをお勧めしたい。その際、M&A、海外市場展開、差別化された独自製品・サービス・事業モデル、この3つを成長戦略のオプションとして考えて経営資源を重点配分してはどうか。 注1: 出所は「NIKKEI NETマネー&マーケット」で,上位100社のランキングである.詳しくはこちらを参照. 筆者が加工した上位50社のランキングは(こちら)を参照. 注2: CSR経営の概要を知るには下記の拙稿を参照(こちらをクリックすればPDFファイルをご覧いただけます). 竹生孝夫「CSR経営がレジャー産業を変身させる」(『月刊レジャー産業資料』06年4月号、綜合ユニコム) その他,CSR経営に関して,05年6月の提言『企業の社会的責任について考える』,06年3月の提言『CSRはペイするか?』などを参照. |
ご質問、お問い合わせは下記までお願いします。
© 1997-2007info@asktaka.com